一日に配られる水や血肉の量が、一つから二つに増えた。
だからといって、私の吸う量が増えることはなかったが、怒声や投石の音だけがよく響く
「ルマは何歳?」
檻の中からは見えなくなるほど高く太陽が登って、
木橋の上から、子供も大人も、見張りの人もいなくなった時。
アナは口を開いた。
「歳……?」
「あ……えーーと……!」
アナは表現に悩んでいた。
なにせ、ルマはなんだか少し大人びた雰囲気をしている癖に、何にも知らないのだ。
質問をして、その質問の言葉の意味を言い換える。
その行いは、昨日と今日で何回目になるだろう。
アナは少しばかりの呆れの中、やっとの思いで適した言葉を見つけた。
「そう、あれ!
生まれてから何回、季節が入れ替わ──じゃなくて、雪が降った?」
ルマが思い出すかのように視線を動かすと、意外にもあっさりと答えが返った。
(冬のことか……な?)
「……七回……くらい? もう覚えてないから……」
「ふーん……」
返答を聞くと、アナは立ち上がったまま指先で顎を軽く突いて、ルマをじっと見た。
彼女は膝を抱えて座ったまま微動だにしない。
「まぁ、見た感じは私と同じくらいね……
じゃあ、あなたも11歳ってことで!」
「うん……」
ルマは足を抱くと、頬を膝に乗せた。
もう、静かにしてほしかった。
◇ ◇ ◇
「ルマはいつからここにいるの?」
「……なんで?」
「いや、ほら。さっき何歳か聞いたでしょう?
だから、何歳くらいに捕まったのかな〜……って」
「知らない。
覚えている範囲では、ずっと
「……へぇ〜
じゃあ、知らないことがいっぱいってことだ」
「花って知ってる?」
「……それくらいは知ってるよ」
◇ ◇ ◇
「ルマは退屈じゃないの?」
「ねぇ、ルマは魔法って見たことある?」
「ルマはあの配給の人のこと、どう思ってるの?
私はキライ。」
「ねぇ、ルマ──」
「なんで、そんなに話しかけてくるの?」
至って普通にルマが言った。
それに滞りなど全く無い。
しかし、その至って普通であるはずの疑問、その声がアナの鼓膜に酷く残響した。
「え。いや、その別に……」
その時、アナの目線が初めてルマから離れた。
「ルマが全然喋らないから……」
「……。」
「あ。それと、静かなままで居ても気が滅入るでしょ?」
「そう……」
◇ ◇ ◇
その後も、彼女は話しかけてきた。
石が投げられている間も、しつこく言葉を口にした。
なぜ、そんなに気になることを見つけられるのか。
何処から、そんな活力が湧いているのか。
どうして、そんなに落ち着きが無いのか。
私にはわからなかった。
「なんで私たちには羽が生えたままなん──」
「もうそろそろ静かにした方がいい。
夜に騒ぐと怒られるから」
「あぁ。うん……」
アナの口数が減ったのは、それからである。
◇ ◇ ◇
ドサドサッと音がした。
毎日の配給で、血肉を穴から放り込まれる時に鳴る“いつもの音”。
それが二つ。
荒々しい音を鳴らしながら、投入口が閉じた。
「ほら。今日の」
「あぁ…… うん…………」
それまで、昼間の頃の賑やかさが嘘だったかのように、アナは黙っていた。
今、石が投げ込まれれば大きく響くだろう。
それくらい檻は静かだった。
二人とも、歯を突き立てた。
血肉に向かって、突き刺し。吸う。
ここに一切の感情は要らないはずである。
しかし、アナは体を小刻みに震わせながら、血を吸っていた。
ただ、黙って。怯えるように。
この瞬間だけは、誰も何も喋ることはない。
彼女らは僅かに、いやもしくはそれ以上に「自らが、悪魔であること」を知っていた。
集落の人々よりも、はるかに。
それを表す言葉を知らずとも、体はそれを正しく表してくれる。
どんな吸血コウモリも、この時は静かに吸うのだ。
静かに。
そうして、血を吸い終わった後はこう言うのだ。
「ご馳走様でした……」
と。
彼らは何処まで行っても悪魔で居てくれた。