サリテ村は、ある島国の北部辺境にひっそりと築かれた、森深くの小さな村落である。
人口は僅か二百人前後。世帯数も五十そこそこ程度。
狩猟と農耕で日々の糧を授かり、恵みに感謝を捧げながら、慎ましく生きている集団。
そんな村で生まれ育った少女──ヒスイが
「!」
川岸でうつ伏せに倒れる、一人の青年。
水汲みに来ていたヒスイは、彼に気付くや否や桶を投げ出し、彼へと駆け寄った。
が、最後の数歩で足を緩める。
「……誰……?」
川の水で濡れた、まったく
それなりに
見慣れぬ風体。
村の者ではない。
ヒスイにとって『外』の人間とは、たまに香辛料や嗜好品などを売りに来る行商人を指す。
けれど目の前で倒れている青年は、明らかに商人の
「あ、あのっ……大丈夫、ですか……?」
やや警戒した様子で、恐る恐る声をかけるヒスイ。
けれど青年は横たわったまま、何の反応も示さない。
程なく意を決し、ヒスイは青年に手を伸ばした。
そっと首筋へ触れる。脈はあった。
だが。
「ッ……い、息、してない……!」
ヒスイの背筋に冷たいものが走り、顔色を青ざめさせる。
どうしよう、どうしよう、と慌てふためいたのち──咄嗟に青年の頭を掴み、彼の口へと息を吹き込んだ。
決して適しているとは言えないやり方での人工呼吸。
しかしながら、奇跡的に上手くいった。
「…………けほっ、けほっ……!」
軽く咳き込み、息の根が通る。
青年の胸が緩やかに上下し始めた光景に、ヒスイは安堵のあまり、へたり込んだ。
次いで、今さっき自分のしたことを思い出し、顔を真っ赤に染める。
その瞬間、青年の瞼が開かれた。
「────あ」
切れ長な
視線を重ねたヒスイは、しばし魅入ったまま、声も出せなかった。
「おはよう」
「え……あ、えっ、と……おはよう、ございます……?」
長いような短いような間を挟み、青年からの第一声が発される。
つい先程まで生死の境を
「君は、誰だ?」
「あ、わっ、私……ヒスイと、申します……」
「そうか。ここはどこだ?」
「サリテ村近くの川、です……」
「そうか──」
完全に青年のペースで進む会話。
ヒスイは面食らいつつも、順々に答えていく。
そして五つばかり応答を重ねた頃合、青年が小首を傾げた。
「落ち着いたか?」
「……え?」
「いや。顔色が悪かったように見えたんでな」
どうやら矢継ぎ早な質問は、ヒスイの息を整えさせるために行っていた模様。
繰り返すが、つい先程まで生死の境を
「すまないが、あとひとつ聞いても構わないかな」
「は、はい」
なんだか変わってるけど、悪い人ではないみたい。
そう胸の内で呟きながら、ヒスイは青年の言葉に耳を傾け──目を丸くさせた。
「俺は、誰だ?」
「……………………え?」