酒寄一家の女子中学生養育記   作:鹿子ゆ〜い

11 / 11
11:月見ヤチヨと七村陽香

「あの子達、40歳も近いのに深夜に起きたからって朝までずっと起きていられるの凄いよね。FUSHI」

「昼夜逆転待ったなしだな。義体の小娘(かぐや)は置いといて、ROKA(芦花)とテテテのデイサイクルアプリに注意喚起の通知出しとくぞ」

「お願い。これからって時に夕方起きはまずいもんね」

 実は私、月見ヤチヨは、健康管理アプリの運営とアプリユーザー監視にも一枚噛んでいる。さらにヤッチョGPTのチャットで危険な兆候のプロンプトが確認されたらユーザーの所属する団体の医務課などに連絡、その上でスマコンにデフォルトで搭載されてる生体異常監視システム、異常時の強制ログアウトから救急車呼び出し機能まで抜けのない優れものなんかも用意してるので、少なくとも数億ものツクヨミユーザーの中からツクヨミが原因で出た死者や重症者がただの一人も居ないのは、私が自慢できる数少ない功績だ。

 

 

 ただの一人の月人が、なぜそこまでして人間の、数多(あまた)の他者の命を守るのか。もはや執念とまで言って良い。

 何故なら、永遠に生き続けていられる月人にとって、死は未知そのものだから。もちろん人間にとっても死ぬまで死は未知だ。他人の死を見て知った気になってるだけ。だけど人間はいつかは死を迎える。例外は無い。その点において、朽ちて腐敗し生体が崩壊し切るその一瞬が存在する限り、全ての生き物にとって死は未知になり得ない。エントロピー増大(無秩序への崩壊)ってやつかな? ミリしら。

 要は月人たる私にとっての未知が、私の目の前でこれ以上起こってほしくないだけのただのわがまま。駄々こねである。私自身が“一瞬”を希求して二度も地球に堕ちてきたのに、その一瞬を強制されてる人間達には最期の一瞬の訪れを赦さずに出来るだけ遠ざける。ダブスタにも程がある。これ以上の規模のダブスタがあったら教えて欲しいよ。

 

 

 そういえば、私のエントロピーって果たしてちゃんと増大してるのかな? つまり、“あのタケノコ”は自然の摂理に従ってちゃんと崩壊してくれるのかな? 私(ヤチヨ)の本当の身体でもある“もと光る竹”は、地球に墜落してから8000年経っても全く同じ姿を保っている。これを一切不変と取るか、数万年単位で限りなく低速で崩壊してると取るか。開発者の私(かぐや)には知る由(よし)もない。第一そんなつもりで作ってねぇし。すぐに彩葉に会えるつもりで“もと光る竹”造ったのに。またテキトーな電柱に突っ込んで、あたしの身体を電柱に宿してそのまま消えるはずだったタケノコ。

 まさか地球が崩壊してもアレだけ永久に残り続けるとかないよねぇと、無い身震いをする。その時はタケノコの中のツクヨミに、全人類を月人と同じ思念体にしてぶっ込んじゃおう。それで方舟になって永遠に宇宙を彷徨うの。星の中に入っちゃったり、隕石にぶつかっちゃったりして。それで100%の確率でブラックホールに吸い込まれて、全生物に永久の暗闇に包まれた安寧を過ごし続けてもらうの。私は地球の生き物みんなが大好きだから。誰一体(たれいったい)も、見捨てないから。

 

 

「ブラックホールの中でだってオマエの妄想癖は永久に治らんだろうな」

「全部FUSHIに見られてるの恥ずかしいよほんと」

「オマエだってツクヨミユーザーの思考ほぼ全員分見てるだろ。ツクヨミ創造主とかいう特権持ち一人だけ逃がれられると思うな」

「容赦無さ過ぎだよFUSHI〜」

「しかもオマエと直で絡むユーザー、特に酒寄家周りのユーザーの思考を何故か頑なに見ようとしないしな。特定ユーザーへの贔屓(ひいき)がキツいぞ?」

「あったり前じゃないの。かぐやの、私の現実生活でのユーザー体験の質が超低下しちゃう。知人が何思ってるかなんて私の人生の超特大ネタバレ踏みたくない!」

「結局我が身可愛さか」

「ヤチヨはツクヨミの管理人なのです! ツクヨミにおいて全てのヤチヨは基本的に自由!」

「……それよか良いのか? 酒寄家の諸々は」

「彩葉スマホのミニヤッチョ、やっと議録まとめ終わったって。体裁(テーサイ)も整えていつでも提出可能」

「そいつなら目にクマを湛(たた)えてそこに居るぞ。とっとと承認してやれ」

「言われなくても! お願いね」

 そう言ってあげると彩葉のミニヤッチョは私の手を引っ張って、ど、どこ連れてくの??

 

 

 彩葉のミニヤッチョに連れてかれた先は酒寄家のテレビの中。内蔵カメラから外を見ると、彩葉とかぐやと陽香ちゃん、どうやら朝ごはん中みたい。どうやらというか、実はかぐやの五感は同時に私(ヤチヨ)も感じられるため、炊きたてコシヒカリが口に入ってたことは、ブラックホールがどうこう考えてた時も判(わか)ってた。美味(うま)かった。こっそりと聞き耳を立てる。

「実は昨日から陽香ちゃん春休みだったの知っててやったんだ。あの会議」

「それは……どういう?」

「春休みだったら毎日自由にここに通ってもなんの問題もないでしょ? 最悪引き離されても春休み分だけ猶予ができるじゃん?」

 確かに。

「確かに! 彩葉凄っ!」

 かぐやが私とおんなじこと思ってた。かぐやはヤチヨ(私)だし。

 

 

「で、キミは私に何をして欲しいの?」

 私は彩葉のスマホのミニヤッチョに尋ねてみる。

 前までこんなこと聞かないでも私の指示をそのまま遂行させるだけでツクヨミが廻ってたけど、とあるミニヤッチョが、まぁ流石というべきか彩葉の昔のミニヤッチョなんだけど、その子が現実世界で奇跡的に身体を得ちゃったおかげで自我を獲得しちゃって、その影響がツクヨミ中の全ミニヤッチョに徐々に浸透して、私の手を離れて自立進化しちゃった。本当に意味不明。なんなの。

 おかげでめっちゃめんどくさい。意思疎通。たまに指示も聞かない怠け者が出てくるけど、もう放置してるよ。そういう子もサボってるつもりで結局ツクヨミユーザー達にマスコットとして可愛がられる働きをしてるけどね。このツクヨミに、二割の怠けアリは存在しないの。

「ヤチヨ、よーかちゃん、つなげる。して」

「そうだね、いつかはしなきゃね。でも彩葉は隠したがってるんだよねぇ。ごみんね」

「やだ」

 そうくるかぁ。「やだ」かぁ。反発する子への対処法が未だに分からない。いつもはとりあえずなぁなぁにしてるけど、事案が事案だからなぁ……なぁなぁに出来ない。とりあえず彩葉にDMでメッセージを送ろ。

 

 

『えと、彩葉? ヤチヨは別にこんなこと思ってないんだけど、彩葉のスマホのミニヤッチョがね、ヤチヨと陽香ちゃんを本格的に引き合わせたいって、ダメ?』

「鮮やかな責任転嫁だな」

「FUSHIは文句垂れてて」

『えー、というか、この間ここ来てたじゃん。ヤチヨ』

『あれはその子の独断なのです……私は事後報告されただけなのです……』

『は?! なんだそれ?? え、そういうこと?? ヤチヨ本人のアバターだったよ?? 白昼堂々なりすましかよ! ミニヤッチョ……リスクやばない?』

「ゆーがただったけどね」

「人の揚げ足取るミニヤッチョー。新解釈の登場だぁー。ミニヤッチョ道は深いー」

「焦りを隠せてない彩葉がオマエの返事待ってるぞ。早く返信してやれ」

『ミニヤッチョは元からヤチヨだからある程度は安全なはず。私の想像してないことは出来ない』

「そのオマエの想像してることが誰も想像できてないんだけどな」

「言わないでFUSHI」

『てかあの時FUSHIも一緒に居たよね? FUSHI? 申し開きは?』

『彩葉誤解だ! ボクはアイツを監督してただけだ! 危なっかしいから!』

『どうしよっかなぁ……これ。ヤチヨ本人はさ、ちゃんと陽香ちゃんに挨拶したい?』

 

 

『かぐやはヤチヨだからさ、陽香ちゃんをネットやツクヨミに繋げたくないってのはちゃんと思ってるんだよ。でもヤチヨとして、酒寄家4人目の家族として自己紹介したかったっていう、このミニヤッチョの気持ちもわかるの』

 そんな文章を彩葉の元へ出力し終わって、ふと陽香ちゃんを見やる。この子は近いうちに気づく。かぐや=ヤチヨに。確かに種はばら撒かれているのだ。そして陽香ちゃんはそれをちゃんと拾える子だ。私自身それをバラしたいのか隠したいのかわからない。

 そしてこの問題はそのままかぐやが義体であることを陽香ちゃんに伝えるか否か問題と接続する。複雑すぎるよ因果が! 一つずつ紐解いていかなきゃ……ぁああ?! ミニヤッ……あん……だぁ、どうしよ。

「ヤオヨロ〜陽香ちゃん! そのご飯、南魚沼の最高級コシヒカリなんだよ!」

 コイツ、テレビの画面勝手につけてニッコニコで映り込んでっ……!

「待っ、ヤチヨ!」

『私じゃないって!! これ! これ! 私の言ってた、ミニヤッチョの独断!』

「全然味違うでしょ! 高級ホテルの釜に入ったご飯ってみんなこの味なんだよ! ヤッチョ大好き!」

「にしたってなんの話してんだよマジで」

 かぐやほんとそれな。

 

 

 まぁ幸いなのはこのミニヤッチョ個体のテンションが高すぎて、陽香ちゃんにとってヤチヨはテンションが高いヤツって認識だろうから、かぐやが時たま見せるアンニュイ系かぐやとミニヤッチョが見せるハイテンションヤチヨが繋がりにくいってことか。ネット上じゃ真逆もいいところ。だからこそ今までのヤチヨのしっとり系お悩み相談とか観られたら即バレしそうな綱渡り。ここは、私がヤチヨ本体として、責任持って替わるべきだ。

「お願い彩葉のミニヤッチョ。私にその大役任させて?」

「なんで?」

「陽香ちゃんとの繋がりを凄く大事に思ってるのはわかったから、そんなに大切ならヤチヨ本人がやっていた方が、良いよね?」

「……しっぱいしたら、ゆるさない」

 たった今月見ヤチヨ本体とミニヤッチョ群の主従関係が崩壊しましたぁ……20年前から無いも同じだったけどさぁ。

 

 

 とりあえず陽香ちゃんに関する今までの資料を引っ張り出して行動指針を組み立てる。いい感じにヤチヨから意識を逸らせるようななんかしらはないか……? 濁せる茶をネットの海から濾(こ)し取る。

「やなの? しられるの」

「嫌じゃない。だけど、今じゃない。まだ早い」

「ふぅん」

 ふぅんってなんなのふぅんって。あんたが始めた物語でしょ。

 さて、どうやら物語が重要っぽいのはテテテの長講義で耳にタコができるほど聞かされたからわかったけど、何がいいかなぁ。アンパンマン・スイミー・ジブリ・ちいかわ。物語のはじめの一歩にふさわしい名作はたくさんあるね。とりあえずテテテもお墨付きのアンパンマンでも見せて茶を濁すとするかな。

「三人とも、今から1時間暇? 陽香ちゃんにアンパンマン観せたい」

「早くない?! もうその段階? 今はまださ」

「かぐや、決めるのは誰?」

「……陽香ちゃん」

 別にヤチヨとしては、陽香ちゃんには物語ならどんどん取り入れてもらった方がいいと思ってる。かぐやもそう思ってたはずだけど、あれ? さらに慎重派になった? まぁ私は茶を濁せるなら物語でも与太話でもなんでもいいんだけど。

 

 

「陽香ちゃんはそもそも知ってる? アンパンマン」

「あんまり……知ってはいるけど」

 あの泣く子も喜ぶアンパンマンで、認知度その程度なんだ……

「どこまで、知ってる?」

「……子どもの時になんか、子ども用の、家で遊ぶ用の、電池で動く何かに、あった」

「電話型遊具とかね。陽香ママンも流石にそこは避けられなかったんだ。草」

「草生やさんでかぐや……じゃぁストーリーはあんま知らないと」

「なんか、黒いの倒すの」

「端的に言えばね。その詳細に物語の大切なモノが……」

「彩葉、御託はいいから早く観よ。陽香ちゃんの初めてに、私のおすすめ贈りたい」

「お父さんと陽香ちゃんで学校に行くのが午後だから……時間は全然余裕だね。オッケー。陽香ちゃんは、嫌じゃ、ない?」

「全然、別に、大丈夫です……」

「何観せたいのさ?」

 陽香ちゃんに物語を進める件に対して、慎重派どころか否定派になりつつあるかぐやがぶっきらぼうに私に問う。昨日の会議のムカムカが消えてないんだね。乱雑に私(自分)にぶつけないでもろて。

「いのちの星のドーリィ。かぐやもこれなら文句言わないでしょ?」

「……むぅぅうう癪(しゃく)に障(さわ)るゥゥ!」

 だってかぐやは私だもん♪ 私が大好きな映画はかぐやも大好きな映画なの。

 

 

 画面の中では学校のみんなが、今回の映画の主人公のドーリィちゃんを囲んでコーラスしてる。

 ────なんのためにうまれて なにをしていきるのか こたえられないなんて そんなのは いやだ! ────

 私は、いや私のこれはめちゃくちゃ拗(こじ)らせてるから一旦無視して、彩葉は、この命題にきちんと誠実に答えられるのだろうか。多分彩葉はこう答える。かぐやのためにうまれて、かぐやのための研究をしていきると。

 自分のために生きるなんて発想が、多分無い。彩葉のママの紅葉さんも、本当に心配していたのはきっとそこなんだろう。だけど親子共々、出力方法を間違えて、高校時代一人暮らし中の彩葉は、母親に認めてもらうために過労死寸前まで生き存(ながら)え続けた。流れ星(たけのこ)かぐやが彩葉のアパートの電柱に落ちてくるまで。

 皮肉なものよ。母親のために生きてた彩葉、その母親が願ってたのは彩葉自身のために生きてほしいだなんてすれ違い。そして彩葉は母親を脇に置いてかぐやのために生きるようになった。かぐやのやりたいことを叶えるのが彩葉のやりたいこと。結局37の歳になるまで他人のために生き続けて、ここまで社会的に成功してしまった。これからも彩葉は陽香ちゃんのために、芦花のために、ヤチヨのために、かぐやのために生き続けるんだろう。彩葉はきっと、根っからアンパンマンワールドの住人なんだと思う。そう決めつけることで、一旦私は彩葉についての理解を諦めた。今は映画鑑賞の時間。

 

 

 さて、陽香ちゃんの様子は、なんだろう。表情が読めない。ちなみにかぐやは初っ端のオープニングからボロ泣き。人形のドーリィちゃんと義体の自分をどうしても重ねてしまうみたいで、裏事情込みでここまでドンピシャの対象層はそうそう居ないといった具合。

 陽香ちゃんは、アンパンマンとドーリィちゃんのどっちに感情移入するだろう。正直どっちでもいいし、どっちにも、でもいい。

「ヤチヨ」

 おぉFUSHI。いつも私の映画鑑賞中には空気読んで黙っててくれるけど、どうしたんだろ。

「物語構造含めて色々簡潔にまとめなきゃなんない子ども向け映画の特性上仕方ないが、初めての物語にしちゃイデオロギー(思想)が強すぎやしないか。もっとこう、他にもなんかあるだろ」

「だってテテテが薦めたんだもん。それにもう選(え)り好みなんて出来ない歳だよ。14歳で初めての物語でしょう? テーマくらい自分で思考できる」

「子どもの思考を過信するな。簡単に一方に染まりうる」

「大人だってそうなるじゃない。人によるし、それに彩葉達がそうはさせない」

「オマエもかぐやとして注釈つけるんだぞ」

「それに今のあの子に刺さるのはきっと、イデオロギー(思想)よりも作中状況へのシンパシー(共感)。ほら」

 

 

 夕暮れの海の上、アンパンマンが自分の顔を他者に分け与えるいつものやつ。映画仕様の特別演出も相まって、こっちは涙なしには観られない。だけど陽香ちゃんは別に泣いても泣かなくてもどっちでもいい。物語の体験そのものが重要なんだから。テテテなら多分そう言う。

「そこまで言っといて結局イタコかオマエは」

「肝心のテテテが寝てててて。グスッ……」

 この場面を観て、一度飢えかけた人とか一度味覚が消えた人はきっと平常心では居られない。かぐやとか、彩葉とか……陽香ちゃんとか。

 

 

 うん。一応画面に向かって前のめりには、なってるんだよねぇ。興味はあるって感じかな。少なくとも無関心ではなさそう。かぐや初対面の時よりかは、成長してるかも。

 もしかしたら、陽香ちゃんにとって物語は感情を揺さぶるものじゃなくて、情報量がたくさんある分析対象ってだけなのかもしれないな。それもそれで楽しみ方ではあるし、泣けと迫るのも絶対違うし、ある意味これでいいのかも?

 泣いてるかぐやと泣いてる彩葉は無言で陽香ちゃんを挟みこみ、陽香ちゃんの両手を繋ぐ。陽香ちゃんは、ふっとかぐやの方を覗き込む。陽香ちゃんは、何を思ってるんだろう。

 この後私までボロ泣きする前に彩葉とかぐやにメッセージを送る。

『感想は求めるものじゃない。自然と湧き起こるのをゆっくり待とう。伝えてくれなくてもそれも選択』

 この2人ならすでにわかってると思うけど、念の為ね。

 そして直後の雷鳴に三人でビビるまでがセットだ。

「ヤチヨ、どうせクライマックスは実況どころじゃないだろ。オマエも集中して観てこい」

 それじゃぁ、私もそろそろ、ね。

 

 

 おわり。

「こればっかりは何度見ても泣いちゃうな」

「かぐやもう80回は観た! 毎回泣いてる」

「私の知らん間にそんな観てたんだ……」

「ウチらに文脈乗っかりすぎなんだよな。色々と」

 陽香ちゃんは、何かを考え込んでいる。彩葉が陽香ちゃんの新たな扉を優しく開く。

「こんな文化があるんだよ。フィクション。物語だってこの世界には数えきれないほど大量にある。少しずつ、知っていっても良いと私は思うな」

「……ドーリィちゃん、私とおんなじだって」

「……そっか」

 おぉ。少なくともこの子は、自分に似た境遇の物語のキャラに対して同類だと認識できた。物語の経験が足りないだけだったことが可能性に上がった。それだけで十分すぎる収穫だね。テテテ。

 

 

 自分しか無かったドーリィちゃんと自分が無かった陽香ちゃんは、性質は正反対だけど状況が同じだったから共感できたのかな。ある意味凄いことだよね。

「……物語はさ、確かに全部嘘かもしれないよ?」

「かぐや?」

「でもその嘘を観て、自分が何かを感じたなら、それは本当に存在する想いなんだよ。嘘で引き起こされた自分の感情は嘘にはならない。だって自分が存在するのは本当なんだもん」

 さすかぐ。やっぱり思うところがあったんだろうな。

「もちろん物語を嘘だと思ってた陽香ちゃんの想いも嘘じゃないよ。だっていつかそれを自分で裏切ったって、その時までは全部本当に存在してた想いなんだから」

 

 

 なんでこの子はあの時藤棚の下で、物語を全部嘘とまで断じたんだろう。確かあの時、竹取物語を前提としたかぐやの自己紹介が始まった途端スンと無関心になっていた。なんでもなにも、たった一回の体験の有無でもしかしたら、ここまで変わるのかもしれないな。これが成長なんだね。

 かぐやは、私は、自分と同じ、不変の他者を、心の奥底では求めているのかも、その役割を陽香ちゃんに押し付けようとしてるだけなのかも、なんて。この世で本当に変わらないものなんて、私しか居ないから。寂しかったのかな。私。

「オマエが不変な訳あるか。たった今ちゃんと成長したとボカァ思うぞ?」

 FUSHI?

「たった一回の経験が成長になるんならオマエはウン千年間毎日成長しまくってる。積み重なりすぎて一回の経験の重みが感じにくいだけだ」

「それが軽すぎて成長の実感が無いんだよねぇ〜」

「それでもその成長は無いことにはならないだろ。なんでオマエ(かぐや)が言ってることをボクがオマエ(ヤチヨ)に言わなきゃなんないんだ全く」

 やってる事と言ってる事と思ってる事と感じてる事が全く別々な事もあるのです。

 

 

「さて、これで満足? 彩葉のミニヤッチョさん?」

「ふまん!」

 知ってた。ただ映画観せて1時間潰しただけでしょと、そう言いたいんでしょ?

「でも私もさっぱりわからないんだよ。既にヤチヨの側面も含ませたかぐやとしてガッツリ接しちゃってる。新たにヤチヨとして出る幕がない。それで良いんじゃない?」

 あらら、クマ付き涙目になっちゃって。でもわからないものはしょうがないよ。思いつくまでのんびりしてよう? 猶予は八年もあるし、どうせどっかでバレるんだから。

「ヤチヨさんは……」

 え?

「ヤチヨさんは、なんでこの映画を、私に見せてくれたんです?」

 まさかミニヤッチョの命令から逃げたくて苦し紛れの話題作りとは言えないし……そのミニヤッチョはジッと私を監視している。ヘタを打ったら何されるかわかんないな……知らんうちにツクヨミの管理者権限をコイツに渡しちゃいないよな……

「単純だよ。私の好きな映画だから、おすすめしたかったの。もっと好きな映画も小説も沢山あるけど、ゆくゆくね、伝えられたらなって。陽香ちゃんをヤチヨ色に染めたい訳じゃないからさ」

 陽香ちゃんは眼を細めてジッと画面の私を見つめる。ツクヨミではミニヤッチョとFUSHIが私をジッと見ている。やぁやぁ、どうも、ありがと。あの、なんでしょ?

 

 

「ここのみんな、言ってる事同じだなって」

 そりゃ、ヤチヨはかぐやだし、彩葉はかぐやの義体生みの親だし、芦花は彩葉の親友だし、テテテはまぁ、うん。たまたまか。

 かぐや、つまり私が彩葉に軽口を叩く。

「意見違ったら喧嘩別れしちゃうもんねぇ〜」

 これはかぐや(私)としての、彩葉への当て擦りだ。意見違ったら、喧嘩別れだって可能なんだよ?

「私たちは好きで一緒にいるだけだし、類は友を呼ぶってやつ」

「そういうもの?」

「酒寄家はいささか特殊ではあるよ? 私含め」

 お、芦花が起きてきた。かぐやとして挨拶をせねば。

「おはろか〜」

「かぐやっほ〜。明日から新規事務所の入所だから今日は準備に追われそう。陽香ちゃんのおかげだよ」

「へ? 私?」

「ありがとね」

「えっと、どうも?」

「がんばろか〜」

「がんばるかぐや〜」

「なんくるないさ〜」

「芦花、テテさんは?」

「寝っ転がりながら本読んでる。じゃ、ちょっと上で集中してくるね〜」

 話流れたな……私はこの隙に、そそくささっさととんずらかいて……

「えっと、ヤチヨさんって、何?」

 

 

 何かを察したかぐやは他人事のフリして突然狸寝入り。かぐやの義体はうんともすんとも言わない。おーい。

 彩葉の地獄耳が陽香ちゃんの言葉尻をがっしりと掴んでくる。

「陽香ちゃん。誰、じゃなくて、何、って訊いたのは、なんで?」

「昨日のお父さんとの会議の時に、月見ヤチヨがボイスレコーダーって。そう言ってたの思い出して、人って録音できないな〜って。じゃぁ」

 人じゃない何かだろうと。自己紹介に必死で私たち完全に頭から抜けてたね。もう隠すより全部ぶっちゃけた方がマシだと思うんだけどなぁ。かぐやが茶々入れようが入れまいがボロ出まくってるよこれ。

「月見ヤチヨはね、文章生成型AIサービスもやってるの。私の口調をめっちゃ賢いコンピュータに学ばせてる。みんなのスマホにも入ってる。もちろん録音したものを解析もできるよ」

 隙間風の入り込む穴の空いた防壁をトタンで塞ぐような応急処置。全部事実だから仕方ない。

「一人でそこまでできるの?」

 出来ちゃったんだなこれが。凄いでしょ。彩葉、あの、カット。止(と)めて。

「続けて」

 彩葉?! どういうつもりなの?! ガッツリ梯子外されたんだけど!? この話続ける利点どこにも無いよ?!

 

 

「ツクヨミ? の……」

「管理人だよ〜」

 自分から情報を公開していくスタイル。誤った思い込みはしてほしくない。

「生真面目(キマジメ)だなオマエは」

「別に致命傷にはなんないよ」

「それもヤチヨさん一人で?」

「まぁコンピュータとかAIに任せてる部分は結構あるよねぇ」

 結構ってか、01の中の情報思念体という意味では私自身が“それ”だし。

「そういうの全然わかんないけど、凄いんですね。最近のそういうの」

 そういうのってのは、コンピュータのこと? もと光る竹は八千年前から凄いままだけどね〜

「じゃぁこの目の前のあなたも、AIってこと?」

 まぁそうなるよね。まさかただのタワマンにヤチヨ本人格が入り浸ってるなんて思いもしないよね。なんならヤチヨのKG型物理現実インターフェース(かぐや)まで一緒に暮らしてるとか、どこのSFなのって。彩葉にメッセージでSOSを送る。

『ねぇ彩葉、私ってAI?』

 

 

『めんどくさいことになってるね……』

『そもそもAIライバーって配信で自己紹介しちゃってるから逃げ場無いんだよねぇ。袋のねずみなのです』

『四十年近く毎日やってる長時間配信見られたら言い逃れ不可だな……』

 もうこうなったら史実を元にした物語を構築するしかないね。百から一を生み出すのは苦手だけど、やるっきゃないか。

「一応AIライバーとか、AIシンガソングライターって言って売らせてもらってるよ。彩葉はもともと私の大ファンなの! バイト代でライブにも来てくれてね、そこで私たち会ったんだ〜。いろんなサービスあるけどね、私が本人。元祖本家本元本陣月見ヤチヨ」

 うん。全部本当のことだ。

「難しい……頭がこんがらがる……」

 そりゃ当然。私だってこんがらがりながら慎重に喋ってる。少しばかり、曖昧と語弊を添えて。

「生真面目を捨てたなオマエは」

「正体バレの王手かかってるんだもん。手段は選ばず尻尾巻いて逃げ切るよね」

「オマエは一体何がしたいんだ」

「せめて彩葉と二人で相談する時間が欲しい」

 無事陽香ちゃんと繋がれて望みを叶えた彩葉のミニヤッチョは、ご機嫌満足そうで何より。窮鼠、猫噛みたい。

 

 

「おはよ〜みんな〜」

 テテテだ! 猫が来た! 噛んだよ! 後は託した!

「おはようテテテさん。これが毎朝の日課になるのか……信じられんな……」

「アンパンマンの声聞こえたよ〜。陽香ちゃん、何観たの?」

「いのちの星のドーリィ」

「それはそれは。だいぶピーキーなの選んだねぇ。勇気の花とかあるでしょうに」

「ヤチヨセレクト」

 結局お鉢が回ってきちゃったよ。

「たしかに。ヤチヨちゃん好きそう。この後彩葉ちゃん陽香ちゃんお父さんで学校だよね?」

 ありがとテテテ〜! 感謝感激雨アラモード!!

「居眠りかぐやもついでに来てよ。留守番はつまんないでしょ?」

「んあ、寝てた。行く〜!」

「じゃぁみんなで準備だ」

 話、流れたね? 流れた! よし! 逃げ切り成功!

 

 

「テテテさんは今日はどうするの?」

 テテテは彩葉の質問にスマホをいじりながら答える。

「私の根城(ねじろ)から荷物持ってくるよ。しばらく甲州街道毎日通ることになりそう」

 お? ツクヨミの方に通知。あれ。鍵DM(秘匿通信)だ。私の本体のもと光る竹、それが浮かぶ水槽の外にある、ゴミみたいな中継機器を介した通信。もと光る竹の安置してある都心のごちゃごちゃした部屋の中に、乱雑に置かれたその機器を気にも留めてない彩葉には感知できない通信。そうだ、彩葉がかぐや義体を修理してた間にこっそりテテテに添付してた。ということは、テテテの今のスマホいじりは。

『私が家に帰ったらツクヨミのプライベートスペースで話し合いを致しましょう。彩葉さんの義体老化研究に対する互いの認識の擦り合わせです』

 ね、猫に、睨(にら)まれてる……睨むのは蛇か。

 

 

 ────────

 

 

 彩葉ちゃんを排した相談。正直気が重い。そもそもあの酒寄家は情報が錯綜(さくそう)しすぎている。何が嘘で誰が何を隠してて、何が本当で誰が何を見せられてるのか。

 酒寄家自体がとんだトラップだ。大量の配線が並んでて、ある配線を切ると全部吹っ飛ぶ。それも国やワールドワイドウェブ単位で。ツクヨミの管理人が居るって、そういうこと。しかもどれを選んでも三分の二の確率で爆発する。想定外の暴発だって起きるかもしれない。こんなの勝率十割のギャンブラーでも脂汗かきながら震えるハサミで配線を切っていくようなものだよ。

 そのギャンブラーの役割に私(テテテ)がなってしまったと気付いた時にはもう遅かった。私も、酒寄家の全員も知らずのうちに、この緊迫の現場に取り込まれていた。そして知らずのうちに陽香ちゃんは、あの家をトラップハウスにしていた。ヤチヨちゃんが言っていた。陽香ちゃんは触媒だと、風だと。気がつけばとんでもない劇薬に、暴風雨になっていた。しかも誰のせいでも無い。強いて言えば陽香ちゃんに呪いをかけて勝手に亡くなった陽香ママか。その呪いが無ければかぐやちゃんは陽香ちゃんを酒寄家に招くことはなかった。結果論にすぎないけど。

 

 

 私はきっとあの家に居たら、今までのようにのほほん無疵(むきず)ではいられない。だけどそれで一人の人生から、陽香ちゃんの人生から手を引いて酒寄の混乱の最中(さなか)に放置するわけにはいかない。

 それなら私は、あくまで調停者に徹しよう。もとよりそのつもりだったし、その深度がえげつなくなっただけ。そのために整理をしよう。まず私自身は、何を思っている? 何を知っていて、何を知らされてない? そして私は誰に何を隠していて、何を見せている?

 なるほど陽香パパ。こういう時にアナログメモ帳が必要なのね。速記検定も取ったっけ。これなら誰にも読めまい。

 

 

 待ってよ……あまりに文章量と矢印と"?"が多すぎて書ききれない。ツクヨミやウェブもヤチヨちゃんの庭だから、ヤチヨちゃんに、かぐやちゃんに隠したいことがあるとローカル環境だろうがコンピュータ端末も下手に使えない。まさかヤチヨちゃん、ワープロには入れないよね……? たった1ヶ月前まで私を取り巻く環境がこんな緊迫状態になるなんて思ってもいなかった。家で清書してからツクヨミに入ろう。ヤチヨちゃんは、何をどこまで考えているの……?

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超かぐや姫の世界で帝(ガチ)に転生した話(作者:こそば)(原作:超かぐや姫!)

超かぐや姫世界の竹取物語の帝に転生したオリ主(ベレトスペック)が、かぐや姫をハッピーエンドに導こうとする話。▼果たしてオリ主はかぐや姫をハッピーエンドまで連れて行けるのか。▼なお、オリ主には超かぐや姫の知識はありません。▼チートとしてFE風花雪月のベレトスペックで転生しています。▼FE要素は知らなくても問題なく読めるようにしているつもりです。▼FEから出るの…


総合評価:427/評価:7.9/連載:6話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:00 小説情報

貞操逆転世界の逆しま(作者:siyu)(原作:超かぐや姫!)

前世が女性の男子が距離感間違えつつ生活する話。


総合評価:1832/評価:8.5/連載:9話/更新日時:2026年08月24日(月) 04:00 小説情報

かぐや姫に会いに月に行く(作者:蛍もがな)(原作:超かぐや姫!)

かぐや姫にもう一度会いたい。▼ただそのために生きてきた男の物語。


総合評価:529/評価:8.86/短編:5話/更新日時:2026年10月13日(火) 22:00 小説情報

ちょっ、ッッま...自分まで巻き込まれる必要なくないかぁ!!??(作者:大塩tune八郎)(原作:超かぐや姫!)

ツクヨミ。それはVR技術によって産まれた仮想世界。▼そこは、あまるほど楽しくて、あまりにも美しい、誰も争わないくていい皆んなが笑顔になれる素晴らしい非現実。▼これから話す物語は、そんな世界にのめり込むどころか埋まってしまうほど好きになってしまった男がとんでもねぇ理不尽に見舞われる話。▼感想・評価もらえるともの凄く承認欲求が満たされます。ありがとうございます。


総合評価:431/評価:7.75/連載:7話/更新日時:2026年08月05日(水) 18:53 小説情報

月人さんはネットがお好き。(作者:ひいらぎもち)(原作:超かぐや姫!)

ネットにハマった月人君が色々やってハッピーエンドにたどり着くお話です。▼なお見た目はタレ目で傍から見るとかぐやときょうだいに見えるものとする。▼やる気が出るので、感想いっぱいください(乞食)!!!


総合評価:525/評価:7.83/連載:4話/更新日時:2026年07月12日(日) 19:12 小説情報


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