ルマ'カールマダー   作:厨二坊

8 / 10
第七話「バットストライク」

 何で、たった二人の子供の力で、こんなあっさりと柱が削れ、外れたのか……とか。

 今まで、最低でも十年くらい石を投げ続けられていた筈なのに、今まで柱が外れるほど削れていなかったのか……とか。

 

 もうそんなことはどうでもよかった。

 

 柱に、気休め程度の水をかけて、石を叩きつける。

 まずは上からだった。

 上をギリギリまで削って、色の合う石を適当に嵌め込む。

 

 そのまま次は下、

 先程と同じく、ギリギリまで削る。

 

 昼に外れたら、まだ人がいるかもしれない。

 夜に外れても、見張りがいるかもしれない。

 どう考えても夜に外した方が人が少ないんじゃ無いのか。と言うことで、

 下側は、夜の時間だけで、とても慎重に削り続けた。

 

 人が来る時間になったら手頃な石を嵌め込む。

 人が居なくなったら、外して掘る。

 

 そんな小さな積み重ねが、今、やっと。

 柱を壊したのだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 深夜。

 雨が降っていた。

 冬の頃の静かさとは打って変わって、雨が断続的な小さな音を鳴らし、石音も掠れて消えて行く……

 そんな中、一際大きな音が鳴った。

 

 ゴッでもガッでもない、言い表せない音。

 そんな響きを機に、歪な亀裂が走ると、

 柱は檻の中に、とてもゆっくり打ち倒れた。

 

 カラカラカラ………

 

 柱の上に嵌めていた、いくつかの石が転がった。

 私もアナも、二人揃ってそれを見つめていた。

 

 何も発さず。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アナが檻の外に向かって、石を投げ捨てた。

 石が転がるところは見えなかったが、それでも落ちて行った。

 

「出よう」

 

 

 檻の端で、柱を掴んで身を乗り出しながら。

 アナはそう言った。

 

 返答は無い。

 

「飛び方は分かる?」

 

「いや、全然……」

 

 ルマは畳んでいた羽を、少し振るわせながら答えた。

 アナが少し考える素振りを見せる。

 

「じゃあ、見てて!」

 

 一際、大きな声が耳を通る時には、

 アナは檻の外に駆け抜けて、飛び込んでいた。

 

 足をピンと張って、少し脚を開いて、

 手を真横に広げ、その後ろには飛膜が忙しなく、それでいて規則的に動いている。

 

 私はそれを、柱の間から覗いていた。

 

 

「──ごめん! ルマ! 先に行く!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 コウモリの亜人のみならず、

 この世界において、一般的に備わっているはずの四肢とは別で、

 羽毛翼、飛膜翼などの「翼」または「羽」を持っている生物は決して長く飛行できない。

(※翅は例外)

 

 それが、軽量であるはずの「子供」であっても、羽が成熟するのは随分と後になる。

 

 羽の制御が未熟、対して力も持っていないまま空に放り出されても、

 20回ほど羽ばたいて、

 滑空して、安全な着地をするために、余力を残すので精一杯だろう。

 

 ましてや、対して栄養も取れていなく、不定期に雨に打たれて集中も続かない。

 なおかつ、暫く飛んですらいない。

 そんな状況なら、消耗も激しく、回数も落ちる。

 

 アナは想像しているよりもはるかに、飛び方を忘れていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「──羽を広げて、体を真っ直ぐに止める!

 絶対見つけるから!」

 

 アナが二回、三回と大きく翼を羽ばたかせると、

 勢いを増しながら、一直線に檻から見える、建物の奥の、奥に向かって消えて行った。

 

 

 檻には、再びルマ一人が取り残された。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 柱に手を添えて、柱の間に身を乗り出した。

 檻の中に散乱する石を差し置いて。

 

 頭、胴体、腕、脚。

 体のあらゆるところで、雨粒が弾ける。

 肌が酷く冷えこんでいくのが分かる。

 

 空が今までに無いほど暗い。

 黒くて、それでいて霞んでいる。

 

 石を投げる木橋にも、あたりにも人はいない。

 木橋の先は岩肌に隠れて見えないが、

 あたりは全てが灰色だ。

 

 下は──

 

 下は………………???

 

 

 体が、今までに無いくらい震えている。

 

 添えていた手は、

 いつのまにか、手が白くなるほど柱を強く掴んでいた。

 

 全身を伝う水の感覚が、とても鮮明で、

 そして何より──

 

 気持ち悪い。

 胴体の真ん中あたりに、どうしようもない息苦しさが充満している。

 耳の中に音が籠って、さらに反響した。

 雨の音が全く聞こえない。

 掻き消えない。

 何もかも。

 

 気づけば、柱に縋り付いて、胸の辺りを掻いていた。

 目の前の灰色が、段々と黒さで埋め尽くされる。

 

 

 羽はピクリとも動かない。

 手すら、足すら動かない。

 

 ──なぜ?

 

 あぁ、胸の辺りが苦しい。

 

 ──なぜ???

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

「……………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、雨が止んでいた。

 檻の中には、再び静寂が戻った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 早朝。

 設けられた檻のうち一つにて、

 柱が“老朽”あるいは故意的に破損しているのが見張りの一人によって発見された。

 

 捕えられているはずの二人のうち、一人が脱走。

 破損している柱の隙間から脱走したものと見られる。

 

 

 以後、脱出防止や、檻の拘束力の観点から以下の三つが決定した。

 

1.捕えた悪魔には、初めに羽を根本から切断し、生の魔法を使って傷口までの再生・消毒を行うこと。

(現在捕えられている悪魔に関しても同様)

2.檻に扱う素材に関しての改修工事。

3.悪魔に対する教育の徹底。

 

 以上。

現時点で、あなたはルマの今後についてどうなってほしいと思いますか?

  • 自力で何とかして欲しい
  • 外部からの介入で、物語が動いてほしい
  • 何もせずに生贄になって欲しい
  • どうでもいいから、物語の続きを書いてくれ
  • 知るかよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。