「奥に入るのは、やめた方がいい」
井戸の底に降り、ランタンで横穴を照らしたシュウホウが、眉間にシワを寄せて言った。
「こういうところには毒気が溜まっている場合が多いと、ウルスラから聞いたことがある。準備も無しに踏み込むのは危険だ」
その奥へと延びる、隠し通路。
ランタンの明かりでは突き当たりが窺えない程度には長い。
ひとまず小石を投げてみると、かなり遠くまで音が響いた。
「だいぶ広そうだし、調べるにしても、いったん戻──」
「……たぶん、大丈夫です」
同じく井戸の底に降りていたヒスイが、シュウホウの言葉尻を待たず、口を開く。
次いで、横穴の地面を指差した。
「人の通った痕跡があります。しかも、まだ新しい」
「あ、おい──」
ヒスイはシュウホウの手からランタンを掴み取ると、まるで吸い寄せられるかのように、横穴へと踏み入った。
そして制止の声も聞かず、どんどん進んでいく。
「……くそっ」
しばし、ヒスイの背中に向けて手を伸ばしたまま、渋面で固まるシュウホウ。
程なく彼は、ひとつ小さく悪態をつくと、遠ざかるヒスイを追いかけるのだった。
「きゃっ」
暗く、曲がりくねった横穴を、ランタンの明かりだけを頼りに進む二人。
せり出した石に
「大丈夫か?」
「は、はい……ありがとう、ございます」
「俺が持つ。すぐ後ろに回るといい」
どこか硬い表情で、シュウホウが告げる。
暗がりゆえ、ヒスイは彼の様子に気付かず、言われるがまま後ろについた。
「…………」
前を歩き始めたシュウホウの面持ちは、依然と強張っている。
視線だけを忙しなく右往左往させ、とかく落ち着きが無い。
普段の彼とは打って変わった姿。
まるで、この先に何があるのかを知っていて、怖れているかのような態度。
にもかかわらず、背後から見る分には、いつも通り。
ヒスイはシュウホウの異変など知る由もなく、彼に寄り添う。
「ッ……」
一方のシュウホウは、肌寒い横穴の中で、首筋に冷や汗を伝わせていた。
それでもなお、ヒスイに胸中を悟られないよう、平静を装うポーズは徹底していた。
いっそ、不自然なほどに。
絶えず足元を気遣いながらの歩みであったため、二人は長らく口数少なかった。
「あ……」
ヒスイが数分ぶりに声を上げたのは、横穴の先で光るものを見付けた瞬間のこと。
何かが、ランタンの明かりを照り返したのだ。
「…………」
狩猟に従事するうち夜目が利くようになったシュウホウは、ヒスイよりも幾分先に、
彼は何も言わず──ただ、ぎりっと奥歯を軋ませた。