××を殺す病   作:竜胆マサタカ

31 / 31
30

 

 

 

 

 

 シュウホウは、丸一日眠り続けた。

 小屋へと辿り着き、二度目の朝日が昇りきった頃合、ようやく彼は目を覚ました。

 

「……ここ、は……」

 

 ベッドから半身を起こし、周囲を(あらた)めるシュウホウ。

 

 起きしなで今ひとつ焦点の定まらない視界に広がる、見慣れた景色。

 まだ巡りの鈍い頭を回し、サリテ村の四方に点在する小屋のひとつだと思い至る。

 

 ほぼ同時、扉が開かれた。

 水桶を抱えて入ってきたヒスイと、視線が合わさる。

 

「ッ……!」

 

 目を見開かせ、桶を取り落とすヒスイ。

 足元が水浸しになってしまったが、構わずシュウホウのもとに駆け寄った。

 

「シュウホウさんっ、良かった……!!」

「…………」

 

 そんな彼女の姿を見とめた金色の瞳が、険しげに歪む。

 

 ガルドに破かれた服は、小屋に置いてあった道具で最低限の修繕を(ほどこ)され、ひとまず着られる状態となっていた。

 しかしながら、大きく裂けた布地を縫った痕跡は、かなり目立つものだった。

 

「…………」

 

 シュウホウは、意識を失う前の最後の記憶を思い返す。

 あのあと、ヒスイが喜ばしくない事態に見舞われたことは、火を見るより明らかであった。

 

 ぎり、と奥歯の(きし)む音が、小さく鳴り渡る。

 

「……君一人で、俺をここまで連れてきたのか?」

 

 ()()をわざわざ問いただそうとするほど、シュウホウは悪趣味ではない。

 代わりに、別の疑問を呟いた。

 

「大変だったろう」

 

 この東の小屋は、道中こそ比較的歩きやすいが、単純な距離はサリテ村から最も遠い。

 華奢(きゃしゃ)な少女が大の男を運びきるには、相当に骨を折ったハズ。

 

「すまなかったな。足を引っ張ってしまった」

「そ、そんな……!」

 

 大きく首を振り、そもそも自分が足手まといだったせいだと否定するヒスイ。

 

 (あわ)せて彼女は、先日の顛末(てんまつ)を語り始めた。

 

 

 

 

 

「……なるほど」

 

 自分が気を失って以降のあらましを聞いたシュウホウが、重々しい所作で頷く。

 なお当然と言えば当然だが、ガルドから辱めを受けたくだりは、意図的に(はぶ)かれた。

 

「この剣が、偶然あの男の腕を落としてくれなかったら……今頃、どうなってたか……」

 

 そう言って、指先で女神の(つるぎ)を撫ぜるヒスイ。

 ……剣を見下ろしたシュウホウの顔つきが強張るも、彼女は気付かなかった。

 

 しばし間を置き、シュウホウが淡々と口舌(くぜつ)()る。

 

「おそらく連中も、当分は動けないハズだ。サリテ村を根城にして、療養のために時間を使うだろう」

 

 腕一本を失う大怪我。

 再び歩き回れるくらいに回復するまで、かなりの期間を費やす道理。

 

 何より、向こうは第一級のお尋ね者。

 常に追われる立場であり、その行動は(いちじる)しく制限されている。

 

「ッ……」

 

 滅んだとはいえ、ずっと暮らしてきた生まれ故郷。

 皆の墓もある場所に賊が居座ることなど許し難く、ヒスイの表情が悲壮と怒りを孕む。

 

 けれど、どうにもできない。

 今の彼女に、ガルド一味を追い出せるだけの力など無い。

 

「……シュウホウさん。私、強くなりたい」

 

 今回の件で、ヒスイは心底から痛感した。

 自分は、あまりにも非力だと。

 

「強くなりたいよ……!!」

 

 悔しさに涙を滲ませ、ベッドに腰掛けたシュウホウの膝に顔をうずめるヒスイ。

 

「…………」

 

 そんな彼女を、シュウホウは複雑そうな面持ちで見つめていた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

担いだ神輿が重すぎる!(作者:ノコギリヘッド)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 周囲が人外だらけての中生き残る為に、軽そうな魔王候補を神輿として担いだ筈が、気付いたら手に負えなくなり詰んだ参謀な男が知恵と勇気と下心で、愉快な仲間達からの矢印を切り抜けようとする話です。▼ 尚、大小様々な矢印を追加で多方面から受けるものとする。▼ 


総合評価:302/評価:8.89/連載:12話/更新日時:2026年08月26日(水) 07:00 小説情報

うすほそな幼なじみを口説き落とすRTA(作者:アホ面オムライス)(オリジナル現代/恋愛)

五歳の春、黒瀬湊は砂場の隅で膝を抱える少女を見て「放っておいたら死ぬ」と直感した。以来十二年、彼は彼女を幸せにするための「最短ルート」を走り続ける。これは善意100%のRTAが、いつしか彼女を誰よりも重く育てていく物語。▼高評価だけ忘れずにポチッとよろしくお願いします!!▼※カクヨム・なろうでも公開中▼https://kakuyomu.jp/works/29…


総合評価:943/評価:7.87/完結:10話/更新日時:2026年07月16日(木) 22:01 小説情報

ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜(作者:ぞうきん)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 過去の出来事から不能になったオッサン傭兵クレバーは、ある日淫魔の少女を拾う。あわよくばED治せないかななんて軽い気持ちで考えていたが、彼は淫魔という生物のことを全く分かっていなかった。淫魔は幼かろうがなんだろうが、好いた男のためならば――――人外の執着心を以って、あらゆる手段でその精を搾り尽くさんとするのだ。


総合評価:1675/評価:7.96/連載:10話/更新日時:2026年08月09日(日) 17:59 小説情報

陰キャ君と拗らせてる女達(作者:依存スキー)(オリジナル現代/恋愛)

盛大に拗らせてなんかどっろどろに濁った感情を抱いている女達が見たい。でもそれを向けられてる側はあんま自覚してなくて、向けてる女達もあんまり表には出さないけどふとした時にその感情が垣間見える様な関係が見たい。▼カクヨムにもマルチ投稿中


総合評価:7960/評価:8.8/連載:10話/更新日時:2026年08月11日(火) 17:12 小説情報

火遊びはよくない(作者:竹藪焼けた)(オリジナル現代/恋愛)

金の絡んだ火遊びをするのが大好きだった一人の男が、大変なことになる話。▼


総合評価:2745/評価:8.99/連載:9話/更新日時:2026年06月14日(日) 23:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>