第四魔法使いのヒーローアカデミア 作:ネル
本来の世界の流れと比べて、ここでの戦いは圧倒的に生徒側有利で進んだ。
黒霧が三人ではなく四人送り込んだこと。
ヴィランを倒すことに躊躇ない魔術師がいたこと。
その姿を見て自分たちも、と他の三人が奮起したこと。
ありとあらゆる要素はヴィランに不利に働き、大元の世界の半分以下の時間しか持たずヴィラン達は殲滅された。
挙句、地中に隠れて雄英高校との通信障害を発生させていたヴィランは耳朗により索敵され気付かれようとしていた。
それ故に一人残されたヴィランは賭けに出た。
個性の相性を考えて人質に取るつもりだった上鳴を狙うことを諦めた。
個性の相性で完封できなくてもいい、1番近くにいる誰かでいい、見つかる前に人質をとる。
その一念で地面から這い出て狙った手近な獲物は八百万。
その行動が世界の流れを大きく変えることとなった。
八百万は破れたコスチュームを創造で創り直した後、箱内達に声をかけようとしていた。
「お待たせしましたわ、もう大丈夫で…ッ!?」
「お前らは強いからな…殺したくはないがしょうがないよな?」
俺は聞き覚えのない声に後ろを向くが既に八百万がヴィランに片手でクビを捕まれ捕まっていた。
ヴィランの空いてる右手には電気を纏い、八百万がさっきまで護身用にと作り出していた長めのナイフを構えている。
八百万を人質を取られてしまった。
下手に動けば八百万が殺される可能性がある。
なんなん?演習にしては難易度高すぎるし、オールマイト狙いの暗殺計画にしては生徒に対する殺意高すぎない?
そこまでしなくていいんだよ?
「ごめん…!地面から出てくるなんて…油断していた…!」
「手を上げて動くな、そっちに行くから動くなよ」
八百万がパンクになって俺の社会的地位がピンチになった後は、八百万の命が物理的にピンチ。
ほんと今日は厄日だ。
あのヴィランとの間には距離があるし、上鳴はまだアホ化したままでしばらくの間は当てにできない。
現状は俺と耳朗の2人しか動けない、どうする…?
手を挙げて耳朗の近くに近づくとコッソリと喋りかけてくる耳朗。
「ウチが隙を作るからヤオモモからアイツを引き剥がして…!」
「まだやめといた方がいい…あと少しだけ様子見しよう」
「喋っていいとは言ってない、黙って手を挙げろ」
コッソリとした相談だったが速攻でヴィランにバレた。
人質となった八百万奪還に動くのも良いが、まだヴィランがどう動くか分からない。
まだ動くには早いと思うが首を絞められ苦しむ八百万を見て耳朗は動いた。
「…上鳴もだけどさ…電気系って生まれながらの勝ち組じゃん?
何でヴィランなんてやってるのかなって…」
喋りながらこっそりと耳朗が足のサポートアイテムにイヤホンを伸ばす。
耳朗の足についているサポートアイテムは音を指向性を持たせて放つ。先ほどの戦いでも敵を何人も怯ませて足止めした。
敵が怯んだら拘束されている八百万は自力で逃げれるだろうし、逃げれなくても俺が攻撃して逃がせる。
音での攻撃に八百万を巻き込むことになるがそれでも解放さえ出来ればいい。
俺はもう少し様子見をしてチャンスを伺いたいタイプだが、この動きも間違いではないだろう。
そんなことを考えているとヴィランが耳朗のイヤホンの動きに気づいた。
大元の世界ならばヴィランに気づかれナイフを人質に突きつけられ牽制されるだけで済んだ。何の致命的な過ちにもならなかった。
しかしこの世界では違う。
ヴィランには大元の世界とは違い余裕はない。
対峙するのは1人人質にしたと言えど、僅かな時間でたった4人にも関わらず20人以上の襲撃班を壊滅させた生徒達。
人質にとった生徒すらも相性の良い個性ではないので一瞬すら気が逸らせない。
それ故に牽制はしなかった、牽制で済ませる余裕はなかった。
故に、ナイフが予告なく八百万に勢いよく突き刺された。
「気付かれないと思ったか?ヒーローが人質を軽視するなよ?
お前が抵抗するからこうなるんだぜ!」
「ヤオモモ!」
「短気すぎる!」
ヴィランが八百万から手を離すが目を見開いたまま、八百万はピクリともしないまま落ちていく。最悪だ、厄日どころではない!
ヴィランがこちらに電撃を飛ばしてくるが最速で魔力と殺意を込め魔弾を放つ。
電撃を蹴散らし一瞬にしてヴィランの四肢を砕き倒した。
更に崩れ落ちたヴィランを全力で蹴り飛ばし遠くに吹き飛ばす。
「ヤオモモ!ヤオモモ!!しっかり!!」
八百万の元に駆け寄るが胸にナイフが深々と突き刺さり虫の息。
口からも血を溢れさせ、素人目で見てもすぐ病院の集中治療室に運ばなくてはいけないレベルの致命傷。
「ゴメン!ゴメン!ウチのせいで!ウチが動こうとしたから!」
八百万にもはや答える余裕はない。
……クソな治安の世界でも、入学早々にクラスメイトが一人減るとは思ってなかった。
「誰かっ!なんでもいい!助けられる何かっ!」
耳朗が必死になって辺りを見回すが何かも誰かもあるはずもない。
周囲を見渡そうともヴィランぐらいしか見つけられない。
治癒の個性をもつリカバリーガールも雄英教師陣もオールマイトもいない。
「箱内っ、何かアイデアっ!?…そうだ、箱内っ!魔術!治療に使えるのないのっ!?」
「治療系の魔術はある」
「じゃそれを早くっ!」
縋るような視線で迫られ急かされるが、何も理由もなく使わなかった訳ではない。
使えないだけだ。
「他人へ治療系の魔術を使ったことはない。
更に治療の為にはナイフを引き抜く必要があるが、ナイフを引き抜けば…そのまま治す間もなく死にかねない」
自分以外の治療なんてやったこともないしやる機会もなかった。
(もしやった場合はヒーローでもない、医者でもないので違法行為かつ危険行為としてヴィラン認定からの即逮捕になる)
教師はいない、練習する機会もない、とないない尽くしで腕を磨く機会はないのだ。
それ故に。
「勝率は多めに見積もって一割」
「っ!そんな…ならっ!他っ!何かっ!誰かっ!」
誰も居ない、何かもない。
助かる為には唐突にヴィランが現れた様に、ヒーローが唐突に現れることに賭けるしかない。
オールマイトがすぐさま登場するなら可能性がある。
オールマイトが最優先で八百万を救助、そして病院にダイレクトに搬送、ありとあらゆるものを使い即治療。
これなら可能性がゼロじゃない。
が、現実はいつも非情である。
ヴィランとの戦いの音が聞こえても救助に来た声は聞こえない。
助けは来ない、命はこの場限り。命を繋ぐものは存在しない。
「そんな…何か…何か…ウチが余計な事をしたから…ウチのせいで…」
耳朗が絶望感に沈む。
そんな耳朗の涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て、最後のチカラを振り絞った八百万が声を上げる。
「…助けが来たとしても間に合いませんわ。挟さん、失敗しても構いません。
…試していただけないでしょうか…!」
「失敗したら…分かった…」
失敗したらなんて問うことすら野暮に思えるほどの覚悟を決めた瞳をした八百万の横で足をひと踏み。
広がるのは魔法陣、足りない技量を少しでも補助する為何でも使う。
一つでは足りない、二つ、三つ。現状これ以上はない。
そう確信できる体制になってから八百万に向き合う。
「やるぞ、八百万さん」
「…っ、お願いします」
祈る様な耳朗の横で八百万に突き刺さったナイフを勢いよく引き抜く。
血が勢いよく噴き上がり周りが赤に染まる、八百万が苦悶の声を上げるが気にする余裕はない。
技術が足りない、時間もない、準備も足りない、それでもやるしかない。
「告げる、月を越えて。
星は暗く、宙は崩れ、虚空へ。されど次へ。
我らは愚かな蛍火、数多の灯火」
ここでの戦いで消費した魔力の5倍以上を八百万に注ぎ込み治療に充てる。
ナイフでつけられた傷が蠢く。ジリジリと血管が、皮膚が元に戻る。
不安定ながら魔術は何とか形になった。
…が足りない、多少は治せたが致命傷のまま。
残っている魔力のほとんどを投入して尚、致命傷から逃れられていない。
成果は数分の延命。
「グッ、足りないか…」
「箱内!どうにか頑張って!」
ガンガン魔術回路を回して溢れる魔力でまだまだ技術的に弱いところを誤魔化すように魔力でブーストし魔術を使う。
それでも足りない。
「これは……」
「そんな…ウチのせいでヤオモモは…。
……箱内、代償魔術は対価があれば大抵なんでも出来るんだよね?」
「なんでもではないけど、出来ることは多い。
代償として差し出すものが足りなかったり、理論的に不可能だったりで成立しないことはある」
「ならさ………。ウチの身体でヤオモモを助けることできない!?」
…なるほどその手があったか、俺の代償魔術の使い方とは全く別故に考えもしてなかった。
が、それは代償魔術の正しい使い方の一つだ。
「なるほど…いいアイデアでは?」
「ならっ、ウチの身体使って!」
「ダメです!耳朗さんがそんなことをする必要は…」
「ヤオモモが捕まったのはウチのミスのせいだから気にしないで。
さ、箱内やっちゃって!」
死にかけなのに耳朗を必死に止めようとしている八百万と覚悟を決めている耳朗。
だが、八百万の心配は無用で耳朗の覚悟も不要。
「セット」
代償魔術の起動句を唱える。
身体が捩れ、歪み、消失する。
身体を代償にして生成された莫大な魔力を燃料に使用された魔術は八百万を包み込む。
真っ当な魔術師が見れば顔を顰めるようなセンスのカケラもない力押し。
だがそれでも効果は出る。
残る慘劇の跡はコスチュームと地面にベッタリと残る血痕だけ。
八百万は治ると同時に起き上がり、刺された胸を撫で回している。
その様子を見て一息吐く。
「本当に…治っています…」
「ヤオモモ!良かった!ヤオモモ!」
「ウェイ!ウェイ!?」
耳朗が八百万に飛びつき、上鳴が謎のポーズをとる。
「ありがとうございます。貴方は私のヒー…。
ーッ!いえ!箱内さんの腕が!」
魔力が足りないならと、代償に捧げたのは自身の腕。
耳朗が思いついた身体を代償にする、その発想は良かった。
しかし耳朗は身体を使えば八百万を治す代償になると思っているようだがそれは、間違い。
代償魔術は使い手の主観や世界にとっての価値によって得られる対価が変わる。
人の命は代償にするに相応しい価値あるものだと感じる人、人の命などゴミ同然で役に立たないと感じる人。
そんな二人が同じく人の命を代償としても得られる対価が同じではない。
もし個性社会に来る前の箱内が代償魔術を使え、耳朗の身体を焚べて魔力にしたら八百万を治すのに十分な魔力を得れただろう。
一人の命は地球より重い、とは思っていない。
しかし、命は大切なものと認識していた、平和な現代社会を生きる者として当然の価値観。
多少ズレてスレていようが普通の範囲内。
だが、今の箱内は人の命に大した価値を見出していない。
個性社会では命は軽い。個性を使った凶悪犯罪はよくある事で、日常的に死人は出る。
その為、箱内にとっては個性社会に生きる生命の価値はとても軽い。
更に耳朗は同じクラスになって1週間も経っていないクラスメイト、友人程度の付き合い。
そこら辺を歩いている人よりは圧倒的に代償に相応しいが、それでもその身体、その命を箱内が代償にしたところで大した対価を得られない。
だが、箱内も悲壮な耳朗の覚悟に何も感じない訳ではない。
知り合って1ヶ月も経ってないような耳朗の命では救うには足りない。
ならば足りるものを代償とすれば良い。
耳朗の身体より圧倒的に価値あるものは何かと考えて出てきたのが俺の腕。
足りない魔力を補うため対価に支払ったのは自分の腕。左肘から先を差し出した。痛い。
そのせいでドクドクと肘から血が絶え間なく袖をつたい流れ続けている。痛い。
だが魔術を使えばアッサリ痛みも血も止まる、やはり魔術万能論。まだ痛い。
だがそれでも目的は果たした。
「よし血は止まった。問題なしっ!」
「何処がヨシだっ!腕が無くなってんだよ!バカ!!
…っゴメン、ウチの身体を使え、なんて言ったからっ!」
上鳴も心配して狼狽えているが耳朗と八百万はもっと酷い蒼白な顔で涙目。
八百万は震える声でズボンに縋ってくる。
「申し訳ありません!私のせいで…!私が捕まったせいで…!」
「イヤ、ウチのせいだ…あの時油断してたから……!」
「仕方ない、伏兵がいるなんて気付かなかったんだ」
しゃがんで縋り付く八百万の肩に手を乗せて言い聞かせる。
いつも通り両手があるつもりで肩に両手を置こうとしてしまったので血まみれの左裾が八百万の肩にぽすんと置かれ、途端にびくりと肩が跳ね上がった。
これは死人を出さない為の最適解だった。
知らぬ仲でもないクラスメイトを見捨てて残念だったな、と割り切れるほど人でなしな魔術師となってないのだ、そしてなるつもりもない。
それにもう一つ大事な事が。
「この腕は魔術で回復させられる筈だから気にしないでくれ。
魔術で無くしたなら魔術で取り戻せる。」
「…本当ですの…?本当ですのね?」
俺の代償魔術は対価さえあれば大抵のことは叶えられる。
つまり対価となる魔力さえあれば大抵どうにかなる。
それでもダメなら最終手段も存在する。
「本当さ、体力は使い果たしただろ?後は寝てな。
寝ても起きても君の世界は続いていくのだから」
「…そうですわね…なら箱内さん少し寝かせていただきますわ…」
八百万の傷が治ったが精神的なショックは治っていない。ヒーロー志望だからとはいえ、死の淵まで行き平気でいれるはずもない。
縋り付く八百万はスッと意識を失ったように俺の腕の中で眠り始めた。
そんな八百万を抱えて一言。非常に大事な一言。
「耳朗さんや、耳朗さんや」
「何?」
「八百万を引き取って、抱きつかれたままは恥ずい。女子高生預かりサービスはやってませんことよ!」
「あんた…さっきまでヒーローっぽかったのに締まんないね…」
「それっぽかったろ?」
シリアスはやればやるだけ気力が削がれるんだよ。
赤い目で八百万を受け取る耳朗。
「でだ。相手は相当な準備をしてきたらしい。さっき見た限り相澤先生はヴィラン相手にまだ粘ってた。
脱出するにしろ、先生に協力するにしろ早く移動しなくてはいけない。早く動こうか」
「ウェイ、賛ウェ〜イ!」
山岳地帯を模した所からUSJ全体を見渡せるとこに移動すると相澤先生が戦っていたところが見える。
「嘘でしょ…先生」
広場には倒れたヴィランが十数人転がっている。
先程までの相澤先生の圧倒的優勢と変わらぬ光景。
だが今目に映る光景は相澤先生の優勢ではなかった。
見えるのは主力と思しきヴィランに攻められ地面を転がりながらも態勢を立て直す相澤先生。
そんな光景を前にしてため息ひとつ吐き覚悟を決める。
「二人を連れて敵に見つからないような場所で隠れててくれ」
「アンタ、まさか先生のところに!?危険すぎる!」
「逃げ場は入ってきた出入り口のみ。
今の八百万と上鳴を連れて出入り口まで行けない。
行けたところで出入り口にはワープの個性がいる、辿り着いたところでさっきみたいに連れ戻されて終わりだ。
逃げるにはどうしても相澤先生の抹消に頼るしかない。何があろうとも相澤先生を失う訳にはいかない」
ワープの個性持ちを撃破しなければまたワープさせられて無駄になる。
八百万は戦闘不能。
上鳴はアホ化から復帰するまでまだ時間がかかりそう。
耳朗も上鳴と八百万を守らないといけないので戦えない。
一人逃げるならともかく…やるしかない。
勝率は高くはないが低くもない。
「少なくとも今なら相澤先生と連携はとれる。こっちには気づいてないから隠れてくれ」
呼び止める声を置いて走り出す。
俺だってやりたくないんだよ!
でも晩鐘が、サービス残業開始の音が聞こえるなら、やるしかないんだよ!
誰か代わり居ませんか?