「ぐっ……!」
鈍い殴打の音が、荒れた家屋の一室に鳴り渡る。
倒れた机に巻き込まれ、ランタンが床へと転がった。
「シュウホウさんっ!!」
容赦なく殴り飛ばされ、たたらを踏むシュウホウ。
その姿を目にしたヒスイの悲鳴が、甲高く
「ッ……」
ヒスイを背後に庇いつつ、シュウホウは血の混じった唾を足元に吐き捨てる。
金色の
酒と、腐った肉と、血の臭いを漂わせた、明らかにカタギではない佇まい。
そして実際、大男は賊である。
それも一党の
「頑丈だな。そこらの奴なら、今ので大抵オネンネなんだが」
分厚い拳を握りながら、どこか感心した風に呟く大男。
次いで自分の周りに倒れる、似たような
「にしても、女一匹捕まえるだけのガキみてぇな使いっ走りすら、このザマとは。無能な子分を持つと苦労するぜ」
鉄製の具足を纏った脚が、失神した手下の頭めがけて打ち下ろされる。
寒気のするような乾いた音を立て、首があらぬ方へと曲がった。
「ひっ……!?」
まったく
一方、シュウホウは心底不愉快げに顔を
「……お前……ガルドだな」
「ほう? こんな辺境まで名が知れ渡ってるとは、俺も有名になったもんだ」
正しくは蘇った記憶から引っ張り出した知識だが、そこは別に重要ではない。
問題は、いまシュウホウたちの前に立つ大男が、厄介なお尋ね者だということだった。
「上官殺しの罪で国軍を追われ、その後は賊に身を落とした手配犯」
「オイオイ、人聞きの悪りぃこと言うもんじゃねぇよ。俺より弱えぇくせして口ばっかり達者なゴミに気合いを入れてやったら、あんまり弱すぎて死んじまっただけだぜ?」
ま、ものの弾みってヤツだわな。
そう言葉を続けてゲラゲラと笑う大男──ガルドを睨むシュウホウの目つきが、一層と鋭さを増した。
「ここら一帯を縄張りにしてたなんて話は聞かないが……大方、討伐隊から逃げてきたってところか。デカい図体の割に、随分と気が小さいんだな」
「あぁ!? テメェ、誰にもの言ってやが──っうお!?」
安い挑発にあっさりと
怒りで視野が狭まった隙を突き、シュウホウが椅子を投げ飛ばす。
「逃げるぞ!」
「きゃっ……!?」
外に居た賊の手下を突き飛ばし、狩人であるシュウホウにとってホームグラウンドに等しい森の中へと、全力で走る。
「──追えぇ! 捕まえろ!! 取り逃がしたらブッ殺すぞ!!」
ややあって、背後から響く怒号。
ぎゅっと自分にしがみつくヒスイを抱えたまま、シュウホウは夜半でロクに前も見えない中、するすると木々の隙間を縫うようにして俊敏と駆け抜け──突如、何かが足首へと深く噛みつき、転倒した。