××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「…………」

 

 手にした女神の(つるぎ)を引きずり、焼け落ちた村跡まで戻ったヒスイ。

 水を汲んでくると言って(きびす)を返したシュウホウの背中を見送りながら、彼女は魂が抜け落ちてしまったかのような佇まいで、ぼんやりと立ち尽くしていた。

 

「……………………」

 

 しばらくののち、ぎこちない所作で、辺りを見渡す。

 

 あちこちに赤い水溜まりが残る、焦げて朽ちた故郷の惨状。

 中央広場に築かれた、二百を超える同郷たちの墓標。

 

「………………………………ない」

 

 虚ろな、生気の無い表情。

 だがしかし、その左右で色の異なる瞳には、激しい怒りが宿っていた。

 

「ゆるさない……」

 

 きつく握り締めた剣の柄が、小さく(きし)む。

 ふらふらと、幽鬼のような足取りで、立ち並ぶ墓標の群れへと歩み寄る。

 

「みんな。待ってて」

 

 ──よくパンを焼いてくれた、隣のメフメトおばさん。

 ──お酒好きで、ときどき道端に転がって居眠りしていた、フランクおじいさん。

 ──びっくりするくらい魚を捕るのが上手だった、ミシャールおじさん。

 ──薬草に詳しかった、料理上手なクラリエッタお姉さん。

 ──クラリエッタお姉さんのことが好きだった、照れ屋だけど優しいロイお兄さん。

 ──わんぱくで、しょっちゅう擦り傷を作ってた、いたずらっ子のジードくん。

 ──無口でいつも本を読んでた、勉強家のアンネちゃん。

 ──私を孫のように可愛がってくれた、村長さん。

 

 そして──大好きな、かけがえのない、お父さんとお母さん。

 

「絶対に、(かたき)は討つから」

 

 何故、村の()れ井戸の奥に、女神像と神器が(まつ)られていたのか。

 いったい、どこの誰が、なんのために、こんな大それたことを仕出かしたのか。

 今はまだ、何ひとつ分からない。

 

 けれど。手掛かりはあった。

 まさしく文字通り、ヒスイの手の中に。

 

「持ち去られた女神の(ぎょく)の在り処は、きっと(つるぎ)が教えてくれる」

 

 辿っていけば、いつか巡り会えるだろう。

 サリテ村を滅ぼし、村人を皆殺しとした黒幕に。

 

「もう泣かない。泣いてなんかいられない」

 

 生まれてから十六年間、誰かを傷付けたいなどと望んだことは一度も無い。

 

「必ず報いを、受けさせてやる……!!」

 

 そんな心優しい少女が、生まれて初めて、本気で誰かを殺したいと願った。

 

 

 

 

 

 …………。

 

「あ」

 

 ふとヒスイが、ひとつの墓標に目を留める。

 

 より正しくは、墓標に掛けられた黒焦げの襟巻きと──赤い宝石がついた、銀の指輪に。

 

「…………」

 

 まったくの無表情。

 感情の無い、平坦な眼差し。

 

 ややあって、ヒスイはあることに思い至り、ぽつりと口を開くのだった。

 

「ああ。そっか」

 

 

 

 

 

「もう居ないんだった」

 

 

 

 

 

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