機動戦士ガンダム三次創作 ゆっくり機動戦士ガンダムZZ 作:泉 とも
「なっ、何だ、お前は!?」
「こんにちは。もう一人の私」
「喋っ、口が利けるというのか……!」
ハマーン・カーンは人生で初めての絶叫を上げ、その後自分によく似た生首、或いは饅頭のような物体に、少なからず動揺する。
「私たちは簡単に言うと妖精なのぜ」
「妖精だと?お伽話に出てくるような、あの」
魔理沙の言葉にマシュマーが問う。素早くハマーンとゴットンを背に隠しながら。
「そうだぜ。まあ地球外知的生命体でも構わないけど」
「ようやく人類はファーストコンタクトを遂げた訳ね」
「まさかそんなことが」
マシュマーは他二人を見てから、ゆっくりたちに向き直る。
「そのぬいぐるみのようなハマーン様は」
「マシュマー、それを私と呼ぶな」
「私は私です。こことは違う世界の私なのです。ニュータイプとしての力を使えば、それは理解できるはず」
ゆっくりハマーンは穏やかな笑みを浮かべると、自らの精神を解き放った。
非常に高いレベルのニュータイプ力で、強制的にゆっくりたちのことを頭に叩き込んでいく。
「ゆっくりバース、異なる宇宙の旅人」
「これは、本当に現実なのか」
ゴットンは現実に耐えられず、白目を剥いて倒れた。
「そして今は、なるほど、そういうことですか」
そしてゆっくりハマーンは、この世界の情報を、人間たちの頭から引き摺り出し、咀嚼する。
「いろいろ設定を考えて来てたのに、その必要は無かったわね」
「連れて来て良かったのぜ」
それらは霊夢たちにも共有され、無理矢理に相互理解をさせた。
分け隔てなく知識や経験、感情を伝達できる、ニュータイプの本来の力の使い方である。
「どうやら大変な時に来てしまったようですね」
「まあ、私たちには関係ないけど」
「頑張るんだぜ~」
「ま、待て!待たんか!」
言うだけ言って退室しようとするゆっくりたちの前に、マシュマーが立ち塞がった。
ハマーンも状況に付いて行けず、完全に腰が引けてしまっていた。
今やこの場で気力を振り絞っているのは彼だけである。
「お前たち、どこへ行こうというのだ」
「適当にこの世界を観光したら帰るわ」
「心配しなくても何もしないのぜ」
「信用ならん!」
緊急では無いが尋常でもない事態を前にして、彼等は混乱した。
無害な未知の隣人の登場に、どう対応すればいいか分からない。
「そうですか。ならば致し方ありません。マシュマー」
「はっ、ハマーン、様……?」
ゆっくりハマーンの言葉に、マシュマーが思わず姿勢を正した。
彼の中では既にこれをハマーンと認識してしまっている。
「これも何かの縁。あなたたちに手を貸しましょう」
ゆっくりに手はない。これは単なる表現である。
「私たちの部屋を用意してください。頼みましたよ」
「あっはい。畏まりました」
困惑はすれどもハマーンには強く出られないらしく、マシュマーは操られるように部屋を出ていく。
「おいおい、いいのか?場末のマルチバースって言っても、あんまり干渉するべきじゃないぜ」
「そうよ。集英社を爆破したデッドプールみたいにはいかないわ」
霊夢と魔理沙はゆっくりハマーンの決定に難色を示した。彼女たちは侵略者ではない。旅人に過ぎないのだ。
「分かっています。ですがそうしなければいけない気がするのです。この世界には邪悪な気配が漂っている」
「そりゃガンダムの世界なんだから当たり前よ」
「霊夢、あんまりメタいこと言わない方がいいのぜ」
「私のワガママですから、お二人は去って頂いて構いません。私をここに連れて来てくれたこと、感謝します」
ゆっくりハマーンの言葉に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせると、困ったような笑みを見せた。
人間なら肩を竦めていたことだろう。
「全くしょうがない奴だぜ。霊夢、いいか?」
「やれやれ、とんだバカンスになっちゃったわね」
「……ありがとう、二人共」
饅頭三つが意思を統一した所で、マシュマーが戻って来る。
「お部屋の準備が整いましてございます」
「ご苦労様です。それではもう一人の私、少しの間ですが、お世話になります」
「あっああ。えっ?」
かくしてゆっくりたちは、アクシズに食客として上がり込んだのであった。
――それから数時間後。
「如何致しましょう、閣下」
『まずは父上のことで、迷惑をかけたことを詫びよう。それと連中のことだが、無暗に刺激してもいかん。条件付きで一つ、一つだけ言い分を飲める可能性を見せろ』
通信端末にはジオン軍総帥及びジオン公国次期公王ことギレン・ザビが映っていた。
鉄面皮ながらも声には重く静かな怒気が滲んでいる。
「可能性、ですか」
「譲歩を見せて乗ってくればよし。まとまりを付けてやれば、こういう連中は嫌でも分裂を起こすだろう。さもなければ現状を維持せよ。市民活動など長期化すれば必ずボロを出す。やり方は君とマハラジャ・カーンに一任する。頼んだぞ」
「はっ!」
ハマーンが一礼を済ませると、端末の通信が途切れる。
「譲歩のていで誘き出せとは、分かりはするが、とうするかな」
彼女が思案に暮れていると、不意に執務室のドアが開いた。
「話は聞かせてもらいました。もう一人の私」
「うわっ、勝手に私の部屋に入って来るな、化物!」
ゆっくりハマーンは一瞬だけ表情を曇らせたが、直ぐに気を取り直すと、話を切り出した。
「元祖ジオンの人たちとの交渉ですが、私に一つ餡子、いえ案があります」
「私の顔でふざけたことを言うな」
ハマーンはキレそうだったが、SDで散々ギャグをやっている自分を見たら、卒倒しそうである。
「代表同士によるMS戦だと?」
「単純明快な一騎打ちです。これなら仮にこちらが敗れても、おいそれと悪いことにはなりません」
元祖ジオンのデモ隊の要求は日に日に増えているが、この形なら如何様にも内部分裂を煽ることが出来る。
(案外ちゃんとした策だ。ふざけた外見でもやはり私ということか)
メンタルが弱く自己評価がクッソ高いハマーン様は、内心でゆっくりのことを見直した。
厚かましい性格である。
「代表がジオン軍人の場合、軍の施設利用を許可し、機体の手配もしましょう。正々堂々を前に押し出すのです」
「なるほどな。ならば、マシュマー」
ハマーンは通信端末を起動して、子飼いの青年を呼びつける。
『はっ、お呼びですかハマーン様!』
「うむ。お前にしか任せられん用が出来た。至急私の部屋まで来てくれ」
『直ちに!』
それから十分もしない内にマシュマーは現れた。アクシズ内を全力疾走して来たのか、完全に息が上がっている。
「ぜえ、はあ、マシュマー・セロ、参上、致しました」
「ご苦労、実は折り入って頼みがある」
そんな彼のことを全く意にも介さず、ハマーンは自分のゆっくりと話した内容を聞かせた。
「という訳だ。まとまって武威の一つも示せぬ者たちに、譲ってやれる席はない。だが自らの力を示せたなら」
「流石はハマーン様。その寛大なお心、直ちに知らしめて参ります!」
そしてマシュマーは元祖ジオン及び偽ザビ家の一党に向け、MS戦一騎打ちの布告を出した。
どよめく群衆に向け、彼は声も高らかに話始める。
「聞けーい皆の者!今から一ヶ月後に、元祖ジオンの代表と私がMSにて一対一の決闘を行う。もしもお前たちが私に勝てたなら、お前たちの要求を一つだけ聞いてやるとハマーン様は仰せである!」
人々、取り分け名を言われたデモ隊などは、俄かにざわめき出す。
突如目の前に吊るされた、下剋上という名の人参に、誰も彼もが目の色を変える。
「貴様らの代表がジオン軍人なら、施設と機体の手配も自由にしてよいとの仰せだ!お前たちの本気の程、私にぶつけてみよ!」
台詞の終わりと共に上がる喝采。拍手と黄色い声。
この調子の良さと、ほんのり漂うバカ殿っぽい感じで、マシュマーは人々から好かれていた。
「何か思ったより平和そうだぜ」
「似合わないシリアスよりはいいじゃない」
「違いないぜ」
そんな彼らの様子を、霊夢と魔理沙は見守っていた。
不思議なことに、周りに人間には二人が見えていないようだった。
「さあ、私たちも戻って準備しないと」
「準備って何するんだぜ?」
「決まってるでしょ」
地面をバウンドしていた霊夢は一時停止すると、魔理沙に向き直り、こう言った。
「マシュマーの機体を用意するのよ」