明らかにボロアパートで暮らす獣人彼女はキメているのに「これはタバコ!これはビタミン剤!」とか言い訳しているのだが? 作:SUN'S
大谷おう也。
彼はにゃがみ原市に存在する二階建ての獣人アパートを経営する45歳(独身。
真面目な好青年であり、好きな女性に一途な彼誰の事を信頼し、よくお互いのフェチズムについて語り合い、兎に角、この世から
「あ、おはようッス。大家さん」
「おお、おはよう。ヤクねこ」
彼誰と同棲して以降、ほんの少しずつではあるけれど。かくじつに違法薬物の使用頻度の減り、健康的な私生活を送るようになってきたヤクねこの顔色の良さに、大家は不覚にも涙を流しそうになる。
いや、実際に大家は泣いた。
彼女の祖父の一回忌。その際、彼誰も同行して結婚の権利をもぎ取ってきた時は思わず、大勝利の咆哮を上げ、彼とハイタッチを交わす程に喜んだものだ。
「っしょ。あ、掃き掃除手伝うスよ!」
「お、そうか?」
「ッス。自分も早くアルバイト見つけて、彼ピの負担を減らしたいんです。彼ピのおかげで、ちょっとずつスけど。自分、変われてると思うんです!」
「そうか。良かったな、ヤクねこ。(馬鹿野郎、ヤクねこ、彼誰君だけじゃない。お前も変わろうと努力しているからこそ、彼もヤクに応えようと真摯に付き合っているんだ)……じゃあ、花壇の手入れ頼めるか?」
「はいッス!」
軍手と麦わら帽子を身に付け、キャベツ畑の手入れを始めるヤクねこの後ろ姿を見る。やはり、前に比べて肉付きの良くなったヤクねこを見る。
「(違う!?俺は純粋にヤクねこの幸せを願っていたはずだ!ぐおおぉおおおおっ!!?顕現しようとしているのか、邪竜よ!?)」
「大家さん、どうしたんス……ひっ、ひいぃいっ!!?」
ギュウゥンッ!!と伸びるソレに悲鳴を上げたヤクねこの真横を突き抜け、コンクリートブロックを粉砕して突き進む邪竜にヤクねこは恐れ戦き、アルバイトに向かった彼ピのいない自分の部屋へと駆け出していった。
「違うんだああああああっ!!!」
そんな大家の悲痛めいた叫びは木霊し、鍵の閉まる音だけが駐車場に悲しく響き渡った。ただ、ちょっと興奮してしまっただけなのに。
「にゃ?邪竜にゃ」
「ヤニねこか!?」
「ペッ。邪魔にゃ」
ヤニねこは平然と邪竜を飛び越えて、吸い終わったタバコを駐車場に投げ捨てて、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。
大家の思いは、また空振りに終わった。