××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「──落ち着いたか?」

 

 ぽんぽんと、シュウホウがヒスイの背中を優しく叩く。

 依然、小刻みにしゃくり上げながらも、彼女は涙で濡れた顔を拭い、ゆっくり頷いた。

 

「あ……あの、シュウホウさん──」

 

 震える唇で、頭の中を埋め尽くさんばかりの疑問を投げ掛けようとするヒスイ。

 しかし、その前にシュウホウが制止した。

 

「まずは場所を変えよう」

 

 立ち込める屍臭に惹かれ、いつまた厄介な獣が現れないとも限らない。

 何より、こんな惨状の只中で、まともな話し合いなど望めるハズもなかった。

 

「立てるか?」

「はい……」

 

 

 

 

 

 風上に向かい、しばし歩く二人。

 辿り着いた先は、シュウホウとヒスイが初めて出会った川辺。

 

「ここなら、良いだろう」

 

 小さな溜息と共に、手頃な岩へと腰掛けるシュウホウ。

 一方のヒスイは落ち着かない様子で視線を泳がせ、口を開いた。

 

「あの、あ、あの……聞いても、いいですか……?」

 

 俺に答えられることなら。

 そう返したシュウホウを見つめながら、ヒスイが尋ねる。

 

「……何が……私たちの村で、いったい何があったんですか……!?」

 

 ヒスイの最期の記憶は、両親や村長(むらおさ)たちに十六歳の誕生日を祝われる一幕。

 並んだ御馳走に舌鼓を打ち、歌い、笑い合う、楽しく幸せだった一夜。

 

 にもかかわらず、目が覚めてみれば、全て壊れてしまっていた。

 何もかも、黒く燃え尽きてしまっていた。

 

「どうして、あんな……あんな、酷い……!」

 

 先刻の光景がフラッシュバックし、込み上げる吐き気に口を押さえるヒスイ。

 ひゅう、ひゅう、と弱々しく呼吸を重ね、言葉にならない声を、指の隙間から漏らす。

 

「──分からない」

 

 立ち上がったシュウホウが、ヒスイに背中を向けながら、淡々と告げた。

 

「俺の方も、目が覚めてから三十分と経ってない。サリテ村の状況について知っていることは、たぶん君と大差無い」

「じ、じゃあ、私たち以外に生きてる人は!? 誰か他にも──」

「あちこち探したが、居なかった。少なくとも、俺の把握する限りでは」

 

 畑仕事だけでなく狩猟にも従事していたシュウホウは、非常に注意深い。

 その彼が、たった三十分の捜索とはいえ、誰も見付けられていない。

 

 ネガティブな思考ばかりが頭を駆け回る。

 ただでさえ蒼白だったヒスイの顔色が、一層と青ざめていく。

 

 そんな彼女を気遣うように、シュウホウは振り返った。

 

「早まるな。まだ、そうと決まったワケじゃない」

 

 おそらく半分以上は、自分自身に言い聞かせた台詞。

 

「……とりあえず、ちょっと休もう。震えが収まったら、このあたりから探そう」

 

 シュウホウがヒスイの傍へと歩み寄り、彼女の耳元で囁く。

 そして、溜息を吐くような語調でもって、口舌(くぜつ)を続ける。

 

「君だけでも生きていてくれて、良かった」

「────」

 

 その言葉を受けたヒスイが、静かに目を見開かせる。

 こんな時だと言うのに、小さく心臓が跳ねた。

 

 

 

 

 

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