おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ   作:親分

3 / 4
※イム様にロックオンされました。


ヒグマさんは消されるようです

「……あの男を」

 

虚の玉座に座るイムが、静かに呟いた。サターンを通じたその視線の先。ゴッドバレーの戦場を悠然と歩く、一人の男、ヒグマ。先程まで金獅子のシキと激突していた男だった。

 

「……」

 

イムは黙ってヒグマを見つめている。その姿は、先程シキを圧倒した男とは思えないほど無防備だった。黒刀を腰に携え、肩の力は抜けている。歩幅も一定で、周囲で繰り広げられている殺し合いなど、まるで意に介していない。

 

やがてイムは、ゆっくりと視線を外した。遠くには、一人の男が立っている。ロックス。かつて世界を獲ろうとしていた怪物は、今やイムによって意識を奪われ、その身体を傀儡として操られている。

 

「……」

 

イムはロックスを見つめる。もはや、ロックスに用はない。意思を奪い、支配下に置いた時点でロックスという存在は役目を終えている。だからこそ、再び視線をヒグマへ戻す。

 

「……あれは……」

 

脳裏に蘇る。先程の一閃。ヒグマが放った斬撃。金獅子のシキを真正面から撃ち落とし、その背後に浮かんでいた軍艦すら両断した一撃。単純な破壊力だけではない。あの瞬間、ヒグマが纏っていた覇気。あまりにも強大だった。戦場にいた者なら誰もが感じ取れただろう。あれは、ただの覇気ではない。世界そのものを威圧するかのような、異質な力。それほどのものを纏っていた男が今は──

 

「……」

 

微塵も覇気を感じさせない。先程までの凄まじい気配が嘘だったかのように、完全に消えている。

 

「……異常だ」

 

力を隠している。それも、覇気を感じさせないほどに。イムの瞳が細くなる。

 

「支配下に落ちたロックスは、もういい…だが、奴は危険だ」

 

イムの声に、迷いはなかった。

 

「承知しました」

 

サターンが静かに頭を下げる。

 

 

 

 

------------

 

 

 

 

「……さて」

 

ヒグマは歩いていた。周囲では未だに海賊と海兵がぶつかり合っている。

砲弾が飛び交い、大地が震え、ゴッドバレーそのものが崩壊へと向かっている。それでも、この男だけは違った。

まるで散歩でもしているかのような足取り。

 

「……酒、飲み損ねちまった」

 

ヒグマは小さく呟いた。

 

「シキの野郎……」

 

眉間に皺が寄る。楽しみにしていた酒が二本。それも、今日という日のためにわざわざ取っておいた酒だった。

 

「……二本とも飲みやがって、次会ったら……」

 

そこまで呟いたところで──

 

「――……?」

 

ヒグマの足が止まった。戦場に満ちている殺気とは違う。もっと異質な敵意。自分だけを狙っている何か。ヒグマはゆっくりと振り返った。

 

「…………」

 

戦場の向こう。砂煙の中を、一つの巨大な影が近づいてくる。

 

「……へぇ」

 

ヒグマの目が細くなる。

 

「今度は何だ?」

 

右手が黒刀の柄へ伸びる。

 

次の瞬間──大地が爆ぜた。巨大な影が、ヒグマの目の前へと降り立つ。地面が陥没し、土煙が舞い上がる。その向こうから姿を現したのは、巨大な蜘蛛の脚。異形の身体。そして、人ならざる禍々しい姿。ヒグマはそれを見た瞬間、僅かに目を細めた。

 

「……」

 

ヒグマは知っている。この姿を、前世の記憶にある。

 

世界政府最高権力──五老星。その一人。

 

「……ジェイガルシア・サターン聖、か」

 

「……ッ、なぜ……」

 

サターンの動きが止まった。低い声が漏れる。

 

「お前が……私の名を知っている?」

 

ヒグマは答えない。

 

「……おれになんか用か?」

 

ヒグマは何事もなかったように問いかける。サターンの目が細くなる。

 

「お前を……消す」

 

「……」

 

その言葉を聞いた瞬間。ヒグマの目が僅かに鋭くなった。

 

「……イム様の命令でか?」

 

「──ッ!?」

 

サターンの表情が更に変わった。

 

「貴様……」

 

ヒグマは笑っている。だが、内心では冷静に状況を整理していた。

 

(やっぱりか)

 

五老星の一人、サターン聖。そして──イム様。

 

(まさか……このタイミングで出てくるとはな)

 

知識として知っている。だが、実際に目の前にいるとなれば話は別だ。

 

(……原作とは違う)

 

ゴッドバレーで、まだ世界の歴史が大きく動き始めたばかりのこの場所で。自分はすでに、イムに目を付けられている。

 

「……ッ、貴様は何者だ」

 

サターンの声が低くなる。

 

「なぜ、その名を知っている?」

 

ヒグマは答えない。ただ、黒刀をゆっくりと抜いた。刀身が姿を現す。

 

「さぁな」

 

そして、切っ先をサターンへ向ける。

 

「それより──おれを消しに来たんだろ?」

 

ヒグマの口元が吊り上がった。

 

「だったら、さっさとやろうぜ。」

 

サターンの身体が低く沈む。

 

「……後悔するぞ」

 

「どうだかな。」

 

ヒグマも腰を落とす。その瞬間。周囲の喧騒が、二人の間だけ消えた。風が止まる。砂煙が静かに流れる。互いの視線だけが交差する。そして──

 

「――!!」

 

サターンが大地を蹴った。地面が爆ぜる。異形の巨体が一瞬で間合いを潰す。

 

「来いよ」

 

ヒグマも同時に踏み込んだ。黒刀が振り上げられる。爪と刃。異形と人間。二つの怪物が真正面から激突した。ゴッドバレー全域を揺るがす轟音が響き渡った。




高評価、感想待ってるぜい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。