大広間で朝食をとった後、いつものように休憩をする。
この時間は他の男士たちにとって、貴重な主との交流の時間となっている。
今日は小夜左文字が小さめの籠を手にやってきた。
「主、これ」
籠にのっていたのは、橙色も眩しい熟れた柿の実が数個。
主の目がわずかに輝く。
「柿の木があるんですか?」
意外なことを言われたとでもいうように、小夜が瞬きする。それから、小さく頷いた。
「今年も甘いのが生ったから」
「それは良いですね」
主の手が離れ、テーブルに僅かに身を乗り出す。
「今度、案内していただけますか?」
周囲が静まり返った。
「……いいよ」
小夜がまた頷くと、明らかに主の空気が華やいだ。
それ自体は良いことなのだが。
「……登るなよ」
日本号が小さく呟くと、主がそのまま固まる。
「登る?」
小夜が繰り返す。
「しませんよ」
「本当か?」
「流石に、木がかわいそうです」
主の回答のズレ具合を、日本号は笑った。
「やっぱ、ガキんときは登ってたな?」
「え」
小夜が目を丸くしている。いや、他の男士もか。
あの夢を知らなければ、無理もない。主はもともと活発だ。
「号さん」
咎める主に苦笑を返しつつ、日本号は湯呑を傾けた。
「……主、だめだから」
「しませんよ!?」
小夜にまで咎められ、咄嗟に主は言い返していた。
こうして、本当の主が知られていくことは、この本丸にとって良いことだ。
いつか、木に登っている姿が見られるかもしれない。
それはそれで、面白いだろう。
小夜の持ってきた柿を主が手にする。
「主、これを」
差し出された短刀に主が固まる。それは小夜左文字の本体。
「……小夜さん、流石にそれは……」
小さく笑って、小夜はすぐに果物ナイフと入れ替えた。
「この子は果物しか斬ってないから、大丈夫」
主の顔色が変わり、一度手を握った。
「小夜さん」
主が腰を上げ、小夜の頭に手を伸ばす。頭を軽く撫でて、元に戻る。
「……皆さん、とても綺麗ですよ」
果物ナイフを手にした主が、慣れた手つきで、するりと柿を剥いていく。
その前で、小夜は俯いたまま目を閉じて、頬を染めて震えていた。
無理もない。刀剣男士は皆、血に染まっている。
それでも主は「綺麗」と称した。きっと本心から。
本当に今まで言わなかったのが不思議なほど、主は素直に褒めてくる。
今ので大広間の男士のほぼ全員が落ちたことだろう。
「号さん」
剥き終わったひとつを差し出してくる主の手から、そのまま、日本号は一口に食べる。
驚いた主が、それでも静かに笑う。
「美味しいです?」
「ん」
もうひとつと剥き始める主は、周囲の変化に気づいていない。気づくのは周囲だけ。
(ま、これは俺だけだが)
自分がどれだけ甘いことをやらかしているかも気づかない主を、日本号は小さく笑うのだった。