今日は快調だった。
何時も通り6時の叢雲の総起こしの起床のラッパで起こされ、艦娘の皆とラジオ体操を行ってその後朝食を取って提督室に行って、只管書類の山の片づけを行う。
一言で言おう、最高だ。
普段は昼食の時間ギリギリまでかかるはずの書類整理が昼食の一時間前までに全て片付き、更に開発指示を出していたら出てきたのは全て稀少なドラム缶。畑には茄子が出来始めたりと絶好調。遠征に出していた第二艦隊が今日帰還すればなんと遠征は大成功を収めたのだ。
なんと運がいい日なのか。これが今日眠るまで続けば最高だ。そう思っていた。
この一本の電話が鳴るまでは――
「今回、第一艦隊の皆に集まってもらったのは作戦本部から緊急指令がくだされた。」
我が鎮守府の第一艦隊、叢雲・不知火・夕張・瑞鳳・加古・古鷹。
現状で出せる最大戦力の第一艦隊。皆真剣な表情だ。
「緊急ってことだから結構重要度の高い指令なんでしょ?作戦内容は?」
艦隊の全員を代表し秘書艦の叢雲が質問をしてくる。
「今回の作戦は我が鎮守府の担当海域より先に深海棲艦の反応が多数確認された。恐らく、近々進行を行うと予想される。今回の作戦はこの進行に備え、要石の調査に向かう。」
要石。それは怨念の塊のような存在である深海棲艦の進行を阻む人類にとって重要な品である。だがしかしこの要石も絶対というものではない。結界の緩い場所を通って弱い深海棲艦の侵入を許してしまうこともあるからだ。今回は進行してくるであろう深海棲艦の強さを見極めるために要石を調査するのだ。
「調査は一週間以内に行うこと。出来るだけ早期調査が望まれると思われることから本日、我が艦隊はこれより調査の為に鎮守府を出撃する。第一艦隊、出撃用意!」
すぐに行動を開始する第一艦隊。
俺も出撃準備を行う為に格納庫へと向かい、『それ』を見る。
俺よりも二回りほど大きく、そして、ずんぐりむっくりとした鋼の外装。背部には大型のミサイルポッド。そして肩部には羅針盤。
76式海上走行強化外骨格『古龍』。
海軍の提督たちが艦娘たちの直接指揮を執る為の文字通り海上を走る為に装具であり鎧。武装は撤退用の霊視錯乱ミサイルと煙幕のみ。陸の物とは違い、我々自身が戦うことができないが艦隊指揮をするために必要なもの。
しかし、俺が使うのはその隣にある、流線形というにはややこちらも太めのバイクのようなもの。
試作型77式海上走行強化外骨格『銀龍』。
所謂次世代機のテスト機であるそれにまたがり港に集結している第一艦隊に号令を出す。
「第一艦隊、抜錨!」
彼女たちの周りを囲むように四方からせり上がる箪笥のようなもの。
そこから鎖が弾け飛び、次々と艤装が装着されていく。
足に、腰に、腕に、背中に。
そして、各々が最後に飛び出てきた砲を、電探を、弓を手に取って出撃体制へと入る。
「駆逐艦叢雲、出撃するわ!」
手に持った電探を構え、その顔に絶対の自信を秘めて。
「駆逐艦不知火、出撃します」
普段以上に力がある目じりに決意を秘めて。
「軽巡夕張、出撃よ!」
己が作った最高の武装を装備し、その思いを乗せて。
「軽空母瑞鳳、出撃します!」
その矢に揺るがぬ思いを乗せ、弓にその決意を込めて。
「重巡古鷹!」
「同じく重巡加古!」
『出撃します!!』
己の力を信じ、二度と折れぬ決意を秘め。
「第一艦隊、出撃!」
宙に浮かび上がる出撃と書かれた半透明のボタンを拳で叩きつけるように力強く押し、第一艦隊の面々と共に銀龍が射出される。そして、その勢いは港を出たあたりで減速していく。
「そういえばそれ、いったいどうしたのよ?」
隣を追走する叢雲が銀龍についてきいてくる。
「あー、最新機種の試作機」
「はあ!?なんでそんなものがこんな場所に来てるのよ!」
「……さあな」
思わず目をそらす。
「あんた、知ってるんでしょ!?怒らないから言いなさい!」
「緘口令が敷かれてるんです…」
「あんたほんとに何関わったの!?」
それが分かったら苦労しないんや…。まさかあの時のお遊びがこんな事になるなんて全く分からなかったんだ…。
「それじゃ、気分を変えることもかねてそろそろ羅針盤を回そうか」
羅針盤は昔と違い、深海棲艦の居場所を大雑把に示してくれる所謂レーダーのようになった。なお、輸送艦などは旧羅針盤と新羅針盤を両方を備えており、新羅針盤の刺さない場所を通っている。それでもはぐれた深海棲艦には会ってしまうがそれは大体護衛艦隊で対処しているそうだ。
「それじゃあ、妖精さん。よろしくお願いします」
「羅針盤回しますよ」
そう、そこに現れたのは俺と同じくらいの身長であり、筋肉骨瘤の体をした工廠長。
「って、なんでていさん!?いつもの妖精さんたちどうしたの!?」
いつものあの小憎たらしくも愛らしい妖精さんはいずこに!
「それが風邪で全員倒れてしまいまして、ボクが代理で来たんですよ」
「妖精さんって風邪ひくの!?」
それ初耳なんですけど!?
「まあそんなことより、羅針盤を回しますね。セイヤァ!!」
そして羅針盤の針をグワシ!っとでも音が鳴りそうなほど力強く握りしめ羅針盤を回転させる。その回転は徐々に早くなり、まるでシングルローター式ヘリコプターが飛ぶような速さにまで回転数が上がって風が直接当たる位置にいる俺は帽子が飛ばないように必死に帽子を押さえて…そして。
羅針盤の針が勢いよく遠くへ飛び出して行った。
「………………………………よぉし今日は帰ろうか!」
銀龍を鎮守府の方へ反転させる。
「ちょちょちょちょっと!何もせずいきなり帰るわけ!?」
「羅針盤がないんだから遭難するかもしれないからな。しょうがないだろ。さあ帰うk」
その時、〈鷹の目〉で『見えた』。
鎮守府から火の手があるところを。
「ってあそこ俺の部屋あたりじゃないか!」
なんで鎮守府が襲われてるのさ!?
「すみません、工廠が心配なのでボクは先行しますね」
そうに言って、ていさんはドルフィンキックで泳いでいくていさんはまるで酸素魚雷のように早く…って!
「なんで酸素魚雷並にあの人泳いでるわけ!?」
叢雲でもそんなことできねえぞ!?
「そんなこと言ってないで早く支持を出してください!」
「分かってる!全艦戦闘用意!!」
第一艦隊を戦闘態勢に意識を変えさせ、前方に『見えて』いる敵艦を見つける。
そして、それを見た。駆逐イ級が主力となった水雷戦隊。そして旗艦は重巡リ級。大盤振る舞いなことだ。それにしてもタイミングが悪い。よもや別任務でねーちゃんが別の鎮守府の応援で出てしまっているときに、ここまで近くに接近されているなど思ってもいなかった。
が、リ級の頭に少し違和感を覚えよく凝らしてみると怒りの形相をしたリ級に、見覚えのある羅針盤の針が突き刺さっていた。
「刺さってるぅぅぅぅ!?」
さっき飛んでいった針に突き刺さったせいで攻撃して来たとでもいうのか!?
てかなんかすげえ怒り心頭でこっちにらんできてるんだけど!?
「砲雷撃戦始め!刺さったのはご愁傷さまだけどお前じゃないけどぶったおす!」
よくも部屋に当てやがって!などと全く義務感とかなしの私怨で支持を出す。そして銀龍を流線型の巡航形態から
全身を着込むように変形し、やや太めの戦闘形態へ変形させる。
「おお、カッコイイ!」
「提督!やっぱりそれ弄らせて!」
加古が銀龍の変形を見て目を輝かせ、夕張はギラギラとした肉食獣のような目で銀龍を見る。
「余計なこと言ってないで早く動きなさい!あとこれ機密の塊だから弄らせません!」
けちー!という夕張の恨み言を無視し戦況を見始める。
「第一次攻撃隊発艦!」
九十七式艦攻の矢を次々と弓につがえ、艦載機を発艦する瑞鳳。しかし敵もたたではやられないとばかりにこちらに撃ってくる。
深海棲艦の砲弾は所謂質量を持った怨念の塊。当たればこちらが呪殺されてしまう。だから銀龍のような強化外骨格を纏っていなければ危険なのだ。逆に艦娘はやつらとは正反対の性質を備えているせいかある程度なら服が破れるだけで済んでいるそうなんだとか。
だが、人間の俺は回避運動をしなければならない。
「沈みなさい!」
「沈め!」
叢雲と不知火が次々に砲撃を行い、駆逐イ級頭数を減らしていく。
「さあ、色々試させてもらうんだからね!」
夕張は相手の軽巡に返答――そもそもにおいてしゃべれる固体は居なさそうだが――を聞かずに身に着けた兵装を次々と撃ちこんでいる。てか、いつあんな砲作ったんだ?
「ブッ飛ばすッ!」
「主砲狙って、そう…。撃てぇー!」
古鷹、加古の二人は重巡リ級に右腕に装備している主砲を絶えず撃ち続けてリ級に反撃の隙を与えない。あと、加古はもうちょっときれいな言葉を使おうか。古鷹を見習いなさい。
そして〈先見の公〉が次の敵の砲撃を『見せる』
「夕張、面舵一杯!緊急回避!」
「了解!」
夕張が舵をとりその場から離れた時にさっきまで居た場所に砲撃が通り過ぎた。
俺のスキル、〈鷹の目〉はその通り遠くを見通し、〈先見の公〉は少し先の未来を観せる。だからそこ、被害を抑えることが出来る。
そしてついにこの時が来た。
「全員トドメだ!雷撃開始!魚雷、撃てぇ!」
全艦に装備された魚雷が次々と発射され、ほぼ虫の息に等しかった敵艦隊を完全に殲滅した。
「被害報告急げ!」
「叢雲損傷軽微!全く問題ないわ」
「こちら不知火、損傷ありません」
「私は砲弾をちょっと撃ちすぎただけで被害はないわ」
「あたしは一発いいの貰っちゃって中波一歩手前の小破。古鷹は?」
「問題ないです。艦隊行動に支障はありません!」
「ならば急速反転!これより鎮守府に緊急帰還する!」
『了解!』
急いで反転し鎮守府を目指す。距離はそう遠くないとはいえ、敵に襲われているのだ。
何故、気づかなかったか、どうしてここにいるかなどの気になることは山ほどある。だがしかし。
「今はそんなことを気にしている場合じゃない!」
頼む、無事であってくれ……!
鎮守府にいる仲間たちの無事を、ただ祈るのだった。
「見えてきたぞ!」
そして十分もたたないうちに鎮守府が見え始めた。『鷹の目』で遠視したところグラウンドなどのあちこちに煙は燻っているがそこまで被害は出ていないように見える。
「到着次第、即戦闘を開始する!全艦戦闘よう…!?」
そして〈先見の公〉で『観えてしまった』。
いや、あんなものがあるわけがないと思っていたかった。いやていさんならあり得るかもしれないと思った。
「これが、妖精さんの力だー!」
そういいながら、明らかに身丈以上の岩石としか言いようのない物体を掲げて深海棲艦に壊滅的なダメージを与えているところが見えた。間違っていてほしいと思った未来であるのに。何故、何故。
「ていさんが戦ってるの…!?」
そんな声は直撃した爆発音でかき消されたのであった。
今日の鎮守府は非常に物騒である。