地下通路の空気は、先ほどよりもわずかに重く感じられた。
蛍光灯の光は均一で、影がほとんど生まれない。
その“影のなさ”が、逆に三人の神経をじわじわと削っていく。
霊夢が前を見据えたまま言う。
「ここが……4番出口ね。そろそろ本格的に変なのが来そうな気がするわ」
魔理沙は肩をすくめる。
「もう既に変なのばっかりだったけどな。看板の向きとか、壁の呼吸とか……」
麟は淡々と歩きながら、静かに付け加えた。
「でも、ここまでの異変は“物体の挙動”ばかりだった。
そろそろ“人型の異変”が来る気がするよ。こういう世界、段階的に怖くしてくるから」
魔理沙が顔をしかめる。
「やめろよ、そういうメタい予想は当たるんだよ……」
霊夢は小さく息を吐いた。
「まぁ、異変を見逃さなければいいだけよ。ルールはシンプルだもの」
◆
通路の奥に──
確かに“誰か”が立っていた。
距離は30メートルほど。
蛍光灯の光が均一に届くため、シルエットははっきり見える。
しかし、その“はっきりさ”が逆に不気味だった。
霊夢が目を細める。
「……人間? 妖怪? それとも、この世界の住人?」
魔理沙は震えた声で言う。
「いや、あれ……立ち方がおかしくないか?
なんか……前のめりすぎるだろ……」
麟は静かに観察を始めた。
「うん。まず、重心が前に寄りすぎてる。普通なら転ぶよ。
あと……腕の角度が左右で違いすぎるね。右腕は自然だけど、左腕は“90度で固定”されてるみたいだ」
霊夢が眉をひそめる。
「つまり、異変ね」
魔理沙は叫ぶ。
「いやいやいや!あれ絶対ヤバいやつだろ!?」
麟は淡々と続ける。
「しかも……僕らの方を見てない。壁を見てる。
壁に向かって直立してる。意味が分からないね」
霊夢は即決した。
「戻るわよ。あれは絶対に関わっちゃダメなタイプ」
魔理沙は全力でうなずく。
「賛成!満場一致!」
◆
三人は引き返し、通路を戻る。
その間、誰も口を開かなかった。
足音だけが、静かに響く。
魔理沙がそっと振り返る。
「……いない。消えてる……」
霊夢はため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。
「まぁ、異変は見逃さなかったし、これで次は5番出口ね」
麟は静かに言う。
「この世界、ホラーの演出が“微妙にズレてる”のが逆に怖いね。
人型を出すならもっと自然にすればいいのに……わざと不自然にしてる感じがする」
魔理沙は肩を落とす。
「不自然だから怖いんだよ……頼むから次は普通の出口であってくれ……」
霊夢は歩きながら言う。
「期待しない方がいいわよ。ここ、普通じゃないもの」
麟は淡々と付け加える。
「次は“声の異変”が来る気がするね。段階的に強くしてくるから」
魔理沙が叫ぶ。
「やめろって言ってるだろ!!」
三人は、静かな通路を再び歩き始めた。