[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第十四話 もう少しでも十分たい(主視点)

月詠様の前を辞して、廊下をまた日本号に手を引かれながら歩く。

ちら、とその横顔を見て、見惚れる。

普段の姿も悪くないけど、今日は格別だ。

もう、隠す必要もない。

日本号はここに来てから口数も少なく、微笑むばかりで。

それもまた見目麗しさにときめきが止まらない。

こんな人が私の隣を望んでくれる。

私がもっと生きること、笑うことを望んでくれている。

それはどれほどに幸福な奇跡だろう。

最初に時の政府職員と別れた扉の前で立ち止まる。

もう一度日本号を見ると、顔を片手で押さえて、深く息を吐いていた。

どんな格好も様になるって、どういうことなの。

「日本号さん?」

「……少し、いいか」

「はい?」

軽く引き寄せられ、薄布越しとはいえ、肩に頭を乗せられる。

「え」

「……無事で……」

「え?」

そういえば、会う前はどんなに怖い神様かと思っていたのだけれど。

「お優しい神様でよかったです」

安堵を含ませて言うと、小さく笑われた。

何か可笑しかっただろうか。

「主」

「はい?」

「さっきの、本気ってことでいいんだな?」

「え」

「俺と居たい、ってやつだ」

日本号がそっと私の薄布を外し、顔を覗き込んでくる。

確かに言った。

もう、言ってもいいだろう。

うん。

でも、日本号を直視するのはまだ恥ずかしくて、視線を外す。

「もうちょっとだけ」

「人間の寿命の範囲だけ」

 

「……いっしょに、いきたい、です……」

 

本刃に直接言うのは、やっぱり恥ずかしい。

どんな顔で見られているのか。

確認したいけど、見られない。

恥ずかしくて、見られない。

そうしていると、急に高く抱き上げられた。

「やっと言ったな!」

初めて見下ろす日本号はすごく嬉しそうで。

「それで十分たい」

「撤回は聞かねえぞ」

即座に返す。

「し、しませんっ」

日本号は目を細め、そのまま、腕に抱きしめてくれる。

「あとな」

「そげん格好、ほんに綺麗か」

「似合いすぎて、驚いた……」

私も日本号の首に腕を回して、自分から抱きつく。夢の中よりももっとしっかりと強く。

「号さんも、すっごく、格好いいですっ」

「惚れなおしました!」

夢の中だけだった呼び方で、やっと言えた。

現実で言われるのは、もっともっと嬉しい。

もう夢はいらない。

ここに私の世界が生まれたから。

「お、おい?」

「なんですか」

「……いきなりだな」

戸惑う日本号が腕を緩めても、私は力を緩めなかった。

「全部終わるまでは、って我慢してたんです」

「だから、今は……許してください」

初めから、好きだった。

好きな気持ちで顕現してしまったから、影響してたのだと思っていた。

でも、日本号は私の想いに振り回される小さな神様じゃなかった。

私を包み込んでくれる大きな神様で。

私の笑顔を望んでくれる男士だった。

「ずっと大好きです、号さん」

しがみつく私に、日本号はただ抱きしめ返してくれた。

強く、強く。

 

 

 

本丸行の転移ゲートで、移動の光が収まる。

待っているのは、いつも通りに長谷部と。

「蜂須賀さんに、三日月さん?」

「おかえり、主」

初期刀、蜂須賀虎徹が心配そうに、目を細めている。

「確認をしておきたいと思って」

「主は最初、長くこの本丸を続けられないと言っていただろう」

「その考えは、今も変わらないのだろうか」

不安そうな蜂須賀に、日本号をちらりと見上げてから、私は一歩前に出た。

蜂須賀の手を掴む。

「長くご心配をおかけしました」

「もう少し、続けられることになりました」

日本号のおかげで。

晴れやかに笑う私に、蜂須賀が目を見開く。

「もう少し?」

「はい」

もう一度しっかりと頷く。

蜂須賀の目が日本号を見て、また私に戻る。

多分、日本号のことは伝わっているのだろう。

なんで私の中の日本号の神気がわかるのかは、わからないけど。

その顔が喜色に染まる。

日本号が私の肩に手を置く。

「ま、そういうことだ」

「そうか! ……良かった。本当に……!」

「代わりに、皆さんには少しご迷惑をおかけしますが」

あの職員に加護を弱める話をしたら、気をつけるように言われた。

一族の霊力の高い者は、冥界に攫われやすいのだと。

「月詠様の舞姫は、冥界でも人気なんです」

そういえば、子供の頃は一人で出かけることを止められた。

冥府に攫われるからと。

いつも姉様や妹たちと一緒だから気にしてなかった。

「迷惑じゃねえって」

「なんの話だ?」

何かを切り捨てる音に、振り返る。

「主よ」

三日月が鞘に太刀を仕舞う所だった。

ちん、と小さく音が鳴る。

「それはこの珍客のことだな?」

三日月の足元で、黒い影がサラサラと砂粒になり、空気に溶けた。

「三日月さん」

「うむ、冥府からか。なるほど」

三日月が私の前、膝をつく。

「……まずは主よ、その舞扇を見せていただきたい」

三日月のいう舞扇は、帰り際に職員から渡された祝い品だ。

手渡すと、三日月は震える手で受け取り、それを見つめる。

「……やはり」

そういえば、名に月をもつ刀剣男士だ。

もしかして、月詠様と繋がりがあるのかもしれない。

「何か知ってんのか」

「……さてな」

三日月から私に、舞扇が戻る。

「主よ、これからはこのような誘いが増えるということで、相違ないか?」

「は、はい」

「あい、わかった」

「……三日月さん?」

「なれば、護るまでのこと。のう、日本号?」

細められた三日月の目の前で、日本号は大きく頷く。

「おうよ」

「はっはっはっ、楽しくなるな」

笑いながら三日月が去る。

「え、楽しい?」

首を傾げていると、頭に手を置かれた。

「ま、そういうこった」

「ええ?」

「わかった。では、皆に知らせておくとしよう」

蜂須賀がそう言って、いなくなり。

私は長谷部に向き直る。

「長谷部さん、あの」

「はい」

「……新しい出陣先の部隊編成案を、お願いできますか?」

今までは任せて関わりを持つのが怖かった。

でも、もう日本号といるのなら、いいだろう。

だって、日本号の周りにはいつも人が溢れている。

その隣にいるのなら、どんどん関わっていいはずだ。

「っ、お任せください!」

嬉しそうな長谷部を見て、私は日本号に笑いかけた。

日本号もまた、笑い返してくれる。

「さて、飯を食いに行くか」

「まだ残ってるでしょうか?」

時間は昼食提供開始の半刻前。

「朝飯に行かなかったから、きっと心配してる」

「あ……」

「だから、今日もここにいるって、教えてやらねえとな」

これからも毎日はここで始まる。

夢ではなく、現実の日本号の隣で。

「はい!」

それはとても楽しい日々の始まり。

空は高く、雲は流れる。

歩き出す私たちの後ろを、暖かくも柔らかな風が流れていく。

木の上では、鳥の声が楽しげに囀っていた。

 

 

 

 

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