通路は、6番出口を越えたあたりから“空気の流れ”が変わった。
風はないはずなのに、どこか“動いている気配”がある。
蛍光灯の光は均一で、影はほとんど生まれない。
しかし──その均一さの中に、わずかな“揺らぎ”が混じっていた。
魔理沙が小声で言う。
「なぁ霊夢……なんか、空気が動いてないか?
風なんてないはずなのに、服がちょっと揺れるんだが……」
霊夢は歩きながら周囲を見渡す。
「確かに……空気の流れが変わってるわね。
この世界、視覚の次は“動き”をいじってきたみたい」
麟は淡々と分析する。
「うん。段階的に異変を強くしてくるのは予想通りだよ。
次は“動作の異変”が来ると思う。
人型が動くか、構造物が動くか……どちらにしても、動きに違和感が出るはず」
魔理沙は肩をすくめる。
「お前の予想、当たるから怖いんだよ……
頼むから今回は外れてくれ……」
霊夢は苦笑しながら言う。
「期待しない方がいいわよ。ここ、普通じゃないもの」
◆
三人が歩いていると──
通路の奥に、誰かが歩いているのが見えた。
霊夢が立ち止まる。
「……また誰かいるわね」
魔理沙は目を凝らす。
「いや……あれ……普通に歩いてるように見えるけど……
なんか……歩き方が変じゃないか?」
麟は静かに言う。
「うん。歩幅が一定じゃない。
右足は普通だけど、左足だけ“半歩分短い”。
しかも、腕の振りが左右で違っているね」
通路の奥には──
確かに“人型の影”が歩いていた。
しかし、その歩き方が不自然だった。
右足は普通に前へ出るのに、左足は半歩しか進まない。
そのため、身体がわずかに左右へ揺れている。
腕の振りもおかしい。
右腕は前後に自然に振れているのに、左腕は“後ろへだけ”振れている。
霊夢は眉をひそめる。
「……あれ、普通の歩き方じゃないわね」
魔理沙は震えた声で言う。
「いやいやいや!なんで左足だけ半歩分短いんだよ!
絶対おかしいだろ!」
麟は淡々と観察する。
「うん。これは“動作の模倣型の異変”だね。
人間の歩き方をコピーしてるけど、細部が不自然。
この世界、音→姿→動きと順番に異変を強くしてきてる」
霊夢は即決した。
「戻るわよ。これは完全に異変だわ」
魔理沙は全力でうなずく。
「賛成!満場一致!」
◆
三人が引き返すと──
影は、歩いたまま、まるで空気に溶けるように消えていった。
魔理沙は肩を落とす。
「消えるなよ……余計怖いんだよ……
なんで歩いたまま消えるんだよ……!」
霊夢は深く息を吐く。
「でも、異変は見逃さなかったわ。
これで次は8番出口ね」
麟は淡々と付け加える。
「この世界、動きの異変を出してくるのは予想通りだったけど……
“歩き方のズレ”を使うのは、かなり不気味だね。
人間は、歩き方の違和感に敏感だから」
魔理沙は叫ぶ。
「敏感だよ!めちゃくちゃ敏感だよ!!
もう帰りたいんだが!!」
霊夢は歩きながら言う。
「次は……最後の出口ね。
ここまで来たら、もう引き返せないわ」
麟は静かに言う。
「うん。最後は“出口そのものの異変”が来ると思う。
でも、異変を見逃さなければ大丈夫だよ」
魔理沙が叫ぶ。
「やめろって言ってるだろ!!」
三人は、静かな通路を再び歩き始めた。