××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 サリテ村は、ある島国の北部辺境にひっそりと築かれた、森深くの小さな村落である。

 

 人口は僅か二百人前後。世帯数も五十そこそこ程度。

 狩猟と農耕で日々の糧を授かり、恵みに感謝を捧げながら、慎ましく生きている集団。

 

 そんな村で生まれ育った少女──ヒスイが()と出会ったのは、よく晴れた日のことだった。

 

「!」

 

 川岸でうつ伏せに倒れる、一人の青年。

 水汲みに来ていたヒスイは、彼に気付くや否や桶を投げ出し、彼へと駆け寄った。

 

 が、最後の数歩で足を緩める。

 

「……誰……?」

 

 川の水で濡れた、まったく(つや)の無い灰色の髪。

 それなりに上背(うわぜ)のある体格と、褐色の肌。

 年嵩(としかさ)は、つい先日十五歳になったばかりのヒスイよりも幾つか上といった塩梅(あんばい)

 

 見慣れぬ風体。

 村の者ではない。

 

 ヒスイにとって『外』の人間とは、たまに香辛料や嗜好品などを売りに来る行商人を指す。

 けれど目の前で倒れている青年は、明らかに商人の(よそお)いには見えなかった。

 

「あ、あのっ……大丈夫、ですか……?」

 

 やや警戒した様子で、恐る恐る声をかけるヒスイ。

 けれど青年は横たわったまま、何の反応も示さない。

 

 程なく意を決し、ヒスイは青年に手を伸ばした。

 そっと首筋へ触れる。脈はあった。

 

 だが。

 

「ッ……い、息、してない……!」

 

 ヒスイの背筋に冷たいものが走り、顔色を青ざめさせる。

 どうしよう、どうしよう、と慌てふためいたのち──咄嗟に青年の頭を掴み、彼の口へと息を吹き込んだ。

 

 決して適しているとは言えないやり方での人工呼吸。

 しかしながら、奇跡的に上手くいった。

 

「…………けほっ、けほっ……!」

 

 軽く咳き込み、息の根が通る。

 青年の胸が緩やかに上下し始めた光景に、ヒスイは安堵のあまり、へたり込んだ。

 

 次いで、今さっき自分のしたことを思い出し、顔を真っ赤に染める。

 

 その瞬間、青年の瞼が開かれた。

 

「────あ」

 

 切れ長な双眸(そうぼう)から覗く、陽光を柔らかく跳ね返す、透んだ金色の瞳。

 視線を重ねたヒスイは、しばし魅入ったまま、声も出せなかった。

 

「おはよう」

「え……あ、えっ、と……おはよう、ございます……?」

 

 長いような短いような間を挟み、青年からの第一声が発される。

 つい先程まで生死の境を彷徨(さまよ)っていたとは思えぬ、静かだが滑舌の良い口舌(くぜつ)だった。

 

「君は、誰だ?」

「あ、わっ、私……ヒスイと、申します……」

「そうか。ここはどこだ?」

「サリテ村近くの川、です……」

「そうか──」

 

 完全に青年のペースで進む会話。

 ヒスイは面食らいつつも、順々に答えていく。

 

 そして五つばかり応答を重ねた頃合、青年が小首を傾げた。

 

「落ち着いたか?」

「……え?」

「いや。顔色が悪かったように見えたんでな」

 

 どうやら矢継ぎ早な質問は、ヒスイの息を整えさせるために行っていた模様。

 繰り返すが、つい先程まで生死の境を彷徨(さまよ)っていた人間の配慮とは思えなかった。

 

「すまないが、あとひとつ聞いても構わないかな」

「は、はい」

 

 なんだか変わってるけど、悪い人ではないみたい。

 そう胸の内で呟きながら、ヒスイは青年の言葉に耳を傾け──目を丸くさせた。

 

「俺は、誰だ?」

「……………………え?」

 

 

 

 

 

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