[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

32 / 33
「一日一日が続けば、それは毎日になる」

午後の日差しも緩やかな昼日中、主の部屋で日本号は娘を膝に抱く。

自分よりも二回りは小さな掌。その内側から薬指の付け根に口を付ける。

娘が膝の上で呼吸を止め、身体を固くする。

「……おい、固くなり過ぎだ」

「そ、んなこと、いわれ、まして、も……」

何度やっても、娘の反応は変わらない。むしろ、想いが通じてからの方が身構えるようになってしまった。

「気持ちいいならいいだろうが」

「良くないです!」

「なんでだ?」

「……うぅ」

顔をそむける娘は、身体中がもう熟れた鬼灯のようだ。

「むしろ、なんで号さんは普通なんですか?」

「……普通に見えるか?」

「え?」

もう片手で娘の頭を自分の胸に押し付ける。

「え」

娘にもきっと、日本号の鼓動の速さが伝わることだろう。

「わかるだろ。これでも、緊張してる」

「……ぇ」

日本号自身、もうこうして触れ合って普通ではいられない。

だが、それをおしても、娘の状態は改善しないとならない。なにしろ、娘の霊体にはまだまだ凝りが溜まったまま、黒く濁っているのだから。

腕を緩め、娘の頬をそっと撫でる。

「……早く全部俺のもんになっちまえばいいのに……」

この霊体に貯まる凝りがすべて、日本号の神気に入れ替わってしまえば、心配も減るというのに。先は長い。

つぶやくと、娘が困ったように目元を緩めて微笑む。

「これ以上?」

本気で言っているなら、質が悪い。

そのまま娘の頬をつまむ。

「ああ、もっとだ」

娘がまた身体を固くしてしまった。

これじゃあ、治療は続けられない。

小さく笑い、目を合わせる。

「今日はしばらくこのままだな」

困った様子だが、娘は嫌がらなかった。

「……本当は、そうしたい、です」

「でも、怖い」

ふるり、娘が身体を震わせる。

「怖いんです」

それでも、娘は視線をそらさなかった。

「まだそんな心配してんのか」

「違います」

まだ日本号が壊れるのを心配しているのかと問いかけると、娘は首を振った。

「私は、先を考えないから生きてこれた」

「この先を知らない」

「知らないことは、怖い」

くだらないと笑い飛ばしてしまうことはできた。

でも、それはできなかった。

もう一度、娘の頬をゆっくりと親指の腹で撫でる。

「何言ってんだ。知ってることだろう」

「あんたは、当たり前を忘れていただけだ」

「一日一日が続けば、それは毎日になる」

「ただそれだけだ」

ゆっくりと目を閉じた娘が囁く。

「一日が、毎日」

「ああ、そうだ」

「……それだけ……」

娘の睫毛が震え、ゆっくりと開いてゆく。そこに日本号だけが映る。

綺麗だな、と単純に思える。

「それだけだ」

日本号が繰り返すと、娘は安心したように微笑んだ。

この笑顔が続くのなら、それで十分だ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。