××を殺す病   作:竜胆マサタカ

20 / 21
19

 

 

 

 

 

「奥に入るのは、やめた方がいい」

 

 井戸の底に降り、ランタンで横穴を照らしたシュウホウが、眉間にシワを寄せて言った。

 

「こういうところには毒気が溜まっている場合が多いと、ウルスラから聞いたことがある。準備も無しに踏み込むのは危険だ」

 

 (ウルフ)が落ちた際の衝撃で崩れたらしい、壁に偽装した入り口。

 その奥へと延びる、隠し通路。

 

 ランタンの明かりでは突き当たりが窺えない程度には長い。

 ひとまず小石を投げてみると、かなり遠くまで音が響いた。

 

「だいぶ広そうだし、調べるにしても、いったん戻──」

「……たぶん、大丈夫です」

 

 同じく井戸の底に降りていたヒスイが、シュウホウの言葉尻を待たず、口を開く。

 次いで、横穴の地面を指差した。

 

「人の通った痕跡があります。しかも、まだ新しい」

「あ、おい──」

 

 ヒスイはシュウホウの手からランタンを掴み取ると、まるで吸い寄せられるかのように、横穴へと踏み入った。

 そして制止の声も聞かず、どんどん進んでいく。

 

「……くそっ」

 

 しばし、ヒスイの背中に向けて手を伸ばしたまま、渋面で固まるシュウホウ。

 程なく彼は、ひとつ小さく悪態をつくと、遠ざかるヒスイを追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

「きゃっ」

 

 暗く、曲がりくねった横穴を、ランタンの明かりだけを頼りに進む二人。

 せり出した石に(つまず)きかけたヒスイを、シュウホウが咄嗟に抱き止めた。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……ありがとう、ございます」

「俺が持つ。すぐ後ろに回るといい」

 

 どこか硬い表情で、シュウホウが告げる。

 暗がりゆえ、ヒスイは彼の様子に気付かず、言われるがまま後ろについた。

 

「…………」

 

 前を歩き始めたシュウホウの面持ちは、依然と強張っている。

 視線だけを忙しなく右往左往させ、とかく落ち着きが無い。

 

 普段の彼とは打って変わった姿。

 まるで、この先に何があるのかを知っていて、怖れているかのような態度。

 

 にもかかわらず、背後から見る分には、いつも通り。

 ヒスイはシュウホウの異変など知る由もなく、彼に寄り添う。

 

「ッ……」

 

 一方のシュウホウは、肌寒い横穴の中で、首筋に冷や汗を伝わせていた。

 それでもなお、ヒスイに胸中を悟られないよう、平静を装うポーズは徹底していた。

 

 いっそ、不自然なほどに。

 

 

 

 

 

 絶えず足元を気遣いながらの歩みであったため、二人は長らく口数少なかった。

 

「あ……」

 

 ヒスイが数分ぶりに声を上げたのは、横穴の先で光るものを見付けた瞬間のこと。

 何かが、ランタンの明かりを照り返したのだ。

 

「…………」

 

 狩猟に従事するうち夜目が利くようになったシュウホウは、ヒスイよりも幾分先に、()()の全容を捉えていた。

 

 彼は何も言わず──ただ、ぎりっと奥歯を軋ませた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。