××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「方々で聞き回ってみたんだが、お前さんのことを知ってる奴は居なかった」

 

 前回の振り売りから、ちょうど三ヶ月。

 再びサリテ村を来訪した行商人が、渋面で告げる。

 

「そうか」

 

 それを聞いたシュウホウはと言えば、思いのほか反応は薄かった。

 少しだけ目を伏せ、淡々と言葉を返すのみであった。

 

「すまねぇな、力になってやれなくて」

「いや。むしろ、こっちこそ手間をかけさせてしまって申し訳ない」

 

 軽く腰を折るシュウホウ。

 どこかバツが悪そうに唇を結んだ行商人は、ひとつ咳払いを挟むと、強引に話題を変える。

 

「あー、と……そうそう、そうだ。前来た時に頼まれてた例のもん、仕上がったぜ」

「それはありがたい」

 

 行商人から差し出された、手のひらに収まるサイズの小箱。

 中身を確認したシュウホウは、注文通りの出来栄えに満足したらしく、静かに頷いた。

 

()()にプレゼントか? 色男め」

「まあ、似たようなものだな」

 

 小箱を懐に収め、(きびす)を返すシュウホウ。

 そうして彼は独り、喧騒飛び交う広場から離れていった。

 

 

 

 

 

 村の片隅まで歩いたのち、シュウホウは足を止める。

 そのまま木の幹に背中を預け、じっと空を見上げた。

 

「…………」

 

 行商人から伝えられた身元調査の結果について、さほど落胆はなかった。

 シュウホウ自身、なんとなく予感していたのだ。

 

 きっと何も分からないだろう、と。

 

「──なに景気の悪いカオしてんの」

 

 ふと、寄りかかった幹の向こうから、くぐもった女声(じょせい)が響く。

 間を置かず、それが誰であるのかを悟ったシュウホウは、ゆるく肩をすくめた。

 

「いい加減な奴だ。そっちからじゃ、俺の顔なんて見えないだろうに」

「見えなくたって、そのくらい分かるわよ」

 

 そう言い、彼女──ウルスラが、コツコツと幹を叩く。

 微かな振動が、シュウホウの背中へと触れた。

 

「聞いたわ。身元の手掛かり、見付からなかったんですって?」

「まあ、な」

「意外ね。そういうの、気にするタイプだったんだ」

 

 コツコツ、コツコツ。

 等間隔で幹を叩く音だけが、しばし辺りに鳴り渡った。

 

「……ここへ来たばかりの頃なら、きっと気にも留めなかっただろう」

 

 溜息に乗せるような口舌(くぜつ)

 雲へと隠れた太陽を仰ぎ見、目を細めるシュウホウ。

 

「この村で色々と学んだ。教わった」

 

 だんだんと、分かることが増えていく。

 そうした日々の中で、いつの頃からか、彼は理解したのだ。

 

 自分が何者なのかさえ分からないというのは、存外しんどい──と。

 

「俺はいったい、誰なんだろうな」

 

 ぽつりと口を突いて出た呟き。

 幹を叩くのをやめたウルスラが、常に口元を覆う襟巻きに指先を引っ掛け、ずり下ろした。

 

「じゃあ、アタシが教えてあげる」

「……?」

 

 普段よりもクリアに響く声で、彼女は告げた。

 

「アンタはシュウホウ。サリテ村のシュウホウよ」

 

 その言葉を受け、金色の瞳を収める双眸(そうぼう)が、大きく見開かれた。

 

「それじゃ不満なワケ?」

「…………いや」

 

 ふるふると首を振るシュウホウ。

 つい先程まで胸の奥でつかえていた何かが、すとんと落ちるのを感じた。

 

「ウルスラ」

「なに」

「ありがとう」

「……うっさい、バーカ」

 

 

 

 

 

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