××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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12:閑話1

 

 

 

 

 

 ………………………………。

 ……………………。

 …………。

 

 まるで、灰を(まぶ)したかのような髪。

 日焼けなどによるものではない、元から褐色の肌。

 世にも珍しい、金色を帯びた瞳。

 

 島国での大多数を占める人種。

 色白の肌や茶髪金髪がスタンダードな彼等彼女等とは、まさしく毛色から異なる見目。

 

 そんな、異彩を(ちりば)めた容姿。

 にもかかわらず、その過去は一切合切が不透明。

 サリテ村に現れる以前の彼を──シュウホウを知る者は、ただの一人も存在しない。

 

 いったい誰なのか。

 どこから来たのか。

 何故ここに居るのか。

 

 何ひとつとして、分からない。

 

 だが。それでもいいと、シュウホウは思っていた。

 思えるように、なっていた。

 

 さほど裕福ではないものの、平和な村。

 根無し草の自分を受け容れてくれた、穏やかで優しい村人たち。

 そして、生活を共にする家族も居る。

 

 満たされていた。

 満ち足りていた。

 過去への頓着など、抱きようもないほどに。

 

 陽だまりに似た、柔らかな幸福。

 ぬるい微風(そよかぜ)を想起させる、漠然とした居心地の良さ。

 

 …………。

 シュウホウは、信じていた。

 こんな日々が、ずっと続くのだと。

 

 ()()()()の瞬間まで──疑いすらも、していなかった。

 

 

 

 

 

「──あ」

 

 震える指先。

 青ざめた顔色。

 見開かれた双眸(そうぼう)

 

「ああ」

 

 唇から零れ出る、言葉にならない声。

 膝を折り、その場へと座り込む。

 

「ああぁぁぁぁっ」

 

 頭蓋が砕け、脳みそが爆ぜる。

 そう錯覚するほどの激しい痛み。

 

 併せて流れ込んでくる、膨大な量の情報。

 様々な景色が、音が、入れ替わり立ち替わり交錯し、脳髄を揺さぶる。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ」

 

 神経を(えぐ)らんばかりの過負荷に、シュウホウの目から血が(したた)る。

 涙さながらに頬を伝い、ぽたぽたとこぼれ、足元に赤い斑点を彩っていく。

 

「──なんで」

 

 眼前の光景を呆然と眺めながら、やがてシュウホウは呟いた。

 

「なんで」

 

 思い出した──否、理解したのだ。

 

 自分が誰なのかを。

 どこから来たのかを。

 何故ここに居るのかを。

 

 ──この世界(ゲーム)の正体と、待ち受ける末路(エンディング)を。

 

「なん、で」

 

 一時(いっとき)は望んでいたハズである、己の過去というアイデンティティ。

 だがしかし、それを得た喜びなど、微塵も湧かなかった。

 

 代わりに彼の胸を埋め立てたのは、ひたすらな疑問と、激しい怒りだった。

 

「なんで、今なんだ」

 

 頭を掻きむしる。

 こんな馬鹿げた話があるか、と。

 

「なんで──ッッ!!」

 

 シュウホウの見つめる先で、サリテ村が燃えていた。

 煌々(こうこう)と光熱を撒き散らし、暴れ狂う、()()()()かれていた。

 

 

 

 

 

 すなわち、彼は──すべての現在(いま)と引き換えに、己の過去を取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

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