「こころの母の諌山真実です。えぇ、えぇ、うちの娘が、大変申し訳ありません。はい……」
も〜! ここちゃんなにしちゃったの〜! 後ろで罰の悪そうにしてるけどさぁ。自分の部屋に逃げないところが素直なんだか従順なんだか……聞きたくないなら逃げたっていいんだよ?
「ここちゃん? 何しちゃったの?」
「ん……だって……」
「ママは先生から事情を全部聞きましたぁ。だけど私はね、ここちゃんの口から何があったのか聞きたいな」
「だってアイツがバカみたいなこと言って来たんだもん! 別にウチは怒られたって良いよ!」
「そうなの? それはどうして?」
「アイツがバカにして来たのウチじゃないから!」
「その子は誰をバカにしたの?」
「かぐ姉ぇと彩葉さん!」
まぁ、こころが中3になるまで変な噂が立たなかったのが奇跡と言いますかね。こういう揉め事はいつか起こると思ってたけど。
「どんなこと言ってたの?」
「それママが知る必要あるぅ?」
「ママの友達をバカにされるのはママだって嫌だからねぇ。今度ここちゃんと一緒に学校行くけど、その時になんでそんなこと言ったのか、その男子に訊きたいなぁ」
「……かぐ姉ぇは人造人間で彩葉さんはマッドサイエンティストって」
うん。酷いな。思ってたよりヘビーだった。いくら周知の事実とは言え言葉選びが悪過ぎるよ、男子くん。
「それは嫌だったね。ちゃんと怒れたのは偉いよ?」
「ぶぅ……」
「どうやって、怒ったの?」
「……机ぶっ叩いて舌打ち」
「手ェ痛そ〜。男子になにか言ったりした?」
「……テメェは人間なのに
「こころ、言い過ぎ。それはダメ」
「なんで!? アイツが吹っかけて来たことそのまま返しただけ!!」
「男子には確かに悪気があったんだと思うよ? だけどね、こころが怒らなきゃいけなかったのは男子が言ったことの内容だけ。その男子が彩葉とかぐやちゃんをボロクソに言ったって、こころが男子本人をボロクソに言って良いわけじゃないよ」
「だからってアイツが好き勝手ボロクソ言うのを許せっての??」
「そうじゃない。だけどこころが裁くことじゃない。男子の発言をボロクソに反論して良いのは、彩葉とかぐやちゃんだけ。でも2人も男子本人をボロクソに言って良いわけじゃない。その違いはわかる?」
「だってそいつ本人が考えたからそんなこと言えたんじゃん! おかしいのはそいつじゃないの??」
やーむずい。こういう時、彩葉やヤチヨちゃんはなんて助言するだろう。
『ヤオヨロ〜! なになに親子喧嘩〜?』
私のスマホにヤチヨちゃん来ちゃったよ。
「ヤチヨちゃんに話して良い?」
「……別に良いけど、なんもなんないでしょ」
まさかヤチヨちゃんこそが、男子がバカにした当のかぐやちゃん本人だとは、ここちゃんは思うまい。私の娘のこころはかぐやちゃんがヤチヨちゃんであることを知らない。息子の
だけどかぐやちゃんが全身義体であり、その義体の製作に心血を注いだのが彩葉ちゃんであることは、こころ達は幼少の頃から知っている。幼少とは言ってもかぐやちゃんが義体に受肉したのは2人が4歳の時だけど。2人とも当時の記憶なんてないだろうなぁ。
かぐやちゃん=ヤチヨちゃんを知ってる人は世界的に見てもかなり限られてる。そしてこの事実は今のところ中学校レベルの外部には漏れてなさそうなことがわかった。一応男子の暴言から世間の認識を推測できることもあるんだね。まぁ暴言はダメだけどねぇ。
『なるほどなるほど〜確かにね。いい? ここちゃん。こころちゃんは誰にも認められなくても、私とかママがダメって言ってもね、嫌なことには怒って良いの。だけどね、その場にあった怒り方で怒ったほうが、こころちゃんが嫌な思いをせずに怒れるよ』
「ヤチヨちゃん……それはどうなん……」
『いやいやまみまみ、これ、重要だよ〜? 例えばブチギレる前に一旦落ち着いて先生に相談するとかね。そうすれば怒られるのは男子だけ。ここちゃんはどこ吹く風で口笛吹ける。それなら出来そう?』
「別に、できるけどさ……口笛要る?」
『こちとらヨユ〜のヨッちゃんぜ! ってこと!』
「だけどヤチヨちゃ〜ん。大人になったら先生居ないよね〜」
『裁判所がある!』
奥の手出してきてピースしないでヤチヨちゃん……
「とりあえず明日の放課後ママ学校行くから、ホームルーム終わったら青山先生に付いてってね」
「はーい」
「今日はこの話は終わり! さ、お風呂入って!」
「はーい!!」
大月、やっぱり富士山綺麗だなぁ。流石、パパが私の苗字を使ってくれる代わりに暮らしたいって言ったとこ。「僕は別に苗字にこだわり無いから」ってあっさりと自分の苗字を捨ててくれた。優しい人はたくさんいるだろうけど、このベクトルで優しい人はそうそういないんじゃないかな。しかも子供達の姓も元の私の諌山姓で良いと言ってくれる。懐が富士山の裾野くらい広い。
そんな諌山姓の子供達が通う中学校への道中。世はゴールデンウィーク前日でやけに浮き足立っている。学校の生徒みんな大はしゃぎだろうな。ウチのここちゃんを除いて。
「しつれいしま〜す」
お、みんないるいる。ムッスリしてるここちゃんと相手方の男子くんとそのお母さん。それから担任の青山先生と、教頭おるし。聞いてないし。
とりあえずここちゃんから聞いた話をそっくりそのまま伝えますか……えっと、お母様? どうされたんですかそんな口ぽっかり開けて唖然としちゃって。
「ジョウジ!? そんなこと言ったの?!」
「だってぇ……」
「だっても何もありません!! 謝りなさい!」
そう言ってお母様はあろうことか、ジョウジくんの頭をぐいっと押し込んで下げさせる。待って待って何やってんの!
「お母さん! 子供を力で無理やり押さえ込まないでください?!」
「あっ、すいません……ほら、自分で謝って!」
今にも泣きそうな顔で弱々しく謝るジョウジくん。でも私に謝られても、許す権限はないのだよねぇ。
「ジョウジ君が言った暴言、それを謝ってくれた事は、私の大切な友達の彩葉さんとかぐやさんに伝えておきますね。彼女たちが許してくれるかどうかはわかりません。それで良いですか?」
「え、えと……え……」
たじろぐジョウジ君にお母さんがこっそり耳打ちするけど、静かな教室じゃ全部聞こえるんだよねぇ。はい。
「はいって言いなさい!」
う〜ん、この親にしてこの子ありというべきか……ガッツリ万力かけてんなぁ……どう接すれば良いんだろう。
「お母さんはお母さんで謝らなくて良いので、ジョウジ君との接し方を少し見直して欲しいですねぇ。そしてジョウジ君は自分の意思でこころさんに謝って欲しいな。その場にいない人への暴言でもさ、こころさんの目の前で直接言っちゃったら、こころさんはやっぱり傷つくよ?」
ジョウジ君はジッとここちゃんを見つめて、声を枯らしてポツリ。
「ごめんなさい」
本来私にここまでする義理はないんだけど、子ども達にはさ、みんな幸せでいて欲しいじゃん? それがこころの幸せに繋がるなら
「ここちゃんも、何か言うことある?」
「……ウチも、ごめんなさい」
偉いね。ここちゃんの背中をさすってあげる。
そして帰り道。気づいたらもう夕暮れ。縁石の上を歩いて辿るここちゃんが、私に手を繋いできて尋ねる。
「彩葉さんとかぐ姉ぇに言うの?」
正直めっちゃ悩んでいる。悪口をわざわざ伝える必要があるのかな。
「まだわかんないや。連絡取れる夏休みまでまだ時間あるし、考える時間はたくさんあるよ」
「まだ生きてたんだそのルール……」
「諌山家全員夏まで酒寄家との連絡厳禁。誰も抜け駆けできないもんねぇ〜」
「お〜い! お〜〜い!」
何!? 誰??
「まって〜!」
ちょ、やめてよ、怖いって……
「ここちゃん、走るよ!」
「はぁ!?」
「すぐ!」
リア
「あぁっ! 追いついた! テテテです! テテテ!」
「ほんっと危ないからやめて!」
ごめんねテテさん。まみまみ、流石にガチギレだよ。
「たまたまそこにいたからちょうど良いって、軽い気持ちで
「む〜……とりあえず家来て。なんで連絡しなかったの?」
「だって諌山家、酒寄家との連絡厳禁なんだって? 彩葉ちゃんから聞いてさ」
「今のこの直接会ってんのは連絡じゃねぇの?」
ここちゃん、その通り。エグザクトオリ。
「真実ちゃん家、離れあるでしょ? そこで話したい」
「なに? 本当に緊急だったの?」
「今酒寄家旅行初日だからさ、後から私も旅行に合流するんだけど、真実とオフで話せるちょうど良いタイミングが今日だけだったの」
「みんな抜きで私にだけ話したい事……? なにそれ?」
「あ、ここちゃん、久しぶり」
「う。う〜っす……え?」
「ごめんね突然押しかけて」
テテさんがこんなに切羽詰まってるのに、逆に彩葉たちは何をやってるんだろ……旅行か。
「テテさん、酒寄家は、どこに旅行に行ってるの?」
「諏訪!」
「それはまた、なんで?」
「今年のGW真実ん家行けないからって、その代わりみたい」
「向こうも律儀に守ってんのかよ……」
ここちゃん、誰のための制限と思って?
「えっと、女の子? のことはどうなったの?」
「しばらく一緒に暮らせる。その子も一緒に旅行に行ってるの」
「その子のこと?」
「違う。話すかもだけど、本題じゃない」
待って待って、それ以外? 全く見当もつかない。その前に、まず息を落ち着かせようかテテテさん。40代女性で全力ダッシュはだいぶ身体に
「なんで走ってたの?」
家に帰り、庭を通り抜けて離れに入ってテテテを座らせ、とりあえず
「普通にのんびり歩くつもりだったんだけど、ま、まみまみがたまたま居たから……」
「本当にそれだけだったんだ……」
「ごめんねさっきは
「焦るほどの何かがあった。そうでしょ?」
こんなオドオドしたテテさんを初めて見る。流石に心配になるよ。酒寄家に、何が起きてるの?
「言って、良いよね……?」
「うん……? 良いけ」
「ヤチヨちゃん?」
テテテのスマホにヤチヨちゃんがやってくる。本……人格だね。
『今からテテテが話すことは事前にヤチヨに全部共有されてる。そして今から2人が話すこともヤチヨが全部聞いてる。いいかな?』
「いい、けど、なに?」
『そして今から話すことは彩葉には共有できない
「彩葉がそれを話していいって許してるの?」
「私たちの独断。本当は彩葉ちゃんとかぐやちゃんしか知らないはずの情報」
「彩葉は隠したがってるんだね?」
『この間までかぐやにも隠してたから』
「……私、彩葉のことは友達として大好きだからさ、彩葉がそれを隠したいって思ってるなら、私は彩葉の想いを大切にしたいよ。知らないでいたいと思うんだ。それでも私に、話したいの?」
『他の人には話せない。真実にだけしか、話せない……それでも、ダメ?』
かぐやちゃんだし、ヤチヨちゃんだよね? 友達とか信頼できる人とか秘密を話せる人なんてたくさんいるでしょうに……何故に私なんだろう……私、みんなにグルメをインフルエンス出来るただの双子のママよ?
「その独断を私が彩葉に黙っていられるかわからないよ?」
「酒寄家には夏まで連絡厳禁でしょ? そんな状況の今の真実にしか相談できないことなの」
「そもそもヤチヨちゃんが関わってる時点で彩葉には全部筒抜けじゃないの?」
『彩葉も開けられない秘密の記憶庫』
え?
『私はこの間、それを作った』
誰にも知られない秘密が欲しかったってことかな。それはまぁわかるけど。
『ツクヨミがこの間午前中にダウンしたでしょ?』
まって、あのタイミング??
『あの時に実はテテテと話したの』
ツクヨミのサーバーが落ちたらヤチヨちゃんはどこかに失踪するはず。テテテはどうやって話せたの?
「私がヤチヨちゃんに呼ばれた。ごちゃつく隙間」
「ごちゃ、何?」
『そこは本題じゃない。簡単に言うとヤチヨだけのプラベルーム』
「そこで何を話したの?」
『ちなみに今ここで話してることも彩葉には黒塗りで知覚されるはず。プラベルームでテテテと話したことが一番最初の黒塗り記憶』
「補足ありがと。で」
『パスワードは4桁の枠に5桁以上の任意の数字を入れて出てくるローマ字入力で”
「ヤチヨちゃん? 話しにくい?」
『……なんでテテテといいまみまみといい、ヤチヨの本心すっぱり見抜いてくるの?!』
「どんだけ一緒にいると思って? 言えないなら言えないでいいよ? この後みんなで遊ぼうよ」
『言わなきゃいけない。彩葉の研究の話』
「待ってそっちこそガチ機密でしょ?? 漏らしちゃダメじゃ……なんで、テテテは知っちゃってるの……?」
酒寄家、かつてないほどとんでもなく混乱してるぞ……芦花は大丈夫かな……
『酒寄彩葉は義体を老化・老衰死させる研究を進めてる。動物実験段階』
これ、私、知っちゃって、良かったの?
「私、今、テテテ蛇に
『お願い真実。よく聞いて』
「そんな、生き物の生き死にを、ゲームのアプデみたいに、彩葉……本当にどうしちゃったの?」
彩葉、本当に、マッドサイエンティストになっちゃ、ダメでしょ。
「……」
え、みんな、無言怖いよ?
『彩葉は大型アプデと言っていた。なのにかぐやの義体に搭載されたのは指の腹のシワシワ』
「指の、へ?」
「自然に折り重なる
『だけど大型アプデの内容がそれだけ。明らかにおかしい。あの人まだ何か隠してる』
「……私に伝えたわけは?」
『……』
「はっきり言うと彩葉ちゃんは禁忌を犯そうとしてる。生と死を
「ごめん。それはテテテの、私の、人間の考え。ヤチヨちゃんは? 月人さんは、どう思ってるの?」
『それがねぇ〜私でも分からないから困っているのです〜』
「かぐやちゃん」
『……はい』
「かぐやちゃんが彩葉と一緒にこの間家来てくれた時さ、めちゃくちゃハイテンションだったじゃん?」
『……うん』
彩葉が夕方まで寝こけて、彩葉が泣いちゃって、その直前までかぐやちゃんは、パパと想くんと一緒に外で延々遊んでた。まるで昔を、20年前を思い出させるような、あの時のかぐやちゃんの言動。当時の20年前だったら“それがかぐやちゃんだよね”で済んでたけど、今のヤチヨ成分入りかぐやちゃんでそれをやられると、どうしても違和を感じてしまう。
「不安、だったの?」
『……真実の前でまで泣きたくない』
「泣いていいし泣かなくていいよ」
『……冷静に考えたの。あれから』
「うん」
『そもそも月人に死なんて概念、存在すらしてないから実感なんて湧きようがない事に気づいた』
「うん」
『人間にとっての死は散々見てきたよ? 見るだけだったけど、どういうものかはわかる。だけど私は、月人の、思念体の死を、見たことがない』
「うん」
『もし人間に死が無かったとしても、他の死ぬ生き物、猫や犬が死んだりして人間は有機生物としての死を実感できるだろうけど、私たち月人には犬や猫にあたる“それ”もない。型は違えど、みんな月人だから』
「思念体の月人にとっての死なんて永遠に分かりようがないってことかぁ……」
『私は、”死“という物語を永遠に持ちえない』
「物語?」
「ここでは存在する概念への信仰そのものだね。現実で絶対に訪れる死を他人事から解釈して、いずれ起こる自分事として語ったもの」
『その私に人間と同じような死を与えたい彩葉の気持ちもわかる。そして私自身も、一度だけ、死を、望んだ。彩葉との、死を』
そっか。
『自分事としての死が何なのかも知らないで』
そっか。
『そう思ってしまったこと自体が
そ……っか。
『今日の朝、また限界になっちゃったらね、テテテがね、真実に話そうって、言ってくれた』
「殴り込んでごめんね真実ちゃん」
『だから話したの。真実に』
「今日の朝って、旅行の初日じゃ……」
『なんとかかぐやには影響でないようにした。それに出発は夕方だったから』
彩葉。彩葉ちゃん。駄目だよ。それは駄目。よりにもよってこの状態のかぐやちゃんを差し置いてする研究じゃない。
「彩葉は研究を中止すべきだと思う」
『駄目なの。真実』
「なんで?」
『彩葉が心身自由に動けるのはあと20年。20年しかない。その間に完成させなきゃ、私は彩葉との死を迎えられない。その先に待つのは、本物の永遠。本物の孤独。
……ちがう。そうじゃないよかぐやちゃん。
「それでその20年もの間かぐやちゃんが精神限界で居続けるならなんの意味もないよ! なんのための研究なの? 誰のための研究なの? かぐやちゃんが心身健康でいなきゃ……」
『はぁ〜あ、まみまみもそう思うよねぇ〜……かぐやだって、そう思ってる』
「この一瞬を、最高の、パーティにしよ? かぐやちゃん」
『……ははっ……代償が永遠の孤独は重すぎるなぁ……』
「そしてそっと、同じ明日へ、地図を、繋ごう?」
『……ねぇ、心揺らして、笑顔もシェアして、ありふれてる好きなものに、ずっと、まみれて……』
「かぐやちゃんの好きなものは?」
『……私はわたしのことが好き』
「かぐやちゃんが愛してるものは?」
『……彩葉』
「今かぐやちゃんが大好きなかぐやちゃんから離れてるのは?」
『彩葉』
「今かぐやちゃんが大好きなかぐやちゃんが離れたくないのは?」
『彩葉!』
「今のかぐやちゃんの答えは?」
『彩葉に、研究を中止させる』
「未来の、かぐやちゃんの答えは?」
『強く強く、後悔する。だけど』
「この一瞬が、最高の、パーティなんだ、よね?」
「これ
かといって、たった今これを知った私に策があるわけもなく。
『真実』
な、なに? ヤチヨちゃん。
『どうしよ』
「……私たちも、どうすればいいのかわからないんだよねぇ」
「テテテは、どうしたいの?」
「私はあくまで調停者だよ。どちらにも
「だけどヤチヨちゃんを私の元へ連れてきた。かぐやちゃん側に立つって、こと?」
「人間の思考を二元論に当てはめちゃうのは危険だよ? それに私だって、明日には彩葉ちゃんの肩を持つかもしれない」
「わかった。だけど一旦陣営分けしないと正直私分かんなんくなっちゃう」
「解りにくい
「私は
「取り込まれないよう用心してよ?」
「危なくなったらテテテが助けて」
まずテテテは完全中立の調停人。事態を解決し陽香ちゃんにとって安全な酒寄家を組み立て直すのが目標。臨機応変に立ち回るから、ある意味彩葉側とかぐや側どっちにも傾きうる天秤。本人も自身を信用するなと言っている。
そして私諌山真実はかぐや側。彩葉に研究の中止を求める陣営の
だけどかぐやちゃん、つまりヤチヨちゃん自体は彩葉と私のどちらにつくか揺れ動き中。そしてかぐやちゃんは彩葉に対して一部の情報を
芦花が、分からない。少なくとも陽香ちゃんが一番心を開いてるらしい芦花。ある意味テテテ同様中立かも。つまり中立はテテ芦花陽香ちゃんの3人。
そして研究続行陣営の彩葉。少し前かぐやちゃんに確認も取らずに独断で義体老衰死化研究を始動させた。それに反対する私。たとえ大好きな友達だとしても、これは流石に見過ごせないよ。友達だからこそ、ちゃんと諌めないと。ちなみに研究中止陣営から彩葉への情報の流れは秘匿記憶庫に遮断されてる。
えっと、つまりこれは、彩葉と私の喧嘩……ってこと?!
「
「良いかな
「これの
『どうなるにしろ私が傷つくこと』
そう……だね。
『あとテテテの知ってる彩葉陣営の情報は私ヤチヨから仕入れるものばっかりだから、ある程度偏りがあるかも』
「そっか、そこも繋がって……真実テテヤチヨ同盟、
『彩葉』
「……こんなの、誰が優位になっても全員傷つくし、誰も正しくない。今の
『どこ向いたって正しくないから、どちらの損失がより少ないか。もうそういう次元になってきてる』
「それをヤチヨちゃんは測りかねてるよね。過去への自責か未来の孤独か。まださ、策を考える段階じゃないよ」
『そう言ってたらこんな時間経っちゃった。彩葉の研究人生も中盤、期限は20年しかない』
「
「事実にゃ遠慮も忖度もないからねぇ……」
「
テテテのその声はひどく落ち着いていて。
「ごめんね。私の償いとはいえど、ヤチヨちゃんと2人で秘密、抱え続けるのは、やっぱり、しんどかった」
「……これをテテテが私に伝えられたことそのものが、きっと一番大きな策だったんだよ。その先に何があるか分かんなくても、ほら。道だけは伸びてる」
「うん。とりあえず私たちは、その道を歩くために密に連絡を取り合おう? 真実ちゃんの迷惑にならなければ良いけど……」
「今更迷惑がどうこうなんて、
「仲間?」
「彩葉も芦花も変になってたのは分かってたんだぁ。彩葉はまさかのマッドサイエンティストになっちゃったし、かぐやちゃんもあぁだし、芦花も芦花で彩葉居るのにわざわざテテさん越しに連絡かけてきて気にかけてくれって。やっと私も、同じところに立てるって。変になれるって」
『
「いつかちゃんと4人で笑い合いたいけどねぇ、直近じゃ難しそうだね〜」
そのまま3人で思い出話に花を咲かせ、気がつけば夜8時。私の愛する家族がいる
「ただいま〜。みんな遅くなったね」
「テテ姉ぇだ」
「ウチは帰りに会ったもんね」
「おぉ寺里さん! 今からどうです? 僕が作った夕食でも」
「ごめんなさ〜い! 実は現在酒寄家みんなでの旅行の最中でして……」
そういえばこの人旅行中なんだった。思い出話に夢中ですっかり忘れてた。
「わぁそれなら早めに出ないと終電ですもんね〜。ちなみにどちらへ?」
「諏訪ですね〜」
「良いですね〜帰ったらぜひお話聞かせてくださいな〜」
「夏まで連絡できないですけどね〜」
それを連絡不可なはずの酒寄家のテテさんが言うんだから、情報はめちゃ
「テテ姉ぇまで酒寄家入ったん?」
「そ〜なのソウくん」
「ブラックホールかよ」
言い得て妙だよハハ。ハハじゃないが。
「ここちゃんは最近どうなの〜?」
「一人暮らししたい!」
え?! ここちゃんそうなの?! な、なんで??
「まだ中3かぁ、あと4年だね」
「彩葉さんは高1で家出たってさぁ」
「彩葉は参考にしないで〜! ママがダメって言います!」
「えぇ〜、ぶー」
「えっと、それじゃ、テテテ、お
「パパ! テテさん駅に送ったげて!」
「りょーかい。車出しますよ」
「お気遣いありがたいです〜」
テテさんとここまでの家族ぐるみの仲になったのはちょうど私たちが結婚したあたりだったっけ。それ以前はテテテと元から知人の彩葉絡みでちょくちょくコラボったりしてたけど、ここまでめっちゃ仲良くなったのは彩葉達より先だとおもう。
パパとの、高校の頃から付き合ってた私達の結婚がお互い22歳で、出産が23歳とかいうかなり早期だったから、ネット上であらぬ妄言やらなんやらが広まっちゃって、当時の私は精神的にかなり参ってたな。
リアルじゃ実家からの引越し直後で心細かったし、パパががっつり子育てしてくれるとはいえやっぱり双子の育児はキツかったし、グルメインフルエンサーの職をどういう方針で続けるべきか、あるいは引退すべきか思い悩んだりして。彩葉はかぐやちゃんの義体開発で超多忙、芦花も大手美容系企業の広告に
そんな時にテテテさんが色々アドバイスとか妄言の火消しをしてくれただけじゃなく、それどころかまさかの、双子ガチ育児中の一番大変な時期の家事まで無償で泊まり込みで手伝ってくれた。
出産前にお腹にいる子が双子と判明した時から子供たちが幼稚園に入園するまでの4年近く。寺里さんが26歳から30歳になるまで。
離れを建てたのも実はテテさん用だったりする。子供がいないはずのテレリリ・ティートテートの配信に赤ん坊2人の泣き声載るのは色々まずいでしょ?
テテさん自身は子供達との触れ合いを全くせず、あくまで私を子供達の面倒に専念させてくれて、対価払うと言っても頑なに拒否られて、「他の人に頼まれたら
体の面でも心の面でも、感謝しても仕切れないほど本当に助けられた。もう14年も前になるね。
ママ向けグルメインフルエンサーへの方向転換を提案してくれたのもテテさん。おかげで新規ファン、つまりたくさんのママ友やパパ友とも繋がれて、一番しんどかった時期をみんなで乗り越えられた気を持てた。
本人は何もしてないよって言うだろうけど、この子達がこの歳まで生きてこれたのは、私だけじゃなくてテテテさんのおかげでもあるんだ。だから今度は私が、今しんどい思いしてるテテテを助けたい。
みんなで庭に出てテテテを見送る。あたりはもう暗闇。諌山家の周り、森と畑と小川だからなぁ。虫が出るのはもう慣れた。
「また夏に〜!」
はぁ。テテさん、今から諏訪に行ける電車あるのかな……終電逃したらしんどいだろうなぁ……
「諏訪って甲府の方でしょ? 夜8時なら別に電車まだあるでしょ」
流石ソウくん。電車にお詳しゅうて。
「まぁ、大丈夫だよね!」
「ここちゃん、一人暮らし、したいの?」
そんなこと、ここちゃんの口から初めて聞いたから一回真意を探りたい。
「……なんとなく」
「ここちゃん、一人暮らしはなんとなくじゃ出来ないよ?」
「だから彩葉さんに訊く。夏に」
そ、そっかぁ。その程度の具体案があるなら、まだ見守っていても良いかなぁ。彩葉なら多分、高校生の一人暮らしに否定的になってくれるはず。
「そっか、じゃぁ夏になったら彩葉さんに連絡しないとね」
「あの女の子さ、酒寄で暮らすんでしょ? もう家族ってこと?」
「多分ねぇ〜。わかんない」
「え? その子の話をテテ姉ぇとしたんじゃないの?」
「それは本題じゃないってテテテさん言ってた気がするよ?」
「ちぇ〜情報なしかぁ」
この子はいつからこう、真相を知りたいからって話術でうまい具合に人を
昨日今日と、ここちゃんに説教ばっかでなんかやだな。それにソウくんにも構ってあげられてない。あの子優しいけど変に臆病だし思春期で女の人への恥じらいもあるみたいだし、もうパパに任せても良いのかもなぁ。
「これ見て。寺里さんから送られた、みんなの夕食の集合写真」
「おぉ〜みんないるいる」
パパが見せてくれた写真に写ってるのは、両側から芦花とテテテが挟むように彩葉とかぐやちゃん、彩葉のスマホにヤチヨちゃん、そして、真ん中にちょこんと座ってるのが、噂の陽香ちゃん、かな?
「ママ〜みしてみして〜」
「待ってこころ、一応見せて良いか彩葉さんに訊くからね? いい?」
「それなら既にOKって来てたよ」
「俺も見たい!」
一気にわらっと寄ってくる。暑いって。だけどその熱さは明らかにここちゃんからのものだった。口に握り拳を当ててボソッと。
「待っ……て、可愛い……」
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