[刀剣乱夢]らいぶ   作:himausa

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第四話 [ご] ごねるな

昼前までは、いつも通りの主だった。

内番後、ふと廊下を歩く主を見かけると、ひどくなっていた。

朝以上に、霊体が濁っている。限界寸前まで。

「……なんでだ……」

慌てて追いかけたが、見つけられず、夜になってしまった。

「主」

主の自室の前、声をかける。

「聞きたいことがある」

日本号が真剣な声で言うと、主が無表情のまま出てきた。

「……なんでしょうか」

視線を落とし、日本号を見ようとしない。

「何をした?」

「……刀装と、結界の補強と……」

霊力をより消費するために、いろいろやっていたらしい。

日本号が舌打ちすると、主は小さく身体を縮こまらせた。

「逆効果だ」

「……みたいです」

一度、深く息を吐く。

「嫌なら言え」

「……」

「他の方法、いや、他の奴がいいなら」

主の手が日本号の袖を掴んで、見上げていた。苦しそうに。

「嫌ではないです」

「嫌ではないから、困ってて」

日本号も主を見下ろす。無表情が解けかけていた。

「困る?」

「なにがだ」

主は口をつぐむ。

「言え」

「言わなきゃわからん」

主の目がわずかに彷徨い、床に落ちる。

「……日本号さんを、壊したくない……」

呟きに、日本号は目を瞠った。それから、また息を吐く。

「だから、心配ねぇって」

「そんなはずないです」

はっきりと言い返される。

「他人の霊力を受け入れるなんて、できるわけない」

「……聞いたことないもの……」

「私は、あなたを壊したくないんです」

聞き分けのない娘の顎を片手でつかんで、目を合わせる。

「俺が、壊れているように見えるか」

「……見えない……」

「俺は槍で、付喪神だぞ。人間と同じに思うな」

「……かみ、さま……」

主の無表情が解ける。泣きそうに。

「……なおさら、できません……」

「……私事で使っていい力じゃない……」

手を振り払い、主が自室へ戻る。

「おい」

「もう、諦めて」

止める前に、閉じられた。

思った以上に強情な娘だった。

 

 

 

夢への介入を拒まれ、廊下で息を吐く。

「……この程度で諦めるなら、手なんか出さねえよ」

徳利を傾けて、一口を飲み込む。

「神様、なめんな」

しかし、手がないのも確かだ。

増える霊力を、あの娘が無意識下で圧縮している。

血を吐いていた姿が脳裏をよぎる。

(どうすりゃいい……)

主の自室を眺めている日本号の隣に、長谷部が座る。

「日本号、そろそろ話してくれ」

「主に、何が起きてるんだ」

真剣な様子に、息を吐く。

この真面目な男士に、主が死にかけている状況を伝えてもいいものだろうか。

「今朝は顔色が良かったのに、午前中のうちにどんどん悪くなった」

長谷部が言っているのは、主の悪あがきのような霊力消費。

やればやるほど、さらに霊力の増加が加速した。

「おまえが何かしているようだから黙ってたが、そろそろ限界だ」

「さあ、吐け」

そういって、盃を勧めてくる。

だめだな。と胸中で呟く。

主は隠したがっていた。

それを日本号は無理矢理に暴いているのだ。

流石に、日本号の口から明かせば、さらに娘は頑なになるだろう。

「……すまん」

「……言えないか」

日本号は主の部屋をみる。

「主から言うまで待て」

長谷部も主の部屋を見る。

「……それは、間に合うのか……?」

日本号は目を閉じた。

「……」

答えられなかった。

もしもはもういつ起きてもおかしくない。

「おい」

苛立った長谷部を遮るように、明るい声が混じった。

「これ、つまみばい」

博多藤四郎が、にかりと笑っている。

「……すまんな」

二振がオレの隣に座る。

そのまま三振で静かに酒盛りをする。

しばらくして、長谷部がこぼした。

「主を、ひきとめられるのか?」

長谷部はやはり察知しているらしい。

「……わからん」

「おい」

そりゃそうか。こいつは主がどれだけ素っ気なくしても食いつき続けた。

「正直、難しい」

「主には、生きるつもりがないようだった」

「……たぶん、限られた生の終わりに、ここを選んだんだろうな」

「だから俺らとも、距離を置いてた」

たん、博多が盃を床に打ち付ける。

「今はちがうばい」

「だといいんだが……」

長谷部が鼻で笑う。

「はっ、珍しく弱気だな」

「……しゃーねーだろ」

日本号も盃を呷る。

「だが、こんな終わりは認めねえ」

「認めてたまるか」

盃を握る手に、思わず力が入る。

そうだ、こんなことで終わりにするわけにはいかない。

あの娘は、現実でもっと笑って生きる方がいい。

夢の中だけではなく。

 

 

 

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