シンジュクのヒト喰い   作:竜胆マサタカ

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仕立て直し

 

「──()ッ」

 

 鯉口付近に取り付けられたトリガーを引くことで鞘と刀身を接合する電磁石の極が切り替わり、一転して凄まじい斥力(せきりょく)で射出されるブレード。

 

 放っておけば軽く十メートルは吹っ飛んでいくだろう勢いを斬撃の初速に利用し、下肢の強化外骨格で地面に食い付いた足腰を捻り、全ての運動エネルギーを残らず刃先に集中させ、一刀を振るう。

 

 横薙ぎに振り抜いてから、コンマ数秒。

 何千何万回とハンマーを打ち下ろしても微動だにしないだろう金床(かなとこ)が、上と下で真っ二つに両断され──更に十二回の連撃を受け、バラバラに斬り刻まれた。

 

 

 

 

 

「悪くない」

 

 ブレードを鞘に収め、射出抜刀機構の誤作動防止に安全装置(セーフティ)をかけたのち、上機嫌な様子で呟く凶三(きょうぞう)

 

切先(きっさき)についていた微妙なクセが直った。刀身の振動もガタつきが消えて(なめ)らかだ」

「部品交換のついでに、ひと通りオーバーホールしといた。少しは骨董品を(いたわ)ってやれ」

 

 差し入れに持ってきたタバコをふかしながら、年代物のパソコンで打ち出した請求書をカウンターに置くオジキ。

 流石、元は地下(アンダー)の職人。腕が立つだけじゃなく、細かい仕事も抜かりない。

 

「……諸々(もろもろ)込みの割には、だいぶ安いな?」

「差額分は私の身体で払えということか。見損なったぞエロジジイ」

 

 着付けがいい加減なため(えり)合わせの緩い胸元を数日ぶりに(よろ)った右腕で隠し、半眼でオジキを見る凶三(きょうぞう)

 マジか。最低だなエロジジイ。

 

「おめぇら人をからかって楽しいか……? 金払いのいい得意先相手だ、ちったぁ値段も勉強するさ」

「オジキがそんなに殊勝(しゅしょう)だったとは知らなかった」

「ひとつ賢くなれて良かったな。ま、()()のお陰で近頃は商売もやりやすくなったし、みかじめ料とでも思え」

 

 そう言ってオジキがタバコの煙を吹きかけたのは、壁に貼ってある(オルカ)のステッカー。

 しばらく前に教会(ホーム)で何枚か見つけ、なじみの店に配ってみたところ、()()()としてかなり効果的だと好評を(たまわ)ってる次第。

 

「人喰いシャチの縄張りで調子に乗った奴は肋骨抜かれて噛み殺されるってな。すっかり名前が売れたもんだ。昔はもう少し可愛げが……いや、よくよく思い返せば小僧の頃から大概だったな、てめぇの場合」

「そこらの連中とは()()()()が違うんでね」

 

 それに俺は十六年前、初めて地上(アウター)の土を踏んだ時点で既に異形因子保持者(スキルユーザー)だったし。

 しかも因子活性時は分かりやすくバケモノじみた姿となる甲型(こうがた)。そもそも両耳の認識票(タグ)を見ただけで大半の奴は道を(ゆず)ってくる。喧嘩を売ってくる奴の方が(まれ)

 

 ……喧嘩。喧嘩か。

 

「そうだオジキ。例のアンプルはどうだった?」

 

 グループ名は忘れたが、無謀(ゆうかん)にも俺たちと一戦やり合うつもりだったらしいシブヤのチンピラ共が使っていた薬液。

 キナ臭さ全開で気になって仕方ない。さっきまで存在ごと頭から抜け落ちてたけど。

 

「ああ、アレか。預かる時にも言ったがウチは二大企業の研究所じゃねぇ。一応調べてはみたがな、異界(ダンジョン)絡みの物質ってことくらいしか分からなかったぞ」

 

 なるほど。やはり胡桃(くるみ)にもアンプルを回しておいたのは正解だったな。

 ちょうど今日がアイツのところに行く日だし、いざ答え合わせと洒落込もうか。いいタイミングで思い出せて良かった、危うくすっぽかすところだ。

 

 

 

 

 

「ン」

 

 たどたどしく硬貨を数えながら凶三(きょうぞう)が支払いを済ませる中、ふと店内に置かれた商品のひとつに視線が()まる。

 

「オジキ。こんなもん、どこで拾ってきたんだ?」

「目ざといな、そりゃ掘り出しモンだ。買うなら調整に三日もらうが、費用込みで安くしとくぞ」

 

 どうも今日のオジキは気前が良すぎて気持ち悪い。

 まあ、大方修理(ニコイチ)用に持ってきた方のブレードをバラして多量のレアメタルが手に入ったからだと思うが。

 みかじめ料だの勉強価格だの、調子のいいセリフを並べてくれたもんだ。商売人め。

 

「買った。たまにはオモチャで遊ぶのも悪くねぇ」

「なら逆叉(さかまた)、こっちも買ってほしい」

 

 投擲(とうてき)用に改造されたワスプナイフ十本セットを指差す凶三(きょうぞう)

 アクセサリーのノリで結構な危険物を欲しがりやがる。

 

「この前の金はどうした。ジルと三人で折半(せっぱん)したろ」

「今の支払いでちょうど尽きた」

 

 今の支払いでちょうど尽きるほど端金(はしたがね)じゃなかったと思うが。

 どうせまた炊き出しにでも(つい)やしたんだろう。そうやって無駄遣いするから、いざという時に困るんだ。

 

「……オジキ。あれも包んでやってくれ」

 

 てめぇクソジジイ、そのイラつくニヤけ面やめろ。

 はっ倒すぞ。

 

 

 

 

 

 場所は変わり、新都(アラト)行きのエレベーター内。

 今回は二番昇降機。稼働している三台の中で最も状態が悪いためか、乗客は俺たち二人だけ。

 

「そう言えば貴様、何故あの男のことを叔父(おじ)と呼んでいるのだ? まさか血縁者というワケでもあるまいに」

 

 外骨格(ドレス)の手首や足首を回しつつ、買ったばかりのナイフを空いた左手でジャグリングしていた凶三(きょうぞう)が、ふと尋ねてくる。

 ブレードと一緒にオーバーホールを受けたことで、ここしばらく耳障りだった嫌な(きし)みが解消され、可動域も心なしか広がった様子。

 もっと頻繁(ひんぱん)にメンテをしろ。

 

「あー。地上(アウター)に来たばっかの頃、一時(いっとき)世話になってたんだよ。その名残(なごり)だ」

「私と会うよりも前か」

「ほぼ入れ替わりだな。お前を拾ったのは、オジキのとこを出てすぐだぞ」

 

 懐かしい。当時の俺が十一歳で凶三(きょうぞう)が十歳だったから、冬の路地裏で飢えと寒さに震えてたコイツと出会ってもう十五年か。

 あの時は単なる気まぐれのつもりだったが、長い付き合いになったもんだ。

 

 

 

 

 

 ガタガタ揺れまくる不快な時間を()た末、新都(アラト)に到着。

 三番もだが、いい加減にエレベーターの整備と修理をしろ。そのうちマジで壊れるぞ。

 

「貴様と地下(アンダー)に降りるのは久しぶりだ」

「言われてみれば確かにな。買い出しにせよ何にせよ、基本は俺一人か連れて来るにしてもジルの方だし」

「買い物の計算は私よりジルが上手(うわて)だ。九九も出来る」

「アイツもアイツで七の段あたりが怪しいけどな……」

 

 派手な着物一枚を緩く纏っただけの凶三(きょうぞう)に、周りからチラチラと視線が集まる。

 高周波ブレードと強化外骨格で武装してなければ娼婦(しょうふ)とでも間違われそうな格好ゆえ、無理からぬ話。商業区西エリアの風俗街なら逆に目立たないものの、コイツが足を踏み入れることは無い。

 

「しかしデートの誘いなら、せめて前日に言ったらどうだ。私にも準備がある」

「生憎と違う。ちょっとした野暮用でな」

 

 ポケットから一万円硬貨を何枚か掴み取り、凶三(きょうぞう)の手に滑り落とす。

 

「好きに遊んでろ、三時間で済ませてくる。終わったら協会のロビーで落ち合おう」

 

 たぶん渡した金はガキ共への土産(みやげ)に消えると思うが、それも含めて好きにすればいい。

 

「野暮用とは何の用だ?」

「あー……」

 

 適当に言葉を濁して誤魔化し、足早と立ち去る。

 胡桃(くるみ)のところに行ってくるとは、流石に言いづらかった。

 

 なにせ、ジル以上に不仲だし。

 

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