シンジュクのヒト喰い   作:竜胆マサタカ

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一日の終わ──

 

「──つーワケだ。お前ら持ち回りでこの小僧(こぞう)の面倒見ろ」

 

 木っ端のクリーチャー共を狩って回り、宝石やら電子部品やらの値打ち物を拾い集めるうち、気付けば夕刻。

 そうそう来られないボーナスステージに名残を惜しみつつも異界(ダンジョン)から脱し、すでに大方の面子が帰還済みで(たむろ)していたところを呼び集め、少年の紹介を行った次第。

 

 で、肝心の反応はと言うと。

 

「ざっけんなー! それが人にものを頼む態度かー!」

「なにが「面倒見ろ」よ! 偉そうに命令すんな!」

「何様だー! 無駄に顔が良いのムカつくのよー!」

「せめて頭くらい下げなさい唐変木(とうへんぼく)ー!」

「土下座しろー!」

 

 もうやだコイツら。隙あらばブーイング。

 反骨精神の塊じゃねーか。生粋(きっすい)のカウンターパンチャー揃いかよ。

 

「バカー!」

「アホー!」

 

 だがまあ、やはり罵倒(ばとう)にも教養ってもんが(にじ)み出る道理。

 程度の低い悪口をいくら並べたところで、俺の心にはさざ波ひとつ立たない。

 

「女たらしー! 鬼畜ー!」

 

 低俗(ていぞく)低俗(ていぞく)

 なんとでも言うがいいさ。

 

「二股男ー! 人間のクズー!」

 

 根も葉もない中傷だな。的外れ(はなは)だしい。

 いつ誰が股かけたか言ってみろ。

 

「えたひにんー! 非国民ー!」

 

 それは流石に言い過ぎだ。

 

 

 

 

 

 ………………………………。

 ……………………。

 …………。

 

 そんなこんな、ネタも尽きたらしく、俺への野次が収まってしばらく。

 

「じゃあ今週はアタシらのとこね。ヨロ~」

 

 いや普通に引き受けるのかよ。

 あんだけギャースカ喚き散らしてたのはなんだったんだ。

 

「新人一人の面倒を見るくらい、貴方に貸しを作れるならお釣りがくるもの」

 

 (ゲート)の近くに散らばってた拾得物(アガリ)を整頓しながら、ジルが言う。

 

「それに、そもそも貴方に借りがある面子(めんつ)だって少なくないわ」

 

 なら、もっとしおらしく対応しろ。

 およそ借りがある奴の態度じゃなかっただろ、さっきのブーイング。

 

「ったく……よし、出たな」

 

 電子音を鳴らすエーテル測定機の画面を覗く。

 

 ……予想より少し渋いが、協会に報告した時よりも大きく目減りしてる。

 この分なら見込み通り、明日中には片付きそう──

 

「あー!? ちょっと、そのブーツ私のよ!」

「脚が刃物みたいに変異するアンタなんかが履いたらズタズタになるのが関の山。せっかくの可愛い靴を台無しにするだけでしょ」

 

 おっと。始まったか。

 

「だーかーら! 今日はアタシが一番活躍したんだし、分け前も一番じゃなきゃおかしいでしょ!? あいあむえむぶいぴー!」

「ハッ、何が活躍よ! 倒したクリーチャーはこっちの方が多かったっての!」

「んなもんアンタがトドメばっかり持って行ったからじゃないの!」

「そっちの詰めが甘くて逃がしたヤツを仕留めてあげたのよ!」

 

 拾得物(アガリ)の取り分を巡っての(いさか)い。

 異界探索(シーク)を終えた後の風物詩みたいなもんだ。

 

「綺麗……」

「……その指輪、私が拾ったのに似てるわね。それ私のじゃない? いつスッたの?」

「は? 人聞きの悪いこと言わないでくれるかな、これは正真正銘ボクのだけど?」

「盗っ人猛々しいわね。なに? やる気?」

「そっちこそ濡れ衣を着せようなんて良い度胸だね。いいよ、やってあげるよ」

 

 殴り合いに発展することも、なんら珍しくない。

 

「アンタはいっつもそうやって!」

「ったぁ!? やったわね、この!」

 

 程なく合戦場のごとき様相を(てい)し、轟音や衝撃波が飛び交うヨツヤゲート前。

 

 (みにく)い。実に(みにく)い光景だ。見るに()えん。

 それに、ただでさえ荒廃した景観を更に崩されては、たまったものではない。

 

「──やかましいぞ、てめェら! 人の縄張り(シマ)ァ荒らすんじゃねェ!」

 

 異形因子(スキル)を活性化させ、一喝(いっかつ)

 変異状態の大顎(おおあご)()え、大乱闘スマッシュシスターズを一時中断。

 

刹那(せつな)! 香子(かおるこ)! たかが指輪ひとつで喧嘩すんな!」

「だ、だってボクのなのにコイツが……!」

「たかがじゃないし! ダイヤの指輪だし!」

 

 関節技(サブミッション)をかけ合った状態で互いを指差すアホ二人。

 溜息を吐きつつ、他の拾得物(アガリ)とは別口で分けておいたリュックに手を突っ込み、取り出した中身を握らせた。

 

「サファイアでよければくれてやる。これで満足しとけ」

「あ……ありがと……」

 

 よし。まずは一組。

 どうせこうなるだろうと踏み、いろいろ集めておいて良かった。

 

「……えへへっ」

「ねえ香子(かおるこ)ちゃん、ダイヤの方が価値は上だけど交換してあげてもいいよ?」

「やだ」

 

 女とカラスは光物(ひかりもの)を与えておけば大抵は丸く収まる。

 次。

 

右姫(うき)左姫(さき)! コンビならコンビらしく、戦果も平等に分け合ったらどうだ!」

「「もう解散する! こんな奴とやってらんない!」」

 

 双子揃って移植手術を生き延びるなどという天文学的な奇跡を掴んでおいて、同じ地獄を切り抜けた半身と何故もっと仲良くできないのか。

 ペアのブレスレットをやるから、ムカついた時は互いにソレ見て六秒耐えろ。

 アンガーマネジメント。

 

「キリカ! (さえ)にブーツを返してやれ!」

「ぐぬぬ……だってだって、こいつが履いても変異した時に破くのがオチだし!」

 

 そんな歩きにくそうなもん履いて異界(ダンジョン)に潜るワケ……やりかねないな、このアホ共の場合。

 つーかそういうこと言い始めたら、ピンヒールがデフォルトのジルにも飛び火するか。

 

(あお)礼千(らいち)蛍火(けいか)! 殴り合うならせめて異形因子(スキル)を引っ込めろ!」

「グルルルッ」

「フシイィィ……」

「カロロロロ」

 

 三人とも甲型(こうがた)だから怪獣映画みたいな絵面(えづら)になってるぞ。

 

滝音(たきね)果耶(かや)はマシンガンをしまえ! 対異形弾から通常弾に切り替えた配慮だけは認めてやるが、そもそも人混みで銃弾なんぞバラ撒くな!」

「ふん……命拾いしたね」

「そっちこそ」

 

 俺のあずかり知らないところでなら好きにすればいいが、明日も同じメンバーで顔を突き合わせる以上、わだかまりを残されては面倒。

 なので適当に宝石類などを配って回り、機嫌を取る。つくづくモールに出られて良かった。

 まだ八月だが、気分はサンタクロース。

 

 よし、これで全員──はて。

 

「おい。麗羅(れいら)たちはどうした」

「え? あれ、そう言えば居ないね」

「まだ帰ってきてないのかな、珍しい」

 

 教えてやるまで時計の読み方も知らなかったくせ、やたらと時間にうるさい奴が定刻に遅れるとは。

 

詩衣(しい)。お前あいつらと同じ第一陣だったな。どこに出た」

「えっと、なんかやたら鳥居がいっぱいあったとこ」

 

 となると『祟神宮(たたりじんぐう)』か。

 それなりに広いが、迷子になるほど複雑な地形でもないハズ。

 

「潜ってからは一緒に行動してたのか?」

「ううん。もらった資料で場所を確かめた後はチームごとに分かれた。麗羅(れいら)さんたちは派手な(やしろ)の方に向かってたと思う」

 

 祟神宮(たたりじんぐう)はクリーチャーの数も少ないし、別の階層(エリア)に移動したのかもな。

 (やしろ)方面だと……あのバカ共。

 

「さては『ビデオ屋』に入りやがったな」

 

 特殊な環境を(よう)する下層レベルの階層(フロア)

 あそこは地図があっても迷いやすい上、空間がこんがらがってて界断(かいだん)を開けにくい。

 今頃は帰り道が分からず、ベソでもかいてる頃だろう。

 

「しょうがねぇ、迎えに行くか」

 

 幸い、ビデオ屋と繫がった階層(フロア)は多い。

 異界門(ダンジョンゲート)の接続先が十七パターンのうち、さっきまで居たモールか廃病院以外なら、どこに出ても三時間以内で辿り着ける。

 

「ジル、お前は先に帰って──」

 

 その言葉を終えるよりも先、強烈な悪寒が背骨を揺らす。

 

 俺だけでなく、ここに居る面子の大半が、一斉に異界門(ダンジョンゲート)を見る。

 

 馬鹿でかい石造りの(ゲート)

 その枠内に張られた薄汚い虹色の膜が──ぼこり、と不快な水音を立てて膨れ上がった。

 

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