私は関西住みではないため、酒寄兄妹の京言葉が非常に怪しいです。訂正コメ頂き次第直していきます。
「私しか聞いてないから、遠慮しないで答えてね。陽香ちゃんはさ、男の人、怖いって思ったことある?」
私テテテは今、密室にいます。陽香ちゃんと2人きりの、酒寄家の防音仕様の配信部屋。
「いや、別に、無いです」
「そっか。それなら良かった。本当に」
これだけを訊くように彩葉ちゃんから言付けされていた。
「他のみんなに伝えて良い?」
「うん」
扉を開けてリビングにいる彩葉ちゃんに聞こえるように大声を張り上げる。
「彩葉ちゃん! OKだって!」
「まぁ安心してよ! ウチのお兄ちゃん、紳士だし!」
「かぐやからもお墨付き!」
「よう子ウサギども! お前らの帝様が」
「ここでやんな!!!せっかくお兄ちゃんが紳士って話してたのに!」
かぐやちゃんが鼻から吹き出す。私もつい咳き込んでしまった。
「紳士? 俺が? 駒沢雷の間違いじゃねぇの?」
「あ〜恥ずっ! どうしてウチ来る人漏れなく全員、玄関全開で鍵開けっぱなのに廊下に響く声量でバカでか口上叫ぶん?!」
「お呼ばれしたんやで? 名乗りはあげなあかんもんな。てかテテテさんも叫んだん?」
「そりゃぁばっちりと。かぐやちゃんも叫んでたね」
「反響が気持ちいいんだよねぇ。ここの廊下」
「ガチで退去なるって! みんな二度としないで!」
そんな大声での叱責を、玄関全開で鍵開けっぱなのに廊下に響く声量でしちゃってることに、やっと気づいた彩葉ちゃんは、頭を抑えてドアを閉めようとする。
「ちょ、ま、俺が締め出されんの?!」
リビングでかぐやちゃんが飛び跳ねながら催促。
「帝〜いつものしないの〜? 底なしの夢を〜! ってやつ〜」
「なぁに、テンプレファンサはスマコン越し画面越しだけや」
そういえばリアル帝様を観たのは私初めてかも。一応挨拶しとこう。
「えっと、現実では初めまして。テレリリ・ティートテート、人呼んでテテテこと、寺里と申します」
「テテテさん普通の自己紹介できるんかい!!」
「俺らと同じパフォーマーってこった。こちらこそ、よろしくお願いします。帝アキラこと……あ、あの子かぁ?」
陽香ちゃんがこっそり覗いてコクリとうなずく。逃げてないや。人見知りは、ある程度解消されたっぽい?
「君かぁ。よろしくお願いします。えっと、名前……」
「七村陽香ちゃんだよ!」
かぐやちゃんが横から補足。陽香ちゃん本人に名前を言わせなかったのはなんでだろ。
「陽香さん。よろしくな。俺は酒寄朝日言います。彩葉の兄です。”朝日さん”でええで」
「よ、よろしくお願いします」
まぁこの緊張具合だったらその対応も納得かも。いつまでこうやって過保護にしていくべきだろう。今までの養育環境と今の年齢とのギャップをどう埋めていくべきか。どうしたものかねぇ。
「てかお兄ちゃん、あの口上はファンサじゃ無いんか」
「あれはただの口上や」
実は陽香ちゃんが正式に酒寄家に育てられると決まってからすでに2週間は経過している。もう4月中旬。陽香ちゃんが酒寄家に初めて来てからちょうど1ヶ月のタイミングで、初めてのこちら側の来客。
陽香ちゃんのことは、かねてより駒沢兄弟が気にかけてくれていた。2人にはまだ名前も伝えてないのに。そして私と黒鬼だけが知ってる"陽香ちゃんの存在の概要を黒鬼が認知している"という情報は、まだ彩葉ちゃん達には伝えてないし、伝わってないはず。えっと、酒寄の情報
「そんで、何しに来はったん?」
「母さんみたいなこと言うなよ……彩葉がまた無理してへんか心配で来た」
「あ、私の方?! 全然、調子ええよ」
「ほんまか?」
これはテテテ解るよ。多分ね、雷さんに忠告されてんだ。彩葉ちゃんだけを心配しろと。あの人、物静かなようでいて意外とノリいいけど、ちゃんと一線は引ける人。めっちゃ大人。そりゃもう40歳前後ならみんな大人かぁ。
ふとキッチンを見ると芦花ちゃんがまたお茶を
「芦花ちゃんは休んで。私やる」
「テテさんすいません〜ありがたいです〜」
こちとらこっそりあなたの涙を、シャットダウンしたかぐやちゃんを介抱してた直後の疲弊っぷりを見ちゃったのよ。前回の陽香パパとの会議の時は、私の立場上キッチン周りが出来なかったからね。今回ばかりは。
私はキッチンから会話を盗み聞くことに徹しよう。
「そういやみんな、一日のスケジュールちゃんと成り立ってっか? まぁテテテさんほどやばかないか」
「流石にテテテには遠く及ばないよ。ねぇ? テテテさん?」
盗み聞くだけのつもりが、油断してたら初っ端から話題振られちゃった。
「いや〜私も最近はボチボチ休めてるから」
「テテテさんのボチボチはマジで
「別に人のこた言えん彩葉はどうなんよ?」
「前と変わらず。研究室に週6」
私よりやばいって。過密すぎるよ。何? 二人とも五十歩百歩? うん……正論は興醒めだよ。
「変わらんのは彩葉の方かい。かぐやちゃんは?」
「前と変わらず! いつでもフリーダムかぐや!」
「だろな。違ったらビビる。芦花さんはどうっすか?」
「こっちはちょびっと変わったかな。新規事務所にも慣れてきました。そうだ名刺」
「いえいえお気んなさらず。そっか。じゃぁ夕飯はギリみんなで食べられるって感じか」
「帝も食べよーよ! 今日のかぐやの
「俺はいいや。それに最近乃依の奴、料理ハマり始めて。俺が居ねぇとアイツ
「おぉ、マジ?! かぐやと乃依ちゃでコラボろうよ!」
「おっけ。キッチンスタジオ予約っとくか」
「かぐやんちで良いよ!」
え。それは、どうなる……?
「陽香ちゃんは動画に出さないにしろ、裏で繋がりが増えるのは良いかもねぇ」
彩葉ちゃんまで!
えっと、一旦整理。乃依くんは黒鬼として陽香ちゃんに直接介入をすべきという立場で、雷さんはそれに反対して領分を踏み越えない範囲、つまり帝アキラくんから彩葉ちゃんへの限定的な心配のみをアキラくんに進言。アキラくんは
その上で乃依くんを陽香ちゃんの居るこの家へ誘う提案fromかぐや。乃依くんはノっても雷さんは止めてきそう。そしてここまで整理してきたことをこの場で知ってるのは私とアキラくん、つまり朝日くんだけ。頭パンクしそう。
しかもこの事実、陽香ちゃんの存在を黒鬼全員が認知していることが酒寄のみんなにバレたら、酒寄家からの私への信用も地に堕ちる。当時のツクヨミ内の状況的にリーク元は私からしかあり得ない。いくら家主の肉親が別の集団にいたって、その集団に家の機密を話して良い訳がなく。しかもこの機密漏洩の事実を、私は
……ちょ、誰か、ヘルプミー。
もう私にできることは、朝日くんにアツアツの視線を注ぐことだけしかない。淹れたお茶の代わりに、朝日くんが火傷するまで見つめ続けてやるもん。テテテの
「ま、まぁコラボの件は黒鬼で検討しとくわ」
「りょ! かぐや首2メートルにして待ってる!」
おっけぇ一難去って、待って。一気に二難去って。お願いだから。
「そうだ彩葉、マジでなんもなくても黒鬼頼れよ? 黒鬼全員巻き込むのが嫌なら俺だけでもさ。彩葉の唯一の肉親だろ?」
「お母さん勝手に殺さんで……」
「すまん訂正。彩葉がまともに頼れる肉親は俺だけやろ?」
「あれ。どういうこと? え?」
陽香ちゃん。話の間に割って入れた。酒寄家じゃそれがデフォだからねぇ……いい感じの適応。
「どした? 俺と彩葉のことならなんでも答えたる。遠慮せんで訊きい?」
「彩葉さんとかぐやさんの2人って、
────────
あぁ、だからか。
らーぽにて、私とかぐやが「お互いを愛しすぎて言いたいことが伝わらない」ことについて、陽香ちゃんが「愛?」って疑問形だったのは。親子同士が愛し合い過ぎるって言ったら確かに謎になるかも。陽香ちゃんは物語を信じてないから愛を疑ってたとかぐやは考えてたけど、真相はこうも
さて、なぜ私が、かぐやだけしか知らないはずのこの内心を知っているのかというと、義体かぐやとヤチヨ本人格が現実とツクヨミで体験した記憶の全ては、メンテナンスの際に外部ストレージの記憶庫に保存され、五感全部紐付いたアーカイブデータを私も閲覧できるのだ。もちろんというか当然かぐやには直接
だけど最近、ところどころ記憶アーカイブに抜けがある。技術の不具合とか研究どうこう以前に普通に心配。しかも原因が特定できない。他の記憶はなんの問題もなく感知され思考プロセスが書き込まれた状態でエンコード出来ているのに、該当箇所だけ全黒塗りで無感。思考プロセスも伏せ字。しかもアーカイブが途切れてデータが分割されるわけじゃないので諸々の精密機器の故障でも無く、半ば検閲のような、外部からの干渉があったのではと
それならヤチヨに動機を訊かねばとは思うものの、つまるところかぐや本人に”自分の記憶を義体開発者に対して閲覧不可にしてるのはなぜ”と直接問い詰めることに繋がってしまうため、真相解明も動機確認も慎重に、いつ壊れてもおかしくない石橋を叩かずに素知らぬふりして渡らなければいけない。
「彩葉ぁ、どう答える?」
あぁそうだ、私たちの関係がなんなのかって話だね。本当のところ、私は
「なんで私たちを親子って思ったの?」
質問に質問で返すようで悪いねぇ。まず向こうの認識を認識しないと、あなたにショックを与えない返答が出来ない。
「いや、普通に、年齢差」
でしょうね。だって真実の子供達より少し年上で17歳設定のかぐやなら、当時20歳の私だってギリ産め得る。あまりに早すぎだけど。
「む、ずかしいな……」
かぐやが不老不死であること、義体であること前提の関係が多すぎて、あらゆる言葉を尽くしても現状との倫理的な
「まず事実として、私たちは親子ではないの」
かぐやも流石に黙って私に任せている。誰も余計なことを言えない。
「だけど互いを心から大切に想っている。互いの人生を互いに捧げられるほど。そういう人間関係もあるんだよ」
「へぇ……」
「納得、してくれた?」
「まぁ、一応」
はぁぁあこの石橋渡りヤバすぎ……
「で、何の話だっけ?」
ほんといつも芦花には助けてもらってる。あらぬ方向に飛んでった話を戻してくれる。
「そうだ、えーと、なんもなくても俺ら黒鬼を頼れよって話だ」
「もう色々と助けてもらっちゃってる気がするけど、良いの?」
「俺らにすら頼れんくなったらお前、自分から孤立無援になりにいくだろ? それはこのお兄ちゃんが嫌なわけ」
もうそこまで子供じゃないって。なんなら十数年前のKG型義体開発研究中にさ、一回誰にも頼れんって思い込み発動してた時があったけど、そしたらところ構わずヤチヨがドンチャカ騒ぎ起こしてきてさ、迷ってんならもう誰かに頼ったほうが一番穏便に済んじゃうんだよね。
「じゃ、お言葉に甘えさせて頂きます。あ、お金はもう要らないから。父親が出してくれるって」
「そういえばその父親とかお役所とかそこら辺はどうなってんだ? まさか知らん間に不法誘拐身代金請求闇取引……」
「いやぁ……見事にファーストペンギンに仕立て上げられました」
「どういう事だ? なんかの先駆者兼被害者ってことか」
「安心して。父親は全面協力。行政については……テテテさん、お願い」
「おっけ〜。資料ないけど調べながらのアドリブでいけるかな? 長くなったらごめんねぇ〜」
「テテテさん、一応ヤッチョレコーダーつけとく。多分要約必要でしょ?」
『あんま長いとヤッチョ疲れちゃう!』
「手短に頑張るわ。それじゃぁ、いくね。まず今回の場合、本来の行政の対応は、子どもへのネグレクトが私たち地域住民に発覚した段階でその子を一時保護してくるの。その後2ヶ月以内に元の家に返すか養護施設や里親に引き渡すかを決めていく。*1一時保護までの間に前までの私たちみたいに地域住民が代わりに緊急で保護するのも出来るけど、マジですぐに児相に報告しなきゃいけなかった。酒寄家は制度の点ではがっつりアウトなことしてたんだよね。私も身内だからって対応甘かった」
「そもそも私たち、陽香ちゃんの居住地の橋本の住民ですらないし。本来はかぐやの主張ガン無視してとっとと連絡すべきだった」
かぐやにはこの話題が出たら一旦しばらく黙るよう伝えていたけど、それに乗じてかぐやの意向を切り捨てるようなこと言うのは流石に私が子供じみてるな。言ったそばから後悔。
「じゃぁどうして今陽香ちゃんはここに居るんだ?」
「ただ児童養護施設も万能じゃないの。1人の指導員さんがそれぞれ心や体に傷を抱えた6人もの子供たちを、一手に担当することもザラ。*2もし指導員さんを独占する押しの強い子がいたとしたら、もちろんその子も多かれ少なかれ辛い思いをした子なわけだけど、それでも陽香ちゃんはきっと萎縮しちゃって心を病んでしまう」
「陽香ちゃん、学校の先生にもまともに相談出来てなかったっぽいし、昼も夜も本心言えないなら保護の意味ないよねって。本当はそんなことないかもしれないけど、その可能性が少しでもあるなら、バッドエンドは避けたいと思った」
当の陽香ちゃんは……芦花と一緒にソファーに座ってる。これから飽きそうな事話すからねぇ。
「そして父親は向こう数年家を空けることは確定してる。金は出すと言ってるけど親権は父親に属したまま。私を含めた酒寄家一同も、父親から親権まで受け取るつもりはない。さて、どうなる?」
「まぁ普通に考えたら施設行きだな。制度がそうならなおさら」
「施設でも、陽香ちゃんに向かない一対多の構造が常態化してて、すぐにはひっくり返せない」
「里親は? 調べたら誰でもなれるっぽいぞ?」
「研修受けたりするからまず半年近くかかる。特例だけど彩葉ちゃんと芦花ちゃんはこれから受講していくよね。それに条件を満たしたとしても、私たちの意思で子どもを選ぶことはできない。*3名指しで陽香ちゃんを育てたいって言うのはそもそも無理」
「ますますなんでここに陽香ちゃんが居るのかわからん」
「お兄ちゃん、私たちはファーストペンギンに仕立て上げられたの。行政に」
「……は?」
「一番困惑してるのは私たちなんだよね」
「なんかやったんか? 賄賂?」
「いや、効果あるのか分からんまま一応テテテさんがやってみてる自己選択のリハビリとかを、割とエラエラ職員さんの前で実践してみたり、私とテテテさんが席を外して七村家の2人に本音を話させたり、出来る限り三方良しにしようと心がけたくらいで」
「それに彩葉ちゃんは東大教授でツクヨミ運営の最上層にもいてノーベル賞もいくつか取ってて、酒寄彩葉がちょっと動けば日本の政経に多大な影響をもたらす半ば公人。芦花ちゃんも著名インフルエンサーでかぐやちゃんも私も超有名Vtuber。ヘタに陽香ちゃんに手を出したら社会的に殺されるのはこっち。ストッパーがありすぎて、子どもにとってウチが一番安全まである」
「だからって属人で判断しちまうほど落ちぶれちゃいないだろ行政って」
「児童養護施設は万能じゃない。そう言ったよね? 大人1対子ども6の構造が未だに変わらない。これが数十年後どうなってると思う?」
「流石に状況変わってるんじゃ……」
「アキラくん、それは希望的観測だよ。2050年現在時点でまず少子化は止まってない。子供の数がこのまま0まで突っ切ると仮定する。その子たちが成長して全員が児童指導員さんを志望する大人になるわけじゃない。指導員さんの数も加速度的に減っていく」
「規模が小さくなるだけでなんの問題もないように思えるんだが」
「このデータ見て。虐待の通報対応件数。*4めっちゃ増えてる。このままだとまともな対応が困難になっちゃう」
「絶対ヤチヨでしょこれ。どーせ日本全国で通報しまくってる」
『トーゼン! 家電を媒介にしてね、保護者から子どもへの暴言が検出されたらデータベースに黄信号で保存、手が出た時点で通報! 昔の紅葉さんと同じ轍は誰にも踏ませないのです!』
「うちの母親はまぁ……そうやな。俺が去った時点でせめて行政には繋がっとくべきやったな」
最近のヤチヨは過去の後悔を原動力にして行動している
「このままヤチヨちゃんがところ構わず全部通報しまくると、生きてる子供全員が虐待を受けてしまうことになるタイミングが近いうちに訪れる。難しく考えないで。ただのグラフの交点」
『これヤッチョ、良くないことしちゃったかな……』
「ううんヤチヨちゃん。ヤチヨちゃんは悪くないよ。ただ人員と法整備が追いついてないだけ」
「それに子供が減ったらそのうち件数が減るかもしれないだろ?」
「だけどそれでも、もしそのタイミングが来た時に指導員さんや福祉司さんがパンクするのは確実。ヤチヨちゃんのおかげで児童保護において、全く新しいモデルケースの運用を考えなきゃいけない局面に入りつつある。そこを行政は見ているっぽいの」
普通だったらちゃんと時間をかけて審議されるべき事案だけど、なんか、ヤチヨパワー……?
「そのモデルケースの詳細はわからないよ? 向こうも何考えてんだかさっぱり。だけど酒寄家みたいな子ども1人対
「そんで実の父親のお墨付き。社会実験にはうってつけってわけか」
「ウチらモデルケースどころか特級のレアケースじゃね? 参考なるんか?」
「まぁかぐやの言う通りかも。ただヤチヨ本人まで住んでるしあらゆるデータが取りやすいよね。外れ値は後から除けばいいし。それに陽香ちゃん本人もこの家での生活を望んでいる。陽香ちゃん自身が私たちに愛着を抱いている。私たちのいない場所で、親権者たる父親の目の前で、エラエラ職員さんにそう語った。そこが一番大きかった」
「結局、どんな建て付けなん?」
「ある意味、児童養護施設の延長線上としての試験的コミュニティになるね。綾紬と寺里も正式に酒寄家コミュニティの一員になる」
「テテテさんも入るんか?」
「私は一応、専門的な知識を持つ当事者だからねぇ。もう前までみたいな第三者ではいられないけど、万が一の時に酒寄家を
「あと芦花は今のところ陽香ちゃんが一番心を開いてる相手だから、構成要素として一番重要まであるね」
ソファーに座ってる芦花がヤッホーと手を振る。隣で陽香ちゃんがちょこんと座っている。この話の間ずっと座ってたんかな。暇は潰すもんだと教えてあげたいけど、かぐやがまた文化がどうとか反対してきそうだ。それでアイツまた壊れやしないだろうか。今の私は正直、かぐやの反応を、その一言一挙手一投足を、どこか恐れている。
「それに都から保護児童一人分の里親手当と同額を毎月頂けるから、きちんと収支も都に報告。保護期限は一旦施設や里親制度と同じく、陽香ちゃん18歳初めての3月まで」
「もともとお父上との同意だった大学卒業までってのはどうなったん?」
「白紙。その時になったらみんなで考える」
「なんか条件あんだろどうせ?」
「まず東京都と神奈川県の2つの児相とは密に連携して、立川の民生委員の人に定期的に家庭訪問にも来てもらう。あと寺里とは別のガチ専門家の第三者である、陽香ちゃんの通ってるお医者さんの心理カウンセラーの人と児相とで裏で連携してもらって、診断結果などを二者で共有。場合によってはその二者で酒寄家に介入。酒寄と児相と医者の三角関係だね」
「家庭訪問って、見られちゃやべぇ機密はどっかに移したのか?」
「以前から研究室に少しずつ移してはいたから、この間最後の大掃除やって、基本的にここに機密はないはず。私のスマホとPCくらい」
居るけど。
「俺らの変な干渉は逆に邪魔になりそうだな」
「いやいや、黒鬼は私たちの友達だよ。全然来ていいよ?」
「アイツらにも伝えていい? 金銭じゃなくても、俺らにできることがあるなら手伝いたい」
「黒鬼以外には秘匿するって条件で、話してOK」
「
母親ねぇ……めんどっっっっくせぇぇことに絶対なるなぁ……
「いいよもう。関係ないし。母とは絶縁したし」
「は?! 彩葉いつの間に?!」
声でっかいってかぐや……
「ぜつえん?」
陽香ちゃんが遠くからポツリ。
「えっとね、今調べたけどね、ガラスとか〜紙とか〜プラスチックとか〜」
「芦花、それは絶縁体だよ」
「でも彩葉ちゃん、親とは絶縁出来ないよ?」
「見せかけだけ。連絡先消しただけ」
「なんで……? まだ生きてるのに……」
いいね。陽香ちゃん。質問をして知識を得ることに
「俺が語るわ。空気少し重くなるけど、みんなええか?」
みんなが頷く。私も、腹を決める。
「俺が12の頃、彩葉が6歳の時、俺らの父親が亡くなった。そん頃から母親は俺らに、彩葉に厳しく当たり始めた。はぁ……なんもかんも一番やないとあかんやら、頼りになるんは……」
「ごめん。その口調で言われると、今でもちょっとしんどい」
「……すまん。悪かった。まぁ幼い彩葉が実の母親にそんなんを言われ続けてたのに、俺は、そんな彩葉達を置いて家を出てってしまった」
「この件に関しては兄と和解しとるから、安心して」
「あぁ。そんで彩葉は母親からのそんな言葉達を抱えたまま、俺と同じように高校入学直前に家を出た」
「逃げるために家を出たとて、その言葉が脳裏から消えることは無かった。一番にならな意味がない。それを真に受けた私は、今から思えば無理ばっかして、死にかけていた。間接的に母親に、私が愛されたかった人に、殺されかけてた」
私は話しながらスマホでみんなにメッセージを送信する。
『かぐやのことは言及せんといて』
「それで、絶縁……」
「そ。かぐやがウチの母親のこと
ソファから芦花が立ち上がって来て、私の肩をさする。ありがとうね。
「彩葉、一時期乗り越えたっぽく見えたんだけどなぁ。思い出しちゃった感じ?」
「近頃一人で物思いに
怒り、なのかな。ふと思いついた言葉を当てはめただけかも。私はあの時かぐやが来たから、未成年にして死にかけの絶望的な生活から立ち直れた。それでも過去に受けた言葉の呪いは消えない。もしかぐやが来なかったら、そんな来なかった未来の自分をリアルに案じてしまったが故の怒りか。おそらく私は、陽香ちゃんに過去の自分を重ねている。
これはきっと、私のエゴだ。自分のため。またテテテになんか言われそうだから言わないけど。
人助けなんて結局個人のわがままでしかないのかもしれない。たとえ動機が自分勝手でも正当な方法で手続きすれば社会から認められるわがまま。それでもそこに価値があるなら、いいや、価値などなくても、今の私はきっと陽香ちゃんに手を伸ばしてしまうし、かぐやは実際にほんの少しの情報を聞いただけで価値判断を捨て損得勘定を捨て自他境界を捨て、子どもが
「本当に物思いに耽ってら」
「彩葉〜大丈夫そう?」
「大丈夫。こんな感じで物思いに耽ってたっていう実演」
「う〜む、黒鬼からもちょくちょく彩葉に連絡するわ。頼れって言うだけじゃ
「さて、と。他なんか知りたいことは? お兄ちゃんには機密以外ならなんでも話せるけど」
「いや、もう十分。なんなら知り過ぎたくらいや」
「そ? 駒沢の2人にもよろしく言うといて」
「お? 俺帰ったほうがいい感じか?」
「いや別にそんなつもりじゃ無かったけど」
「ぶぶ漬けでも食べる〜?」
「テテテさん?! なんでそんなん用意……?! てかいつの間に!」
ほんとテテテさんは、茶化してんだか
「お、そんなら頂こか〜」
「どーぞどーぞ〜。それぞれ現地で買ってきた、宇治の煎茶と南魚沼コシヒカリ、出汁には日高昆布、さらに有明海の刻み海苔と紀州の南高梅干しを使った最高級お茶漬け、みんな分あるからひとつづつ取ってって〜」
まさかこの人、このネタのためだけにこの間の独り日本旅行を……
「日本の観光特産士が最高級お茶漬け作ってみたって動画。京都ご出身の酒寄のお二人には後で出演してもらうよ〜」
「……俺も?!」
「黒鬼の主将でしょ〜! この集まりだって本当の目的そっちだし。そこの配信部屋で撮るよ!」
し、知らんて……。こうなったテテテは誰にも止められない。しかもこの人かぐやと違って隠れてコソコソやるからなぁ。気づいた時にはもう完遂してるとかザラ。
「ほら、陽香ちゃんも。テテさん
ソファに座ってた陽香ちゃんは芦花に手招きされたので、こっちにトトトと駆けてくる。やっぱり体の動きから、まだ緊張が見えるなぁ。陽香ちゃんもいつかこの家で、かぐやくらい
「それじゃ、いただきます」
「いただいちゃって〜! かっこんじゃって〜!」
「そういや、今年のGWは大月の真実さん家行くんか?」
「諌山家には夏休みまで酒寄家との連絡禁止を課してるんだよね。真実含め抜け駆け厳禁」
「なん、なんでだ?!」
「ここちゃんがめっちゃ陽香ちゃんに興味津々だったからさ。あの時は夏までにどうなってるかわかんなかったから、連絡を一律禁止しといた」
「だいぶ重くね? 罰」
「ちょっとばかしのお灸よ」
陽香ちゃんがおもむろに首を傾げる。可愛い。せっかくだし説明しておこう。
「諌山こころさん。私たちの親友まみまみの娘さん。陽香ちゃんと同い年の女の子。だけど結構押しが強いんだよねぇ。性格合うかわかんないんだよ」
「へぇ」
「夏頃に諌山家と会えるから、良かったらその時に会ってみる?」
「まぁ。どっちでも……」
これは、どっちの意味だろう。だけど陽香ちゃんはかぐやじゃないから、論理モードは使えないや。
「夏休み入ったらもう一回聞かせてね」
「うん」
「で、彩葉ぁ! ジーダブリューどこ行く!?」
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児童指導員及び保育士の総数は、通じて、少年おおむね五・五人につき一人以上とする。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100063?occasion_date=20261201