[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第九話 熱なんてない(主視点)

道場からは激しく物のぶつかる音や気合いの声が聞こえてくる。

「今日のは少し荒っぽいぞ」

いつもと違って先を歩く日本号は、楽し気だ。

今日の内番は、手合せらしい。

やはり武器の付喪神だから、こういう方が楽しいのだろう。

「大丈夫です」

「せっかくなので」

日本号の戦う姿は画面越しにしか見たことがない。他の男士も。

だから、最後ぐらいちゃんと見ておきたい。

「今日のお相手はどなたですか?」

「大和守だな。あいつは戦う時のが面白え」

喉の奥を鳴らして笑っている。

本当に楽しいのだろう。

「見るなら、離れてろよ」

「もちろんです」

万が一はないだろうけど。

道場では手合せ当番以外も複数の男士がいて、好きなように打ち合っている。

「あれ、主じゃん。どうしたの?」

私に真っ先に気づいた加州清光は、軽く声をかけてくる。

「今日は見学に」

加州の目が日本号に移動して、すぐに戻る。

「ふうん。危ないから、端っこにいなよ」

「はい」

そう言って、すぐに離れていった。

日本号が入り口近くを指す。

「その辺にいろ」

「はい」

すとんと腰を下ろし、日本号の背を見送った。

道場には他に謙信景光と山鳥毛もいる。

二振が手合せ中らしい。

日本号と大和守の手合せも始まった。

皆、流石は刀の付喪神。

太刀筋が美しく、剣舞を見るようだ。

懐かしい。

私は苦手だったけど。

しばらくして、山鳥毛と謙信景光の手合せが終わる。

「あるじもきていたのだな」

「ああ、日本号が当番だったか」

こくりと頷き、すぐに視線を日本号に向ける。

二振は苦笑を残して、道場を出ていった。

大和守と日本号。打刀と槍の手合せなんて初めて見た。

流石に槍は大きくて重いけど、リーチが長い。

振り回す日本号の動きは、案外に流麗だ。

対する大和守も負けていない。よくあの体格でさばけるものだと感心する。

「主、退屈じゃ……なさそうだね」

声をかけてきた加州に気づかないほど熱中していたらしい。

二振の手合せが終わって、ふと隣をみたら座っていて、驚いた。

「ははっ、いー顔。次は俺の当番の時に来てよ」

そう言って、離れていった。

次。

次か。

「どうした?」

日本号にタオルを渡す。

「いえ」

なんだか、言葉にできないままの私の頭に、日本号は大きな手を置いて、軽く叩いた。

 

 

 

今夜の大広間には、多くの刀剣男士が集っていた。入りきらなくて、縁側にまで溢れているし、隣室の襖も取り払われている。

こんなに顕現していたのかと、改めて実感する。

私はいつも食事するのと同じ場所で、日本号の隣で盃を傾ける。

「ふふっ、主が来るとはねぇ」

大太刀の次郎太刀が話しかけてくる。

「何飲んでるんだい?」

問われ、ちびちびと舐めていた盃を見る。

「……水?」

「あっはっはっはっ」

楽しそうな次郎太刀に、小さく笑う。

これは本丸で用意された酒だ。

いつもの日本号の酒ではない。

ただ楽しむためのお酒。

「冗談です。皆さんと同じですよ」

何故か次郎太刀は微笑まし気に見つめてきて、私の頭を軽く撫でた。

「うんうん、水だ水。これは、水!」

「水じゃない」

つまみを配っていた歌仙が抗議する。

「これは……」

だが、他の男士に呼ばれて、すぐに離れていった。

厨の男士たちは忙しそうだ。

後片付けは手伝おう。

「主は楽しんでおられますか」

次郎太刀の隣にいた太郎太刀が訊ねてくるのに、頷く。

「はい。こういうの、久しぶりです」

「久しぶり?」

「生家ではよくありましたから」

思い出して、口元が緩む。

あの頃私は飲めなかったけど、皆楽しそうだった。

カクテルを作ってくれる姉様もいた。

ノンアルの。

「主は、よい家庭でお育ちなのですね」

「はい」

太郎太刀と話していると、不意に頭に日本号の手が乗る。

「……日本号さん?」

目を閉じてしまってから、片目を開ける。

日本号はこちらを見ていなかった。

「ん」

そのまま髪の上を滑らせるように、何度か撫でられる。

「……っ」

「日本号ー?」

呆れたような次郎太刀の声に体温があがる。

いつもの行動なんだけど、今は恥ずかしさが勝る。

「日本号、熱でもあると?」

「うるせぇ」

博多のからかいに乱暴に言い返す日本号も、どうやら照れているらしい。

変なの。

つい、くすくすと笑い声が溢れてしまう。

頭に乗せた手を掴む。

日本号がこちらを向く。

「熱? 大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねぇかもな」

「え」

「あんたがここにこねぇから」

日本号が自分の胡坐の上を叩く。

(え、それは)

いつもは霊力のためで。

今日の夜分はもう先に済ませてて。

今は宴会の席で。

「そっ、それっ、でもっ」

こんな、人前で。

膝になんて。

恥ずかしいし。

でも。

今は、日本号のための時間で。

(……今、だけ)

最近は霊力の増加も加速してる。

霊力を使っていないのに。

時間はどんどん減ってて。

……血は、吐いてないけど。

直にあの方法でも追いつかなくなる。

だったら。

日本号の膝に乗る。

恥ずかしいけど。

すごく恥ずかしいけど。

ちら、と日本号を下から見上げる。

すぐに大きな手で顔を塞がれた。

「んっ」

「こっち見んな」

指の隙間から見えた日本号の顔はすごく……照れてる。

「日本号、それはないんじゃないー?」

「うるせぇ」

騒がしい揶揄い声に、顔を俯かせて聞こえないように呟く。

「……号さんが言ったのに……」

呟いた直ぐあと。

なんでか片腕で抱き寄せられ、耳元で低い声が囁く。

「……後で……」

小さすぎて続きは聞こえなかったけど。

早まったかもしれない。

「日本号ー?」

「ほっとけ」

なんだこれ。

動けないし。

恥ずかしいし。

宴会なのに、お酒より酔いそう。

日本号の匂いが強くて。

クラクラする。

でも、もう少し、離さないでほしい。

そんなことを固まったまま考えていた。

私は多分、いつもとは違う酒に酔っていたのだろう。

この夜、賑やかな宴席はいつまでも続いていた。

 

 

 

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