[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十一話 だいたい、そう(主視点)

昨日から、少し日本号の元気が無い。

現実ではどうしたらいいのかわからない。

原因はきっと私だから。

朝食後、廊下で後ろをついてくる日本号を振り返る。

「大丈夫ですよ」

日本号のおかげで、終わりの時間は少し伸びている。

終わることは変えられなくても。

ほんの少しだけ。

そういうつもりで言ったのだけど。

日本号は難しい顔をしたまま、私を見ている。

どうにもならないことを考えているのだろう。

「日本号さん」

手招きすると、少し屈んでくれる。

片手を日本号の肩に置き、少し背伸びする。

そして、いつもは届かない頭を軽く、柔らかく叩いた。

(ありがとうございます)

そんな気持ちを込めて。

直ぐに離れて歩き出す。

日本号のついてくる音がなくて。

(あれ?)

振り返ると、日本号はまだその場で目を丸くしていた。

小さく笑う。

私にも覚えがある。

悩んでいる時に、姉様に同じことをされて、ひどく驚いた。

きっと驚いて悩みも飛んでしまっているだろう。

「主ー、なにしよっと?」

博多が通りがかり、問いかけてきた。

「あ、えっと」

「主!」

別方向から長谷部が、ファイルを抱えてきた。

先日頼んでしまった仕事だ。

「終わりました!」

「え、もう?」

「はい! 他にもなんなりと命じてください!」

誇らしげな長谷部を褒めるべきか。

博多の問いに先に答えるべきか。

迷いつつ日本号を見ると、呆れたように息を吐いて、数歩で追いついてくれた。

「長谷部、もう終わったのか」

「当然だ」

「ありがとうございます、長谷部さん」

長谷部からファイルを受け取ると、博多に問われる。

「それ、なんじゃと?」

「これは、戦績のまとめ、です」

博多の問いに、ちら、と日本号を見て、続ける。

「いつ、引き継ぎとなっても困らないように」

言ったとたん、二振が真顔になった。日本号は眉を寄せている。

「……それは、どういう意味ですか?」

長谷部の問いに、なんと答えたものか迷う。

迷った末に、笑って誤魔化すしかなかった。

「主?」

博多が幼子のように見上げてくる。

これは、言わなければならないだろうか。

「私にはあまり時間が――」

「主」

日本号の静かな声に、言葉を止めた。

「まだだ」

「日本号さん……」

「俺は、諦めてねえからな」

「…………はい」

誰の視線も受け止められず、私は俯いた。

ここ数日、正直楽しかった。

久しぶりの他人との交流は、心が揺れた。

それでも、現実は変わらないまま。

日本号が諦めないから、任せているけれど。

(あと少しだけ)

それは後どのぐらいだろう。

見えない時間が、怖かった。

日本号が壊れる前に、終わりにしたいのに終わりにできない。

自分の意気地のなさが、嫌だった。

 

 

 

寝る前、今夜も部屋の前で日本号は私を待っていた。

中で待たせることができないのは申し訳ない。

次は、大広間で待っていてもらった方がいいだろう。

駆け寄ると、昼間よりも機嫌がよさそうだ。

正確には、私が昼寝から起きた時から。

何かいいことがあったのだろう。

「お待たせしました」

部屋に招き入れると、一瞬躊躇してから入る。

散らかるほど物は置いてないのだけど。

胡坐をかいた日本号の膝に、いつも通りに横向きに座る。

なのに、何故か額を軽く叩かれた。

「っ!?」

驚いて、日本号を見上げると、苦笑いをしている。

意味が分からない。

左手をとられ、目を閉じる。

いつもなら、すぐに始めるのだけど。

「……日本号さん?」

問いかけると、目元を抑えられた。

「わ」

「目、閉じてろ」

「はい」

いつもより丁寧に触れてくる。

ゆらゆらと湯の中で揺れるように。

距離の近さに目を瞑れば、心地よさに包まれる。

それでも、わずかしか変わらない。

結局、変わらないのだろう。

残された時間、私はどれだけ日本号にあげられるだろうか。

それ以上にもらってしまっている気がするけれど。

「……主、ちっと試していいか?」

思案する声に、なんだろうかと思いつつ、はいと頷く。

直後だった。

日本号が口をつけた場所から、熱い何かが流し込まれた。

「……っ!?」

左手を引き、目を見開いて、日本号を凝視する。

「な、なな、何を!?」

中に入ってきた熱が身体の中で動き続けている。

内側から、撫で回されてるみたいで。

身体が熱くなる。

「あー……」

「あんたの霊体に、直接神気を入れてみた」

「凝りが増えるのを抑えられるんじゃないか、と」

何を言っているのか。

酒ではなく、直接なんて。

意味が。

わからない。

あと、熱い。

すごく、熱い。

涙目になる。

「そ、それは、」

「痛みはあるか?」

「な、ないです、けど!」

「まあ、元々酒で入れてる分もあるし、反発はねぇな」

優しい眼差しで、頭を撫でて。頬に、手を添えてくる。

「このまましばらく待つぞ」

「な!?」

「なんかあったら、大事だろうが」

(今、まさに、大事ですが!?)

酒を介して、馴染みがいいのはわかっていたけれど。

直接はとても、良くない。

これは、良くない。

熱さが不快じゃない。

むしろ、気持ちが良すぎて落ち着かない。

お腹の奥が疼いてくる。

よくない。

絶対、良くない。

私の混乱をよそに、日本号は問いかけてくる。、

「……なあ、見合い、なんでするんだ?」

「それは、子供が……跡継ぎが必要だから」

「それだけか?」

「それだけです」

他の理由なんてない。

血を繋ぐ。それが一族の目的で。

でも、無理強いはしないというのも方針で。

だから、見合いがあって。

もしもの時は特別な方法も使う。

身体が熱い。

「も、もういいんじゃないでしょうか?」

「まだだ」

逃げ出したいのを堪えていると、頬を撫でられた。

その、感触が、内側を撫でてくる熱と同じで。

動けなくなる。

「に、日本号さん……っ」

「なんだ?」

「今日、変じゃないですかっ?」

「そうかもな」

「ぇ!?」

「ははっ、真っ赤だ」

「ぅ……っ」

揶揄う声が、瞳が、とろりと甘さを含んでいる気がする。

どういうことなのか。

「……あんた、あいらしかね……」

囁く低音も甘い。

内側の熱も甘い気がしてきた。

なにが。

何が起きたの。

「に、日本号、さん……!?」

「ああ」

「お、下ろして……」

「……まだ、な」

せめてもの抵抗に両手で顔を隠すと、優しく頭を撫でられた。

これ。

今夜は眠れないかもしれない。

 

 

 

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