黒刀と異形の脚が激突した瞬間、凄まじい衝撃波がゴッドバレーを駆け抜けた。大地が大きく陥没し、周囲にいた海兵や海賊たちが一斉に吹き飛ばされる。
「うおおおおおっ!?」
「な、なんだ今の衝撃は!?」
「何が起きてやがる!?」
巻き上がった土煙の中。ヒグマとサターンは、互いの武器を押し付けたまま睨み合っていた。
「…………」
「…………」
互いに静寂が流れる。先に口を開いたのはヒグマだった。黒刀を押し返し ながら、口元を僅かに吊り上げる。
「……なるほど。五老星ってのは、随分と元気な爺さんなんだな。」
「減らず口を……」
サターンの押し合いをしていない脚が動く。次の瞬間、ヒグマの身体が大きく吹き飛んだ。ヒグマは空中で身体を捻り、着地する。黒刀を肩に担ぎ、サターンへと話しかける。
「爺さんにしては結構な力だ。」
「その程度か。」
サターンがゆっくりと歩き出す。ズシン、と、一歩歩く度に地面が揺れ、砂埃が舞う。
「先ほど金獅子を斬った一撃はどうした?」
「…見てたのか。」
「当然だ。」
「じゃあ話が早ぇ。」
ヒグマは黒刀を下ろした。一歩、また一歩とサターンに近づいていく。
「──あれはまだ本気じゃねえよ。」
「……!」
その瞬間、ヒグマの姿が消えた。否、ただ純粋にサターンが認識できない速度で動いただけだ。サターンの背後へと回るヒグマ。サターンは反応するもすでに遅かった。
「──ッ!?」
「遅ぇ。」
黒刀が振り抜かれる。サターンの巨体が吹き飛ぶ。大地を何度も跳ね、巨大な岩山へ突っ込んだ。ヒグマは追わない。ただ、煙の向こうを見つめる。
「…………」
ガラガラと岩が崩れ落ちていく。その時、ヒグマの眉が動く。
「……まあ、そうだよな。」
瓦礫の中から。サターンが立ち上がった。身体に刻まれていたはずの傷が、ゆっくりと塞がっていく。
「…………」
ヒグマは黙ってそれを見ていた。傷が消える。血が止まる。そして──完全に元通りになる。ヒグマの表情から、笑みが消えた。
(……やっぱりか。)
前世の知識から得ていた五老星の異常な再生能力。そして──
(不死身…、厄介だな。)
何事も無かったように、サターンが再び歩き出す。
「…理解したか?お前の攻撃では私を倒すことは出来ぬ、」
「……ああ。」
「ならば諦めろ。」
「いや、逆だ。」
覇王色の覇気が、ヒグマの身体から溢れ始める。そして、黒刀を握ったまま、サターンへと視線を向ける。
「不死身なんて面白え。」
「何度やっても無駄だ。」
サターンが歩みを進める。
「私を傷つけることはできても──殺すことはできぬ。」
「……そうか。」
ヒグマはゆっくりと息を吐く。そして、黒刀を地面へ突き立てる。
「なら、別に殺す必要もねえな。」
「何?」
ヒグマが顔を上げる。その瞬間だった。空気が沈んだ。
「…………ッ」
サターンの足が止まる。ヒグマの身体から、先程シキとの戦いで放ったものとは比較にならないほどの覇気が噴き出した。やがてその覇気が、ゴッドバレー全域へと広がっていく。
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「な……」
周囲にいた海兵たちが膝をついた。海賊たちも同じだった。
「なんだ……この覇気は……!」
「息が……できねぇ……!」
「立っていられねえ……!!」
遠くで戦っていたロジャーでさえ、動きを止めた。ガープもまた目を見開く。そして、イムの支配下に置かれていたロックスも一瞬、意識を取り戻す。
「この覇気…!」
「誰だ……!?」
「……ヒグ……マ……?」
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「おれの覇気で、テメェの不死身をぶっ壊す。」
「……戯言を。」
ヒグマは不敵に笑う。サターンが踏み込み、ヒグマへの攻撃を開始しようとする。
「覇気程度で──」
「覇気“程度”?──じゃあ、味わってみろ。」
次の瞬間、爆発的な覇王色が放たれた。ただの威圧ではない。触れることすら許さないほど圧縮された覇気。黒刀すら抜いていない。
「ほらよ。」
覇気が奔流となってサターンへ叩き込まれる。
「――ッ!!」
サターンの身体が大きく仰け反った。身体にまとわりついていた異様な力が、覇王色の覇気によって次々と引き剥がされていく。
「な……何を……!!」
「分かんねえか?テメェの力を──」
さらに覇気が膨れ上がる。
「──おれの覇気で上から潰してるだけだ。」
「ぐぉぉぉおおおッ!!」
サターンの身体から黒い煙のようなものが噴き出す。
「……ッ、貴様……。」
先程まで余裕を見せていたサターンの声に、初めて明確な苛立ちが混じる。ヒグマはそんなサターンを見ながら、ゆっくりと歩み寄っていく。
「どうした?さっきまでの威勢はよ。」
サターンが無理やり身体を動かす。
「舐めるなァッ!!」
覇気を纏った巨大な脚が振り下ろされる。ヒグマの眼前まで迫った。
その瞬間──
「遅ぇ。」
「──ッ!?」
何かが地面に落ちる。サターンの脚。時間が止まったかのように、二人とも動かなかった。やがて、切断面から、黒い煙が噴き出す。
「……ふん。この程度の傷、すぐに…──」
切断された脚を見下ろす。いつものように。傷口から異様な力が湧き上がる。肉が。骨が。再生を始め──
「…………?」
──なかった。サターンの目が見開かれる。
「…………なぜだ」
切断面は、そのまま。血が流れている、再生しない。
「……なぜ、再生しないッ!?」
サターンが初めて声を荒げた。ヒグマはその様子をじっと見つめる。
「……なるほど、そういう事か。」
そして、小さく呟いた。
「貴様……何をした。」
「別に。」
ヒグマは黒刀を構える。
「ただ――」
刀身に再び、黒い稲妻が集まっていく。
「おれの覇気を叩き込んだだけだ。」
サターンの表情が歪む。
「……あり得ぬ。」
「なら、もう一度試してみるか?」
ヒグマが笑う。
「次は、その身体ごと斬ってやるよ。」
ヒグマは刀をゆっくりと振り上げる。サターンの顔から、初めて余裕が消えた。そしてヒグマは、静かに呟く。
「──
その瞬間、遥か遠く。虚の玉座に座るイムが、静かに身体を動かす。初めてその視線に、動揺が浮かぶ。
「……サターンでは、足りぬか。」
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