通路は、5番出口を越えたあたりから“視界の密度”が変わった。
蛍光灯の光は均一なのに、どこか“見えすぎる”ような感覚がある。
まるで、空気そのものが透明度を増して、細部まで見せつけてくるような──そんな不気味さだった。
魔理沙が小声で言う。
「なぁ霊夢……なんか、見える範囲が広くなってないか?
奥の方までハッキリ見えるんだが……」
霊夢は歩きながら周囲を見渡す。
「確かに……光量は変わってないのに、視界が妙にクリアね。
この世界、音の次は“視覚”をいじってきたわね」
麟は淡々と分析する。
「うん。段階的に異変を強くしてくるのは予想通りだよ。
次は“見た目の異変”が来ると思う。
人型か、構造物か……どちらにしても、視覚に訴えるタイプだね」
魔理沙は肩をすくめる。
「お前の予想、当たるから怖いんだよ……
頼むから今回は外れてくれ……」
霊夢は苦笑しながら言う。
「期待しない方がいいわよ。ここ、普通じゃないもの」
◆
三人が歩いていると──
通路の奥に、誰かが立っているのが見えた。
霊夢が立ち止まる。
「……また誰かいるわね」
魔理沙は目を凝らす。
「いや……あれ……私たちじゃないか?
なんか……三人組が立ってるぞ……」
麟は静かに言う。
「うん。霊夢、魔理沙、僕……
“僕らと同じ姿”が立ってる。
でも、立ち方が少しだけおかしいね」
通路の奥には──
確かに三人と同じ姿の“影”が立っていた。
しかし、その立ち方が不自然だった。
霊夢の影は、肩がわずかに上がりすぎている。
まるで、常に息を吸い続けているような姿勢。
魔理沙の影は、腕の角度が左右で違いすぎる。
右腕は自然なのに、左腕は“真横に伸びたまま固定”されている。
麟の影は、首の角度が不自然に傾いている。
まるで、ずっと誰かの耳元に囁こうとしているような角度。
霊夢は眉をひそめる。
「……私、こんな立ち方しないわよ」
魔理沙は震えた声で言う。
「私もだ!なんで左腕だけ水平なんだよ!
絶対おかしいだろ!」
麟は淡々と観察する。
「うん。これは“姿の模倣型の異変”だね。
僕らの姿をコピーしてるけど、細部が不自然。
この世界、音の次は“見た目”を模倣してきたみたいだ」
霊夢は即決した。
「戻るわよ。これは完全に異変だわ」
魔理沙は全力でうなずく。
「賛成!満場一致!」
◆
三人が引き返すと──
影は、まるで霧が晴れるようにゆっくり消えていった。
魔理沙は肩を落とす。
「消えるなよ……余計怖いんだよ……
なんでゆっくり消えるんだよ……!」
霊夢は深く息を吐く。
「でも、異変は見逃さなかったわ。
これで次は7番出口ね」
麟は淡々と付け加える。
「この世界、模倣の精度が低いのが逆に怖いね。
“似てるけど違う”っていうのは、人間の本能に刺さる不気味さだよ」
魔理沙は叫ぶ。
「刺さってるよ!めちゃくちゃ刺さってるよ!!
もう帰りたいんだが!!」
霊夢は歩きながら言う。
「次は……もっと強い異変が来るかもしれないわね」
麟は静かに言う。
「うん。次は“動きの異変”が来ると思う。
段階的に強くしてくるから」
魔理沙が叫ぶ。
「やめろって言ってるだろ!!」
三人は、静かな通路を再び歩き始めた。