「今日さ、電話でさ、かぐやのこと、娘って、言ってたよね」
「そうだね」
「……来ちゃった。この日が」
「……私が高校生、アンタが赤ん坊として初めて出会った時の関係に、戻ったんだね」
「彩葉にとってのあたしが、娘になって、孫になって……」
「うん」
「彩葉の体がどんどん衰えて……」
「生き物……だからね」
「この8000年の間、今まで何万人も、女の子がお母さんに、お母さんがお婆さんになるのを見てきたけど、彩葉は、別だよ……」
「……別であって欲しいけどね。別じゃないと思う。私も一人の人間だよ。生老病死の四苦からは、どんなブレイクスルーを起こしたって、絶対に逃れられない。逃れてはいけない」
「かぐやは慣れたわけじゃない!」
私は彩葉の腰に正面からしがみつく。寝転がり絡み合う。私の8000年のうち、たった数十年だけ、やっと絡み合える2人。
「彩葉……死んじゃ、やだ……」
「……かぐや、かぐやは、いつか、死にたい?」
その言葉を、甘い誘惑の夢物語を捉えるのに時間がかかり、彩葉の顔を見上げる。
「……あたしが?」
「私たちは、いつか死ぬしか選べない。でもあなたは、死ぬか死なないかの選択ができる」
「……もう、わかんない……」
「答えるのは数十年後でも良いし、私が死んだ後も、ずっとわからないままでも良い」
私は、死をなんだと思っているんだろう。今、確かに甘い誘惑だと思ってしまった。
散々死を見てきた。あらゆる死をさまざまな形で大量に。だけど8000年経とうが未だにわからない。彩葉の死が、私の死がなんなのか。他の人達の死となんら変わらないようにも思えるし、二度と取り返しのつかない絶望のようにも思えるし、私のそれは、たった一度だけ訪れる希望のようにも、思えてしまう。私は他の人となんら変わらないその希望を、絶望を受け取るか否か選択できてしまう。できて、しまうのだ。
いっそのこと生物みたいに逃れられないものであってくれれば、どんなに……
「……もし、かぐやが私たちと一緒に、老いさらばえることを望むなら、その準備は出来てる」
「どういうこと?」
「かぐやの義体に、老いを実装できるかもしれない。
「そんなのに国とか企業の資金出たの?」
「出ない出ない。そんなわざわざ自分達の出資した成果を退化させるようなマネに。だから、自費」
「でも、老いるってことはつまり……」
「……ははっ……さすが、ヤチヨ。よく考えて?」
「一度老い始めたら不可逆で、結局死ぬまで老化のフェーズは停止不可能ってこと?」
「まぁ生物がそうだからね。もちろん機械にも寿命はあるわけだけど、それをよりバイオロジックなものとして演出表現できる方法を探してる」
「人として生き、人として老い、人として死んで欲しいから?」
「そうだよ。もちろん月人の立場からしてみたら、私は
「そんなこと、月人のかぐやは思わない」
「ほんとに思わない? 他の月人には無かった理不尽を自分だけ抱えさせられるの。自分の好きな人に、自分や周りと同じになって欲しいと言われて、そんなアンスト出来ない重大な
「そんなものすら受け入れる覚悟がなけりゃ2回も地球に来ないよ。地球での複雑で一回きりの自由な人生、私は確かにそれに憧れたからここにきた。だから。待って、はぁ……ごめん……」
「いつまでも、待つよ」
「……あの子を助けたのもね、あたしの中のね、私がウミウシ姿で何をやっても、誰も救えなかったって、みんな死んでったって、そうやって積もった後悔をさ、現実にいる私が晴らせるのは、彩葉が元気な今だけって、そう、思ったからなの」
「そうだったんだね……良かったらさ、陽香ちゃんとの馴れ初め、聞きたいな。初めて会ったの、いつ頃だったの?」
「一週間くらい前かな……いつもみたいに公園で遊んでたらね……」
新しい朝が来た。希望の朝だ。喜びふにゃらら〜……なんだっけ。ほんっと、テキトーだなと
陽香ちゃんはかなり早めに家を出た。ウチのあるここ立川から、お父さんの留守電を確認するために芦花とともに一旦橋本の実家に向かって、もう一回立川の中学に行くみたい。この行程の全区間が定期有効で良かった。出費0。
そして芦花はどうやら朝早くに橋本に向かったその足で、テテテのところに行くという。事務所でまた揉めたのかな。もしくは、陽香ちゃんのことか。
テテテさん、この間児童心理士の資格を取ったって言ってたし、芦花が独断で相談の約束を取り付けに行っててもおかしくない。テテテはいつもはほんわかしていて明るく
そして彩葉はというと、かぐやのKG型ボディのメンテナンスのために、あたしとともに電車で駒場に向かっている。片道一人462円。彩葉は定期を持っているから良いものの、別に東大の関係者でもなんでもないあたしの分はしっかり運賃を取られる。あたしは、かぐやは人間なんだぞと、どこか誇らしい気持ちで1000円をチャージする。危ねぇ残金6円だった。
少し年季の入ったいい感じのお店が並ぶ吉祥寺で乗り換え。いつものようにぱっぱと乗り換えんとしてたけど、彩葉が出口へ手招きする。なんか見つけたの?
「たまにはさ、遠回りもいいかなって」
そう言って彩葉が連れてってくれたところは、大きな池のあるでっかい公園だった。
「もう桜散っちゃったけど、やっぱり良いね」
「武蔵野って感じがする」
「どんな感じよ」
そのまま2人で黙りこくって歩いていた。池からの風が少しひんやりしてて心地いい。だけど水辺にはよう分からん虫もつきもので、息を吸うとたまに鼻や口に入ってくる。ツクヨミにバグは起きてもガチの
時たま私は、この10年が本当は夢なんじゃないかと恐ろしくなることがある。8000分の10なんて、所詮白昼夢程度のものでしかない。だけどそんなものをいつか必ず喪うことを、私にとっては安心できるはずのその既定事項をたまらなく恐れていたのだ。昨日までは。
「うげぇ変な虫入ったぁ〜」
「水辺だもんね〜後で掃除しよっか」
「うん! 鼻掃除!」
「耳掃除とはよくいうけど、鼻掃除とは言わないよねぇ」
「鼻掃除ってより、ハナホジだ!」
意識的に彩葉の娘を演じてみる。これもこれで悪くないね。
研究室に着いて、彩葉が主導する最先端の義体工学研究、その成果物たるこのかぐやちゃん自らみんなに挨拶する。話題は
研究室のみんなはとても思慮深く優しい子達ばかり。機械に命を宿す研究をしているのだ。みんな命とは意思とは倫理とはなんたるかを考え尽くしている。それでも答えは出ていない。みな辛抱強くでも着実に歩みを進められる、その上頭も良い。それが3人よれば
あたしは陽香ちゃんの話題で
「あ、ルナルナだ〜!」
ルナラット17号無印。かぐやの義体の研究の時に体を張って頑張ってくれてる機械ネズミちゃん。無毛でピンク色の表皮が可愛らしい。ちなみにこの子で17代目。16代目までの子達はクローンも含めて部品をバラバラにして再利用できるように保管、意識体はツクヨミに連れてきて自由に遊んでもらってる。最近ツクヨミで話題の、見つけたらレアラッキーのネズミちゃんはみんなこの子達。
「そんで隣は?」
隣にも似てる子がいる。ただ少し様子が変?
「ルナラット17号アルファ。17号の初めてのクローン」
「そっか、よろしくね」
クローンとはいえ要は車と同じだ。同じ設計図で全く同じ機械を作るだけのこと。それをちゃんとした生き物でやると色々まずいけど、クローンの本体を構成する全てが完全に機械だから倫理スレスレでセーフという、そんな彩葉の発言を聞いた時には流石にあたしも「ぶっ壊れてんなぁ……」というしか無かった。そしてあたしについても、機械ネズミちゃんと同じことが倫理的にも可能という、当の本人からしちゃどう捉えりゃいいのか分からんすぎる案件で、一回考えすぎでオーバーヒートしたことがある。知恵熱。
「でもこのクローンちゃん、17号ちゃんの複製っぽく無いよ?」
「……老化する機械ネズミ、だから」
「いつの間にここまで……」
「なかなか……言いづらくて。昨日布団で話したこと、あの話題がいつか必ず自然と湧き起こるはずと踏んで、いつか私がかぐやを娘と呼んでしまうその時を待ってた。隠しててごめん」
それを彩葉は、何年間待ってたの?
「ううん、かぐやも、多分突然知らされてたらパニクってたから、だけど昨日のお話で、準備できたから、今教えてくれてありがとう」
そうか。もう動物実験の段階まで進んでるんだ。そうか。あとは私が決めるだけ。そうか、そうか……
「機械の体にバイオ的な病気を発症させることはそもそもめちゃくちゃ難しいから、もしかぐやに、死を実装するなら
「老いて死ぬまでがワンセットなんだね?」
「死を極限まで遅らせることはできるけど、それでも老化は絶対に止まらない」
竹取物語では不死の薬を帝に渡して、それを帝が燃やすんだっけ……じゃぁあたしは、翁から老化と死の薬を貰って、飲むかどうか迷ってるってとこか……
「……不死の存在に老いを実装することは、私はその存在を殺害するってことになるのかな」
「人間と月人じゃ前提が違うからねぇ……数十年後に効く毒薬かぁ……」
正直、この問題はとっとと片付けたいし永遠に先延ばしにしたい。だけどいつか、すべてを解ってる彩葉の死がやってくる前に、私は決めなきゃいけない。
「陽香ちゃんが酒寄家から幸せな形で飛び立つ日が来たら、その日に私は決める。それでいい?」
「もし不幸せな形だったら? もし想定より早すぎたら?」
「えっとぉ……ははっ……どうしようね」
「そんなに自分を追い込まなくたって……私は、いつまでも待つよ? かぐやが待った分だけ、待てるよ?」
「それはかぐやがやだ。期限がないと、動けなくなっちゃう」
「8000年間私のいる時代を目指して耐えてくれたもんね。期限をいつにするかを決めるのだって、いつまでも待てる。そしていつでも取り消せる」
「陽香ちゃんが酒寄家から幸せな形で飛び立つ日。その日に私は決める。お願い。彩葉」
「……その時に決まってなかったら引き続き期限を引き延ばすね」
「……うん」
ありがとう。彩葉。
「さっ、メンテナンス、始めよっか」
「彩葉!」
「ん?」
「……ありがとう」
「……こちらこそ」
鼻掃除含めたメンテナンスを無事に終え、
「生地は桜味っす。上のトッピングは桜葉の塩漬けとさくらんぼっすね。サイドにあるのは桜
「全体的にというか、全部というか……桜葉はしょっぱいけどパンケーキに合うの?」
「ほら! 食べたらわかる!」
そう言ってスマホを持つ彩葉の口にパンケーキを詰め込む。その時に少し見えた、芦花からのメッセージ。テテテと今から陽香ちゃんのことを話すという。わざわざ現実で? とも思ったけど、ヤチヨのいないところで話したいのかな。ヤチヨもかぐやと同じ陽香ちゃん保護賛成派だからね。だってヤチヨはかぐやだし。
「陽香ちゃんのお父さんからの留守電の全文が送られてきた。電話音声からこれを写し切った芦花すご……」
「内容は?」
「高島くんごめん。一旦かぐやと内密な話したい」
「おかわり要るならチャットでよろっす〜」
「他の人にも分けたげて〜」
「俺ばっかり重労働……楽しいからいいけど」
「うーん、これはまた」
「やばそ?」
「いや、こっちからしたら、やばく無さすぎて逆に怖い」
「どゆこと?」
「私の申し出は全面的に受け入れてくれるっぽい。ホットラインの接続と私たちとの対面」
「良かったじゃん」
「ただ、あまりに
「見して」
「ほい」
そこに書かれてた文章はもはや白旗。土下寝までして全面降伏といった具合だ。いや、そこまで酷かないけどね。
「彩葉ぁ、これ要約必要でしょ」
「多分これは元の留守電の内容がとっ散らかってるな。お願い」
「ざっとまとめると、こちらの都合で保護してもらって申し訳がない。陽香がそんな思い詰めていたとは想像が足りていなかった、明らかに自分の落ち度なのに弁護士、ましてや警察呼ぶなどとんでもない、そちらに伺って娘の様子や皆さんの様子を見たい」
……酷かない……わけではない……?
「でも彩葉、これさ、意図的なネグレクトとかではなさそうだよねぇ……」
「いやいや、警察呼ばないって逆に怖ぇよ。心配じゃないんかよ、知らん女3人に娘が誘拐されてると電話きてさ。ただの保護責任の放棄でしょこれ」
「この人もこの人で優しすぎるんだねぇ。相手を立てすぎ自分を下げすぎ。ほんと親子って感じ」
ふぅ。お腹いっぱい。暖色の照明が
「とりあえず芦花のテテテさんとの相談待ちかな」
「ガチな時のテテテめっちゃ怖いけど、芦花がウチらの代わりに
「それは普通に芦花に謝る。私が行きゃ良かったって」
「今からでも行く?」
「あ、そのテテテから連絡きたよ」
『明日の朝、お宅に訪問させて頂いても宜しくて? 皆さんに事情をお尋ね願いたいのです』
「い、い、よ〜」
「こらっ、かぐや!」
「別に断る理由も無いでしょ?」
「せめて敬語で返してぇ〜……」
これでテテテと陽香ちゃんとのラインは繋がったね。ありがとう芦花。あと必要なラインは……
「ヤチヨをどうするか」
「陽香ちゃんに、どうやって説明すべきか……」
────────
ヤオヨロ〜! 神々のみんな〜! 仮想世界ツクヨミの管理人でAIライバーの、月見ヤチヨです! 今日はドキドキ! ある女の子にドッキリを仕掛けちゃいます! え? 大丈夫! 配信とか動画なんて
「おいヤチヨ」
あーっとここでFUSHIに見つかってしまう!? どうするヤッチョ! ドッキリ
「彩葉にも思慮や
「FUSHIも一緒に酢の物にされたもんね。でも姿見せるくらい良いでしょ? もう我慢出来ない!」
「お前と言う奴は……ボクは今から彩葉に伝えるからな。ドッキリやってもやんなくてもお前は怒られる。その上で考えろ、ヤチヨの良心で」
でも本当に良くないと思うから動いているのに。
「あの家にいる4人目の家族として、せめて自己紹介はすべきじゃない?」
「お前が現実のかぐやと記憶やらなんやら共有して以降、お前のそれが自己紹介だけで済んだことがあるか?」
「えー! むぅ〜……」
「反論ないならボクの勝ちだが」
ねぇ〜そうこういってるうちにかぐやと……芦花と、彩葉!? 芦花は事務所やめたから早帰りはわかるけど、彩葉は今日も夜9時まで研究じゃないの?! 予定には……予定、変えたんだ。ヤッチョに秘密で……そんな……
「カレンダー変えるの忘れてただけだろ」
くっそぉ〜! もうこうなったら、はい! 一番、
多分今、誰もリモコン触っていないのに勝手に電源がついて、月見ヤチヨのニコニコ顔アバターが無音で映し出されるという恐怖現象が酒寄家リビングで発生してるはず。リビングには……陽香ちゃん一人。他のみんなは自室で着替えてるっぽい。本当にモニタリングみたいになってきた。わ、こっち見た。めっっちゃギョッとされて、こんなことやっぱ辞めときゃ良かったと、今更過ぎる後悔で渦巻く。ただ? ただ? お? 近づい……て、引きで見て……興味は持ってるっぽい? ん? 画面を指でトントン叩いてる。もしかして、タッチパネルだと思ってる? そっか、彼女の家、画面の
あ、
彩葉。
えへ、えへへへ……ピース。
「ヤチヨ、ちょっと裏」
「ヤッチョ画面から出られないのヨヨヨ」
「屁理屈はだめぇ〜どういうつもり〜?」
「初めまして! ヤオヨロ〜! ツクヨミ管理人でバーチャルライバーの、月見ヤチヨです! 良かったらあなたのお名前、教えてくれる?」
「ツ、ツクヨミの、か、管理人?!?」
そういえば管理人って肩書き、結構デカいのか。AIという対外向けの肩書きを名のらなかったのは陽香ちゃんが身構えないようにするため。ほらぁ、ヤッチョにも考えはあるのですよ。そんなFUSHI、お尻向けないで。
「は、はい、えっと」
「はいストップ! 権力を大手に振ってる人間を簡単に信用してはいけませ〜ん!」
「彩葉! ほんとに!」
「はいはい嘘嘘。ヤチヨはちゃんと信用していいよ。ツクヨミの創設者かつ管理人で、有名なネットサービスは大体ヤチヨ
「そもそも起こりようがないのです☆」
「えっと……七村陽香です」
知ってるよーん。全部知ってるよーん。やっと知れたよーん……あなたの存在を、かぐやとして、9日前、やっと……
私はかぐやのなんなのか。
突然ですが、月見ヤチヨとワクワクおさらい!
ほんとのところ、そもそもかぐやが私の現実側インターフェースで私の別人格。正味ぶっちゃけるとかぐやの方がヤチヨなの。だから質問を少し変えてみるね。
かぐやは私のなんなのか。
ここで一度ツクヨミに目を向けてみて。現実かぐやの義体がスマコンをつけてツクヨミに入ると、ツクヨミの中にいるかぐやとしてサーバー側には認識される。ツクヨミ内のヤチヨが本人格の本垢なら、ツクヨミ内のかぐやは別人格専用の裏垢みたいな。そして私ヤチヨは現実に肉体が無く、思念体オンリーでツクヨミに生きている。
ただ互いの思考回路は同一人物“かぐや”のもの。かぐや人格が受肉してるKG型義体のそれは、“もと光る竹”からの通信と彩葉が開発したかぐや専属対応型意思決定AIによる予測と生成によって成り立っている。そしてヤチヨ本人格のそれは……えっと、前言撤回。私の肉体は“もと光る竹”そのもの。その内部にあるデータの蓄積と演算そのものが、私の思考回路。“もと光る竹”そのものに五感はないため、現実に肉体は無いと
「だからさ、ヤッチョがこうやって家の中の電子機器を自由自在に飛び回れることは早めに知っといた方がいいでしょう?」
「なんの“だから”かさっぱりだけど……陽香ちゃん、こんなのが家にいます」
「こんなのって何よ〜!」
「受け入れられないかも知れないけど、理解はできる?」
「まぁ、一応。なんで有名? な人がここで色々してるのかがよくわかんないけど……」
「有名な存在がここで好き勝手してるって言うよりかは、どこでも好き勝手できる存在が有名になってるってだけかも……ね。ヤチヨ」
「痛いとこつかないでぇ〜とりあえず、ヤッチョの存在を陽香ちゃんに知らしめたかっただけだから、これからよろしくね〜! そいじゃ、これにてさらば〜い!」
「待って!」
へ? なに?
「聞こえ……てたの? 今までの」
彩葉が今まで見たことないほど苦い顔をする。この家で起きた出来事はかぐやのKG型義体のアーカイブを通じてヤッチョが知ってるどころか、そもそも家電からすら全部筒抜けとか。IoT化社会のド弊害ですなぁ……まぁ彩葉に会うためにこの国を”そう”したのは他でもないヤチヨなんだけど。苦虫噛み潰してる彩葉をかぐやと芦花が慰める。
「みんな、日本全国のみんな、これが当たり前すぎて誰も意識もしてなかったねぇ……彩葉」
「そういえば陽香ちゃんち、ヤチヨが入れる家電はあれど、ヤチヨからのコミュニケーションは取れない家電ばっかりだったよね。コミュニケーション取るにはスマホ必須だから」
「……」
「彩葉?」
「こんなことすら意識から抜けてたら、陽香ちゃんを守れない……」
「いや、別にそういうつもりでは……」
「ごめんなさい、陽香ちゃん。一番最初に説明すべきだった。秘密と思っていただろうことが秘密じゃなかったなんて……とんだ……卑劣な……」
「あの」
「でもごめん。ヤチヨという監視者の存在はあらゆるインフラや家電の前提過ぎて、ウチからはもうヤチヨを排除できない」
「あの!」
私はこのドッキリの発案実行者として、前が見えなくなってる彩葉に喝を入れる責任がある。
「彩葉! 次陽香ちゃんの番!」
「あ、でもそうだ、入力マイクが付いてない家電からの音声入力はできないから陽香ちゃんのお家のことはヤッチョもなんもわかんなかったよ(早口)」
「「「ヤチヨの番じゃないでしょ!!!」」」
陽香ちゃん以外の3人から一斉に怒られちった。FUSHIは愛想尽かしてもうどっか行ってら。おつ〜。
「ふふっ……ひひひっ……!」
陽香ちゃんが声殺して笑ってる! 見て! みんな! ルックアットシー!
「あーもう、なんでこの2人といるとこんな面白くしかなれないの」
「酒寄家は今日も平和で〜す!」
「陽香ちゃん、笑い終わったら、何が言いたかったか、ふふっ……聞かせ……あーもう! 笑い吹き出る!」
みんなどか笑いだ。一昨日はみんなどか泣きだったね。明後日はどかなんだろね。
「こんな人が見聞きしてるならもうなんでもいいや!」
「陽香ちゃーん! 大好き〜!」
「ヤチヨ調子乗り過ぎ〜」
「醤油」
また笑いが爆発してる。今日はこのまま夜までみんなツボり続けて、笑い疲れて雑魚寝してた。その結果陽香ちゃんは宿題を終わらせるために朝早くに起きなきゃいけなかったのは、このヤッチョだけが知ってる話。
────────