「かぐや! ふっ・かつ!」
「なんとか上手く行った……」
「ねぇ! 大型アプデでしょ!? アプデ内容なに?!」
「……おっけ。それじゃぁ、このお湯に手を入れてみて」
ちゃぽ。
「しばらく待って」
「ねぇ、まさかとは思うけどさ」
「出して。手を広げて」
「彩葉?」
「指の腹見て」
「見た」
「しわしわでしょ」
「しわしわです」
「それ」
「……2つ目はぁ!」
「それです」
「3つ目」
「それです」
「嘘でしょ?!」
「お湯につけるとふやける指」
「……時間がなかったとか」
「かぐやが倒れてからたっぷり1週間はあった」
「準備不足だったとか」
「前回の大型アプデから2年経ってる」
「指の、ふやけ? なんで?」
「皮膚にできるシワの研究」
「……機械義体の老化のやつ?」
「うん」
「……なるほど」
「嫌だった?」
「ううん。期待してる」
嘘だ。
「久しぶりにみんなと逢える!」
「先週ぶり?」
『ヤッチョは〜1日ぶり〜』
「うおぉびびったぁ……」
「おはよ。ヤチヨ」
『彩葉〜全然寝てないでしょ〜運転はダメだよ〜』
「ここに置いてくのー?」
『窓割ってハンドル奪って掻っ払ってく泥棒がこの東大駒場にいると思う〜?』
「いないと思うしそこまで想定してないし!」
『あとそうだ〜先週の例の会議の議録をもっかいリマインドするから帰宅中に全員読み込んで〜』
「オッケー」
『そいじゃ、ひとまずさらば〜い!』
「みんな朝帰り中?」
「彩葉、目ぇ覚まして、みんなただの出勤中だよ」
「まぁいいや、寝るか」
「次吉祥寺だよ。終点だよ。乗り換えるよ。降りるよ」
「ここ並ぶか」
「そこグリーン車だよ彩葉! 乗るならチケット買ってよ!」
「かぐやお願い。買っといて」
「次立川! 降りるよ彩葉!」
「うぇー眠いよぅ」
「もう知らないよ彩葉!」
「……ここどこ?」
「大月。もう真実ん
「真実ん家終点にあって良かったぁ……」
「彩葉ぁ〜目ぇ覚ましてぇ〜……」
「それでうちに来たのね」
「そ。眠い」
「パパも出勤したし子供達も学校だからつまんないけど、静かだし、寝るにはちょうどいいよ〜」
「ごめんねぇ真実〜」
「起きたらお昼ほうとうにしよ?」
「かぐやも作る!」
「Ex-HotoZukuriはかぐやちゃんありきだからね〜」
そこからの記憶はなく、多分寝てた。床や壁、
目が覚めると目の前に真実の怒りんぼ顔があった。びっくりしてのけぞる。まみまみがプンスカ怒る時はいつもほっぺ膨らませ口すぼませ。
「彩葉ちゃ〜ん! 流石に夕方まで寝こけるなんて聞いてませーん!」
「うっわやらかしたほんとごめん! え、どうしよう。やだ。恥ずっ!」
「いいよいいよ。僕だってもし徹夜明けならぐっすり寝ちゃうよ。いいだろうママ」
「もーパパの顔に免じて許すだけだからね!」
「ほんとごめん真実。あれ、かぐやは?」
「そうくんと庭遊び」
「2人とももう14歳だっけ」
「そうくん声変わりでね、ちょっとピリピリしてるの」
「声変わりで?」
「パパ! 言ってやって!」
「それはそれは残酷なんだぞ……この間まで綺麗な裏声が出てたというのにある日突然」
「パパ〜! あ、こんちゃ……」
「おはよ」
「へ? いろ姉ぇ?」
「彩葉ちゃん。彩葉ちゃん基準で挨拶しない」
真実が私のことまでちゃん付けで呼びはじめたのは、あれはいつだったか。
「なんだぁ〜そう〜パパだぞ〜」
「かぐ姉ぇが一緒に遊べって〜」
「なんだなんだ、今度は何を僕にさせる気なんだ」
「あれ、ここちゃんは?」
「部活〜。後で迎えに行くの」
「寝ちゃったお詫びに私も行くよ」
「お詫びしたいならまずよだれを拭こうか」
う〜ん、
「ねぇ、私恥の上塗りしてない?」
「ニスの上によだれは塗ったね。水雑巾これ。いろP取って!」
「よし! キャッチ!」
「このノリよ。うちらも14歳とそう変わらんねぇ」
「私たちが変わらんだけじゃん?」
「それはそう。そうだ、最近なんか大変なんだって?」
おっとどっから漏れた。
「誰から聞いた?」
「テテテちゃん」
それはさすがにそうテテがい。
「テテテテテ?」
「テテテテテ〜」
「なぜテテテ?」
「なんか領分がどうとか」
「はぁ。なんて来たの」
「もし彩葉ちゃんが来たら
「メッセはそれだけ?」
「お? それだけだけど、ほんとなんかあった? 私のよしよしをスルーは変だよ?」
他人を巻き込みたくねぇ……
「とか思ってるんでしょ。バレてんだからこっちにゃ」
「恐れ入谷の鬼子母神……」
「ほんとどうしたの? ボケ多すぎるよ。ツッコミきれないよ」
うーんまみまみに隠し事は無理か……
「言って? 彩葉ちゃん。あっためたEx-Hotoでも食べながら」
「……最近ツクヨミ入ってる? うわ、うんま」
「全く入ってないや。なんかあった?」
「……この間ツクヨミが危うく落ちかけてね」
「ネットニュースになってたね。予告ないメンテ、しかも
「それの引き金を引いちゃった」
え、何その眼光。鋭いって。まみまみのエクボを溜めたふんわりほっぺが可愛い。いや、これは口元結んで真剣な表情なのか。
「彩葉が食べながら話してる時は本当に疲れてる時。それもずっと前からの疲れ。昨日今日の話じゃないでしょ」
あぁガチの時のまみまみだ。
「1週間ぶっ続けでの研究でちょくちょく徹夜してたからねぇ」
「ヤチヨちゃんは注意しなかったの?」
「……スマホの電源切ってた」
「お?」
「……ヤチヨに、顔向けできなかった。電源切ってる時は大抵徹夜中だし」
「ねぇ、かぐやちゃんと、なんかあった?」
「なんかあった。これ以上は機密事項だから言えないや」
「私は研究の内容が気になるんじゃないの彩葉ちゃん。それにかぐやちゃんの様子も変だった」
「え?! かぐやが!? 何が、どう?!」
「今の彩葉みたいに異様にハイテンション。そうくん見つけて犬みたいに駆け寄って。かぐやちゃんまでそうなるって、何かあったよね」
「うーん、バグかにゃぁ〜、調べとくよ」
「彩葉ちゃん」
「……ごめん」
「テテテさんからこうも来た。私への連絡は芦花が勧めたって。彩葉と一緒に暮らしてるのに、ここまで遠回りして彩葉を心配している芦花も変。彩葉も変」
「うん」
「私だけ仲間はずれは嫌だよ。2人が変なら、私も変になりたい」
ここ2週間で心臓の脈動回数を大量に消費しちゃったような気がする。こんなところでドクドクしてる場合じゃないのに。
「彩葉?」
かぐやの声。
「ティッシュ。涙拭いて」
「え?」
「彩葉ぁ」
「彩葉ちゃん」
「彩葉、全部話そぉ?」
「やだ。家族も居るのに真実に重荷背負わせられない」
「あのー、ただいま」
「ここちゃん! ごめんママちょっと取り込み中」
「家族って聞こえたし、ウチらのことでしょ?」
この展開は想定外の斜め奥だよ……ズビッ
「またみんなで彩葉さん家行きたい」
「待って! それは……」
「重荷は彩葉さん家にあるんだ」
「こころ! やめなさい」
「彩葉さんが泣いてるとこなんて、見たくなかった」
「こころ? こころは彩葉さんのこと、どう思ってたの?」
「ん……」
「無理なことでもなんでもやっちゃう、賢くてかっこ良くて優しい人。憧れ」
あぁ……うれしいなぁ……私だってそうだよ。泣いてるとこなんて、見せたくなかった……
「そんなふうに思ってたんだぁ。そりゃ解釈違いにもなるよねぇ」
「うん」
「だけど人を騙して情報を手に入れるようなマネは絶対しちゃダメ。そんなことされたら、彩葉さんはあなたに何も喋れなくなるよ?」
「だって10年以上たくさん会ってきて初めて見たんだもんこんなの。早く理由見つけたいよ」
「こころちゃん。不安なの? 彩葉のこと?」
「……てか意味がわかんなくて怖い。何が起きたの? かぐ姉ぇ」
「じゃぁまずはちゃんと状況を人に訊こう? 少し話し方は遅くなるかもしれないけど、彩葉はさ、ちゃんと話してくれるから」
「……ごめんなさい」
「こころ。謝る相手は彩葉さん」
「ごめんなさい」
「いいよ、嬉しいこと言ってくれたねここちゃん。ありがとう」
「んんんむず
「あはは! やっぱこころちゃんだ!」
「彩葉ぁ、大丈夫?」
「彩葉ちゃん。大丈夫じゃないでしょ」
もう、隠せないよ。
「うん……大丈夫じゃない」
「ふぅ……はい、よく言えました」
真実に頭撫でられた。敵わないなぁ。
「……ありがとうね。真実」
「かぐやは思う。最近の真実はママ味マシマシ彩葉に。よっしゃ噛まずに言えた!」
「ママを取られたウチの心中複雑過ぎんだけど」
「私だって変になりたい」
「ママ?」
「あぁこっちの話」
「ママが言うと
かぐやとここちゃんも席につき、ひとまず4人でテーブルを囲む。前もやったなこんなこと。
「今の酒寄家には、かぐやが連れて来た14歳の女の子が暮らしてます」
「こころと同じだねぇ。うん、なんなのその状況」
「その子は橋本で一人暮らしを
「まぁウチも姫の気持ちはわかるけど」
「翁と嫗も
「学校はどうしてんのさ?」
「ここちゃん鋭い。学校も立川にあるので登校時間がめっちゃ短くなりました。中学とも連携済み」
「橋本市? は、なんも言ってこないのかな?」
「まみまみも鋭い。相模原市の緊急連絡先は番号登録してる。ただその前に親権者の父親と直接面談するからそれ次第。あくまで緊急の一時保護の立て付け」
てか父親が公的機関に言うなっつってるからな……利害一致の共犯関係ってか。
「ママぁ、酒寄家行こうよ。女2人だけでも」
「待ってこころ。彩葉、私たちに言えなかったわけ教えて?」
「……もしかしたらその女の子は一週間後に警察か父親に連れてかれるかもしれません」
「連れてかれないかもしれないじゃん。だから存在を言いたくなかったってこと?」
「流石ここちゃん。諌山家となんも関係ないのに、巻き込めなかった」
「何を言ってるんですかぁ」
「パパ」
「二人はもう高校時代からの20年来の付き合いでしょう。知らぬが華と切り離そうったって、ママにあったが百年目。連絡促したって言う芦花さんも、それを見越したんじゃないですか?」
「芦花……そうだったのかな……」
「めっちゃことわざの洪水だぁ……」
「だてに国語科教師やってないんで」
「でもさ、一週間後どうなるかわかんないならさ」
「こころさん」
「……はい」
「陽香さんは、見せ物じゃありません」
「そんなこと言ってません」
「“どうなるかわかんないならさ”。その後は何を言おうとしたの?」
「……会っておきたい」
「どうしてそう思ったの?」
「……」
「すぐに連れてかれるかもしれない希少な人だから一目でも観たい。そんな物珍しさはないって言える?」
私はここちゃんにそれを言った口でかぐやの方を向くと、あいつバツ悪そうにそっぽむく。あんたそうだもんね。ネットもツクヨミも知らんっつう希少性で仲良くしようとしたんよね。テテテにめっちゃ釘刺されたろうし、もう深くは言わんけど。
「ある。けど何がきっかけでも仲良くなれるのはいいことじゃないの?」
「すぐに目の前から消えても? 仲良くなる時間がなくても? 仲良くなってすぐに消えて、相手の心に傷を付けても?」
「彩葉。止まって」
かぐや?
「私はいいよ。壊れたら壊れたってちゃんと確認できて直せる。人間はそうはいかないよ。責められ続けてぶっ壊れても外からはわからない」
「……わかったかぐや」
私たち、みんな未熟な14歳。
「いい? こころちゃん」
「……はい」
「もし酒寄家に来たいなら、夏休みにしなさい。その頃には状況も安定してる。陽香ちゃんがいるにしろいないにしろ。お願い」
「……わかりました」
「真実も。諌山家全員抜け駆けは無し!」
「…………え私!?」
「またしても何も知らない諌山真実さん」
「古いなかぐやちゃん……」
「そっか〜酒寄彩葉、突然の子持ちかぁ。しかも思春期。そりゃ大変だよ。泣きたくもなるよね」
「保護を決めた当の私がまだ思春期引きずってるようなもんなのに」
「彩葉ちゃん、初恋のお姫様を本当に人間にするために頑張ってるんだもんねぇ」
「ねぇママ。思春期ってなんだっけぇ?」
「保護したばっかだからきっと借りて来た猫だろうし、まだ反抗期とかはなさそう?」
「ん?」
「ここちゃんは関係ないよ〜ん」
「反抗期どころか……」
「どころか?」
「そもそも一人暮らしだったから反抗できる相手が居なかったっぽくて」
「それはそれは。半年後が
あの子の反抗期か。誰の何にどうやって反発してくるか想像がつかない。あの子が反抗したくなれるほどの関係と信頼を、あの子が誰かと築いていけたらそれが一番。別にそれが私たちである必要はないわけで。
「真実ぃ。反抗期って親からしたらやなもんなの?」
「月の姫様は反抗期ってか無↗︎邪↘︎気なだけだったもんねぇ」
「邪気がないだけマシでしょ翁様〜」
「いやってわけじゃ無いけどね。でも売り言葉買っちゃって本当に言いたくないこと子どもに言っちゃうとやっぱキツい」
「真実にもそういうことあるんだぁ」
「そんで数週間落ち込む。その後ちゃんと謝ってる」
「ここちゃんはどう受け止めてる?」
「目に見えて落ち込むから許すしか無いってか、そもそもこの間叱ったのいつ?」
「さっきだねぇ」
かぐやと咳き込む。コントかあんたら。
ここちゃんが懲りずに駄々をこねる。この粘り強さは交渉事だと武器になるね。
「え〜せめて写真ないの? 顔見たぁい!」
「誰の顔ですか〜」
「……芦花姉ぇ」
嘘だね。不満げに口とんがらせてやんの。
「芦花のならママのスマホにいっぱい昔の写真あるよ〜ほら」
「……別に求めちゃいないけど……それはそれとしてめっちゃ綺麗なのなんなの……」
だけどここはきっぱり断っとかないと。
「私たちとYさんは、まだ家族になった訳じゃないので、Yさんの写真は見せられません」
「彩葉さんとYちゃんが家族になったら見せられる?」
「ここちんそんなにその子のこと気になんの?」
「え? だって同年齢で違う県に住んでる同性の子ってめっちゃ気にならん?」
「この子根本的に人のことが好きなの」
「しかもママ友の知り合いとか」
「ママに頼るんじゃなくて、自分で見つけた友達は格別だよ。真実と芦花もそうやって見つけて20年一緒だし」
「それでもチャンスは逃せない!」
なんか、かぐやっぽい。かぐや、変なダメージ受けてないといいけど。
「かぐや。出て来て。もう夜遅いし帰るよ」
知ってた。変なダメージをモロに受けちゃったっぽい。どうやら引きこもり癖はヤチヨから受け継いじゃったらしい。だけどね、人の家のトイレには引きこもらないでほしいなぁ〜。諌山家には2つトイレあるから良かったけど。
「彩葉ちゃんの方は事情わかったけどさ、かぐやちゃんの方は本当にどうしちゃったの?」
「今日大型アプデから目覚めたばっかなんだよね」
「心配だなぁ酒寄家。春休み明けたら、お昼なら手伝いに行けるよ?」
「交通費かかるでしょ。悪いよ」
「あ、でもダメだ。抜け駆けになっちゃう」
「確かにそうだ。真実も夏休みまでお預けだね」
真実ったら、ビエーンと泣いたフリしてる。ほんと、かぐや、これ、どーしよ……
「ケホン。かぐやちゃん。帰りたくない? ここで泊まってく?」
「やだ」
「やなんだぁ? それはそれで……じゃぁ彩葉ちゃんとおうち帰ろ? 私も駅まで送るから」
「……かぐや。やりきれない思いがあるなら、ウチで消化しよう? 電車、嫌?」
「違う」
「みんな待ってるよ。芦花も、陽香ちゃんも、なんでか知らんけど
「彩葉ちゃん、それ酒寄家って言えるの?」
「ジェネリックサカヨリ」
あ、ドア開いて出て来た。
「帰ろ? かぐや」
「……なんでかぐやがこうなったか聞かないの?」
拗ねたひっくい声。怒ってるなこれ。
「今は訊かない。かぐやがきちんと話したくなったら訊く。それでいい?」
「めんどくさいからじゃないの?」
「めんどくさかったらこっちで勝手にかぐやをここに泊まらせてる。一緒に帰りたい。かぐやと一緒に、みんなに会いたい」
「……ここちゃんがかぐやっぽくなってるう!」
もしかして、ここちゃんへの、ジェラ……
「人類のことが大好きで! もしもでBETかますのは! かぐやの方なの!!」
シー……
────────
テテさんが酒寄家で暮らし始めて1週間が経った。ねぇ。ここって本当に酒寄家で合ってるよね? 現状酒寄家で暮らしてる人の苗字、“綾紬”と“寺里”と“七村”なんだけど。テセウスの船にも程があるよ。これを許す家主ってナニ?
この1週間の夕ご飯は1日おきに陽香ちゃんセレクト。まだ自分の希望のご飯を選べるようになったわけじゃないけど、目をつむってメニューに指を刺してた段階から一歩進んで、目を開けた状態で指をメニューのランダムな場所に置く練習をしている。テテさん
「芦花ちゃんの絵が可愛い上に食欲そそる〜」
「顔に絵を描きまくってるから慣れてる」
「メイクをそんな言い方しないの〜」
続けてテテさん曰く、虚構の絵から現実の料理を想像して実際の料理を観察することも、物語の前提になる想像力のトレーニングに有用かもと。これはテテさん独自のやり方らしい。陽香ちゃんが初めての実地実践だと。それ本当に効果あるの?
さて、テレリリ・ティートテートの本業は実際のところ本当にVtuber。任意の資格を勉強する様子を長時間配信しスパチャを貰い、無事に資格を取るたびその内容を複数動画で実践紹介するという仕事。再生回数に応じて収入を得ているわけだけど、やはりマイナーかつキャッチーで難しめの資格を取ってみた的な内容のウケが大きく、本人の魅力も相まってツクヨミライバーの三番手を走り続けている。
最近は資格取得ビンゴなるものを企画公開。ルーレットで選ばれた24個の資格を5×5のマス目にランダムに当てはめ、合格したら穴を開けて複数ビンゴを数年かけて目指すという内容で、その中にたまたま児童心理士が入っていたと言う。そしてテテさんは大学でたまたま心理学部を卒業していたため、試験を受けるために必須の学位を偶然有していた。
「だけど最初は動画化絶対無理だと思って、ビンゴの中からこれも編集でボツにしようと思ってたんだよねぇ。勉強配信はともかく、流石に実際の児童を動画に映すわけにはいかないしさ」
「でも配信で勉強してみたらさ、私の知らなかった、知ってたかもしれないけど知ろうとしてなかった辛い現実がたくさん、文字と白黒写真だけで書かれててさ、しんどくなって泣いちゃった配信は放送事故」
「だからこれはお金になんなくても本気で向き合おうって、もし一生児童支援をすることがなくても、私が知ってるだけで、配信でみんなに知ってもらうだけで変わることがきっとあるって。そう願って取得まで走り切ったの。もちろん収益化も切ったし、それでもやっぱり炎上しちゃったけど」
「ちなみにこの資格を取った後にムズめの公務員試験にも合格した上で、更に現場の児童養護施設とかで職員として一年経験を積んだ人が成れるのが児童心理"司"。*1 ほんと、畏敬の念を表するよ」
それで一銭のお金にもならずリスナーの誰一人にも知らせず完全動画外のプライベートで、陽香ちゃんに実践までするなんて。確かに手応えを感じるとニコニコしていたのを思い出す。寺里さんの根っこは情の厚い真面目な感覚派だからなぁ。知識をつけたらそりゃ最強になるわけだ。今日のお昼も「本当にこの言い方で合ってんのかなぁ……」とぼやきながら、自宅から持って来た数冊の参考書とにらめっこしていた。
「テテテさん」
「なぁに芦花ちゃん?」
「本当にありがとう。あの子、めちゃくちゃ明るくなってる」
「そっかぁ。肩の荷が下りたのかなぁ」
「彩葉はいちいち硬すぎだし、かぐやちゃんはぶん回しすぎだし、私はコソコソしすぎだし。あの子の保護の最序盤にテテさんが居なかったら、多分あの子ここでも詰んでた」
「そこがみんなの欠点だし、みんなの良さだよ。えへへ。お役に立てたなら良かったよ〜」
陽香ちゃんは学校で授業中。私は入所予定の事務所とのリモート面接がやっと終わって休憩中。テテさんはこれまた自宅から持ってきた数本分の白ワインのテイスティング中。私も一舐めペロッと頂くか。こっちにしよう。
「テテさんは配信でなんか言及した?」
「諸用で彩葉ちゃん
「りょーかい。でよ、その2人はいつ帰ってくんの……もう昼よ?」
「……芦花ちゃんさ、昨日まみまみに電話するよう言ってたじゃん? あれは一体?」
「真実はエスパーだから。彩葉のことはなんでもお見通しなの」
「流石。エスパー真実」
「あと諌山家にも繋がっておきたかったし。それにあそこ、ちょうど陽香ちゃんと同い年の双子でしょ? 陽香ちゃん本人の行動範囲が”新規の居場所の酒寄家”と”既存の居場所の学校”の往復なら、新しい関係を繋げるのは酒寄家しか無いからさ」
「3人を友達にしようとしてる? 性格合うかなぁ」
「どうだろう。ここちゃんはグイグイ来そう」
「子どもたちの方が親側の作為を感じそうで、ちょっと不安」
「確かに〜。ちょっと考えればわかることが、見えなくなるね」
「それだけ本気になってるってこと。まぁただの心理的な
「オッケー気をつける」
テテさんは考え事をする時に目線を右上にして左手首をくるくる回す癖がある。何を話そうとしてるんだろ。
「芦花ちゃんって計画立てるの好きそう」
「その言葉そっくりそのまま彩葉に横流ししていい?? あの人ほどの計画の狂人はいないから」
「彩葉ちゃんほどじゃ無いにしろね。例えば陽香ちゃんが女王の城壁都市を私たちで作るとして」
ストラテジーゲームか。最近やってないな。ゲーム自体。
「かぐやちゃんは都市の土台そのものを整備して、彩葉ちゃんは表の都市計画で、芦花ちゃんは裏方で城壁を積み上げ続けて衛兵配置して、みたいな」
「確かに、裏でテテさんに相談したのも、テテさんに真実への電話を遣わせたのも私だ」
「防壁と
「配信で久しぶりにストラテジーやるか。自信持った」
「そのイケメン顔でキリッと言われるとボケなのかガチなのかわかんないんだよねぇ〜」
「連絡真実から来た。彩葉は諌山家でよだれを垂らして寝てるって」
「お疲れ様だね。張り詰めてた糸がほぐれるといいけど」
「かぐやちゃんはハイテンションすぎて少し心配とのこと」
「かぐやちゃん本心隠してるね。誰にも心配かけたく無いんだろうな……」
「今日の夕方には2人を返すって」
「待ちますか」
「待ちましょう」
で、夜になっても帰って来ないんで先に3人で夕食とってます。
「これは美味しい?」
「うーん、やっぱりわかんない」
「芦花ちゃんが選んで作ったものはおかわりしてまで美味しくいただけるけど、ランダムにでも自分が選ぶと、自炊どころか芦花ちゃんが作ったものでも美味しさがわかんなくなる。そっかぁ」
「そんな中一人暮らしの自炊なんて、どんな気持ちだったんだろ」
「気持ちなんてなかったかも。ただの作業。口に詰め込むだけの」
「食卓の大事な要素の一つがごっそり抜け落ちてるね。安心」
あ、鍵の音。帰って来たなこりゃ。安心が。
「あいたかっただいまぁぁあ!!」
「混ざってる混ざってる。2人ともおかえり」
「かぐや、りすぽほぉぉぉおおおん!!!」
「ドア開いてんのに大声で叫ばんでと何度言ったら! 地声でめっちゃ通る声なんだから!」
うん。いつもの2人だ。コソッとかぐやちゃんに耳打ちする。
「陽香ちゃんに聞かれちゃダメだから大型アプデの箇所あとで教えて」
「今でいいよ。ほら、指の腹をお湯につけるとしわしわになる」
「……彩葉?」
「だよねぇ! へぼいよねぇ〜!」
「へぼい言うな。テテテさんも、ありがとう」
さぁワタシへの言及を待ってましたとばかりに、テテさんがキュルンとおねだりモードになる。さてはかぐやちゃんから盗んだね。技術。
「ねぇ彩葉ちゃん」
「な、なんでしょ?」
「ここで暮らしていい?」
「……うちは児童館から公民館になったんか……」
彩葉、お疲れ。こうなったらテテさんは止められない。
「てかテテテの本の量だと床抜けね?」
「2階部分に空き部屋あるでしょ? もし床抜けても落ちるのは1階までで他人の部屋には影響しないから〜」
「せめて厳選するとか配慮しようか?!」
……もしかしてテテさん、ウォークインクローゼットの事を、空き部屋って呼んでる……?
彩葉はリビングへと向かって、夕食をモソモソ食べてる陽香ちゃんを愛おしそうに見つめる。
「陽香ちゃん。ただいま」
「お、お帰りなさい」
「彩葉ちゃん、良いかな」
「良いよここで暮らしたってもう!」
「そうじゃなくて」
「あっ……べっ……も〜やらかしたぁ」
大丈夫だよ彩葉。テテさん多分わざと。
「とりあえずカグヤーイーツのメニュー表にランダムに指を置くのは出来るようになったよね」
「うん」
「?」
「複数の中から一つを選ぶ自己選択の練習」
「なーるほど? 確かに。なんでもいいってのとはまた違うもんね」
「そうそう。あと一緒に暮らしたいってのはね、この子の生活を間近で見ていたいってのも理由なの」
「……クランケと暮らせるって滅多にないからねぇ。希少な体験だからってこと?」
「うーん少し違うかな。彩葉ちゃんよりも私の方が陽香ちゃんと交流してた時間が結果的に長くなったわけで」
「うん。そうするとどうなるの?」
「期間的にもこの家で初めて陽香ちゃんが愛着を抱いた人が私になってる可能性がある。ここで私が離れると予後悪くなるかも」
「そしたら陽香ちゃんが酒寄家に話せないこと、テテテにも話せなくない?」
「そこなんだよ。どうしようかなって」
「陽香ちゃんはどう? 寺里さんと離れるのに抵抗ある?」
「仕事も別にリモートでいいし、機器の質めっちゃ良いし、テテテはずっとここに居るのに抵抗ゼロ〜!」
「この人はそう言ってるけど」
「遠くから私を助けるってことができなくなるのが寺里さんが嫌なら、別に寺里さんと離れても大丈夫」
自身の事情より他者の事情を優先する、か。搾取されるだけだけど、大丈夫かな。
「よし。陽香ちゃんがそう言ってくれるなら、そうしよう」
「お? いいのテテさん?」
「うん。全ての選択には結果と効力がある。それがいいことにしろ悪いことにしろ。サイコロは何度も振り直せるわけじゃないの」
ねぇ私にブッ刺さるんだけど。ハズレばっかのサイコロいくつも転がして職場変えてるって
「だけど選択の責任を未成年のあなたが感じる必要は、まだ無いよ。その選択を受けて行動した私に背負わせて? いいかな」
「……はい」
テテさんは自信満々に握り拳で自分の胸を軽く叩く。
「この寺里、週1で様子見に来るよ。どこでも出来る仕事だし、なんならここで仕事したいし、もし通うなら1日分まるまる使える。何曜日がいい?」
「え、他の人の予定って」
「私は平日の昼間は仕事でまるまるいない」
「私も平日は夜まで研究でまるまるいない」
「かぐやはいつでもずっとまるまるいるよ!」
「じゃぁ平日の真ん中の水曜昼頃に来るよ。それでここでみんなで夕食食べてから帰ろうかな。それとも陽香ちゃんは他の曜日がいい?」
「じゃぁ、水曜日がちょうどいいかも」
「オッケー。水曜日はテテ曜日ね」
「かぐや5人分の夕食作んのかぁ。大台突破だぁ」
「それじゃぁね。陽香ちゃん」
「……1週間、ありがとうございました」
「こちらこそ。そしてこれからよろしくね」
「……はい!」
「話したくなったらいつでも芦花ちゃんに電話ねだってね」
「おっけ。大役
「わかりました」
「次に会うのは、運命の日だね」
陽香パパの呼び出し。私と陽香ちゃんは途中抜けして、いろかぐVS陽香パパ、審判テテテで一人の人生の方向を決める本気の論戦。どちらが勝とうと、陽香ちゃんを以前の一人暮らしに私が戻さない。万が一彩葉達が論戦に負けたら、私が陽香ちゃんの家に引っ越すつもりだ。独断だけど、何がなんでもそれを押し通す。
「あとで彩葉ちゃんに連絡送るね」
「おっけ。父親に渡す資料の概要はかぐや入院のついでにまとめてたから、どっかのタイミングでその精査しよ」
そっか。入院って陽香ちゃんのための方便だったね。機械義体の修繕とは言わずに。もしかして陽香ちゃんの一生分隠し通すつもり? あの子の目の前でこの前みたいにかぐやちゃんぶっ壊れたらどうするの?
「あ、そういえば彩葉ちゃんて、今なんの研究してるの〜?」
だよね。テテさんも彩葉に探りを入れてる。
「守秘義務があるので答えられませ〜ん」
そんな誤魔化しはもう限界だよ。彩葉。
「そっかぁ。……残念。じゃぁ、またね〜」
「テテテありがとぉ〜!」
私は好きずきに手を振るみんなを後ろから腕を組んで見ていた。こういう時、進んで前に出る事は確かにあまりしないかも。
裏方、か。美容インフルエンサーってガッツリ表に出る職業なような気がするけど、これも化粧が好きで顔がいいから高校生の頃から続いちゃってるだけで、私の得意分野はもしかしたら全く別なのかな。
「芦花!」
「なーに?」
「ただいま!」
「……おかえり。かぐやちゃん」