[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十三話 お約束いたします(主視点)

時の政府の中でも更に奥に、職員もほとんど立ち入れない領域がある。

そこを今、私は日本号に手を引かれ、二人で歩いている。

日本号は何故か和正装姿で。

私は一族の正装ーー白拍子姿に、薄布を被っている。

今日は話を聞きにきただけなのに、どうしてこうなったのか。少し気が遠くなる。

日本号は気遣いの視線を向けても、何も言わない。

この廊下の先にいるのは、私に加護を与えている神様が待つ部屋だという。

そもそも私は一人で、見合い担当職員に話を聞きに行くつもりだった。

「どこへ行く」

「……時の政府へ」

「少し待て。俺も行く」

「え、一人で……」

「行く」

そんなふうに押し切られて。

転移ゲート前に現れた日本号は今の姿だった。

今まで政府に行く時は戦装束だった。

それがなんでこんな和正装なんだ。

息が止まってしまいそうになる。

「な、んで」

「おかしいか?」

「いえ! 全然! か……」

「か?」

格好いいと言いかけて止まる。そういうのは全部終わらせてからだ。

「ぃぃぃ行きましょうっ」

動揺していると、日本号は転移ゲートで私の隣に立って。

「今日は隣におらんとな」

「……私なんかじゃ……」

これじゃ、いつもの巫女服姿の私は見劣りしてしまう。

「んなことねえよ。今日はいっとうあいらしか」

「に、日本号さん……っ」

口説かないでほしい。

今は本当に余裕がない。

全部、終わるまで言いたくないのに。

動揺を隠せないままゲートを抜けると、その先がもういつもと違っていた。

「お待ちしておりました」

「え?」

「先方はお待ちであられます。すぐに御支度を」

日本号を置いて、見合い担当職員に連れて行かれた控室で、一族の正装に着替えさせられて。

「な、なんで」

「只人の身では御力に当てられましょう」

「え」

「大丈夫です。あなたには日本号様がついておられます」

詳しいことは何も知らされず。

日本号が待つという部屋に行って。

日本号も呆気に取られてて。

「……こ、これ、うちの正装で……」

「に、似合わないんですけど」

白拍子姿でも、舞一つできない。

そんな不恰好な姿を、見て。

「……似合うさ……」

掠れた声で、呟いていた。

「……日本号さん?」

部屋に入った時から逸らされることのない目線に、じりじりと焼かれそうだ。

日本号の手が伸びてきて。

「では、参りましょうか」

触れられる前に、職員の苦笑の混じる声で、二人とも我に返った。

「……あまりお待たせできませんので」

少し申し訳なさそうな職員に問いながら、日本号の手が肩に置かれる。

「主の加護の神か」

小さく息を飲む。

職員は、頷いた。

そして、あっさりと明かした。

「月詠様であらせられます」

日本号と二人、ゆっくりと廊下を進みながら、小さく息を吐く。

「……日本号さんがいて、良かった……」

静かな空間だから、小さな声はよく響いてしまう。

月詠様。

あまりにもよく知られた神様。

まさか、加護がその方とは。

どうりで、月の夜は調子が良くなる。

霊力の通りもいい。

今更ながらに気づいた。

やがて、八畳ほどの部屋にたどり着く。

その入り口に、二人並んで膝をつき、頭を下げた。

奥に御簾がさがり、その向こうに髪の長い少女のような人影が映る。

「……あらまあ」

「まさかの組み合わせねえ」

コロコロと錫の鳴るような声。

聞き覚えがある。

月と宵闇の静けさを纏う声。

これが。

月詠様。

天照大神の妹姫。

月を統べる神。

「顔をおあげなさいな」

「それで、何を願うの?」

存在の大きさに震える。

「あ、の、ずっと、ご加護いただきまして、ありがとうございます」

礼の言葉にまた、軽やかな笑いをこぼす。

「いいのよ、あなたは、私の愛し児だもの」

「それで、その刀と契りをむすんでいるようだけど」

契り、といわれて慌てる。

まだそこまでの関係じゃない。

契りも、婚姻も結んでない。

「っ! え、い、いえっ」

「その、彼は、私の身体には大きすぎる霊力、のために、その、そうしてくださっているだけ、でしてっ」

神気は入っていても、この身は清いままだ。

「ええ? でも……つながっているわよ?」

「っ!?」

何のことかわからない。

私は隣の日本号を見た。

日本号が伏せたまま、声を出す。

「月詠命様とお見受けいたします」

「主は、御加護により、短命となっていることを存じておられますか」

悲鳴が出そうになる。

何を言い出すのか。

「主? ……ああ、そちらも絡むのね」

怒っておられない。よかった。

安堵したのも束の間。

「私は、この方の隣を、歩きとうございます」

「っ日本号さん!?」

「どうか、今一度、その加護を弱め、私に預けていただきたい」

「なっ」

何を言い出すのか。

本当に待ってほしい。

聞いてない。

好き、と言われたけど。

隣とか、それは私がいうことで。

加護を弱めるのはともかく、何故日本号が引き受けようとしているのか。

月詠様も呆れてーー。

「……私の愛し児は、闇に好かれやすい」

「加護はその魂を守るものである」

「あなたはそれを完全に守りきれる?」

穏やかだが強い声に圧倒される。

加護は護り。それは知っている。

(闇に、好かれる?)

これは知らない。

何の話なんだ。

本家にだけの話だろうか。

それとも、小さな友人たちの話だろうか。

夜にだけ現れていた。

「はい」

きっぱりとした日本号の応えに息を呑む。

「……愛しい児」

対して、月詠様の返しは私に向いた。

「あなたが望むなら、弱めてもいい」

「でも、無くすのはできない」

柔らかいが申し訳なさを潜ませて、月詠神がいう。

神様にそこまで言わせてしまった。

そのことに、申し訳なさと感謝の胸に、静かに頭を下げた。

 

「私は……もう少し、この方といたい……です」

 

加護が弱まれば、少しでも霊力の増加は収まるはずだ。

だって、加護の前は普通程度の増加だったのだから。

日本号が無理をせずとも、終わりの時間を伸ばせるのなら。

御簾の向こう、コロコロと愉しげな笑い声がした。

「ふふ、その顔で言われては敵わぬな。よいだろう」

「必ず護れよ、九十九の神、日本号」

改めて、日本号が応える。

「はい、必ず」

私も共に頭を下げた。

「ありがとうございます……っ」

涙ながらの声の後だ。

御簾があがる音がした。

衣擦れの音が近づいてくる。

そして。

「加護は弱くなっても、あなたはずっと私の愛し児よ」

私の前、幾重にも重ねた衣が広がる。

顔を上げられず、きゅっと目を閉じる。

「……どうか幸せになってちょうだい」

まるで、姉様のようだ。

生前、ずっと寄り添い、私を気にかけてくれた。

「はいっ」

薄布の上から、ふわりと柔らかに撫でられる。

さや、と衣擦れの音が遠ざかる。

それを私は頭を下げたまま、ずっと受け止め続けた。

加護を与えてくれていた神様は、姉様と同じ。

私を大切にしてくれる御方だった。

これからはもっと月を見よう。

そして、この神様を想う時間を作ろうと。

胸の内、私は静かに決意した。

 

 

 

 

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