「──落ち着いたか?」
ぽんぽんと、シュウホウがヒスイの背中を優しく叩く。
依然、小刻みにしゃくり上げながらも、彼女は涙で濡れた顔を拭い、ゆっくり頷いた。
「あ……あの、シュウホウさん──」
震える唇で、頭の中を埋め尽くさんばかりの疑問を投げ掛けようとするヒスイ。
しかし、その前にシュウホウが制止した。
「まずは場所を変えよう」
立ち込める屍臭に惹かれ、いつまた厄介な獣が現れないとも限らない。
何より、こんな惨状の只中で、まともな話し合いなど望めるハズもなかった。
「立てるか?」
「はい……」
風上に向かい、しばし歩く二人。
辿り着いた先は、シュウホウとヒスイが初めて出会った川辺。
「ここなら、良いだろう」
小さな溜息と共に、手頃な岩へと腰掛けるシュウホウ。
一方のヒスイは落ち着かない様子で視線を泳がせ、口を開いた。
「あの、あ、あの……聞いても、いいですか……?」
俺に答えられることなら。
そう返したシュウホウを見つめながら、ヒスイが尋ねる。
「……何が……私たちの村で、いったい何があったんですか……!?」
ヒスイの最期の記憶は、両親や
並んだ御馳走に舌鼓を打ち、歌い、笑い合う、楽しく幸せだった一夜。
にもかかわらず、目が覚めてみれば、全て壊れてしまっていた。
何もかも、黒く燃え尽きてしまっていた。
「どうして、あんな……あんな、酷い……!」
先刻の光景がフラッシュバックし、込み上げる吐き気に口を押さえるヒスイ。
ひゅう、ひゅう、と弱々しく呼吸を重ね、言葉にならない声を、指の隙間から漏らす。
「──分からない」
立ち上がったシュウホウが、ヒスイに背中を向けながら、淡々と告げた。
「俺の方も、目が覚めてから三十分と経ってない。サリテ村の状況について知っていることは、たぶん君と大差無い」
「じ、じゃあ、私たち以外に生きてる人は!? 誰か他にも──」
「あちこち探したが、居なかった。少なくとも、俺の把握する限りでは」
畑仕事だけでなく狩猟にも従事していたシュウホウは、非常に注意深い。
その彼が、たった三十分の捜索とはいえ、誰も見付けられていない。
ネガティブな思考ばかりが頭を駆け回る。
ただでさえ蒼白だったヒスイの顔色が、一層と青ざめていく。
そんな彼女を気遣うように、シュウホウは振り返った。
「早まるな。まだ、そうと決まったワケじゃない」
おそらく半分以上は、自分自身に言い聞かせた台詞。
「……とりあえず、ちょっと休もう。震えが収まったら、このあたりから探そう」
シュウホウがヒスイの傍へと歩み寄り、彼女の耳元で囁く。
そして、溜息を吐くような語調でもって、
「君だけでも生きていてくれて、良かった」
「────」
その言葉を受けたヒスイが、静かに目を見開かせる。
こんな時だと言うのに、小さく心臓が跳ねた。