[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十話 んなわけあるか(主視点)

朝食の後は、大広間でしばらく過ごす。

食休みということらしい。

ちらりと日本号を見る。

こちらの視線に気づくことなく、大欠伸をしてる。

「日本号、寝不足かー?」

「そんなんじゃねぇよ」

「寝不足なんですか?」

私が訊ねると、なぜか頭に手を置かれる。つい、目が閉じてしまう。

「ちげぇ」

「でも欠伸」

「気にすんな」

「……むぅ……」

もしかして、私のせいだろうか。

影響が出て。

「そうじゃねぇから、気にすんなって」

頭を優しく、でも雑に撫でられる。

答えてくれる気はないらしい。

諦めて、周囲を見回す。

……何故視線が集まっているのだろうか。

「主さん」

厨から堀川国広がお盆に何かをのせて持ってきた。

「これ、お茶請けにどうかと思って」

小皿に乗っていたのは、ただの沢庵に見える。

「おう、国広のは美味いんだぜ」

一緒に来た和泉守兼定が同意する。二振とも自然に向いに座った。

「ありがとうございます、堀川さん、和泉守さん」

添えられた楊枝で、口に入れる。二振の緊張が伝わってくる。

少し塩辛いけど、滋味が聞いて美味しい。

一口、お茶飲んでから、微笑みながら告げる。

「塩気がきいて、お茶に合いますね」

「よっしゃ!」

「兼さん」

喜びを素直に出す和泉守と、それを嗜めつつも嬉しそうな堀川。二振は嬉しそうだ。

「日本号さん」

楊枝で日本号に沢庵を差し出すと、そのまま齧り付いた。

「どうぞ」

続けて、お茶を差し出すと、ごくごくと飲み干す。

塩辛いから、お酒好きな日本号の舌にも合うと思ったのだけど。

「……主に苦手なもんはねぇのか……」

どうやら、苦手だったらしい。

苦手な食べ物というと、なんだろう。

ああ、以前に妹が作りすぎたバケツプリンは完食が難しかった。

「甘過ぎるのは、少し……」

頬を染めて、目を逸らす。

いつもなら分けるのだけど、あの時は私のために作ってくれたから、断れなかった。

あれから、甘味が少し苦手になってしまった。

「主さんは、素材の味に出汁が効いてるものが好きでしょ?」

堀川の言葉に、視線を向ける。

「わかるよ。だって……」

堀川が少し照れながら、続ける。

「最初のお浸し、気に入ってくれてたでしょ。あれ、僕だし」

和泉守が、堀川の頭を乱雑に撫でる。

「ああ、あの後、国広の奴はすっげー喜んでたよな」

「や、やめてよ、兼さん!」

仲の良い二振は微笑ましいのだけど。

なんとなく、日本号を見てしまう。

その大きな手を見て、顔を見て。

もう一度、撫でてくれないかな。

なんて。

考えていたら、また撫でてくれた。

わかってくれたことが、嬉しい。

「……なあ、ひとついいか」

急に真剣な顔で、和泉守が問いかけていた。

「あんたら、今どういう関係だ?」

「兼さん!?」

「だって気になるじゃねぇか。主がここにいるのは、日本号がなんかしてるからだろ?」

「ああ、もう! 行くよ!!」

「なにすんだよ、国広っ」

堀川がその体格に見合わず、自分より大きな和泉守を引きずって去っていった。

面白い力関係だ。

「関係、ねえ」

呟く日本号を見て、答える。

「医者と患者、ですよね」

「はあ? んなわけ……」

「だって、私のせいですし」

日本号だって、私の霊体が見えなければ、こうしていない。

私もこうして本丸のことを知らずにいたはずだ。

知る必要を感じていなかったから。

「……それだけじゃねえよ」

「え?」

日本号の手が伸びてきて、頭ではなく頬に触れる。

そっと撫でて、すぐに離れる。

「行くぞ」

急に立ち上がった日本号に続き、立ち上がる。

どうしたのだろう。

私は何か間違ったことを言っただろうか。

大広間の入り口で待っている日本号に追いつき、厨に一礼する。

「お待たせしました」

日本号の手を取り、見上げて微笑む。

だけど、日本号は見たことのない顔をしている。

真剣に何かを考え込んでいる。

「日本号さん?」

答えは、返ってこなかった。

 

 

 

廊下を歩いていると、楽しそうな声が聞こえてきた。

「日本号に主さん、どうしたっと?」

部屋から出てきた博多が聞いてくる。

屈んで問いかける。

「皆さん、何をなさっているのでしょうか?」

「見ての通り」

「お掃除、だよ!」

跳ねるようにやってきた乱藤四郎が、私の手を取った。

「今ね、雑巾がけ選手権してるのっ。あるじさんもやる?」

「雑巾がけ選手権……?」

「そこの廊下の端から端に並んで、誰が一番端で止まれるか!」

不思議なことを言う。

「……止まれないことが?」

「そりゃそうだよー。むしろそれが一番難しい」

「そんなに難しいんですか?」

「うんっ」

「一番上手なのは、小夜くんなんですよ」

藤四郎たちだけかと思ったら、離れたところに小夜左文字もいる。

「粟田口で一番上手なのは、包丁なんだよね」

「そりゃあ、人妻に褒められるなら、これぐらいできないと」

わらわらと寄ってきた短刀たちを順繰りに見ながら、頷く。

「……やってみていいですか?」

これなら、生家でよくやっていた。

少しぐらいならやってもいいかもしれない。

廊下も綺麗になるし。

「よーし、負けないよーっ」

「ふふっ、私もです」

久しぶりの雑巾がけ。

頑張ろう。

やってみて、止まれないというのがよくわかった。

思っていた以上にすごく早い。

「ふぅ」

でも大怪我にはなっていないみたいでほっとした。

「主、すごく早い!」

「慣れてるなぁ」

「はい!」

楽しい。こんなに楽しいなんて。

「あ、日本号さんは?」

そういえば、何も言わずに参加してしまった。

周囲を見回すと、長身で鴨居の掃除をしているのが見えた。

雑巾をバケツの水で洗おうとしたら取り上げられる。

「俺がやっとく」

「……ありがとうございます」

後藤に頭を下げて、日本号に近寄る。

「日本号さんもお掃除をしてるんですか?」

直後、日本号が鴨居に頭を打ちつけていた。

「いってぇぇぇっ」

「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ」

しゃがみこんだ日本号の押さえる手の上、手をのせる。

そのまま、慣れた調子で。

「いたいのいたいのとんでけ、です。ほら」

妹たちにするように言っていた。

固まってしまった日本号の手をよけて、ぶつけたところをみる。

少し赤くなっているけど、大丈夫そうだ。

「うん、手入れまでは必要ないですね」

日本号の手を取る。

「念の為、部屋で手当をしておきましょう」

その手を引いて、部屋を離れる。

少しだけ速足で。

十分離れてから、止まる。

じわじわと耳が熱い。顔も熱い。

手を離して、しゃがんで顔を覆った。

「……すみません……」

「ん?」

「私、変なこと、言いましたね?」

短刀たちはあの姿でも年上とわかっていたのに。

一緒に遊んでしまったし。

童心に返ってしまっていた。

「気をつけてたのに……」

「そうなのか」

「短刀の皆さんは幼く見えてしまうので……」

失敗した。

あんなオマジナイを言ってしまうなんて。

それも日本号に。

「子供好きなのか」

「ええ、はい。まあ……」

「いいんじゃねえか。俺も嫌いじゃねえ」

「は」

「……あんたの子なら、きっと可愛い――」

呆然としていると、耳に何か聞こえた。

(え)

私の子供って。

日本号を見上げると、外を見ている。

聞き間違い、だろうか。

私も庭を、空を見つめる。

風がさやさやと庭木の葉を揺らす音が流れていた。

「子供……」

もしもできても、育てることは出来ないだろうけど。

「私には似ない方がいいですね」

「もっと、素直な子の方が、日本号さんも――」

頭を上から柔らかく押された。

「あんたは素直だよ」

「俺よりも、よほど、な」

日本号を見上げて、苦笑する。

もう一度庭を向く。

鳥の声が囀り、飛び立つ羽音が聞こえた。

そういえば、伝えなければならないことを思い出した。

「……一週間後、政府から呼ばれています」

「付き添いをお願いしてもいいですか?」

普段は時の政府に赴く時、私は男士を伴わない。

そして、日本号を伴う時というのは。

「……見合い、か……」

「はい。まあ、打合せですが」

打合せで呼び出されるのは珍しい。

おそらく時間がないのを見越してだろう。

本当は一人で行くべきなのだろう。

「承った」

日本号の答えに、内心で胸をなでおろす。

これが最後かもしれない。

それは言えなかった。

 

 

 

 

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