静かな通路と三人の異変探し   作:肩幅ひろし

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第1話 異変を見逃すな

 薄暗い地下通路に、三人分の足音がゆっくりと響いていた。

蛍光灯は一定間隔で並び、どこまでも同じ景色が続く。

まるで“永遠にコピーされた廊下”を歩いているような、そんな静かな圧迫感。

 

 霧雨魔理沙が肩をすくめた。

 

「なぁ霊夢。ここ、絶対普通じゃないよな。私たち、また妙なところに迷い込んでないか?」

 

「またって言わないでよ。私はちゃんと異変を解決する側なんだから」

 

 霊夢は呆れたように言いながらも、周囲を警戒している。

そして三人目──冴月麟(さつきりん)は、壁の注意書きをじっと見つめていた。

 

 異変を見逃さないこと。

 異変を見つけたら、すぐに引き返すこと。

 異変が見つからなかったら、引き返さないこと。

 8番出口から外に出ること。

 

「……ふむ。ルールが明示されてるのは助かるね」

 麟は中性的な声で静かに言った。

「僕らは、まず“異変”を探す必要があるってことか」

 

「異変って言われてもなぁ。妖怪でも幽霊でもなく、もっとこう……地味なやつなんだろ?」

 魔理沙が首をかしげる。

 

 霊夢はため息をつきながら歩き出した。

「とりあえず進むしかないわ。ここは“0番出口”らしいし」

 

 

 

 

 三人が歩き始めてすぐ、麟がふと足を止めた。

 

「……ねぇ、霊夢。あの非常口の看板、向きが逆じゃない?」

 

 霊夢と魔理沙が同時に振り返る。

 

 確かに──

非常口の人型マークが“出口から入ってきている”向きになっていた。

 

 魔理沙が叫ぶ。

「いやいやいや!それ絶対おかしいだろ!」

 

 霊夢は即座に判断した。

「異変ね。引き返すわよ」

 

 麟は淡々とうなずく。

「ルール通りだね。異変を見つけたら戻る」

 

 三人は来た道を戻る。

すると、さっきの看板は元の向きに戻っていた。

 

 魔理沙が肩を落とす。

「うわぁ……もう帰りたい」

 

 霊夢は少しだけ楽しそうだった。

「こういうタイプの異変、嫌いじゃないわ」

 

 麟は静かに微笑む。

「僕は嫌いじゃないけど、精神衛生上は良くないね」

 

 

 

 

 次の通路に入ると、遠くから“カツン……カツン……”と靴音が響いてきた。

 

 魔理沙が身構える。

「誰かいるぞ」

 

 霊夢は眉をひそめた。

「でも、足音のリズムが……変じゃない?」

 

 麟が分析するように言う。

「うん。歩いてるというより、録音をループ再生してるみたいな……」

 

 三人が耳を澄ませると、

“カツン……カツン……カツン……”

完全に同じ音が、同じ間隔で続いていた。

 

 魔理沙が叫ぶ。

「それはもう“異変”だろ!」

 

 霊夢は即決。

「戻るわよ」

 

 麟は淡々と付け加える。

「この世界、妙に“雑なホラー”をしてくるね」

 

 

 

 

 次の通路は静かだった。

三人は慎重に歩く。

 

 魔理沙が壁を指さした。

「なぁ霊夢。あの壁……ちょっとだけ色違わないか?」

 

 霊夢が近づいて触れる。

「……ペンキの塗り忘れ?」

 

 麟が首をかしげる。

「いや、ここだけ“呼吸してる”ように見えるんだけど」

 

 三人が凝視すると──

壁が、ほんのわずかに“膨らんだり縮んだり”していた。

 

 魔理沙が叫ぶ。

「絶対に嫌だ!」

 

 霊夢は冷静に言う。

「異変ね。戻るわよ」

 

 麟は淡々と歩き出す。

「この世界、僕らを帰らせる気があるのかないのか分からないね」

 

 

 

 

 次の通路は、やけに明るかった。

蛍光灯が“やる気満々”の光を放っている。

 

 魔理沙が眉をひそめる。

「なんか……明るすぎないか?」

 

 霊夢が天井を見上げる。

「蛍光灯、全部“新品”みたいね」

 

 麟がぽつりと言った。

「いや、あれ……一本だけ“LEDじゃなくて白熱灯”だよ」

 

 三人が見上げると──

確かに一本だけ、白熱灯が混ざっていた。

 

 魔理沙が吹き出す。

「いやそれはもう異変っていうか、ミスだろ!」

 

 霊夢は肩をすくめる。

「でもルールはルールよ。戻るわ」

 

 麟は静かに笑った。

「この世界、ホラーとコメディの境界が曖昧だね」

 




 この物語には、原作『8番出口』で通路を歩いている“プレイヤーとは別の中年男性”が登場しません。
理由はとてもシンプルで、物語の構造と雰囲気を守るためです。

 原作の中年男性は、名前も背景も語られず、ただ淡々と歩き続ける“謎の通行人”として描かれています。
その正体の曖昧さこそが原作の不気味さを支えていますが、東方キャラクターが主役の本作にそのまま登場させると、物語の焦点がぶれてしまいます。

 霊夢・魔理沙・麟の三人は、異変を見抜きながら出口を目指すという役割を担っています。
そこに説明のない中年男性が加わると、
「この人は誰なのか」
「なぜ幻想郷の三人と同じ空間にいるのか」
といった疑問が読者の意識を奪い、東方キャラの掛け合いや異変の緊張感が薄れてしまいます。

 そのため本作では、東方キャラ3人の物語を純粋に楽しめるように、原作の中年男性はあえて登場させていません。
異変の気配は通路そのものに宿らせ、三人の反応と掛け合いを中心に据えることで、
ホラーとコメディがほどよく混ざった“東方らしい異変譚”として成立させています。
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