第四魔法使いのヒーローアカデミア 作:ネル
戦闘訓練の翌日。
オールマイトが雄英の教師に就任したというニュースは日本全国を駆け巡り、学校までマスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。
当然のようにオールマイトを取材しようと大騒ぎのマスコミは登校してきた俺たちにも朝から突撃してきた。
「オールマイトについて聞かせてもらえませんか!?」
「その男はマッスルだった」
マッスルだったね。全ての悪を力づくで叩き潰してきた筋肉だけはあった。
そんな感想を一言だけ残す。
校門前でオールマイトを出待ちするマスコミが多すぎて一々対応してたら遅刻間違いなし。
無遠慮に突き出されるマイクを押し除け突破すると、しつこくついてくるかと思えば別のターゲットを見つけたようで難なく切り抜けた。
どんな世界でもこうしたマスコミ集団というのは湧くらしい。これだからマスコミは…
そんな無駄な騒ぎがあったが教室に着けば元通りの日常となる。
マスコミが押し寄せてきたにも関わらず平常運転の相澤先生から朝一のホームルームで昨日の振り返りがあった。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。
爆豪。おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」
「……わかってる」
「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。
"個性"の制御……いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させねぇぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。
"それ"さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」
「っはい!」
やはり爆豪と緑谷はしっかり注意をされている。
ビル丸ごと破壊し尽くしたのだ、このくらいで許してもらえるのは行動的にも修繕にかかる予算的にも温情だろう。
お前も大分破壊した?知らないお話ですねぇ!
「…………さて、HRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに……」
除籍テストか?勘弁してくれ!
「――――学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!」
身構えて損した。面倒なテストよりはマシ。
「委員長!!やりたいですソレ俺!!」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ!!」
「ボクの為にあるヤツ☆」
「リーダー!!やるやるー!!」
皆競って手を挙げていく。雑用係に皆熱心に立候補している。
「静粛にしたまえ!!"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……!
『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……!
民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは、投票で決めるべき議案!!」
「そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!!!」
飯田が正論を言っているが、当の本人もしっかり手を挙げていた。
そもそも委員長の決め方も相澤先生から指定があるかもしれないというのに先走りすぎだ。
「日も浅いのに、信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそ、ここで複数票獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか!?
どうでしょうか先生!!」
「時間内に決めりゃ何でも良いよ」
相澤先生が寝袋に入りながら答える。
決まるまで傍観する構え。決まんなかったらどうするつもりだ?
学級委員長になるつもりは無いので適当に目についた飯田の名前を書き投票する。
雑用係に推薦してあげよう。感謝したまえ。
「僕3票ー⁉︎」
「なんでデクに……!誰が……!」
「1票…誰か入れてくれていたのか…!」
緑谷3票、八百万2票で委員長と副委員長が決まった。
目の前では相変わらず爆豪がキレてる。そんなんだから選ばれないんだよ。
一般教養の時間が終わり昼休み。
お昼になり雄英名物の食堂に並んで昼ご飯。
ヒーローランチクックの作る料理は美味しい。私の好きなヒーローはランチクック、美味しいは正義。
同じことを考えている人は多いようでお昼は、かなりの人数が食堂に集まってきている。
今日は耳朗と八百万が一緒だ。
耳朗が八百万と仲良くなったらしく一緒に食べる事になった。
峰田もいれば戦闘訓練でのメンバー全員だったが、峰田は上鳴や瀬呂と食べに行った。
そんな昼食の時間、話題になったのはホームルームの学級委員決めの話。
「まぁ、残念だったな学級委員長になれなくて」
「いえ、副委員長も大役ですわ。誠心誠意努めさせていただきますわ」
「アンタは自分に票入れてなかったよね、誰に入れたの?」
「学級委員なんて面倒だったんで飯田に入れた」
雑用係などやってたまるか。リーダーシップだ、なんだは必要ない。
そんな風に昼食を食べていると、突然警報が学校中に鳴り響く。
大音量の警報と同時に放送で「セキュリティ3が突破されました」と流れる。
このセキュリティ3が突破されたとは、上級生いわく誰かが校内に侵入したらしい。
ヒーローの巣窟である雄英に侵入者が現れる前代未聞のあり得ない警報に雄英高校の生徒たちは大混乱。
一斉に我先にと出入口へと駆け出している。
しかしなんでもかんでも大きい雄英でも、出入り口の大きさは普通より少し大きい程度の幅。
すぐに避難しようとする人でつっかえてしまい身動き取れなくなってしまっている。
「箱内さん!早く避難しますわよ!」
「箱内!のんきに食べてる場合じゃないって!」
二人は周囲の雰囲気に流されて混乱し避難しようとしている。
しかし今雄英で最も安全な場所の一つはここだ。
「今避難しなくてもいいんじゃない?
避難しようにもろくに動けないしそもそも侵入者が食堂を狙うとは考えられないし。
ヒーローのランチラッシュもいる、ヒーローの居ないとこより安全だろ?」
二人はすっかりあわててランチラッシュが近くにいることを忘れていたようだ。
ランチラッシュは戦闘向きとは言えないだろうが、それでも立派なヒーローの1人。
今は厨房の奥に引っ込んでいるが、ちょっと前に近くにいた緑谷や飯田たちのテーブル近くにいた。
今は姿が見えないが近くにいることは間違いない。
確かにプロヒーローが近くにいたと二人とも納得はしたようで席に着いた。
「…確かに、ヒーローがいるところの方が安全だよね」
「それは…そうですね…侵入者と聞いて焦ってしまったみたいですわ」
結局そのまま暴動に巻き込まれないように席に座りながら昼食を食べる。
今どう動いたところで人の流れに押し流されるだけだし、美味しいお昼ご飯がもったいない。
日替わり定食の中華美味しいです。残すのは勿体ない、昨日和食だったから明日は洋食かな?
それに、ホントに危険ならそこら辺の窓を蹴破って外に避難すればいい。
もし逃げた先が危険でも真似した奴が後に続くから後続を盾にできるだろう。
「いや発想が物騒なんだって」
少し引かれたが合理的な解決の筈だ。
少なくとも相澤先生はこのアイデアをよしとするだろう。
ヒーローの理念的にアウト?気のせいですよ、気のせい。ヒーローも生き残ってなんぼだよ。
ちょっと引かれながらランチを食べているとすし詰め状態の中から飯田が浮いて抜け出したのが見えた。
飯田の個性エンジンはロケットのものだったのだろうか。
ならば野外で飯田と戦う場合はマッハで飛んでくる飯田を警戒しなきゃダメなの?
メガネのままーー飯田が貴方に急接近する。とかされる?
やだ、勘弁してほしい。
将来は知らないが、今飯田が急接近したのは出入り口。
出入口の上に張り付き、非常口のピクトグラムみたいなポーズで大声を張り上げた。
「大丈ー夫!ただのマスコミです!
なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!
ここは雄英!最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!」
よく通る声が大食堂に響きパニックを鎮める。パニックさえ治ればあとは普通の昼時。
少し埃っぽくなってしまったのが残念だが普段の昼の再開だ。コレで一件落着。
マスコミが原因とは、幽霊の正体見たり枯れ尾花というやつだ。
マスコミ侵入騒動の際に、食堂でパニックとなった雄英生を鎮静化させた飯田。
そのことがきっかけで緑谷が飯田に学級委員長を譲り、最終的に委員長が飯田、副委員長が八百万になった。
どーでもよし!サッサと次に進も。
数日後。飯田が学級委員長になるキッカケとなった昼休みの騒動も話題にならなくなった頃。
「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
「ハーイ!なにするんですか!?」
「災害水難何でもござれ、人命救助訓練だ!」
質問した瀬呂に答えるようにして、相澤先生がRESCUEの文字の書かれたプレートを掲げる。
「レスキュー……今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場、ケロケロ」
「おい、まだ途中」
相澤先生のひと睨みでクラスの騒ぎは治る。
相澤先生はクラスの皆をほんの数日で一瞬のうちに沈静化させる事ができるようになった。
熟練の猛獣使いだね。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。
中には、活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。
訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」
雄英は広くヒーロー基礎学の施設にバスで移動することもある。
それも数分で着く訳でもない距離でしばらくかかる。その間、バスの中ではワイワイと話す声が響く。
「あなたの"個性"、オールマイトに似てる」
「そそそそ、そうかな!?いや、でも僕はそのえー」
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」
蛙吹と緑谷の会話に緑谷の隣に座っていた切島が口を挟む。
「超パワーと言えば箱内の方もだよな」
残念ながら緑谷の超パワーには敵わない。
魔術で強化しているだけなので、緑谷ほどのパワーは発揮できないのだ。
更に強化自体は得意じゃない。
「……しかし緑谷や箱内もだけど、動ける"個性"はいいな!派手で出来ることが多い!
俺の"硬化"は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよなー」
派手な個性はヒーローとして活動する際に人気が出やすくなるので結構大事だ。
どうしても人気商売なので意味のない派手さ、分かりやすさも求められる。
一方、相澤先生のようなぱっと見、何をやっているか分からないヒーローは人気は出にくい。
もっとも人気と実力は全く別の話。
例えば相澤先生の抹消は人気は出なさそうだが、個性を使えなくする個性で初見殺し。
知らなくてはどんな敵でも個性を止められたら一瞬は止まってしまう。
相澤先生と初見で戦う場合、個性が使えなくなる条件は何か?時間は?解除可能か?色々と考える事が多く厄介な敵となるだろう。
現在わかっている相澤先生の個性発動条件は相手を見る事、そして使っている間は髪が逆立つ事。
体力測定の時や授業で何回か見た感じコレで正解だろう。
実戦だったら間違いなくブラフをかけてくるだろうが学校ではそこまでしないはずだ。
そんなことを考えているうちに着いた訓練場はドーム状の建物でかなりの大きさ。
中に入れば燃えるビルや湖に浮かぶクルーザー。土砂崩れ。様々な災害を再現した設備が待っていた。
何億かけて作りました…?維持費は?ブルジョワめ!
「すっげー!USJかよ!?」
「水難事故、土砂災害、火事……etc。
あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。
その名も……Uウソの、S災害や、J事故ルーム!」
宇宙服を着たヒーローがやってきて説明をしたが、いきなりネーミング的にマズそうなものをぶっ込んできた。
そんなアウトなセリフを吐きながら出てきたのは
「スペースヒーロー『13号』だ!
災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー!私好きなの、13号!」
「えー始める前に、お小言を1つ2つ……3つ……4つ……」
三人体制で授業の予定だったと思ったがオールマイトはまだ来ていない、代わりにお小言が増えている。
教師を三人から二人に人数を減らす代わりにお小言を増やすんですね。わかります。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の"個性"は"ブラックホール"。
どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
ご存知ないです、そんな内心はヨソに麗日はファンのようで興奮しながら頭を振っている。
「その"個性"で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。
皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」
ヒーローは対ヴィランがメインの活動の一つになっている。
抵抗する敵を捕まえて行動不能にするのは殺すより難しい。
つまり最低限、殺せるだけの強さがあった上で殺さないように手加減出来なくては逆にコチラがやられかねない。
「超人社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。
しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる、行き過ぎた"個性"を個々が持っていることを忘れないで下さい。
相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。
オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思 います。
この授業では……心機一転!人命の為に"個性"をどう活用するかを学んでいきましょう。
君たちの力は、人を傷付けるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。
以上!ご清聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボ―!」
「そんじゃあ、まずは……」
13号先生の話が終わると共に遠くの広場の噴水前に、奇妙な黒い穴が音をたてて開く。
目をこらしていると、少しずつ広がる黒い穴から人の指がのぞいた。
「ひとかたまりになって動くな!!」
「え?」
「13号!生徒を守れ!」
音のした噴水前を見ていると、たくさんの人の姿と、謎の黒い闇が溢れ出す。
不味そうだな、逃げる準備はOK!
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う!あれはヴィランだ!!」
底の見えない闇が広がり、ざっと100人以上のヴィランが出てくる。
脅威となりそうなのは数人、手加減しないなら殺せる。やるか?
おっと、今の俺はヒーロー科の生徒だった。なので、逃げてもいいですか?
「13号にイレイザーヘッドですか……。"先日頂いた"教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここに居るはずなのですが……」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
黒いモヤのようなヴィランが話した内容で先日のお昼時をパニックにさせた原因が分かった。
昼時を台無しにしたマスコミの影にいたのはコイツら、敵だ。
昼ご飯の仇!全部美味しくいただいたけど!
「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引き連れてきたのにさ……。
オールマイト……平和の象徴……居ないなんて…………子どもを殺せば来るのかな?」
悪意まみれの、早すぎる初実戦が始まる。
早くも箱内のヒーローの生徒としての皮が剥がれようとする時が迫っていた。