[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十二話 とびっきり上等(主視点)

今朝は朝から違っていた。

いつもなら重苦しい目覚めが、すっきりと頭が冴えていた。

部屋に来た日本号も驚いて、喜んでいた。

それがまさか、こんなことになるなんて。

「……良かった……」

見合い担当の職員は、一族の関係者だ。

その人が私を見て、少ししてから、安堵していた。

「貴女は、安定したね」

「これなら、しばらくは見合いしなくていいと思う」

その目が日本号をチラリと見て、私に優しく笑いかける。

「後は、貴女次第、かな」

あれは日本号が何かしていると確信している目だった。

本丸に向かうゲートの前、日本号の視線を感じる。

「主、さっきのは」

「本丸で、話します」

動揺を押し隠して、そういうのが精一杯だった。

でも、何をどう話せばいいか、考えがまとまらない。

転移の光が消えて、本丸の屋敷が見えて。

真っ直ぐに、自分の部屋を目指す。

着いてきた日本号は、部屋に入ってすぐに戸を閉めた。

「……で?」

「私にもわかりません」

「は?」

何から話せばいいか。

「……私の一族には必ず加護持ちがいます」

この話はしただろうか。

もうどうだったか、わからない。

「加護を持つと、霊力が増え続けるんです」

「結果的に、それに耐えられなくなり」

「二十歳前後までしか生きられません」

日本号が唸る。

「……おい」

「それ、最初から知っとったんか」

言っていなかったらしい。

「だから引継ぎが必要で、見合いも……」

全部、決まっていたことだった。

加護持ちは霊力が強く、統率に長ける。

時の政府の依頼で、必ず本丸を持つ。

引き継ぐかは主次第。

姉様は、解体した。

私は、したくなかった。

それだけだ。

「……加護って何だ」

「何の神だ?」

首を振る。

「知りません」

「知らねぇわけ」

「私の方が知りたい……!」

加護は一族に常に一人。

いなくなれば、次に霊力の高い子供がなる。

決まっていることで、誰という伝えは朧げだ。

両手で顔を覆う。

「姉様たちだって、逃れられなかった」

「死ぬしかなかった」

「私だって、そのはずなのに」

「どうして……今更……安定?」

昨日まで、私だってそうだった。

日本号がどれだけやっても霊力の増加は止まらない。

止まらないから固めるしかない。

だから、どうにもならなかったのに。

「なんで?」

「どうして?」

「……私なんかより、生きるべき人がいたのに……」

私は姉様に生きてほしかった。

ずっと続くはずの日常は、突然終わって、姉様を連れて行った。

周囲に霊力が渦巻いて、風を起こしている。

姉様の髪留めが切れて落ちる。

日本号が驚いているのが目に入った。

私が加護持ちでなければ。

日本号を好きにならなければ。

この人だって。

「日本号さんだって、私のせいで巻き込まれてっ」

「は?」

「私が好きになんてなったから、影響して……っ」

こんなに、こんなに。

無理をさせてしまった。

「んなわけあるか!」

急に大きな声が聞こえた。

両肩を抑え、日本号が私の顔を覗き込んでいる。

「俺が好きになったのは」

「不器用で、素直で、笑顔が飛び切り上等なやつだ」

 

「惚れる理由くらい俺が決める」

 

言葉を理解するより先に、世界が固まった。

目の前には真剣な眼差しの日本号。

真っ直ぐに射抜いてくる眼差し。

私の好きになった槍の刀剣男士。

その人が。

(好き?)

頭の中で声がリフレインする。

ーー俺が好きになったのは

--惚れる理由ぐらい俺が決める。

そんなの。なんで。私を。

体温が上がる。

身体が神気を入れられた時より熱い。

「な」

驚いている間に、太い腕に引き込まれる。

「俺はな、必死に生きる、あんた自身をすいとうよ」

「全力のあんたが、一番あいらしかね」

すぐ近くに。

低い声が体に響く。

夢で言われた時より、もっと深く心に響いてくる。

「……うそ……」

「嘘じゃねえよ」

頬に手を添え、目線が重なる。

「信じられねえか」

「だって、日本号さんは、ただ主が変わるのが嫌だっただけじゃ……」

「それなら、ここまでしねえよ」

真剣なのに、甘い視線に絡みとられる。

「主」

「……な、んですか?」

「あんたの加護、俺に調べさせてくれねえか」

「……え」

「悪いようにはしねえ」

「……」

「頼む」

加護を調べるって、どういうことなのか。

そんな方法があるのか。

いや、でも、日本号にはできるのか。

できるのかもしれないけど。

それは、危険ではないのだろうか。

止めても無駄だというのは、ここ数日でわかっているので、渋々頷く。

「無理は、しないでくださいね」

「わかってる」

頷く日本号が安堵の顔で笑う。

「で、さっきのだが」

「え?」

「俺をすいとーのは……」

さっき、言ってしまった。

私が好きになったから、と。

言うつもりがなかったのに、知られてしまった。

「ち、ちが……っ」

「ほう、違うのかい」

「わ、私は、私には、ああ……」

まだ、まだ、私には時間が。

でも、安定したって。

いや、でも、状況は変わってない。

いつ終わりが来るかなんてわからない。

今この時だって、霊力は増えていて。

それも調べたら、何とかできるのか。

今はまだ、答えられない。

「ま、あとでそいつも聞かせてもらおうじゃねえか」

ただし、日本号はやはり諦めることはないらしい。

いつもの体勢になる。

さっきのことがあっても、日本号は平然としている。

左手の薬指の内側、根本に口をつけてくる。

私の内側に触れてくる。

温かい湯に揺られながら、何かが出て行って。

「……っ」

あの熱が、入ってくる。

意思を持って、内側を撫でられる。

「……ぁう……」

困ったことに、本当に不快ではない。

ただ、気持ち良くしないでほしい。

お腹の奥が熱くなる。

その場所を熱が撫でた。

「ぁっ!?」

「……っ」

頭の奥、何かが弾けた。

一瞬意識が飛んだ。

熱も。

「……こいつぁ、なんだ……」

「……はぁ……はぁ……」

荒く息をつく、私の頭を日本号が撫でる。

正直、今はやめてほしい。

「……並大抵の相手じゃねぇな……」

「……ぇ……?」

「もう一度やるぞ」

「っま、待って……!」

今のをまたすぐなんて。

無理だ。

整えられない息のまま、止める。

「……きゅっ、きゅうけい、させて……」

「っ、あ、ああ」

内側を熱が這い回っている。

一瞬引いた熱が戻っている。巡っている。

日本号が触れている全部が熱い。

「お、降りちゃ、だめ?」

「……まず、話、一族の」

「……だから」

床に下ろされ、横になる。

冷たい床が今は気持ちいい。

熱がゆっくりおさまってくる。

日本号には悪いけど、続けるのは無理だ。

こんなの、連続してなんて無理だ。

「本家は月の眷属、と呼ばれていたそうです」

本家では加護持ちが多くいたらしい。

「うちは傍系で、血の繋がりもないのに」

その本家が絶えたからと伝わっている。

だから、一人だけ、と。

「……とりあえず、少し休みます……」

「……これ、つかれる……」

色々なことがありすぎて、頭も身体も心も疲れた。

急展開が過ぎる。

何に文句をいったらいいのかもわからない。

とにかく今は眠りたい。

そっと頭を撫でる感触を最後に、私は眠りに落ちた。

 

 

 

昼食を食べ損ねてしまったから、夜はちゃんと食べたい。

そう言ったら、日本号は厨に連れてきてくれた。

夕食の提供時間は過ぎてしまったけど、歌仙が出汁茶漬けを、堀川が沢庵を、燭台切が茶碗蒸しを出してくれた。

いつもなら隣で食べる日本号は、現在長谷部他の男士に質問攻めにされている。

何故、皆、私に日本号の神気が混じっているとわかるのだろう。

元々お酒で入っていたわけだし、変わらないと思うのだが。

「なんで連れてきたとー」

「しゃあねぇだろ。こっちがいいっつーんだから」

博多の呆れ声に、日本号が苦笑いで返す。

「んん?」

「いいから、主は食ってろ」

「日本号さんは?」

話していると、私の隣に、大きな天丼が置かれる。

「理由は後にして、今は食べろ」

歌仙が強く言うと、日本号は一瞬固まってから、席についた。

よかった。日本号も私に付き合って、食べられてないから。

私の視線に気づいた日本号が優しく笑って、南瓜の天ぷらをくれた。そう言う意味じゃない。

今日もご飯が美味しい。うちの男士がこんなに料理上手揃いだったとは知らなかった。

食後には、麦茶まで出してくれた。

「主さんに無理をさせないでくださいよ」

「当然、同意の上だよね?」

「はい、ちゃんときいてはくれました」

堀川と燭台切の心配そうな声に頷く。

そう、聞いてはくれる。

諦めてはくれなかったけど。

「無理な時は、断るんだよ?」

「あ、でも、日本号さんは……私のためにしてくださってるだけですし……」

結果的に、改善されていることはわかったし。

どうやら神気が入ることで、霊力の増加は本当に抑えられているらしい。

起きた後もさほど増えていなかった。全然増えないと言うことはないのだろうけど。まだ成長するし。

「いつもはそんなに大変ではないですし」

「いつもは!?」

勢い込んで、日本号に歌仙が迫る。

いつものだけなら、本当に何でもない。恥ずかしいだけで。

問題は神気を直接の方。

あれは熱が巡り過ぎて、簡単には慣れそうにない。

私次第というのは、そういうことなのだろう。

あの職員。一族の関係者。今まで聞いたことは無かったのだけど、加護について他に知っていることがあるのかもしれない。

明日聞きに行ってみよう。

歌仙たちに詰られている日本号は、この本丸で心配されているのがわかる。

私に近づきすぎて、皆何が起きているのかわからないから。

そんな風にお互いがお互いを気にかけてくれる。

この本丸は暖かい場所だった。

それを、日本号は私に教えたかったのかもしれない。

「……日本号さんの隣は、あたたかいですね……」

その隣にいられるのは、なんて幸せなことだろう。

「主?」

「なんでもないです」

首を振って、笑い返した。

それにも笑顔を返してくれる。

「聞いているかい、日本号!?」

「聞いてる聞いてる」

「あなたがそういう風だから……!」

その上、詰られながらも、頭を撫でてくれる。

この人が私を好きでいてくれる。

だったら、私もそれに応えたい。

だから、ちゃんと全部を明らかにして。

隣に居られるように、もう少しだけ頑張ろう。

テーブルの下で日本号の手に触れる。視線は歌仙たちに向いたままだけど、迷わず握り返された。

 

 

 

 

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