××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「──そちらの方は、誰ですか?」

 

 思いもよらなかった人物の唐突な来訪より、およそ数分。

 静かな驚愕と困惑がシュウホウの脳裏を渦巻く中、水汲みから戻ったヒスイの第一声。

 

「誰、ですか」

 

 警戒と、疑心と、(ほの)かな敵意を帯びた語調。

 問われたシュウホウは、しばし思案を挟むと、口を開いた。

 

「彼女は……すまない、名前は?」

「む」

 

 すでに知ってはいる。

 けれど、まだ本人から聞いてはいないため、ひとまず尋ねておく。

 

 対する銀髪の女性は、失念していたとばかりに、(たたず)まいを改めた。

 

「こちらこそ自己紹介もせず申し訳ない。私はベルナ。国軍の者だ」

 

 予備兵だがな、と続けながら制服の襟につけた徽章(きしょう)を見せる。

 

「……?」

 

 とはいえヒスイには、生憎その徽章(きしょう)真贋(しんがん)を判別できるだけの前提知識が無い。

 そもそも、それがどういう意味を持つ品なのかさえ、よく分からなかった。

 

 つまり徽章(きしょう)など見せられたところで、反応に困るだけ。

 (いぶか)しげな表情で固まるヒスイに、シュウホウが助け船を出す。

 

「心配いらない、本物だ。彼女はれっきとした軍人だよ」

「……そう、ですか」

 

 ちなみにシュウホウも、実のところ徽章(きしょう)が本物か偽物かの区別はできていない。

 単純に、持ち主である銀髪の女性──ベルナに関連した()()を有しているがゆえの発言に過ぎなかった。

 

「…………」

 

 ともあれ、少なくとも不審者ではないと明らかになった次第。

 

 にもかかわらず、依然(いぜん)ヒスイの表情は険しい。

 運んできた水桶を置き、シュウホウの隣へと立ち位置を移したのち、鋭い眼差しをベルナに向けやる。

 

「軍人……ですか」

「うむ」

 

 北の人間は、国軍というものに対し、良い感情を(いだ)いていないことが多い。

 

 まあ、妥当と言えば妥当だろう。

 本来ならば北部に回されるべき資源を食い潰し、ただ欲のまま私腹を肥やし、贅の限りを尽くす、中央の王侯貴族たち。

 そんな(やから)に仕え、武力行使を(つかさど)る手足こそ、国軍なのだから。

 

 ……しかしながら、ヒスイはサリテ村の外を知らない。

 必然的に、格差への自覚も薄い。

 そうした背景事情を(かんが)みれば、ただ相手が軍人だからという理由で悪感情を(つの)らせるとは、(いささ)か考えにくかった。

 

 そして実際、ヒスイはベルナが軍人だろうとなんだろうと、別にどうでもよかった。

 

「ッ……」

 

 よくよく(あらた)めれば、赤と黒の双眸(そうぼう)()めつける先は、ベルナ自身ではなかった。

 

 土埃で薄汚れた、銀紗(ぎんしゃ)の髪。

 どうやらヒスイは、彼女の()()が気に食わないらしい。

 

 もっとも、この島国(くに)で銀髪など、そこまで珍しくもない。

 ありふれているとまでは言わないにせよ、四方に目を()らせば大して労せず探し当てられる程度の特徴でしかない。

 

 事実、サリテ村の住人の一人──ウルスラも銀髪だった。

 

「軍の方が、こんな片田舎に何の用ですか」

 

 硬く平坦な声音で、再びヒスイが質問を投げかける。

 

 これまた順当な疑問。

 国軍の活動区域は、ほぼ島国(くに)の南部および中央部にかけての一帯へと限られる。

 

 実際問題、ヒスイが軍人を名乗る相手と対面するのは、正真正銘これが生まれて初めての出来事。

 

「それは──」

 

 別段、秘匿(ひとく)の必要がある内容でもない。

 答えるべく口舌(くぜつ)()ろうとするベルナ。

 

 だがしかし、口を半開きとしたまま、彼女は止まる。

 程なく、疲れ切った様子で、手中の兎数羽をテーブルに置いた。

 

「……申し訳ないが、話の続きは食事をしながらでも構わないだろうか」

 

 

 

 

 

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