通路は、4番出口を越えたあたりから“音の密度”が変わった。
蛍光灯の光は相変わらず均一で、影はほとんど生まれない。
しかし──静けさの質が違う。
まるで、空気そのものが耳を澄ませているような、そんな沈黙だった。
魔理沙が小声で言う。
「なぁ霊夢……なんか、静かすぎないか?
さっきまでの“地下っぽい響き”がなくなってる気がするんだが……」
霊夢は歩きながら周囲を見渡す。
「確かに……音の反響が薄いわね。
通路の形は変わってないのに、音だけが変わってる」
麟は淡々と分析を始める。
「うん。壁の材質が変わったわけでもない。
つまり、これは“音の異変”が来る前兆だと思うよ」
魔理沙は肩をすくめる。
「お前の予想、当たるから怖いんだよ……」
霊夢は苦笑しながら言う。
「まぁ、異変を見逃さなければいいだけよ。
ルールはシンプルなんだから」
◆
三人が歩いていると──
通路の奥から、誰かの声が聞こえた。
霊夢が立ち止まる。
「……誰かいる?」
魔理沙は耳を澄ませる。
「いや……これ、私の声じゃないか?
なんか……私が喋ってるみたいな……」
麟は静かに言う。
「うん。僕にも聞こえる。
霊夢の声と魔理沙の声……そして僕の声も。
でも、言ってる内容が“微妙に違う”ね」
通路の奥から聞こえてくる声は──
確かに三人の声だった。
しかし、言葉の内容が少しだけズレている。
霊夢の声は、
「異変はないわ。進みましょう」
と言っている。
魔理沙の声は、
「戻る必要なんてないって!」
と叫んでいる。
麟の声は、
「この世界は安全だよ」
と淡々と言っている。
霊夢は眉をひそめる。
「……私、そんなこと言ってないわよ」
魔理沙は震えた声で言う。
「私も言ってない!絶対言ってない!
なんで“私の声”が勝手に喋ってるんだよ!」
麟は静かに観察する。
「声の高さ、抑揚、呼吸のリズム……全部僕らの声と一致してる。
でも、内容だけが違う。
これは“音声模倣型の異変”だね」
霊夢は即決した。
「戻るわよ。これは完全に異変だわ」
魔理沙は全力でうなずく。
「賛成!満場一致!」
◆
三人が引き返すと──
声は、まるでスイッチを切ったように突然消えた。
魔理沙は肩を落とす。
「消えるなよ……余計怖いんだよ……」
霊夢は深く息を吐く。
「でも、異変は見逃さなかったわ。
これで次は6番出口ね」
麟は淡々と付け加える。
「この世界、音の異変を出してくるのは予想通りだったけど……
“自分の声を使う”のは、ちょっと悪趣味だね」
魔理沙は叫ぶ。
「悪趣味どころじゃないだろ!
私の声で勝手に喋るなってんだよ!」
霊夢は歩きながら言う。
「次は……もっと強い異変が来るかもしれないわね」
麟は静かに言う。
「うん。次は“視覚の異変”が来ると思うよ。
段階的に強くしてくるから」
魔理沙が叫ぶ。
「やめろって言ってるだろ!!」
三人は、静かな通路を再び歩き始めた。