××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「そりゃ一体なんのマネだ? お嬢ちゃんよぉ」

 

 シュウホウの失神から数十秒と待たず、追いついてきたガルド一味。

 何人もの賊徒に取り囲まれる中、ヒスイは抱えていた小剣(しょうけん)を抜き、身構えた。

 

「震えてるじゃねぇか」

 

 けれども、武器を(たずさ)えているのは向こうも同じ。

 血錆の浮いた戦斧(せんぷ)で肩を叩きながら、ガルドが嘲笑(わら)う。

 

「可愛らしい細腕で剣なんざ握って、どうしようってんだ?」

 

 実戦どころか狩猟の経験すら無く、しかも体格に恵まれているワケでもない。

 見るからに素人然とした細身の少女が武器など手にしたところで、傍目には脅威たり得ない。

 

 とは言え、そのようなことはヒスイ自身、百も承知。

 ゆえに彼女が女神の(つるぎ)を抜いた理由は、ガルドたちと戦うためではなかった。

 

「──()()()()の」

 

 そう呟き、ヒスイは(つるぎ)を──己の首筋に添えた。

 せせら笑っていたガルドたちの表情が、少しばかり険しくなる。

 

「それ以上、近付いたら……喉を掻っ切ります」

 

 つぅ、と刃を伝う鮮血。

 脅しやハッタリの(たぐい)でないことは、明らかだった。

 

「あ、貴方たちは……私を(さら)いに、来たんでしょう?」

 

 ガルド一味の目的は、シュウホウの返り討ちに遭った最初の一人から聞き及んでいる。

 

 奴隷として、闇市で売り捌く。

 すなわち、生きたままヒスイを捕らえることが絶対条件。

 そこが付け入る隙だと、彼女は恐怖を堪え、声を張った。

 

「交換条件、です」

 

 半歩だけ退き、すぐ足元のシュウホウを見下ろすヒスイ。

 毒による意識混濁と多量の出血で、顔色から血の気が薄れていた。

 

「シュウホウさんの……この人の手当てをしてあげて下さい」

 

 代わりに、と一拍の間を挟む。

 

「この人に危害を加えない限り、私は貴方たちに従います……!」

 

 ヒスイ一人の力では、自分たちを取り囲むガルド一味を倒すことも、逃げることも(あた)わない。

 

 降伏と恭順(きょうじゅん)

 現状をシュウホウともども切り抜けられる可能性を持った、唯一の取引材料(カード)だった。

 

「なんでもします。どんなことでも、喜んで」

 

 商品として以上の価値を己に持たせるべく、ヒスイは必死に舌を回す。

 

 闇市で売られた奴隷がどんな目に遭うかも、襲撃を受けた際、教えてられた。

 動物以下の扱いを受け、多くは一年と待たずに命を落とす、と。

 

 まだ死ねない。死ぬワケにはいかない。

 復讐という悲願を遂げるためには、たとえ醜悪な賊どもの慰み者に()ちてでも、生き延びなければならない。

 

 何より──シュウホウを、死なせたくなかった。

 

 先刻、ヒスイはシュウホウの後ろに隠れるばかりで、身動きひとつできなかった。

 挙げ句、自分という足手まといが居たせいで、彼を窮地(きゅうち)(おとしい)れてしまった。

 

 ──私のせいだ。

 

 だから今度は、自分がシュウホウを守る。

 そんな決意が、ヒスイに恐怖を乗り越えさせた。

 

「従順な女が手に入るのなら、貴方たちにとっても悪い話ではないでしょう?」

 

 手下の何人かが顔を見合わせ、(かしら)の反応を(うかが)う。

 ガルドはしばらく目を細めて思案したのち、強面(こわもて)を笑みの形に歪ませた。

 

「随分と肝の据わったお嬢ちゃんだ。気に入ったぜ」

 

 いいだろう。

 交渉成立だ。

 

 そう口舌(くぜつ)を続け、手下の一人に向かって顎をしゃくる。

 

「おい。そいつの手当てをしてやれ」

「へいっ」

 

 頷く手下。

 ひとまず、この場は乗り切った。

 

「っ……」

 

 安堵と共に、ほっと息をついたヒスイ。

 (あわ)せて、僅かに切っ先を下ろす。

 

 

 

 

 

 その刹那。

 気が緩んだ一瞬の隙を突かれ──女神の(つるぎ)が、空高く弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

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