突如サリテ村を襲った黒い炎は、三日三晩に
触れるもの全てに燃え移り、燃え尽きるまで決して消えず荒れ狂う黒炎。
それを消し留めたのは、四日目に降り注いだ、赤い雨。
黒く朽ちた村。
赤く濡れた森。
…………。
その中心に横たわっていたヒスイが目を覚ましたのは、五日目の朝。
何もかも過ぎ去り、何もかも消え去ってしまってからのことだった。
深く沈んだ意識が、少しずつ浮かび上がっていく。
併せてヒスイが最初に感じたものは、全身が鉛になったかのような気怠さ。
「ッ……ぅ……げほっげほっ!」
次いで、異様な焦げ臭さが鼻腔を突き刺す。
一気に覚醒した彼女は、咳き込みながら、黒衣の袖で口元を覆った。
「なんなの、この臭……い……」
やけに重く感じる身を起こし、周囲を見渡す。
左右で色の異なる目玉が映し出した、あまりにも無惨な光景。
「……え……え、え……」
赤い霧で霞んだ視界。
見る影もなく燃え尽きた、サリテ村の成れの果て。
「うそ……嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘──ッッ!!」
強烈な頭痛と吐き気。
うずくまり、すでにほとんど空っぽだった胃の中身を、残らず吐き戻す。
「ぇ……うぇっ……うっ……」
激しくえずき、引きつった呼吸を繰り返す。
ややあって、ふらふらと立ち上がった。
今にも横倒れになりそうな、おぼつかない足取り。
消し炭となった廃墟のひとつに、緩慢と歩み寄る。
そこは、ヒスイの自宅。
両親と三人で暮らす、彼女の家。
より正しくは、家だったもの。
「っっ」
半ば原形すら失った玄関の扉板をどかす。
真っ黒な灰をかき分け、
だがしかし──そんな願いも虚しく、探し人たちは、すぐに見付かった。
「────」
例えるなら、かまどに入れたまま何時間も忘れていたパン。
かろうじて元の形を留めた、そっと触れるだけでも崩れてしまいそうな有様の、塊。
「おとう、さん。おかあ、さん」
脳裏に蘇る、最も新しい記憶。
十六歳の誕生日を祝ってくれた、二人の笑顔。
その笑顔が、目の前の焼け焦げた亡骸へと書き換わる。
一歩も動けず、声も出せず、ただただヒスイは、自分の両親だったものを見つめていた。
「──誰か!」
やがて、堰を切ったかのごとく、叫んだ。
「誰か! ねえ、誰か居ないの!?」
この村で、いったい何が起きたのか。
どうして、このようなことになっているのか。
何も分からないまま、金切り声を上げ、ヒスイは叫ぶ。
「誰か……誰かぁっ……!!」
幾たび叫べど、返答は無い。
どこからも、声は返らない。
ヒスイの視界が滲む。
歯の根が合わなくなる。
がくがくと足腰が震え、立っていられず、へたり込んだ。
「誰、か……あぁ、ああああっ」
重ねる都度、しぼんでいく叫び。
俯き、顔を覆い、言葉にならない声が、喉の奥から零れ出る。
──みんな、死んでしまった。
思考をよぎる、冷たい呟き。
生きているのは自分だけだと、ヒスイを取り巻く状況のひとつひとつが、残酷な現実を伝える。
背後から足音らしきものが聞こえたのは、泣きじゃくる間際のことだった。