ルマ'カールマダー   作:厨二坊

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第六話「千石取れば」

 無機質な石の牢。

 

 滑らかで、何度も石に叩きつけられた筈なのに、少しの跡しかない硬い床。

 肌理(キメ)が粗く、地肌で擦れば少し痛い壁。

 決して、人が通れないであろう広さの投入口。

 投入口の下にある水たまり。

 その正反対にある便所。

 全てを塞ぎ込む、石造の格子。

 その先にあるのは、()()と二つの木橋だけ。

 

 こんなところにやって来る異物は、

 いくつかの石と、血肉と、それと……

 

 ──分かった。ルマ、脱出しよう!

 

 

 ……。

 ここから出ようなんて、考えたこともなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ど、どう! 行けそう!?」

 

 太陽が頂に登り始め、人々が軒並み日陰に隠れ切った頃。

 アナは石格子の間に、腕を通して、限界まで肩を自らで押し込んでいた。

 そのまま、勢いよく振り返って、言った。

 

 

「無理。」

 

「無理かぁ……」

 

 

 無理だとよく分かっているのはアナの筈なのに、名残惜しそうに格子のあたりを見ている。

 

「……。」

 

 

 

「……。あれ…… ちょっと待って……」

 

 先ほどとは打って変わって、

 恐る恐る、ゆっくり……振り返った。

 

 

「抜けない……!」

 

 

 ルマは、差し出された手を差し置いて、檻に近いアナの肩を掴んだ。

 結構雑に……

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 抜けた。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 アナは口から大きな息を吐くと、地面に座り込んだ。

 先ほど強引に引っこ抜いたのが、よほど痛かったのか、腕を(さす)りながら。

 

 

「やっぱり、一本外さないとなぁ……」

 

 そう言うと、顔を傾けながら斜め下を見た。

 

 

「あそこから出られたら楽なのに……」

 

 アナは、投入口、その下の石扉あたりを指し示す。

 ルマもそちらの方を見たが、あっと言う間に視線はアナに戻った。

 

「扉は二人で押しても開かないし、

 投入口から出ようにも、危ない姿勢で嵌って、人に見つかったら終わり……

 って、言ったのはアナだ」

 

「いや、そうだけどさ……」

 

 アナは俯いて、呟いた。

 

「でも、こんな格子どうやって外せばいいのさ……」

 

 

 ルマは、壁にぴたりと体を付け、立ったまま聞き流した。

 

 彼女(ルマ)は、言葉を口にすることが無かった。

 今まで通り、聞けば返ってくるし、口数が減ったわけではない。

 でも、増えた……わ……けでもない。

 

──できるだけの協力はするよ

 

 ルマの言った()()()()()に、少しばかりの引っ掛かりを抱えながら、アナはルマのほうに体を向けた。

 

 

「ルマ……、その跡っていうか、デコボコは何?」

 

 

 アナが示したのは、ルマではなく、その後ろ。

 ただの石の壁である。

 

 壁にはいくつかの凹みが出来ていた。

 規則的でもない、普通にこの檻が作られた時に生じたとも言える雑な凹凸。

 しかし、その壁は左右の壁と比べると明らかに極端に凹みがある……ような気がする……

 そんなことをアナは考えた。

 

 しばらくすると返答が返ってきた。

 

 

「多分……石……。」

 

「石?」

 

「石が当たって、削れた」

 

 

「へぇ……

 じゃあ、柱も削れたりするんじゃない?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 予想は間違っていた。

 が、無駄だと言えるほどのものでも無かった。

 

 

 日が暮れて、配給が行われた後。

 昼下がりに入り込んできたいくつかの石で、ルマとアナは試しに柱に石を擦り付けた。

 跡がついたのかもわからない。

 

 叩きつけると、明らかに一つの凹みが生じた。

 明らかにと言っても、先程と比べた時の話である。

 それでも「変化がすこーし分かる」というのは確かで、

 多少、大きな音が鳴るものの、続けていればいずれは外れるかもしれない。

 

 と、仄かな希望がアナに灯った。

 

 

 ゴッッ

 ガッッッッ

 

 

「やっぱり……」

 

 試しに、壁に叩きつけてみた。

 やはり、柱に叩きつけた時よりも遥かに凹んでいる。

 

「硬さが違う。」

 

「でも何で……?」

 

「……そういうふうに作られてるから……?」

 

 

 この事について、しばらくルマとアナは話し合ったが、

 暫定的な結論は出なかった。

 

 

「で、どうする?」

 

「…………どうするって?」

 

「柱を削って外すか、壁を掘って出口にするのか」

 

「どう考えても、柱を削るしかない。

 時間をかけて穴を空けても、すぐに通れるようにはならない。見つかったら終わり。

 下手な姿勢で体を入れても、こんな高いところから落ちたらひとたまりも無い。

 だから壁は無理。」

 

「じゃあ、柱か……」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その日から、夜か昼に石を叩きつける音が鳴り響くようになった。

 なるべく目立たせないように、音を殺して、紛れさせて。

 それでも、音はなってしまうので、

 注意する配給の人には石を投げて遊んでいることを偽った。

 当然怒られたが、

 脱出がバレるよりはマシだ、と。

 いつものように血を吸い、便所のあたりに石を隠し、

 人が居なくなっては、柱の上方に向かって石を叩き続けた。

 

 

 そうしている間に、冬が来た。

 そして、去った。

 檻の中から見える雪が溶け切ったころ、檻の柱の一部が、外れた。

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