第四魔法使いのヒーローアカデミア 作:ネル
ある魔術師が一人闇夜を踏み締め歩く。
嵐の夜、星も月もない暗闇の中を進む。
進むのは大都会の残滓、人の気配がない街、栄華の幻想。
高層ビル群は折れ墓標となり、道は崩れた。地表には死の風が吹き荒れ、僅かな命は地に潜った。
魔術師はそんな都市にある打ち砕かれたコンビニから、雨水を吸った新聞紙を拾う。
愚かな事をしたものだ、予想できた結末だろうに、と呟く。
「ーー私たちは滅びた。外敵でもなく、自然の淘汰でもなく、自らの手で。」
新聞を読み終えた魔術師はまた都市の残骸の中を進む。
進めども、どこまで進んでも生命の気配はない滅亡が目の前に迫る都市。
滅びは仕方がなかった、運がなかったと諦めながらも進むが、ある一箇所で足が止まる。
「ーーだが、これは認められない。」
大穴が進む先を塞ぐ。大穴は世界をなかったことにせんとする剪定の前触れ、剪定孔。未来は無い、可能性はない、この世界を残す価値はないと語る大穴。
嵐の夜、星も月もない空を見上げる。
私たちの失敗を語り継ぐものはいない、嗤うものすらいない。そんなものが許せるはずもない。
自嘲した笑みを一つ、世界は悲劇で満ちていて滅亡は目の前に迫る。
それでも、愚かしくも力の限り叫ぶのだ。希望に満ちた、人間の戦いはこれからだと。
そうして魔術師はひとつの魔術を使った。
それが雄英高校入試僅か数日前。
第四魔法使い、始まりの物語。
静岡県某所、まだまだ寒さの残る2月。
雄英高校では入学試験が行われていた。
そんな入試会場には1人の男がいた。外見は個性的な特徴はないごく普通の中学生。ただし中身は普通とはかけ離れている魔法使いー箱内狭だ。
既に筆記試験は終わり、残す実技試験の開始を待つばかり。そんな俺、箱内狭は半年前のことを思い出していた。
『なぁ、雄英高校のヒーロー科受験して見ないか?』
『雄英?確か、体育祭で有名な高校?』
ヒーロー科とは。
約100年前に個性という超常能力を持った人たちが生まれ始めた。
初めは少なかったが、その数が増えるにつれ超常能力、すなわち個性を悪用する犯罪者が出て来た。
そういった犯罪者はヴィランと呼ばれ多くの被害、多くの混乱をもたらした。そんな犯罪者、ヴィランを取り締まり、災害から救助を行う職業、それがヒーロー。
そんなヒーローを育成するのがヒーロー科だ。
『そこ。ヒーロー科ではトップクラスの高校だが試験対策すれば、いける。どうせなら有名高狙って見ないか?』
『いや別にいいです。』
いきなり呼び出されたかと思えばアホ抜かしてやがる。立ち上がって、先生に背を向ける。無駄なことに時間を使わされた。解散!
『待て!待て!もうちょい話聞こうぜ!』
立ち上がったが、裾を掴まれる。はぁ…。引き留められたが、この提案は特大の問題がある。
『雄英高校は偏差値79、合格倍率300倍の超難関校。そんくらいは知ってますよ。受かる訳ないじゃないですか。』
今の個性社会ではヒーローは超大人気職。
個性を自由に使え、ヒーローとなれば名誉も名声も金も全てが手に入る職業。海賊王かな?
雄英高校は卒業すればそんなヒーローの中でもトップヒーローへの道が開けるとされる大人気高。
俺もそれなりに勉強は出来る方だが、そんな学校の入試に学校の名前と難易度を知っているだけの奴が受験しにいったところで無駄足にしかならない。超倍率だぜ、超倍率。
『いや、雄英の入試なんだがな。偏差値が高い原因は馬鹿げた難易度の実技試験が一因でな。実技試験で筆記の偏差値90オーバーな奴も問答無用で落とされている。例年馬鹿みたいにキツい試験らしいがお前なら実技、突破できるだろ?』
知ってるぞ。という顔を向けている。俺は既に野良ヴィランに絡まれる度、何人もボコしているのは知っているのか。それなら納得。
ヴィラン達でサッカーをしてるのも知ってる?違う違う、アイツらが金を出せ!って言うから金を出す代わりにアイツらとサッカーして遊んであげたの!俺が選手でヴィランがボールだ。嫌だと言ってた?強制的にボールにして何回か蹴ったら文句を言わなくなったから問題なし!なので俺は悪くない!
『そんなら受けてもいいですけど…ここしばらく忙しくてですね。あんまり試験対策出来ないんですけど合格すると思います?』
『できると思うぞ。ほとんど心配してない。ある程度の試験対策(筆記)は必要だと思うけどな!』
『そうですか。ある程度の試験対策(実技)は必要ですか。分かりましたよ、そこまで言うなら受けて見ます』
『試験対策(筆記)するならまず間違いなく通ると思うぞ!頑張れよ!』
そんなことを言われて実技の試験対策をして受験した訳だが…。あの教員め、筆記めちゃくちゃ難しいじゃねぇか!実技の対策してあればOKじゃないのかよ!?
ちなみにだが、雄英を勧めた先生は襲って来たヴィラン達をサッカーボールにする奴に実技対策が必要だとはカケラも思っていなかった。なので当然筆記対策をすると思っていた。……つまり悪いのは勘違いしていた箱内である。
そんな俺も筆記も全く解けなかった訳ではない。ギリギリ足切り突破か?と思える程度には回答できていた。だが受かる、受かると勧められた時に断らなかったのを後悔する程度にはズタボロにされた。
「王でなくても人の心は分からない…数学の点Pが世界を超えて追って来た…個性の科学は空想科学…ヒーロー社会はクソ、試験にも出張るクソ…英語…死ね…」
一つ一つの科目に対して恨み言を呟く。実技試験が目の前に迫っているのは分かっている。筆記試験の反省をしている暇はない。分かっている。それでも、筆記試験の名を借りた拷問から回復するには時間が足りない。
そんな萎れきった俺をよそに試験会場に声が響いた。
「ーーハイ、スタートよ!」
スタート?誰が?何が?何を?
嫌な予感を感じながら顔をあげて離れた場所にいる監督らしきヒーローを見る。
「何を止まっているのかしら!実戦じゃカウントなんてないわよ!走りなさい!」
……まさかの試験!?試験がスタート!?周りは!?走り出してる!?反応早いね!?
試験が突発的に開始するとは思っていなかったのでスタートダッシュは遅れたが、それでも走る。着いた試験会場は市街地を模した場所。
大通りから一本横道に入るとすぐにロボットと鉢合わせになる。
「標的捕捉!!ブッコロス!!」
ロボット君、ちょっと殺意高くない?それでも敵を目の前にして意識を戦闘へと切り替える。
腕に魔力を収束させ、魔弾を手の中に創り出す。俺の個性は魔術、ということになっている。俺は幾つかの魔術を使えるが、その中でも魔弾は護身用として便利な魔術。襲ってきたヴィランを半殺しにするのに丁度いいので使っている。殺さぬようにボコボコに、死なないようにボコボコに。
「1ポイント目!」
魔弾で1点のロボットの頭を撃ち抜く。実技試験は行動不能にしたロボが点数として加点される。1点以外に0点、2点、3点のロボが存在する。
壊した感想だが、1点のロボは強くない。雑魚。戦闘に向いてない個性持ちでも点数を取れるようにされている気がする…。知らんけど…。
次に強化の魔術で身体能力を数倍に引き上げ、3点のロボを殴る。
「男女平等顔面パンチ!」
「イヤ、オレらロボ…性別ナイ…」
3点はサイズこそ大きく、一点のロボとは別物。だが拳で殴りつけると共に、メキッと嫌な音を立てて崩れる。1点とはかなり大きさなど違いがあるが特に苦戦するほどでもない敵。
ロボが崩れ落ちた音に引き寄せられて別の2点ロボと1点のロボがやってくるのが見える。つまり大きな音を出しながら壊すとボーナスポイントがやってくる?ならばやる事は一つ。
「標的発見!」
「魔弾の販売中!お支払いは点数でよろしく!」
盛大に破壊音を撒き散らしながら暴れたらー!
「オラっ!シャイニングウィザード!」
飛び蹴りをかましてロボを沈黙させる。魔術師とは?魔術とは?と聞かれること間違いなしの肉体言語でロボットとの語り合い(一方通行)を始めて数分後。
試験時間は残り3分。周りの受験生に疲れが見え始める時間にも俺は順調にロボを破壊していた。
「おら!得点と命置いてけ!」
1点のロボが崩れ落ちたのを見届けて、一息つく。ちまちまと得点を稼いで現時点のポイントは50ポイント。
1点のロボが動かなくなるのを見届けると、試験会場全体に轟音と地響きが鳴り響いた。轟音の正体はビルを越える大きさのロボが起き上がりコチラに一歩踏み出した音だった。
…エエェ…ドン引きですわ。逝ってヨシっ!なんて試験ではなかろうに…
「なんだアイツデカすぎるだろ!」
「さっきの説明にあった、0点の敵だ!」
誰だか知らんが説明ご苦労!あれがお邪魔ギミック!見かけないと思ってたが!お邪魔ギミックは倒しても点数は0点。試験官がマリオのドッスンと似たようなお邪魔虫だと説明していた。だがサイズが想像以上に大きすぎる!
巨大ロボを見上げるがビルより大きいことだけしか分からない。軽く動いただけでかなりの範囲で被害が出そうな大きさ。他のロボと同じく肩に点数は0と書かれているがこれは書かなくてもわかる。
そんな巨大な機体が四車線ある道路で収まりきれず、近くのビル外壁を削りながら爆進してくる。パニックになり逃げてくる他の受験生と一緒になって逃げる。壊したところで0点の相手はしてられない。
暇な時に付き合ってやるよ!むしろ付き合ってほしい。乗せてほしい。操作もしてみたい。ワンパンできるかも試したい。
逃げながら得点となるロボを粉砕していると路地裏からいきなり声がかけられた。
「ちょっとこっち!そこの人手伝って!」
イヤホンのようなものが耳たぶから生えている女子が瓦礫を動かそうと孤軍奮闘していた。
「こっち!ちょっと瓦礫に挟まれた人がいて手伝ってくれない!?
ウチの力じゃ動かなくて!」
呼ばれたので近寄ると一人の受験生が瓦礫に足を挟まれていた。巨大ロボの影響かどうかは知らないが、ビルが壊れた時にたまたま下にいて巻き込まれたようだ。
「なるほどっ!これでどうだ!?」
巨大ロボが来るまでに時間があるので駆け寄り瓦礫を持ち上げる。近くにロボもいないし、偶には人助けもね。
「グッ、助かった。瓦礫に足を挟まれて動けなくなったところだったんだ。」
「喋れるなら無事だね。とりあえず移動するよ。」
「瓦礫が降ってくるなんて運がないな。動けるか?」
「足がやられた、動けなさそうだ。」
礼を言われながらも瓦礫の中から引っ張り出す。助けはしたが足を動かせないようでこれ以上の試験はリタイアするしかないだろう。試験は終盤なので優秀ならこの時点で合格は不可能ではないライン。…だと思う。
「ってヤバッ!お邪魔ロボが来てる!」
「どうする!?結構近くまで近づいてきてる!?」
瓦礫を退けている間に巨大ロボットが近づいて来ていた。派手にビルや街並みを壊しながらこちらに着々と進んでいる。お邪魔ロボの進路はこのまま進むなら直撃コース。1分以内にはロボが潰しに来るだろう。
なので。
「じゃ、俺はこの辺で…」
「イヤイヤ!?この状況で放置!?」
女子にツッコまれるが点数付きロボを狩らないといけないし…。筆記でボロボロにされた分取り返さないといけないし…。
「せめて移動させてからにしてよ!」
移動させるとなると、その時間ロボハント出来ない。そのくらいなら。
「…なら、アレをブッ飛ばすわ。」
「は、アンタ何を…」
何をって、移動させるよりロボを壊した方が早いよな?3分のロスより30秒のロスの方がまだいいよね!
二人から数歩離れ魔術回路を本格起動させる。使うのは魔弾とは桁違いの威力を持つ大技。街中で使えばテロリスト認定間違いなしの一撃。
魔法陣を足元に、全身から魔力を溢れさせ、その全てを腕に収束させ巨大ロボットに向ける。
今から放つ技は第五魔法使いと呼ばれた青崎青子の魔術を模した大技。1度も使った事はないが出来る!多分!きっと!おそらく!メイビー!ダメだったら逃げよ。
「擬似!アースライト・スターボゥ!」
収束された魔力は破滅的な威力を持つレーザーとなり空を一直線に裂く。白く澄んだ魔力が鋼鉄の装甲を持つ巨大ロボに突き刺さり抵抗を許さず貫通する。レーザーがあたったロボットの胴体は音もなく消滅し轟音と共に崩れ落ちた。
金掛かってるロボはスクラップに転職だ。今は金欠だし、転職の仲介料くれてもいいのよ?修理代?知らない子ですねー。
後日聞いた話。お邪魔ロボのお値段は一機につき3億。そしてお邪魔ロボは試験会場12ヶ所全てに配置されているとのこと。
試験で使うなんて正気か?12機×3億。正気か?正気か?雄英入試はバーサーカーが考えたのか?バーサーカーはもう少し理性あるぞ?と未来で困惑することになるが、それはまた別の話。
それはともかく。
「生き残った点数ロボは!?」
「近くにはいないみたい」
近くを見渡してもロボットはいない。目に入るのは他の受験生が壊したロボットやその残骸だけ。
ば、バカな…。
「そんな…殺したかっただけで死んで欲しくなかったのに…」
「アンタは何を言ってんの」
ちょっと困惑した顔の女子。でも殺したかったんだからしょうがないよね。自分で殺さないと点数貰えないしね!
そんな気の抜けたやりとりを最後に実技試験終了の時間が来た。
「終ゥ了ーー」
終了の合図と同時に試験用にと発動していた強化の魔術を停止させ体をほぐす。無意識だが緊張していたようだ。やはりテストは身体に悪い、テストは悪い文明。
「ウチは耳朗響香、助かったよ」
「箱内狭、よろしく。で、担架はどこだと思う?」
成果はともかく、試験は終わった。個人的にはサッサと帰りたいところ。だが使うつもりもない大技を使ってまで助けた人を放置するのも目覚めが悪い。
そんな中、耳朗がイヤホンを地面に突き刺してからある方向を指差した。
「あっちに人集まってるみたい。あっち行こう」
ほう、ほう。やっぱりイヤホンだし音を聞く系の個性かな?試験落ちたって雰囲気もないしロボ壊せる程度には攻撃にも転用可能な個性?音波攻撃?直接振動を叩き込む系?意表をついて電気信号系?
「本当わりいな、助かるぜ」
「いいってことよ」
スタート地点には救護所も設置してあったので怪我人を運び、試験は終わった。点数のこと、落ちた場合のこと、考えるべきことは多い。
それでも一つの区切りはつく。ここから魔法使いのヒーローアカデミアが始まる。
言い忘れていたがこの物語は俺が、俺たちが希望を繋ぐ物語だ。