××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「──失礼します」

 

 丁寧にノックしたのち、村長宅の扉を開けるヒスイ。

 中で待っていた村長(むらおさ)が、好々爺(こうこうや)然とした笑顔で出迎えた。

 

「来てくれたかヒスイ。すまんのう、急に呼び出したりなどして」

 

 そう言って、じっと彼女を見つめる村長(むらおさ)

 

 赤と黒の入り混じった、長い髪。

 髪と同じく二色に分かれた、左右の瞳。

 

 纏う衣服は、()()()()だけが袖を通せる黒衣。

 もっともヒスイ本人は、まだその意味を知らない。

 

 生まれた時から、ずっと成長を見守ってきた少女。

 気付けばこんなにも大きく育ったのかと、村長(むらおさ)は感慨深げに目を細める。

 

「来週には、お前も十六か。いやはや、年を取ると時間の流れが早くてかなわん」

 

 こほん、とひとつ咳払い。

 先程までとは打って変わって表情を引き締めた村長(むらおさ)が、少しだけ声を抑えた。

 

「近々、お前に教えることがある」

 

 この村ができた当初から、代々に(わた)って守られてきた秘密。

 村人の中でも一部の者だけに語り継がれる、裏の顔。

 

 ──当代の象徴(イコン)たるヒスイは、()()を知っておかなければならない。

 

「時機が来たら、また声をかける。備えておきなさい」

「え……えぇ……?」

 

 何が何やら理解が追い付かず、戸惑うヒスイ。

 やがて村長(むらおさ)はいつもの調子に戻ると、菓子でもどうだと勧めてきた。

 

 

 

 

 

「なんだったんだろう……」

 

 首を捻りながら帰路につくヒスイ。

 お菓子は美味しかったけれど、呼び出された理由の方は、結局よく分からなかった。

 

 そんな最中、見慣れた後ろ姿に気が付く。

 

「じゃあ、アタシは先に帰ってるから」

「ああ」

 

 連れ立って歩くシュウホウとウルスラ。

 二人が別れてすぐ、ヒスイはシュウホウに駆け寄った。

 

「シュウホウさんっ」

 

 振り返った金色の瞳と、視線が重なる。

 

「ヒスイか」

「はい。ヒスイです」

「今日は良い天気だな。昼寝には最適だ」

午睡(ごすい)ではないです」

 

 分かりにくい上、特に面白くもない冗句(じょうく)

 滑ったか、と頬を掻きつつ、おもむろにシュウホウは自身の懐を探り始めた。

 

「ちょうど良かった。君に渡すものがある」

 

 そう言って彼が差し出したのは、綺麗な楕円形に磨き抜かれた深緑(しんりょく)

 

 ()()()()()と同じ宝石──翡翠(ひすい)の首飾り。

 

「この前、君と最初に会った川辺で見付けた。少し早いが、十六歳の祝いだ」

「────」

 

 行商人を通して加工させたのだろう、銀のチェーンで提げられた品。

 それを受け取ったヒスイは、呆然と手の中を見下ろす。

 

 言葉もなかった。

 

「気に入ってもらえると嬉しいんだが」

 

 しばし間を挟み、ハッと我に返るヒスイ。

 舌をもつれさせながら、どうにか感謝を伝えようと悪戦苦闘する。

 

「あ、あっ、あのっ」

 

 痛むほどに跳ねる心臓。

 耳まで真っ赤に染まった顔を俯かせ、最後は鼻声となりつつ、口舌(くぜつ)を織った。

 

「──ありがとう、ございますっ」

 

 

 

 

 

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