機動戦士ガンダム三次創作 ゆっくり機動戦士ガンダムZZ 作:泉 とも
――とあるゆっくりバース(世界とか宇宙の意)。
「ゆっくり霊夢です」
「ゆっくり魔理沙だぜ」
「なあ霊夢。今度の休みだけど、久しぶりに遊びに行こうぜ」
「あらいいわね。ゲーム実況や政治番組の収録も一段落したし、休みが欲しいと思ってたのよ」
人によっては生首。
人によっては饅頭。
彼女たちは『ゆっくり』と呼ばれる存在である。
「オーケー。話が早くて助かるのぜ」
「それでどこに行くの?流石にまた戦場や極地は嫌なんだけど」
「今回はガンダムの世界なのぜ。格安で異世界行きのチケットが買えたから、たまにはいいかなって思って」
「ええ?ガンダムの世界で格安?魔理沙、それってどのガンダムの世界なの?」
「機動戦士ガンダムダブルゼータの二次創作って書いてあるのぜ」
「うわあ、あんたそれ絶対騙されてるわよ」
ガンダムの世界に公式はあっても正史は存在しない。
ゼータガンダムの頃にはマルチバース路線を取っているためである。
なので宇宙には無数のガンダムバースが存在し、その価値はピンキリだった。
「えー?ガンダムって全部同じじゃないのか?」
「あんたそれ『東方って全部同じじゃないのか?』って言ってるのと同じだから、外では絶対言っちゃダメよ」
「わ、わかったんだぜ……! でもじゃあどうする? 行くのやめるか?」
「まあ、たまにはこういう地雷臭い旅行に出かけるのもいいでしょ」
「さっすが霊夢は話が分かるのぜ!」
「でもガンダムの世界にゆっくりっていたかしら。一応は妖精ってことで押し通すけど」
ダンバイン、エルガイムに妖精がいて、ガンダムの世界には悪霊がいるのだから、妖精がいないのはおかしい。
「いるぜ、折角だからそいつらも誘ってやろう」
「劇場版ドラえもんのゲストキャラみたいね」
「さあ、善は急げだぜ!」
こうして、ゆっくりたちはちょっとした異世界宇宙旅行へと出かけたのでした。
一方その頃。
U.C.88年・春。
「どうしてこんなことになってしまったのかしら……」
ハマーン・カーン(20)は執務室で頭を痛めていた。
反ギレン派閥ジオニズム穏健派の重鎮、マハラジャ・カーンの次女である彼女は、深々と溜息を吐いた。
「本当に、どうして」
年の頭に反ジオン公国組織『ティターンズ』のクーデターは鎮圧され、地球圏は平和を取り戻したかに見えた。
しかし、同組織への討伐に乗り出した、デギン公王とその手勢によって結成された『元祖ジオン』は、そのままア・バオア・クー宙域に居座ったままである。
「ハマーン様、マシュマー・セロ(18)であります」
「ああ、入ってください」
執務室のドアがノックされ、ハマーンは目下の下士官を招き入れると、話の都合で本来のポジションから外されて死にそうな青年が現れた。
「マシュマー、外の様子はどうですか」
「酷いものです。中には面白がって参加するものまで現れまして」
とても十代には見えないが、かといって二十代にも見え難い青年将校が、壁のパネルを操作してプロジェクターを起動する。
部屋が暗くなり壁には老若男女問わず、ジオン軍の制服を着た者たちが集まっていた。
「これが全員、デギン公王の隠し子を自称しております」
「こんなにも集まれば、自分たちが騙されていると分かろうものだが」
ハマーンは汚物を見るような目で人々を眺めた。
ザビ家当主にしてジオン公国の王、デギン・ザビはグリプス戦役時に、わざわざ宇宙要塞アクシズを移動させた。
戦役によってア・バオア・クーは壊滅的な被害を受け、結果としてアクシズが当面の間、代わりの基地として納まることとなったのである。
「ええ、ですが『自分だけは』と思っている輩が大勢のようで」
そうして内紛からの復興が始まりかけた矢先、アクシズを中心に奇妙な噂が出回り始めたのだ。
曰く『デギン・ザビの隠し子がいる』と。
その噂は次第に形を変え、映像の人々に『あなたはデギン・ザビの隠し子だ』という、あからさまなメールが出回るようになった。
「俗物どもめら……」
真に受けた者、腹に一物を抱えた者、不謹慎に戯れる者などが、我こそはと集まり徒党を生し、自らを正統と称して反ザビ家を表明。
政権の移譲やアクシズの領有を言い出したのである。
「いったい黒幕は誰なのでしょう」
「政治犯には違いないが、こうも雑な炊き付け方をして、これだけの人間が乗せられるのは、おかしい」
既にこの詐欺に担がれた、或いは自分から乗りかかった者は百名を超えた。
同調する者も含めると、行政に何らかの滞りが出る基準に達している。
「アクシズはデギン公王のお膝元。そして公王陛下はギレン総統と不仲であることは周知の事実。そこに加えザビ家にとって目障りな、父上の派閥もある。狙われる理由は如何様にも思いつく」
ジオニズムに原理主義的であり、なおかつ世俗的で穏健派の一派に属するマハラジャ・カーンは、反ギレンの最大派閥でありデギンにとって最大戦力であった。
例えザビ家に都合が悪かろうと、それ以上にギレンに対して強く出られるのであれば、老いた公王には関係が無かったのだ。
「よもや総統閣下が、公王陛下を貶めるために画策したと」
「口を慎めマシュマー。ゴシップが過ぎるぞ」
「はっ、申し訳ありません」
どこに諜報部の耳目があるかも分からないから、ハマーンは明言を避けた。
にも関わらずマシュマーは全部言ってしまう。
この出来の悪い弟のような青年は、ハマーンを女神の如く慕っているが、彼女にとっては頭痛の種の一つに過ぎない。
「流石に他のご兄弟にまで、無暗に恥をかかせるような真似をなさるはずがあるまい」
この件については他のザビ家の者たちも苦い思いをしており、分けてもドズルは怒りで顔を真っ赤にし、ドカベンの岩鬼が使うようなバットを持って街へ駆け出したほどである。
そして一時的に数は減ったが、デモ隊は勢力を盛り返していた。
「しかしハマーン様、中には明らかにデギン公王と同い年か、下手をすれば目上の者までおります」
「全く嘆かわしいことだ」
過激な行動に出た者は逮捕され、彼等を焚きつけたメールと、偽の遺伝子鑑定の添付ファイルが押収された。
宇宙時代の科学技術ともなれば、素人が見破ることは不可能と言って良かった。
「ともかく、身分の僭称とデモだけでは罪に問えん。一線を越えた瞬間を捉え、解散させるしかない。お前たちは警察と連携を強化して、引き続き警戒に当たれ」
「はっ!この胸の薔薇に誓って」
マシュマーはかつてハマーンから貰った、一輪の薔薇を誇らしげに示す。
ハマーンからすると気持ち悪さ半分、可愛さ半分であまり触りたくないことであったが。
と、その時である。
彼女の執務机の通信端末が鳴り響いた。
「何事か」
『ハマーン様、緊急のご報告があります。その、何と申し上げてよいか』
通信して来たのはマシュマーの部下、ハッシャ・モッシャならぬゴットン・ゴーであった。
余計なシリアス路線で外道に落とされた哀れな被害者。
「ゴットン、落ち着いて話せ。何があったのだ」
マシュマーはハマーンと目配せをすると、俄かに空気が緊張するのを感じた。
弱り切った部下の様子に、ただ事ではないと悟ったのだ。
『マシュマー様、そのですね、どう言えばいいか、妙な生き物を捕獲してしまいまして』
「妙な生き物?」
ハマーンはゴットンの言葉の意味を考える。
犬や猫のように、地球から輸入される動物はいる。当然だが禁輸指定される生物もいる。
「名前は分からんのか」
『はあ、私もこんなものは皆目見当もつきません』
マシュマーは部下の言葉に苛立つが、何だか分からない生き物に興味を引かれた。
地球には『何だか分からない生き物』が非常に多い。
専門家でなければ怪物にしか見えない命がやたらに存在するのだ。
『誰かの輸入とも違うようでして、保健所に送りましょうか?』
「いや、一度こちらで預かろう。密輸の可能性もある。持って来てくれ」
『はっ!』
ハマーンは妙な胸騒ぎがした。降って湧いた奇妙な生物。
それが何か、自分や今起きている事件と、関係して来るような気配。
ニュータイプとしての直感が告げていた。
「しかしいったいどんな生き物なのか」
「失礼します、ゴットン少尉、入ります」
執務室のドアを開けて入って来たのは、うだつの上がらない下士官だった。
いつでも困り果てた顔をしている彼は、上司二人の顔を見て幾らか表情を明るくした。
厄介事を押し付けられるという解放感から来る笑みだった。
「ゴットン、先ほど言っていた変な生き物とは何だ」
「はい、こちらです。おい、入って来い!」
ゴットンが廊下へ向かって呼ぶと『それ』は現れた。
人間の子供くらいの大きさで、しかし人間の頭部しかない、怪しい物体。
「ゆっくり霊夢です」
「ゆっくり魔理沙だぜ」
そして。
「ゆっくりハマーンです」
「うっ」
――沈黙。
空間が漂白されていき、やがて。
「うわああああああああーーーーーーーーっ!!」
静寂は、悲鳴によって破壊された。