第四魔法使いのヒーローアカデミア 作:ネル
演習場のビルの前に次のヒーローチームがいた。第一試合で半壊したビルとはまた違うビル。
そんなビル近くでコンクリートが粉砕される轟音が響く。轟音を響かせたのは箱内。
「戦闘時に使う魔術は魔弾と強化。魔弾で撃って、強化で殴る。」
ヴィランチームには五分間の準備時間が与えられる。それが終わるまでの待ち時間にヒーローチームは自己紹介をしていた。箱内とペアになったのは峰田。
「オイラの個性ではもぎもぎ。くっつく。超くっつく。一日中くっつく。」
高校生とは思えない小柄な体格の峰田が頭からブドウの様なものを取り、近くのビルの壁にくっつける。もぎもぎと呼ばれた何かは、壁にくっついたまま落ちてこない。
「オイラにはくっつかない。跳ねる。もぎりすぎると血が出る。」
「うわぁ…」
プニプニと押している峰田にはくっつかず手を跳ね返すのを見て箱内は顔を顰める。その反応を見て絶叫をあげる峰田。
「オイラの個性に文句あるかよー!オイラの個性弱いって思ってんだろー!」
何やら勘違いしているが箱内は峰田の個性が弱くて顔を顰めていた訳ではない。その正反対だ。
「どこに弱さがある?敵に回したらひたすら面倒な個性だろ。特に剥がそうとしても剥がさない上に一日中くっつくのがキツい。」
「お、おぉっ…!」
峰田がもぎもぎが評価されて嬉しがっているが、箱内は自分で対処できるかどうかを考えていた。
峰田と戦う場合、もぎもぎに触れたら移動不能。
足元にもぎもぎを設置した上で、投げながら近づくだけで意識を頭上と床に分散させられる。戦闘中に足元と頭上に意識を割かせ脳のリソースを奪う。戦闘という瞬時の判断が勝敗を決める場面でどれだけえげつないのかは語るまでもない。更に戦闘時間が長引けば長引くほど、峰田有利なフィールドへと変貌していく。
少し個性の活用方法を考えただけでこの有様である。そんな厄介な個性と認識した箱内が考えることは一つ。どう対処するかだ。
「もぎもぎがあるだけで接近戦では不利。耐久戦もダメ、時間経過でトラップが増える。」
「そうだろ、オイラの個性スゲェだろ!」
だから箱内は強個性に対して対策を練る。峰田を敵に回しても確実に仕留められるように。
「つまり遠距離から押し潰すのがベター?時間は峰田の味方になるなら解答は遠距離からの一撃必殺?」
「ん?オイラ一撃必殺されるの?」
すぐに思いつく弱点らしき弱点は遠距離攻撃は不可能な点のみ。とりあえず遠距離攻撃は出来るので問題なしと納得する箱内。
「結論はもぎもぎを撒かれる前に不意打ちで遠距離からの狙撃。ヴィランチームだった場合、ビルのフロア毎吹き飛ばせば充分かな?潜むビルごと粉砕!玉砕!大喝采!」
おっかないものを見た様にガクガクと震える峰田。残念だが当然、峰田も弱く見られたい訳ではない。が、かと言って個性が厄介だからとビルごと粉砕されたい訳ではない。
「怖えぇーよ!オイラの個性はそこまで強くねーよ!」
「まぁ、そんなことより。作戦を決めとこうか。峰田捕縛役よろしく」
「そんなことじゃねーよ!オイラの話しを聴けー!」
「主役譲ってやっから」
「オイラ、なんでもやるぞー!」
峰田、チョロいぜ!ヴィランチームは超強敵だから被害担当は任せた!逝け!峰田!(被害担当は)君に決めた!
ところ変わり、ヴィランチーム。
核を守るヴィランチームは耳朗と八百万。
ヴィランチームの二人は個性をフル活用してヒーローチーム迎撃の準備を終えていた。
八百万の個性は創造。構造を知っていればありとあらゆるものを創り出せる万能な個性。
そんな防衛戦に向いた個性で各階にヒーローチームから核を防衛するための仕掛けを設置していた。核の周りには鉄柵を設置。その他、5分間の準備時間で可能な限り、ヒーローチームの行動を妨害できるようにしていた。
ある程度の準備が終わった後、オールマイトの開始を宣言する声が響く。
『それでは!スタート!』
「始まりましたわ」
「予定通り索敵はウチが」
耳朗の個性はイヤホンジャック。イヤホンのようなもので索敵を得意とする個性。その個性でヒーローチームの動向を探り、防衛戦を行う作戦だった。
だがその計画は早々に破綻することになる。開始とほぼ同時に近場の窓ガラスが派手な音を立てて粉砕された。
「何事ですの!?」
「ヒーローチーム!?どうやって此処を!?」
開始早々に核の場所を特定され突入されるとは想定はしておらず驚愕するヴィランチーム。窓から入ってくるにしてもこの部屋はビルの五階。耳朗の個性でヒーローチームの動向は探知できるため、外壁を登ってくるなら迎撃する余裕があると判断していて、現時点では対策はしていなかった。
「…………?………来ませんわ」
割れた窓からヒーローチームが入ってくるのかと身構えているが誰も来ない。次の窓ガラスが割れる音がするが下の階から。更にその下へと段々と遠ざかっていく。
壊れた窓から顔を覗かせると離れたところから魔弾で窓ガラスの破壊活動に勤しむ箱内が見える。淡々と一つずつ窓ガラスを魔弾で割っている。たまに粉砕したコンクリートを投げつけ窓ガラスを割っている。
「アイツ、何やってんの?」
「何か狙いがあるのでしょうか?」
覗いているとせっせと破壊活動に勤む箱内と目が合う。
「ミツケタ」
ニタリと笑う箱内。それを見て耳朗は失策を悟る。箱内の目は面倒な索敵が終わったと語っていた。
「不味っ!」
ヒーローチームの箱内と峰田の二人は索敵に向いた個性持ちではない。だからといって一部屋ずつ索敵するのでは時間がかかる。普通の相手なら問題なかっただろう。適当に一部屋ずつしらみつぶしに探っていくのもありだった。
しかし、個性把握テストでヴィランチームの八百万は物を創り出す個性持ちだと判明している。そんな個性持ちに時間を与えれば何を作り出されるか分かった物ではない。ビル中罠だらけ程度なら御の字。
なので箱内は全部の窓ガラスをノックしてみることにしたのだ。ノックに反応して出てくれば儲けもの、出てこなくても良し程度の雑な作戦。だが、見つけた以上容赦はない。壊れた窓越しに魔弾が撃たれ、更には窓付近の外壁を粉砕され始めた。
「マズイ!壁壊されてる!」
「大砲を用意しましたわ、反撃です!」
壊された壁際に大砲が創造され魔弾と大砲の撃ち合いが始まった。途端にビル街で飛び交うことになる魔弾と砲弾。
「おわぁ!?対人戦に大砲って!オーバーキルじゃありません!?」
「とりもち弾ですわ!安心してください!」
「とりもち弾だとセーフ理論。わかりません。
一言言わせてください、人の心ぉ!」
とりもち弾を必死に躱し、撃ち落としながら魔弾を撃ち返す箱内。
「割と撃ち落としてるじゃん!」
「それでOKだと思うなら変わってやろう!こんなところに居られるか!俺は逃げさせてもらう!」
次から次へと飛び交う砲撃の応酬は箱内のビル内部への逃亡で終わりを告げた。
「アイツ随分余裕だね…まぁ、一旦は凌げた?」
「ですが、だいぶ壁を壊されてしまいましたわ」
箱内の猛攻が終わり、静寂を取り戻した部屋で一息吐く二人。
「階段にはトラップたくさん仕掛けてありますし時間稼ぎにはなるでしょう。今のうちに防衛の準備を進めますわ。お手伝いくださいませ。」
「了解。…ん?待って、なんか忘れてるような…」
「確かに何か…」
耳朗と八百万が何か見落としが…と頭を悩ませ始めた、次の瞬間。
「オイラの出番だ!」
「峰田!?」
峰田が壊れた窓から飛び込んできた。
これはチーム戦。箱内はチームとして相方の邪魔にならない様に攻撃を控えただけ。さっきまでの攻撃は索敵と本命の峰田を通すための陽動。
普段ならヴィランチームの2人なら気づけた。しかし開幕からの派手な砲撃により峰田への警戒が完全に抜け落ちてしまっていた。
派手な砲撃が終わる頃には峰田は屋上に待機していた。ヴィランチームの居場所は大砲の砲撃音と魔弾の着弾で示され、更にヴィランチームがいる五階の壁は通りやすいように外壁も崩してあり、通るのに十分な大穴が空いている。
ヴィランチームのすぐ側に突入した峰田は作戦通り動いた。対抗策がなければ当たれば詰む可能性大と箱内に評価された個性、もぎもぎがヴィランチームに雨霰の如く降り注ぐ。
「オイラのもぎもぎをくらいな!」
「ヤバっ!」
「耳朗さん!反撃ですわ!」
ギリギリでもぎもぎを躱しつつ、ヴィランチームの二人もすぐ反撃に移る。初の戦闘訓練だと考えれば素晴らしいと評価できるスピード。もぎもぎは八百万が創り出したネット弾と耳朗の音波で飛ばされた。
「おわーーーー!」
ついでに小柄な峰田も音波で吹き飛ばされた。だが、峰田の行動が全て無駄になったわけではない。反撃に移るまでの時間に幾つものもぎもぎがヴィランチームに当たらずとも周辺に落ちた。よりによって対抗策なく触ると即詰みのトラップがだ。
「これ、触ったらダメなヤツだよね」
「何が起こるか分かりません、出来る限り避けるべきでしょう」
「そんなこと言わずにオイラのタマに触ってくれよー」
吹き飛ばされてもゾンビの如く這い寄り、セクハラで逮捕されそうなつぶやきを漏らす峰田。残念ながら警戒されているので、もぎもぎに触りに行こうとするはずもない。むしろそのセリフを聞いて更に距離をとられる。
「箱内が来る前に確保するよ」
「足元にお気をつけください」
アイコンタクト一つで一気に攻めるヴィランチーム。音波の壁、ネットランチャー、時折挟まれるイヤホンジャックの不意打ち。
「当たれって!」
「増援が来る前に!急ぎますわ!」
「おわー!箱内ぃぃ!助けてくれー!……罠で足止めされてる!?後2分待て!?待てるかー!」
イヤホンから聞こえる箱内の返事に泣き言を漏らしながら、必死になって逃げる峰田。柱を盾にし、時折もぎもぎを投げつけ、不格好ながらも攻撃をギリギリで避け続ける。だがそんな拮抗は長く続かない。
二対一。数の理、事前準備の差は確実に峰田を捉えた。最初は奇襲だったからこそ峰田は主導権を握れていた。だが奇襲の時間がすぎれば逆に手も足も出なくなる。ついにはネット弾に包まれ捕獲された峰田。
「この程度ならっ!お一人だけならチョロいですわ!」
自信に満ちた顔で勝利を宣言する八百万。
「オイラの主役が…オイラが捕まえてさりげなくパイタッチする計画が…」
「不潔ですわ…」
捕まえられた峰田。後は確保テープを巻かれるのを待つばかり。
だが峰田が稼いだ時間は無駄ではなかった。峰田の背後から白い魔弾が跳ぶ。
「行け」
「もう来た!」
峰田の背後から数発の魔弾が翔ぶ。
その程度であれば耳朗と八百万なら幾らでも避けることが出来る。が、峰田を捕まえたことによる気の緩みと、もぎもぎで足場を制限された事により全て捌くことは出来なかった。
「ぐっ…動けませんわ…」
「…しまったっ…離れないっ」
魔弾に当たり倒れ込んだ先でもぎもぎに捕らわれ。或いは魔弾を避けた先で、もぎもぎを踏み抜き。ヴィランチームは動こうとするが、既に幾つものもぎもぎにより身動きがとれていない。
「移動不能デバフ(解除不能)はお好きですか?」
「本当に取れないんだけどっ!」
「箱内ー、遅ぇーよ。
て、なんでそんなボロボロなんだ?」
5階までビルを登ってきた箱内はボロボロだった。顔には血が滲み、脚を引きずる満身創痍。
「なんでって?あの極悪トラップを仕掛けまくったヴィラン達に聞いてください。ぶっちゃけあれ、やりすぎじゃない?」
視線を八百万に向ける。
お前だよなぁ!あんだけトラップを仕掛けたやつは!人の心案件その2!
「そうでしょうか、まだ色々仕掛けたいところでしたわ。階段に設置できたのはマキビシ、有刺鉄線ぐらいでしょうか。」
「閃光弾を仕掛けた覚えはありませんかね、アレのせいで階段踏み外して転げ落ちたんだけど。」
「あっ…だから足痛めてるのか」
砲撃戦を切り上げた箱内は5階まで駆け上がったが、その道中は過酷なものだった。階段を塞ぐトラップの数々。一つ避けては一つに引っかかる、どうやって突破したかも思い出したくもないレベルの難行だった。
そんな無駄話をしている間にネット弾からモゾモゾと這い出す峰田。
よしよし、おしゃべりして時間稼ぎした甲斐があったね。
「峰田に頼めば拘束のおかわりもあるよ。いる?」
動けば撃たれる、そんな状況に追い込まれたヴィランチーム。だが、そもそも拘束されて動けないので既に詰んでいた。
「…やられましたわ、降参です」
「ウチも降参、動けない」
アイアムウイナー!
降参した二人に近づき、魔術でもぎもぎを消失させる。とれた…!と驚く三人を尻目に説明する。
「触れるとダメなら、触れなきゃいいだけだ。燃やすなり凍らせるなり、方法はいくらでもある。」
消失は得意分野だ。魔弾も元を辿れば、この魔術の応用である。立ち上がる二人を放置してフロア中に散らばるもぎもぎを見る。
「まぁ…全てを処理するってのは大変なんだけど」
この大量に散らばったもぎもぎ、誰が処分するの?というわけで!
「峰田、後の片付けはよろしく!」
「ええ、オイラ!?」
「何でもするっていったよなぁ!?」
言質は取ってあるぜ!一人でお掃除よろ!
「言ったけど、こういう意味じゃねぇー!」