ルマ'カールマダー   作:厨二坊

9 / 10
 間話「アナ'カールマダー」

 悪魔が捕えられた。

 檻の中の悪魔は羽を失った。

 それぞれから、一人ずつ生贄が選出された。

 儀式は二ヶ月で順に執り行われる予定である。

 

 以上。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 悪魔が捕えられる少し前。

 アナは下の、できるだけ上に位置する高台に居た。

 朝でも夜でも、子供から大人まで様々な人が集まる。

 いや、今では……そういうのも過去になった。

 ただの展望台である。

 

 彼女はそこにいた。

 退屈そうに、足を前にぶら下げて、手いじりしながら。

 空を、上を見上げていた。

 

 彼女は待っていた。

 待ち続けていた。

 

 日が暮れるまで待っていた。

 人が来るまで待っていた。

 

 ルマを。

 

 

 足を揺らすたび、考えた。

 

 ルマなら来るはずだと。

 頭だってよかった。

 私が考えてないことだって、いつもたくさん考えて、いつも……

 いつも、先に動いて、隠したり、覚えてて……

 それで…………

 

 ──それでも、運動が上手だった……?

 

 

 

 

 ……。

 

 今からでも、戻るべきだろうか。

 檻に。

 

 いや、

 今すぐにでも戻るべきなんだ。

 檻に。

 

 

 頭ではわかっている筈なのに、体は動かなかった。

 檻のことを、

 いつまで経っても来ないルマのことを考えると、

 体がすくんで、縮こまる。

 

 

 ルマはきっと来るはずだ。

 

 そうやってずっと考えて、ルマを待ち続けた。

 

 

 気づけば、道端に転がっているいくつかの人が、大きな影を落としていた。

 複数の子供が、展望台の下で騒ぎを上げていた。

 

 

 そうして、展望台から一つの影が消えた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アナは結局、檻には向かわなかった。

 檻を忘れて、忘れようとして、真っ先に向かったのは一つの廃墟だった。

 下にしては、随分と治安の良い地帯。

 その端に位置する石造の薄暗い家。

 

 アナの住んでいた家である。

 

 

 扉を開けた。

 

「…………。」

 

 扉を閉めた。

 

 

 何も残ってはいなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「……おい……! アナか……?」

 

 道端で、声がした。

 扉の中からなんかじゃない。

 後ろからだ。

 

 見てみると、見覚えのある男だった。

 

「そうだよな、アナだよな!

 今までどこで何してた!?」

 

「え。いや。何も……」

 

 男の顔じゃなくて、体と地面ばかりが見えた。

 手元には、いつものように配ってくれるはずの飯は無い。

 

「“何も”ってことはないだろ!

 捕まってたって聞い──」

 

「お父さんと、お母さん。

 どこに行ったの?」

 

 

「は? いや、お前の──」

 

「居なかったよ。」

 

 

「………。分かったよ。

 とりあえず飯でも食えよ。な?」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 家に男女が一人ずつと、一人の子供はいた。

 それでも私の両親は居なかった。

 

 

「──なぁ、少しは食えよ。

 何があったかは知らない。

 でも、こっちだって少しくらいはな……」

 

「いい。」

 

 深いため息が聞こえた。

 息が地に落ちる間もなく、続けた。

 

「要らない。」

 

 男は片手で口元を覆って、目を閉じると、大袈裟に前に傾いた。

 何を喋っているのか、音が篭って聞こえない。

 

「お前が居なくなったあの日、何──

 あ、おい! 待てよ!」

 

 

 うるさい。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 彼女は再び高台に戻った。

 

 どうするべきか。

 そういう思考をすっ飛ばして、そこに立っていた。

 

 羽の余力は無かった。

 

 飛んだ。

 

 高台の端からトン、と。

 やけに軽い足取りで、彼女はここを飛び立った。

 

 

 上に戻ろうと思った。

 上に行こうと思った。

 

 お父さんとお母さんがいるかもしれないから。

 だから羽を振った。

 

 振って、振り払って、

 何もかも忘れて笑った。

 

 

 風の気持ちよさに溺れていたら、檻の近くにいた。

 瞬きしたらそこにいた。

 

 その間、何も考えていたかすら曖昧なんだ。

 

 

 随分と、羽を持つ人々がたくさんいる。

 木橋か、見張り台だったか。

 

 私はそこに向かって、落っこちて、力尽きた。

 随分と痛かった。

 その先は覚えてない。

 

 

 ハハハ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アナは生贄になった。

 本来なら、ルマが生贄として捧げられる日だった。

 ルマが生贄になるはずの日だった。

 

 檻から抜け出した悪魔と同じ檻に入っていたコウモリ。

 死地で、魔物に貪られるのは、他でもないルマになるはずだった。

 

 でも、アナになった。

 

 結局、ルマが生贄になることは変わらなかったが、延長された。

 先に処分しておくべきなのは、「出なかった悪魔」ではなく「出た悪魔」だった。

 と言っても「出たが、帰ってきた悪魔」だったか。

 まぁ、いい。

 

 アナは、三日にわたる華華しい儀式とやらを経て、

 死地の奥の、奥の台座に置かれた。

 

 次の日には、跡形もなくなってた。

 魔物が食った。

 血まで残さずペロペロと。

 

 いくつか飾られていた花束も。

 何もかも消えていた。

 

 

 そうして、アナは本当の家に帰った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 何もかもが消えている……。

 

 それを見た者も。

 聞いた者も。

 そこでやっと胸を撫で下ろす。

 

 何でだろうね。

 

 

 ……。

 

 ……え?

 撫で下ろしていなかった?

 

 なら、そいつも悪魔だな。

 捕えて連れてこい。

 

 本当に悪魔だったら、儲けものだな。

 贄にしよう。

 

 

 ……何で殺さないのか……って?

 

 はは、いや。

 当たり前だろ。

 

 人を自分の手で殺したい奴がいるか?

現時点で、あなたはルマの今後についてどうなってほしいと思いますか?

  • 自力で何とかして欲しい
  • 外部からの介入で、物語が動いてほしい
  • 何もせずに生贄になって欲しい
  • どうでもいいから、物語の続きを書いてくれ
  • 知るかよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。