「あっという間だった? 2週間」
「うん」
「楽し……かったかな?」
「……嘘みたいだった」
「大丈夫。全部本当のこと。もしこれで終わりなら、いつか、全部忘れちゃってもいいから、この2週間だけは、本当のことだったと、信じていてくれたら、かぐや嬉しい」
「……うん」
「かぐやー! テテテさん迎えて〜」
「オッケー! そんじゃ、あとでね」
「はい」
かぐやはのんびりテーブルに突っ伏し伸びをする。天板を伝って顎から聞こえる物音は少し心地いい気がする。もう思考を放棄しちゃって、左右から聞こえる言葉をそのまま右耳から左耳に垂れ流していこう。
「資料は全部出来てるし私の分は前もって父親に全部添付済み。ヤチヨ〜? ボイスレコーダー頼んだ!」
『ガッテン承知の助さん角さん水戸納豆!』
「彩葉ちゃんは大丈夫? 緊張してない?」
『華麗にスルー……』
「人前の正念場は慣れてる」
「落ち着ける紅茶持ってきたから、本番の時
「ありがとうテテテさん。あとヤチヨは茶化さない! 本当に真面目なやつだから。いい!?」
『そんなんヤッチョが一番わかってる!』
「頼むよほんと。芦花も、途中からよろしく」
「私が一番陽香ちゃんのそばで暮らしてたんだから。頼まれなくたって」
「心強い。そんで、いい? 陽香さん」
「はい」
「私たちは、陽香さんの意思を一番に尊重したい。だけど陽香さんには聞かせられないことも話さなきゃいけない」
「……はい」
「それはあなたのお父さんに対して私が強い物言いをしてしまう可能性があるから」
「そんな暴力はこのテテテが許さないけどね〜」
「万が一がある。そのために芦花と2階で待っててほしいの」
「私の部屋でのんびりしよ?」
「じゃぁ、はい」
「そしてあなたのお父さんが責められてると感じたら、この場に出て抗議するのも自由だし、しなくてもいい。私たちはあなたの意見を最優先にした言動を心掛けます」
「……ありがとう、ございます」
「私たちの義務ですから。でしょ? 酒寄先生?」
「テテテさんの言う通り」
「お父さん、そろそろ立川着くって。いよいよだよ。さっきからかぐや黙ってるけど、大丈夫?」
「……怖い。離したくない」
「万が一父親が警察連れてきたら必ず絶対諦めること」
「やだけど、はい」
やだけどね!? もうそうなったらパトカーに
「偉いよかぐや」
あ、ピンポン来る。鳴るよりも前にダッシュで突撃!!
「はい! 酒寄です! 今開けますね〜!」
「ちょ、かぐや、待って!」
待たない! 鳴ってからボタン押すまで0.2秒! これが俗に言うピンポンダッシュってね?
「どっちかってとダッシュピンポンじゃない?」
「ダッツライト芦花! ちなパパん、ちゃんと一人だったよん!」
「どんなお顔だったかしら?」
8000年の間に蓄積された対人経験則によるかぐやの
「安心してテテテ。めっちゃ優しそう。悪い人じゃないよ。多分」
「だからタチが悪いんだよ……ほらみんな、行くよ。かぐやについてって」
鬼が出るか
「いざ、ゆこうか」
「陽香! 元気そうで良かった! 本当に!」
「お父さん……久しぶり」
「それと、娘がお世話になっております。七村陽香の父親の、七村
まともだぞ。めっちゃくっちゃまともだぞ。これは裏でヤバい奴か……?
「七村陽香さんを本日まで一時的に緊急保護しておりました、酒寄家の家主、酒寄彩葉と申します。本日はわざわざご足労頂き有難うございます。どうぞ中へお入り下さい」
中へ、中……6人で詰まってギュウギュウゥゥ!!
「ダァァ狭いいい!」
「静かにかぐや!」
「陽香、留守電で言ってた、お友達はこちらの金髪の方?」
「そだよ〜! かぐやだよ〜ん! よろ〜!」
「ノリかっる」
いやいや芦花さん! これでもかぐやめっちゃ緊張してんだぞ! ハイテンションマシマシじゃないとやってらんないって!
「どうぞ、こちらにお座り下さい」
「ありがとうございます」
「それでは皆さん自己紹介をお願いします。まずお父様から見て斜め右横に座っております、
「テテテほんとに怖いから気をつけて!」
「かぐや!」
「いえいえ、かぐやさんのお陰でこちらも緊張がほぐれます」
いえいええへへ、そうそう、か・ぐ・や・の、おかげで! もっとほぐれて〜
「そんな酒寄かぐやです! 座ってんのは斜め左の台所の方。そうそうこっち! この中で陽香ちゃんと一番最初に会った人です! あれは3週間前……」
「後に回して」
「えぇ〜そっか! 後に回せばいいんだね! コペルニクス的転回!」
「えっと、もういいや」
あ、彩葉ツッコミ諦めた。職務怠慢。
「そしてかぐやの隣、今お父様と対面しております私は、酒寄彩葉と申します。東京大学先端科学技術研究所の酒寄研究室室長を務めております。本日は主に私から陽香さんに関する様々な事象をお父様にお伝えできれば幸いです」
『あとボイスレコーダーとして真ん中に月見ヤッチョも同席してまーす!』
「会議後に月見が議録をまとめ、この場にいる全員に会議内容が共有されますので、その点ご了承下さい」
「月見ヤチヨさんですか。耳にしたことはあります。エンタメ系で有名な方……でしたよね?」
本当に知らんかったんか。マジかよ。なんか場が凍ってる気がする。父親本人以外全員同じこと思ってるでしょこれ。思わず芦花に目配せをする。綾紬さんはお茶を全員分注いでる途中だけど、そのアツアツのお茶で何とか空気を溶かしてくれと、目力で訴える。
「えー、台所から失礼します。綾紬芦花です。本日は会議途中で陽香さんと共に退出させて頂き、陽香さんの見守りを務めさせて頂きます。宜しくお願いします。あとこちら寺里からの紅茶です。会議中もところどころ休憩を入れてもらえれば。お手洗いはあちらに」
流石芦花ちん。彩葉とは別ベクトルで用意周到。
「わざわざご丁寧にありがとうございます。この紅茶は……ダージリンでしょうか?」
「えぇ。私寺里が先日英国にて購入致しました」
「頂いてしまってもよろしいでしょうか」
「えぇどうぞ。皆さんもどうぞ遠慮なく」
言ったね?! そんじゃかぐや、いっきまーす! あっっっつ!!
「遠慮なくったってね、アツアツのお紅茶を一気飲みで行くやつはおらんのよ」
「めっちゃ美味しい。ありがとテテテ!」
「かぐやさん。
「ムー……ごめんなさい」
やけどしたかも。変な舌を回すなってことかいな。
「そして最後に、陽香さん、自己紹介なさいますか? しなくても大丈夫ですよ」
「えっと……七村陽香です。……」
可愛よ。
「ありがとうございます陽香さん。本日は彼女に関しての議題となります。私たちからも、宜しくお願いいたします。陽香さん」
「こちら……こそ? ……本当にありがとうございます」
「どうする? 2人はお暇する?」
「陽香ちゃん、話したいことある?」
テテテと彩葉が続けて陽香ちゃんに質問を投げる。さぁ陽香ちゃん! 並行処理してみろっ!
「今のところはないかも」
無闇に処理落ちせずに、答えやすい後者だけを堅実に選んで答えられたね。前者はかぐやがパーペキフォローしたげるぞ!
「話したくなったらいつでも殴り込んで! かぐや受け止める!」
「かぐやの言い方は荒いけど、そういうことなので、遠慮せずやってきてね。やめてほしい時は言うから」
「分かりました……」
「行こうか。陽香ちゃん」
陽香ちゃんは芦花と2人で手を繋いで階段を登る。凄い身長差。芦花がデカいだけだけど、このくらい大きくなって欲しいなぁ。この家で。
……こんなことすら、ただのかぐやのエゴになるのかな。なんて、愚痴ったらテテテと彩葉に怒られるから言わんけど。
「それでは、本題に入りますか? それともひとまずアイスブレイクにしましょうか?」
流石テテテ。司会も手慣れたもんみたい。
「選べるならアイスブレイク一択ですね」
ふにゃらと場が和む。一応場が和んだだけで、身体までふにゃらととろけたのはかぐやだけ。みんなは姿勢を正したままの中、頬杖ついてリラックス。
「それでは私から。先日お宅に訪問した際にさまざまなCDや楽譜が収められておりまして、勝手ながら興味深く拝見させて頂きました」
「あれは私の私的なコレクションでして」
他に誰が収集するんじゃいと心の中でヤジを飛ばす。
「お父様が一番好まれる楽曲はどの曲でしょうか?」
「それはもう、マ・メール・ロワの第1幕です」
あ、それって。
「娘が一番好きと言っていたので、アンコールの際は毎度弾いております」
弾くのが簡単だから好きって言ってるだけで本当は別に好きじゃないなんて、そんな残酷な真実、直接父親に言うわけないじゃん。わざわざ言わんであげてる程度の節度はかぐやちゃんにも存在するよ?
「なるほど、ちなみに私酒寄はチャイコフスキーの交響曲第5番第2楽章が好みの一つでして、近いうちに酒寄版のピアノ編曲を披露するのですよ」
「オーケストラのピアノ編曲を新規に! それはまた大掛かりでしたでしょう。どちらのホールで演奏されるのですか?」
「ツクヨミという仮想空間はご存知ですか?」
「……えぇ私の知り合いのオケ楽団員もリモートの際よく練習に使っていると聞きますが、私はピアニストなのであまり縁がないといいますか」
「オーケストラと合わせるピアノ協奏曲などは演奏されないのでしょうか?」
「いえ、ただ私の主戦場がEU圏など海外なこともありまして、文化の違いもあってかツクヨミに入るための器具そのものが普及していないようなので」
『スマートコンタクトレンズ、スマコンです!』
「そう、スマコン。あとは単に私がコンタクトレンズが苦手というのもありまして、敬遠していたと言いますか」
これさ、陽香ちゃんのスマコンとかネット使用断固反対派のかぐやはどっちにつけばええのん。
「えぇ分かりますよかぐやも」
「あんたは毎日つけとったやろがい!」
「バレたテヘペロ!」
「かぐやさん、本当に面白い方ですね」
「パパんに褒められた!」
「そのかぐやについてです。かぐや、出会って1日目のことだけを話して。それ以外のことはまだとっといて」
「オッケー。かぐや公園で子供達と遊んでたらね〜藤棚の下で一人ぼーっとしてた女の子がいたから声かけちゃった」
「えっ? 学校の友達ではないんですか!?」
あっれーそっちー?? や、やっべーかも! かぐやちゃん早々ピンチ!! テテテ調停頼んだ!
「かぐやさんの発言、続けても宜しいですか?」
「え、えぇ」
学校の友達じゃなかろうと陽香ちゃんを助けたくなる動機をなんとか
「それで話してたら陽香ちゃん自分を卑下し出したから本気でまずいって思って。それで友達とも話し合わなくて一人でいるって言うから、話し相手になってあげてた。そっから1週間まるまるね」
「そんな、わざわざ娘を気にかけてくださってありがとうございます……」
「普通に私不審者じゃねって自覚持って女の子に接してたんだけど、今なんか親に普通に受け入れられててビビるw」
「かぐや!」
「だってマジじゃん! このパパんの反応!」
さぁ、ツッコまれるより早く、一息で突っ走れ。
「そんで1週間経って、お母さん亡くなってて弟もじいちゃんばあちゃん家で暮らしてて、あなたも出張で陽香ちゃん一人暮らしって聞いて本気でヤバいって思って、すぐにここに連れてきた。かぐやこれ合ってるよね!?」
「かぐやさん、その行動の是非は今は争点ではありません」
「いえ、間違いありません。客観的に見ればその行動は間違いなく正義の行動です」
おいおい本当に父親かこいつ。
「それではかぐやさんの犯した
「私がその場にいられない以上誰かがそれを為すべきだったと、最近はそんなことをずっと考えていました」
「陽香さんの扱いに葛藤を感じていたと?」
「まぁ端的に言えばそうなってしまいます」
「私の発言への同意だけではなく、あなたの言葉で見解をお聞きしたい」
「寺里さん!」
「……私自身、どうすべきか分からなかったんです」
何を言うとん……思わずヤチヨの映った彩葉のスマホを取ってフリフリ。見えるかこれが!
「んなもん光る板があるでしょ板が!」
「かぐや! 喧嘩じゃない。止まれ」
「……コンサートの予定は一般的に、1年ごとにその年の分が全て決まっています。予定が既に入ってしまっていた上に、その先の数年間も海外からの要望などが増えに増えていて、さらに娘のこととなると、抱えられなくなっていた」
それを聞いて声のトーンを和らげるテテテ。コイツ、ただのアホマヌケの無責任放置野郎なわけではないのか……?
「そこで娘さんを優先しなかったのはなぜでしょう?」
「……亡くなった妻も妻で仕事人でした。その分の喪った金銭面の穴が案外大きく、何とか出来るだけ演奏の仕事を受けて、陽香のために貯金を切り崩していくしかなかった」
「なぜ陽香さんを祖父母や親戚の家に預けなかったのでしょう? 結果論に過ぎませんが」
「祖父母も私の6歳の息子の世話で手一杯だったようで。これ以上は身体的に厳しいと。手の空いてる親戚もおらず……」
「その
「この3年間それをどう解消すべきか悩んでいましたから」
「行政への相談はなさらなかったのですか? 私酒寄は陽香さんとの初対面時から相模原市の相談窓口の電話番号を登録してあります。もちろんそれだけで十分足りているとは到底思ってもいませんが、本来の七村家唯一の成人でもあるお父様も、自治体や国から様々な支援を享受出来たはずです」
「思いつきもしませんでしたし、脳裏にもよぎりませんでした。きっと自宅の高級マンションの環境が、知らずに私たちの選択肢を狭めていたのでしょう」
「その見落としで自作の食べ物の味がしなくなるほど苦しんでいたのは、他でもない陽香さんです」
「そんな、え? ……え?」
「彼女、電話にはいつも、"平気だよ"と、返していたそうですね」
「えぇ、え、陽香、何でそんな嘘を……」
「方便と言ってください!!」
ろ、芦花?!
「それでは戻ります」
ば、バイバイ芦花……
「実際その言葉を、方便のつもりで陽香さんは言っていたのでしょう。それが父親の気持ちの平穏をもたらすと思い至って」
「……」
「えっと、その、味がしないというのは……」
「陽香さんが自炊をしていたのはご存知ですか」
そこすら知らねーとか、かぐやちゃんがぶっ飛ばしたるからな。
「えぇ、毎月帰宅したときに調理器具の洗い物が置いてあるので、私が帰った日は当然私が作っています」
たりめーだろば────k
「ここ最近はデリバリーで頼んでいたそうですけれど」
「えぇ、毎日何かしらの出費は確認していたので、必要なものがあるのだろうと思い、特に気に留めては……」
「気に留めろよ」
「かぐやさん。不要な挑発は控えなさい」
「そんなの……分かってるって」
「でも陽香さんは私たちが作った食事やデリバリーなど他人の作った、または他人が選んだご飯は美味しくいただけるのに、自分自身が作った、またはデリバリーなどのメニューを目で見た上で自分で選んだご飯の味をそれぞれ感じないと証言しています」
「それは……なぜ……」
「私たちは推測しかできません。なのでその原因を突き止めるため、私寺里から、陽香さんの精神科への通院やカウンセリングを強く推奨致します」
「えぇ、承知しました……」
彩葉の眉間が少しピクつく。なーにが承知しました……(ショボン)じゃ。他人事じゃねぇの! あんたの、娘!
「その際の医療代は私たち含めた第三者は持てません。親権者たるお父様の責任でお父様の預金からお支払い下さい」
「えぇ。もちろんそのつもりです」
「金だけ払うってか?」
「かぐや!」
「えぇ……実際にそうなってしまっているし、どうやってそれを正せばいいのか想像がつかないんです……」
何なんだこの人は、いい悪いで測れないってか、どっちにしろ情けないってゆーか頼りないってゆーか……
「陽香さんが持つあなたへの印象は、何とも思ってないと、そう言っていましたよ?」
「そうでしょう……」
「子が抱く親への印象としてあるまじき感情です」
「彩葉さん。勝手な断定は避けなさい」
「……理解しています。寺里さん。ただこれだけはお父様にお訊きしたい。あなたの放った“そうでしょう”の続きの言葉は何ですか?」
「そもそも会う頻度が少ない。何も思われなくて当然ですしそれを糾弾されるのも至極真っ当です」
「そう及び腰なのはなぜ?」
「彩葉さん。人格攻撃にあたりますよ。
「えぇ、ありがとうございます……」
「あんたたち一回休憩したら〜今日雨で低気圧でしょ〜」
「芦花ぁ〜ありがと〜!」
「かぐやちゃんめっちゃ荒れてんの聞こえてたから。落ち着きなされ」
優しめチョップ食らっちゃった。てへっ! っつってチョップに合わせてベロを出す。
「芦花さん、申し訳ないけど新たに飲み物を入れてくださる?」
テテテもすごいな。この一瞬で声質めっちゃ優しくなってる。
「承知。どれがよろしくて?」
彩葉が唾を飛ばさず指示を飛ばす。
「芦花! 緑茶あるでしょ! シンクの横!」
「めっけた! 入れるね〜」
「あと和菓子も棚に!」
「八ツ橋でいい〜?」
「八ツ橋なら宇治茶で頼むわ〜。このかぐや、気分荒れたらお腹空きよった」
「別に宇治茶じゃ無いっぽいよ〜?」
「お父様は西尾派ですか?」
どした彩葉急に。
「え、あ、八ツ橋ですか。あまりこだわりは無いもので」
「私は聖護院です」
「かぐやは井筒!」
「補足すると彩葉さんの故郷が京都なので」
「ちょ、寺里さん!」
美味いなこのお茶。ちゃんと緑茶用に60℃まで温度下げてるお湯使ってる。さすが芦花。
「残念ながら京都で
「本当にピアノ演奏がお好きなんですね……」
「娘をほっとくくらい?」
「かぐや! 場外乱闘禁止!」
「いえいえ、実際そうなのだろうと思い返してます」
なんだこの人、途中で制止されたどんな批判や否定も自分から全回収しに行って、受け止めたふりして受け流すって……コイツ最強の性格か? これならこの人サゲた側も溜飲を下げて満足して、確かに波風は必ず
「鍵盤に触れてる時だけ頭が音楽だけでいっぱいになるんです」
「その心地は私もよく理解できますよ。作曲をかじっているので」
「おぉそれは素晴らしい」
「クラシックのような大層なものではないですけど」
「謙遜なさらないでください。ポップスも素晴らしいと思います。私は門外漢ですけど」
そんならかぐやは
────────
この先何を話すべきか、ヤチヨに確認しよう。
『彩葉〜ヤッチョも八ツ橋食べた〜い!』
「はいはい、これで満足?」
そう言って私はタブレットの上に八ツ橋を置く。ヤチヨはそれをパリパリ食べたフリして満足らしい……タブレットの上に食べ物置くとか汚いかも。今更だけどしょうがないから菌がついてないことを祈って、その八ツ橋を一気に口に入れる。
「月見ヤチヨさんというのは、一体誰なんでしょう?」
そっからなのほんっとやりにくくってしゃーないけどもうしゃーない。
「基本的には動画配信者で、かつ仮想空間ツクヨミの運営者ですね。他にも人工知能サービスもこのように展開しています」
『なんならツクヨミの創造主だよ〜!』
とりあえず2人で
ツクヨミとネット、そして陽香ちゃんの抱える物語不信に関して、ついでにテテテの.txtファイルもこのタイミングがいいかな。さて、かぐやはもそもそ八ツ橋
「さてお父様」
「お父さんとか
「いえ、責任の
「なるほど、理解しました」
「かぐやはお父上って呼んでいい?」
「お、え、あ、はい、ぜひ」
「今のセリフ、ウ段が無いや」
「今のは気にせんといて下さい」
「えぇ……と……」
困惑しますよね、突拍子もないかぐやの発言。よくわかりますよお父様。本当によく。
「さてお父様、こちらのテキストファイル“寺里が示した過去の七村家を推測した見解”、拝読願いたいです」
「以前送っていただいた書類ですね、目を通して答えを考えてきました」
「ぜひ教えていただければ」
そう言ってお父様が胸元から出してきたのが、メモ帳。まじ? マジ??? このデジタル成熟期の2050年に、ボールペンで書く。メモ帳。唖然。
「楽譜へのメモもアナログなので慣れてるんです」
「それで陽香さんのデジタル参入を妨げたことを自覚してます??」
「その辺りも含めて答えられると思います」
「はぁ……お願いします」
「まず、人形は陽香や息子が幼少の頃にはありましたが、息子が祖父母の元へ向かう時に陽香が全部譲ったので現在は家にないというのが事実です」
「その頃から自己欲求を消去して……」
凄ぇテテテ……やっぱ視点が違うね……
「なるほど……弟想いの優しい姉としか思えなかった……」
「ど ん か ん パ パ」
「かぐや! 茶化さない!」
「でも人形を新しく買ってもいないのは何でなん?」
「そう、陽香さんは勝手に物を買っていいのか分からないから買えなかったと、そう証言しています」
「誰が財布の紐閉めてたのさ?」
「それは……亡くなった私の妻です。つまり陽香の母」
「やっぱり」
「かぐやさん、断定にはまだ早いです」
テテテさん、制止にはまだ早いよ。
「何でかぐやは納得したの?」
「彩葉も七村家行った時わかったでしょ? 陽香ちゃんがあんなに楽しそうにクラシックの話して。普通自分を放置してる親の仕事をあんな楽しそうに語んないよ! だから父親は白だと思ってた。少なくとも何とも思ってないってことは、黒ではないって」
「私もあの時かぐやに言われてその可能性がよぎったけど、答えを出すのは先延ばしにしてた。原因追及はもう少し後でいいって。今がその原因追及の時」
「陽香がそう思ってくれていた事が、嬉しくもあり、心苦しくもあり……」
「続きを、お願いします」
「少なくともテレビや漫画などを買い与えないというのは、妻の意向でした」
「毒ぅぅぅう!」
「かぐやさん! 本当に退場してもらうよ?」
「だって、意味わかんない! 何で? 何で物語をそうやって
「興味を見せなかったような……」
「あっったり前すぎて前縄跳びしちゃいそう! それで人形だけ渡されたって何の意味もないよ! モデルケースが存在しないんだから!」
なんかこうめっちゃ本質的な鋭いことをこの流れで言ってのけるかぐやはやっぱり
「まず、子どもの行う人形遊びには大切な役割があります。例えば自分自身や他者をそれぞれの人形に
大人は様々な物語を取り入れた上であらゆる媒体での創作が出来ますが、経験そのものや手段が少ない子どもにとっては、おままごと含む人形遊びは数少ない重要な物語創作の手段の一つです。ここでは人形遊びを一例にとって、この場に
「
これがテテテの言ってたアドリブ必須の資料か。人形遊びの記述は確かになかったな。
「人形遊びのような簡単な物語の自由な創作は、他者の心情を想像出来るようになる成長を子どもに促し、その子どもが後に社会性を獲得し人間関係の構築などを円滑にこなすための、幼児にとって非常に大切なプロセスです。
だけど、空想の前提が全くない状態で空想は作れません。大人の創作者でもそれは同じ。子どもの人形遊びの場合でもかぐやの指摘する通り、何かしらのモデルケースや
それは自身の経験の他にも、ノンフィクションのみでは得られない世に溢れている物語、例えば勧善懲悪や冒険もの、フィクションによく見られる特殊な人間模様などですね。これらの物語を
補足どころじゃないんだよな。十分本論だな。草案読んだ時も思ったけど、やっぱ長いぞテテテ。
「もちろん親子間や友人間などの限られた現実の関係からでも物語を作れはしますが、まだ未熟な子どもが経験のみから得られる
何よりパターンの数が限られているため、物語のパターンを大量のフィクションで吸収している子供と比べて──もちろんフィクションに接してもなにも吸収していない子どももいたりするので一概には言えないから個人差は考慮できないけど──物語と接していない子が持つ、世界を捉えるための物語由来の視点の数量は、どうしても少なく限られる」
要は経験量とその質がそのまま世界を認知する解像度の差になるよってのの物語版ってことかな? この演説を一度も噛まないテテテは凄いな。
「人は世界や他者を通じて自己を知ります。それらのフィクション由来の視点の絶対数が少なく、さらにかぐやさんに会うまでは文字通り朝から夜まで常に誰も近くにおらず、リアルの他者からの
「自己認識の乖離っていうのは、どういうことなんでしょう……?」
「他者から見えている自分自身と自分で想定している自分自身との認識の差が開きすぎている状態だと思って下さい。実際に現在の陽香さんは自責傾向が非常に高く、自己判断や自己存在そのものに対する適切な反応が困難なほどになっています」
物語の否定と自己存在そのものの否定。なるほど。無関係なはずの2つを繋いでいたのは、
「親御さんが教育課程で避けてきた、質の高い膨大な量のフィクションの存在は、陽香さんの自己認識を安定させ、世界に対する様々な視点を育むことの大きな助けになり得たはず。それらを大きく
そしてこのままだと陽香さんは悪意を持った物語に簡単に飲み込まれ、抵抗する
「……妻に、この話を聞いていて欲しかった……」
「だぁぁ! ごめん、タンマ! ちょっと喉乾きすぎたし口疲れた! 休憩希望!」
「お疲れ様〜。こっちは聞いてるだけで頭フル回転だし、声良いから寝ちゃいそうで危なかったわ」
テテテは大きく伸びをして水道水を直接コップに注ぎ5杯くらい飲んだ後、そのほっぺをパチンと叩いた。
「顎めっちゃ痛ぃ……」
「今その顎を叩いたもんねぇ……かぐや〜起きてる〜?」
「処理中です。しばらくお待ちください」
「おっけ、いいやもう、ヤチヨは? スマホ熱っつ!!」
『録音で精一杯だったっぽいぞ。今要約させてる。これでツクヨミのCPU使用率1%食ってんの尋常じゃない』
なんかFUSHI出てきたし。これでツクヨミのCPU使用率1%食ってんのはちょっとツクヨミ側の問題な気がするぞ……
芦花が上から降りてくる。上を見上げるために久しぶりに首を動かして、バキッと音が鳴った。
「お疲れ〜」
「芦花〜どっから居た〜?」
「ずっと陽香ちゃんと上で聞いてた〜。言ってることはあんま聞こえんかった〜。寺里さんよく回る舌だねぇって」
「良い意味で使う言葉じゃないよ芦花ちゃん!」
テテテの長講義と芦花の乱入で元々お父様が何を話してたか忘れちゃった。
「えっと、なんの話してたっけ」
「私の妻が、子どもたちの金銭管理をしてて、家でのテレビや漫画を禁止していたということだった気がします……」
「禁止してたんだ」
「恥ずかしながら……」
「もしかして、尻に敷かれてた?」
「もうちょい良い言い方ないかなかぐやちゃん? せめてさ」
「いや、実際その通りです。私、このような怠惰な性格ですので、私を律してくれる人を結婚相手に望んだんです」
「まーまーそれはそれは。そんじゃまた上戻りまーす」
なんか芦花、ウルトラマンみたいだな。出てきて見せ場作ってすぐ退場する系のヒーロー的な。
私の場合は昔のお兄ちゃんが少しヒーローものをかじってたから、妹の私もこういうニワカレベルの
「それから私たちは子どもたちを、陽香を授かり、基本的には妻が全て。当然私も育児中の家事をしたり赤ん坊をあやしたり、やるべきことはしてましたけど、育児方針は全部妻が」
「その育児方針に関して、大事な質問です。外遊び、主に他の子供達と絡んで遊ばせることは、させていましたか?」
「えぇ外には、ただ走り回ることはなくのんびりしていましたが……」
「それ以前はどうでしたか? のんびり以前」
「ベビーカーですね……」
2歳ごろからずっと独り……? そんなことがあるのか? 本人の事情も無視して突撃してくる同年代すら居らんかったと? そもそも保育園にすら通ったことない可能性……? うっそだろ……
テテテすらついに真面目モードを捨て
「十数年前に陽香ちゃんの社会性がどんどん
「間に合わないことはないよ。今からでも。ただ、ここじゃなくていいからちゃんとした支援を受けないとあの子、もう生きるか死ぬかの瀬戸際だよ。お父様」
「……私は……」
「結論として、親御さん2人としてはフィクションに意味を与えないという子育て方針で合ってます?」
「妻がそうだったので、私も妻亡き後それを引き継いでしまったのかもしれ……」
「こりゃ図書館にも行ってねぇな」
お父様の返答も遮ってぶっ放すかぐや。私にも皮肉の一つでも吐かせてくれ。
「えぇ。なぜ妻がそうだったのかは今はもう真意を知る
「まーじでさ、三途の川渡って訊いて帰ってきてくんねぇかな」
「かぐやちゃん、アウトー!」
ガチでかぐやのライン越え皮肉来た……本人も自覚してるだろうけど。自覚してて欲しいけど。
「でも陽香ちゃん本当よくここまで辿り着いたよ。こんなんでクラシック音楽を楽しめるようになってんの、ほんと、環境のせいというか環境のおかげというか」
「かぐやちゃん変に的得てるせいで退場させられないんだけど」
見てなかぐや。私には私なりの皮肉の吐き方というものがあるんだ。
「クラシック音楽の作曲者についての文脈の知識や、楽典を中心にした楽しみ方は大切な物です。だけど陽香さん曰く、演奏を聴いても奏者の感情を感じない、と。ピアノ奏者としての七村史陽さんは、この証言どう受け留めますか?」
「……返す言葉もありません……」
……皮肉なんか吐いたって虚しいだけだな。やめだやめだ。
「さらに危険な証言があります。私が先ほど指摘した、買っていいものかわからなかったから何も買えなかったという証言。これに関して詳しくお聞かせ願いたい」
「最悪食べ物も買えないよな。デリバリー頼めたのが不思議なくらい」
「妻は食事を
「その餓死寸前の選択は勇気っつーのかよ?」
もう泣きそうな声でぶっきらぼうに言い放つかぐや。かぐやはね。何千年もの間、何万人もの餓死を、目の前で散々見てきたからね。かぐやが垂らした震える左手の握り拳を、私の右手でそっと包み込む。
「……他のものは確かに、一度陽香の母にお
「母親は、ちゃんと、陽香さんの、意向に、従って、いましたか?」
テテテさんが一言一言、多分怒りを込めて文章を区切りながら、冷静に言葉を発する。
「どうだろう……」
「母親、アウト!!!」
「無意識にその習慣を内面化してるけどお伺いを立てる相手はもういない、そりゃ当然何も買えんくなるわな。それをここまで無視してきたお父様も同罪ですよ?」
「彩葉さん。言葉が強すぎます」
「寺里さんは? どう思うよ? これ?」
「これさ、何の事情も知らない、もしくは一から知らなきゃいけない児相に保護されて養護施設入れられたら完全に詰み。逆効果にも程があると思うんだよ。これ私らの
「驕ってはいるんじゃない? でもこの酒寄家でたった2週間であそこまで陽香さんが積み立ててきた対人への信頼を、根っからぶっ壊すことになりかねん」
「かぐやが怖いのはそこなの! 法的に手続き的に正しいからって乱暴にしたらあの子が壊れる!」
「あの!」
「「「なんですか?」」」
「私の娘のことをそこまで真剣に考えてくれているのを初めて目にしまして」
「いや、見ようとしてなかっただけでしょう」
「彩葉さん。それは彩葉さんには分かりません」
「少なくとも学校の先生方はびっくりして、私みたいなアラサー不審者女性の話もちゃんと耳傾けてくれましたよ?」
七村陽香の父親は何やら覚悟を決めたような顔で呟き始める。
「私に、陽香の父親に、余裕が、時間が一切無かったためです。そしてこの状況が年単位でしばらく続くことは確定しています」
「キャンセルできねぇの?」
「間に幾つも通さなければ難しいんです……」
ただただ何もかもが足りなかったってことか。金
「時間がなかった。母親が亡くなってからは、それに尽きるねぇ」
「それ以前は要審議だけどね」
「だけど人の人生一瞬だよ?! 時間がなかったからって保護者の都合で早死にさせて良いわけがない!」
「本当にその通りでございます……」
な、何が言いたいのだ……かぐや全肯定Botかよ、この人は……
「ただ、金銭ならお支払いできます」
「結局成金かよおぉぉお!!」
「かぐや、テキトーにレッテルを貼るな、ちゃんと聞け」
「皆さんのおっしゃるとおり、児相に相談することも何度も考えましたが、何も考えずに私が信頼の置けない人たちに保護されるのはいささか不安ではありました」
「いや、あの人たちプロだよ? 私たちなんかのど素人どもよりよっぽど信頼できるよ?」
テテテがすかさず反論。この父親は公的機関にすら不信を抱いて頼れなかったのか……
「それでも施設の大人一対子供多の構造は取っ払えないよ。どう頑張っても」
「彩葉ちゃんの指摘は真っ当だよ。そこが懸念点なら、あとの選択肢といえば養子と、里親やファミリーホームだけど、寺里そっちの方がいいような気がしてきてんだけど」
「でもそれも向こうの
「それらだってやってることも状況も酒寄家と何も変わらんよ? ウチらを不信に思ってたら同じこと」
「いえ、このお家の玄関で久々に顔を合わせた時、ものすごく明るくなってた気がして」
「そりゃまぁ、やるべきことちゃんとやったし」
「ほぼ寺里さんの功績です」
「かぐや達もめっちゃやったじゃん!」
「……このような優しい方々が陽香を想ってくれているなら」
お? 待って、え?
「あなた方に、金銭をお支払いして、陽香を託したいと、そう決意致しました」
おいおいおいおいおい。待て待て待て待て。ちょっと待てぃ。は!?
「良かったね! 彩葉!」
良くねぇよぉ〜……会議が成立すりゃ御の字で、ふっつぅーに平行線で決裂を想定してたから、こっちの意味での最悪は想定外過ぎるって……
「嫌なの? 彩葉」
「いや、一番マシ。マシだけどさ、行政にどうやって説明すんのよ……税金とか控除とか戸籍とか有事の対応とかマジでさ、えぇ……」
「父親の私もできる限り調べますので……」
「えっと、私一人で十分です、えっと、はぁい」
あのー。せきにんー。おんもー。
「彩葉さん、無理なら早めに
「やるよ。やるけど、全員手伝え」
「「はい!」」
命令形ごめんね。
「えっと、私がお手伝いできることあれば……」
「お父様はとりあえず、各方面への親権者としての言い訳でも考えといていただければ……」
どうする? 本当にどうする? てか親権どうすんの? 金銭の取り扱いは?? 私たち、陽香ちゃんとどういう関係になるの? 定義存在してる??
「彩葉、心の声全部ダダ漏れ」
「あの、テテテ、助けて」
「前例探してる、時間かかるしここまで行政頑スルーした例多分存在しない。お役所にブチギレられたらみんなで謝ろ?」
「と、とり、あ、え、ずです、ね。えっと、金銭、そう、金銭についての交渉を、いたしましょう。お父様」
「相場いくらなんでしょう、14歳の月の生活費が10万程度でしょうか」
「14歳で一人暮らしの生活費のデータなんて存在しちゃいけねぇんですわ……そしてご飯代や家賃代は陽香さんの分含めて私らが負担するので、お父様は陽香さんに向けたお金の分だけ毎月お支払い頂ければ、その全額を陽香さんのために全て使用します。帳簿のデータも毎月共有致します……幾らに致しやしょ……?」
「食費や家賃を差し引いても、3万程度になりますかね……?」
2階の陽香ちゃんに聞こえないよう、小声でコソッと悲鳴を上げる。
「せめて学費と精神科医療費はお支払い願いたいです!!」
「学費などは今までも支払いしていたので。父親として当然の義務と理解しています」
真面目に訴えよってあんたねぇ……マジで青筋たててぇ……
「ねぇ。今のヤチヨの気持ちわかった。ガチの未知ってこんなに怖いんだ」
『や〜っとわかってくれたのだねぇ〜! ヤッチョうれし〜よ〜!』
「ヤチヨも手伝うの!」
『お願いFUSHI』
『ボクばっかに頼るな!!』
『FUSHIのケチん坊〜』
『今度はオマエを酢の物にしてやる……』
「この人たちはなんなんでしょう……」
私はあなたをなんなんだと思っとりますよ……だけどなんかこう、責めるに責めきれねぇ……
「後本当に重要な話です! スマホやスマコン、つまりネットやツクヨミを、陽香さんに与えたいですか?」
かぐやさんの顔が
「テテテから補足〜! 児童心理士の端くれとして、まだ時期尚早だと思ってます! 完成された物語をまずはたくさん知ってもらうべきかと!」
「今までも連絡が取りづらいことを気になってはいたので、ただの携帯電話はきっと大丈夫だと思います」
誰にお伺い立ててんだよ……まさか亡くなった妻か……?
「スマホやスマコンに関しては、皆様の方がお詳しいでしょうし、お任せ致します」
あーあ、任されちゃった。またかぐやぶっ倒れんの? どうすんのこれ。しかもこの時代にただの携帯電話って存在すんの?
『老人用があるっぽいよ?』
「せめて中2の自尊心考慮しようか〜!?」
「ただのスマホ与えて、ネット使えないようペアレンタルコントロールでええんでない? 嫌になったら勝手に制限解除するっしょ」
生後1週間の
「あとこれ
ほんとだ。私は夜まで研究で芦花もじきに新しい事務所に入所、テテテは水曜日だけ来て、かぐやも外で遊び
「ねぇこれ本当に大丈夫?? 不安しかないんだけど??」
「人が! 人が足りない!」
私とかぐやで嘆きのエレジーを奏でてる場合じゃない。代替案は……YC型ボディ早々に作ってヤチヨ受肉が現実的か……? でもそのためだけにヤチヨを……それは嫌だ。
「本当にここで私暮らすよ」
「テテテさん! 悪いってそれは!」
「事実ここまで関わっちゃたらもう酒寄家から中立を保てない。本来の役割、酒寄家にも話せないことを陽香ちゃんが吐き出せる場所っていう役割をとっくに逸脱してるの」
「だって蔵書全部こっちに持ってきて2階の床抜けさすんでしょ〜?」
「マジだったらちゃんと厳選するよ〜? それにここ、配信器具も上質なのばっかりだし。正直めっちゃウィンウィン。断られようがそれでも
「じゃぁ……とりあえず2週間ここで暮らして……?」
「部屋が! 部屋が足らない!」
『ヤッチョが言った陽香ちゃんの保護期間2ヶ月ってのはどうするの〜? 期限〜』
思わず頭を抱える。情報が、情報が多い! 自分が先導して未知を思考せにゃいけん分、かぐやの8000年体感と同じくらいキツいかも。ごめんそれは言い過ぎた。8000年のアレは桁違いというか規格外で、比べるもんじゃなかった。
「あぁそうだ、2ヶ月って話だった。そうだっけ? で、お父様?」
父親が口を開く前に何のためらいも無くかぐやが割り込む。酒寄家での陽香パパの扱い方が決まっちゃったよ。不憫枠。
「もう2ヶ月どうこうじゃなんも変わらんと思うけど。父親側も陽香ちゃん側も」
「実際そうですね……予定が空くのがちょうど1年後、ただ最低限だけの公演数をこなして練習も、となってるのが現状なので、これ以上減らすのはかなり厳しい……」
「ピアニストってそんな過酷なん?」
「人によって異なるでしょうけど、一人数千円で数百人分の金額が私一人にかかってるので、なるべく完璧にこなさねば表現者として失格かなと」
まず保護者として失格だよあんたは。
「そんなら酒寄家での保護だって数年は見越してようよ。大学卒業まで」
待ってかぐや、大きく出過ぎじゃ?
「皆さんにそこまで負担を強いるわけには……!」
はい。手のひら返します。
「私たちにとってはこの先あの家で未成年女子が一人孤独で暮らし続けてるという事実を知っちゃってる方が精神にめっちゃ負担かかってんすけど」
「あまりに危険すぎる。それを知った上で見て見ぬ振りは寺里には出来ない」
突然の、二階から美声。芦花の声。
「私もさー! もしまたそんなことなったら陽香ちゃんの実家に勝手に引っ越して一緒に暮らそう思ってたんよねー!」
「四度目の芦花〜! そんなこと思ってたんか〜い!」
「そうなんないで良かった〜! そいじゃぁまたまたさらば〜い!」
「よく今まで事件に巻き込まれなかったなほんと。奇跡だよ。今のこれが事件か」
「かぐやの言う通り。自身の子どものリスク管理が余りに
「……わかっています」
「もちろんそれで私たちが彼女を育てる正当性はどこにもありません。行政に連絡して児相に保護されたらそれを甘んじて受け入れるべき。法的に正しいのですから」
「彩葉ちゃんがその認識で本当に良かった……」
「かぐやはやだけど!」
「それはいざとなった時に行政に言いなさい。お父様、後のことはしっかりと証拠として形に残る文字情報でのやり取りとしたいです。メッセージで続けましょう」
「陽香を……よろしくお願いします」
「できる限りは尽くしたいと思っています。あなたには私どもには不可能な、親権者にしか出来ない事項を親として尽くしていただきたいです」
「分かりました。せめて今まで何も出来なかった分の尽力を」
「結論として!」
テテテ頑張って。これどう結論づけたらいい?
「まず都庁県庁へ土下座しに行こう!」
テテテ違うって。てかこれ県まで跨ぐやん。立川と相模原。しちめんどくさくなりそうだぞ……
『最悪ヤッチョがなんとかできるから任せて〜!』
「ダメ! 法に甘えは許されない!」
『ヤッチョなんも言ってないヨヨヨ〜……』
「彩葉ぁ。陽香ちゃんはこの場に呼ばんの?」
「呼んで、来るか……行くか、痛ててて……足が……身体が……バッキバキ……」
「テテテです。最後の方休憩なかったもんね〜。それじゃぁ、しばらく休憩といきましょうか」
「芦花と陽香ちゃんどんな話してたんだろ〜ね」
「めっちゃ暇にさせちゃったもんね〜。後で訊いてみよっか!」
そんな会話を後ろに聞きつつ、重い足を持ち上げ螺旋階段を登る。
これから先しばらく一緒に暮らすことになる少女。まさか私がこんな形で親になるとは思ってもいなかった。これもこれで人生面白い。
そんなことを思いながらノックしたドアを開けると、めっちゃ綺麗なお化粧をした陽香ちゃんの肩に顔を預けて眠る芦花がいた。さっきまで起きてたのに。芦花には、重圧をかけてしまったな。陽香ちゃん、芦花の顔重くない?
────────