機動戦士ガンダム三次創作 ゆっくり機動戦士ガンダムZZ 作:泉 とも
アクシズ内・ジオン軍MS戦演習場。
周囲に障害物はなく、野次馬などもいない。荒地がどこまでも広がっているように見える。
「いよいよこの時が来たか」
マシュマーはイフリートⅡのコクピット内で、ハマーンから貰った薔薇を愛でていた。
地下から搬入用エレベーターに乗り、MS発進用ゲートから外に出れば、眩しい昼の光に機体が照らされる。
既に戦いは始まっており、相手を探して人工の荒野を駆ける。
『マシュマー、この試合ではビームは低出力、実弾は非殺傷弾の使用となる。その他のルールは事前に言った通りです。健闘を祈ります』
「はっ、この胸の薔薇にかけて」
シャアとの確執がないので言葉遣いが大人しいハマーンが、一通りの確認を済ませる。
憎悪に狂っていない彼女はただの綺麗なオペ子である。MSの操縦は卓越してるしニュータイプ能力もそのままだが、綺麗なオペ子である。
「それとマシュマー、この戦いは各所に放映されています。いざとなれば救助や中止のための部隊が出ます。安心してください」
「おお、異形のハマーン様、お気遣いありがとうございます」
「それを私と呼ばないでくださいマシュマー」
ゆっくりハマーンの言葉にも感じ入るマシュマー。彼にとっては饅頭の方もハマーン様なのだ。
「む、来たか」
レーダーに現れた機影に気付き、マシュマーはモニターを見る。
ネモのパーツで改修された、グレミーのガンキャノン・ディテクターが歩いてくる所だった。
「臆せず現れたことは誉めてやろう、グレミ―!」
『フッ、格下相手に逃げる私ではないぞ。マシュマー』
売り言葉に買い言葉。しかし二人は小さく笑みを浮かべて睨み合う。
片や緑と黒のイフリートⅡ。片や橙と黄色のディテクター。
お互いに少しずつ距離を狭めていく。すると。
「うん、あれ?」
マシュマーは違和感に気付いた。
グレミーの機体の頭部が、変わっていたのだ。
「お前、頭部が」
「これはガンタンクの頭部だ」
ガンタンクの頭部。戦車の延長線上の機体だったそれは、複座型でありコクピットも二ヶ所存在していた。
胴体と、頭部と。
「ルールでは頭部を破壊された者は失格となるが、コクピットを攻撃してはいけないともある。つまり、頭部がコクピットならば、貴様は私を攻撃できんのだ!」
「き、貴様、なんということを!」
――ハマーン様のお部屋。
「おい霊夢、これっていいのか?」
「まんまとルールの穴を突かれたわね」
場面が戻る。
「貴様ァッ!やっていいことが悪いことがあろうが!名誉を背負って戦うのが決闘というものだ!」
「甘いな。負けていい戦いなど、あろうはずがない!」
「してはいけない勝ち方というものがある!」
両者は猛然と機体を疾走させてぶつかり合う。激しい衝突にも負けず、がっぷりと組み合う。
「思った通り大したパワーだな。手加減が難しいのではないか?」
「おのれえ!格上を自称しておきながら、なんと卑劣な!」
互いに射撃武器を使うが牽制にもならない。
イフリートⅡの攻撃に対し、ディテクターは果敢に頭部を差し出す。
「くっ!まずい!」
「そこだ!」
慌てて突き出す拳、ぶつけようとする体、それらを際どい所で外しては、手痛い反撃を受ける。
「これが知略というものだ、マシュマー!」
「人に甘えておきながらー!」
苛立つものの、マシュマーは相手をそれ以上責めることは無かった。
最初こそは卑劣と思ったが、この場で勝利のために最も危険を冒しているのは、他ならぬグレミーだったからだ。
「騎士の誇りに塗れて敗れ去るがいい!」
「私は負けん!頭だけを残して、機体をバラバラにしてくれる!」
ただ只管に重MS同士の格闘戦が続く。一打一打に機体が潰れ、フレームがひしゃげる。
言わば互いのカラテの技量だけが、勝敗と決着を手繰り寄せる唯一の方法だった。
「でえああああ!」
(やはり、格闘戦ではあ奴に分がある……!)
MSの近接戦において最も重要な要素、それは思い切りである。
必死必殺の間合いに自ら飛び込んでいく。その危うさを自らの物とする、精神的な速度と強さこそが、明暗を分ける。
「まずは左腕、貰い受ける!」
「猪武者めが!」
「うぬっ」
ガードために上がったディテクターの腕を、イフリートⅡが掴み、力尽くでもぎ取る。
だがそのお返しとばかりに、イフリートⅡの左足も全力で蹴られ、はっきりと歪み、火花を散らす。
「ええいっ、これからという時に!」
「終わりだな、マシュマー・セロ!」
機動性を大きく殺がれ、機体の安定を失った所に、グレミーが襲い掛かる。
「これしきがなんだーッ!」
「うう!?」
ディテクターの右の拳が、イフリートⅡの頭部に突き刺さる。
だがしかし、頭部の完全な破壊よりも先に、ディテクターの拳が砕け散る。
「馬鹿な、しまった!」
「頂くぞ、グレミー・トト!」
反撃のタックルで機体を突き離されたディテクターに、イフリートⅡが迫る。
「まだだ!」
「ぬっなんと!?」
一方でグレミーも負けじと機体を突っ込ませ、わざと自分から体勢を崩す。
ディテクターはスライディングの形となり、イフリートⅡのダメージを負った脚部を、完全に破壊して通り抜けた。
「うおおおおおっ!?」
倒れるイフリートⅡの衝撃に揺さぶられるコクピット。これにはマシュマーも堪らず悲鳴を上げる。
「今だ!」
「まっ待て、ぐわああああ!」
そして相手が立ち直る前に、グレミーは大慌てで機体を回り込ませると、渾身の一蹴りで、半壊したイフリートⅡの頭部を蹴り飛ばした。
『そこまで!勝負あり!勝者、グレミー・トト!』
「やった、勝った、勝てた、のか……?」
「無念だ。申し訳ございません、ハマーン様……!」
こうして行政に対する無茶な申し入れと、その解決のための決闘は、元祖ジオン代表のグレミーに軍配が上がった。
――そして。
「グレミー・トト。元祖ジオンを代表として、貴殿の要求を一つ聞こう。まずは申してみよ」
「はっ!我が方の要求は一つ。私をデギン公王の子、ザビ家の血筋をお認め頂くことです。さすれば元祖ジオンにおける、我こそはザビ家の者という他の者たちの言い分は、私という存在によって棄却され、此度の集会は正当性を失い、解散することができます」
グレミー・トトの言葉に、事の成り行きを傍観していた者たちは、呆気に取られていた。
中には怒り出す者もいたが、大半は事態の終息を感じ取り、或いは白けてながら、師事も無しに散り散りになって行った。
――ハマーン様のお部屋。
「なあ霊夢、これはどういうことなんだぜ?」
「要はグレミーが勝って自分たちのハシゴを外したのよ。これで本物の隠し子は自分一人だって」
「でもさ霊夢。それはそれ、これはこれじゃないか?他にもデギンの隠し子がいるかも知れないのぜ。101匹ザビ家とかあるんじゃないか?」
「誠に恐ろしい可能性ですが無くは無いですね。全ては公式の商品展開次第です」
「認知を勝ち取る手段も出来たんだし、この場はとりあえずお開きでいいんじゃない?」
「それもそうなのぜ」
後にギレンからデギンの家系図は、グレミーまでとする布告が正式に出るのだが、それはまた別のお話。
「貴様ら私の部屋から即刻出て行け」
「私はあなたですよ、もう一人の私」
「黙れ!」
そしてハマーン様の頭痛だけがこの場に残された。
場面が戻る。
「此度はまんまとしてやられた」
「許せよマシュマー。こうでもしないと勝利は危うかった。それはこの戦いを振り返れば明らかだ」
勝負が終わればノーサイド。
マシュマーとグレミーは機体を降り、基地へと戻っていた。
その道すがら、今日の決闘のことを話し合う。
「そうかも知れん。だが生きるか死ぬかの実践なら、恐らくまた貴様が勝つだろう。お互いに武装が役に立たなかったが、装備の拡張ではそちらの機体が優れていた」
普段は薔薇の騎士などと戯けているが、マシュマーも見るべき点は見て、考えるべきことは考えている。
「そうはならんことを願う。私も身内を撃つような真似はしたくないからな」
「その時は貴様が裏切り者として裁かれる時だ。詐欺のメールなどに律儀に付き合いおって。相手が私だから良かったものを」
トゲのある言い方だったが、それはまだグレミーを味方だと思っていることの裏返しである。
言われた当人は苦笑をするしかない。
「全くだ。しかしあれだけ大勢の人間に吹聴して回るなど、いったいどこの誰がこのような煽動を謀ったのか」
「その辺りはハマーン様が調べている。直に犯人も捕まるだろう」
「そうであればいいが」
「何が言いたい」
基地内の廊下からそれぞれ士官用の個室へ移ろうという時、グレミーは思案気に俯く。
マシュマーも釣られて立ち止まり、真意を問う。
「これはまだ、小手調べのような気がしてならないのだ。もっと大きな悪が動く、前触れのような」
「考え過ぎだ」
「そうだな。そう願う」
二人の青年は、言いようのない不安と予感を胸に、一時の休息へと向かった。