××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「どうぞ……」

 

 シチューを盛った深皿がテーブルに置かれ、温かそうな湯気を立ち上らせる。

 

 昨晩ヒスイが作った分の残りに、ベルナの狩った兎肉を加えたもの。

 味の保証はしませんけど、と小声で添えられる。

 

「素晴らしい。ありがたく頂戴しよう」

 

 一方、仏頂面のヒスイに頭を下げ、祈りの所作をとるベルナ。

 この島国で信仰される、風と地の男神(おがみ)──循環と豊穣を(つかさど)る存在への感謝を捧げたのち、木製のスプーンを手に取った。

 

「──む」

 

 ひとさじ口に入れた瞬間、目を見開かせる。

 

 味付けは塩と香草のみだが、その塩梅(あんばい)が絶妙。

 かれこれ何日も味気ない丸焼き肉と野草で飢えを(しの)いできた舌に、じんわりと染み渡る。

 

 とどのつまり、とてつもなく美味しかった。

 

「はふっ、はふ……はぐっ……!」

 

 ベルナは目に薄く涙すら滲ませ、食欲と衝動のまま、かっ込み始める。

 あっという間に皿の底が見え、(から)となった。

 

「…………実に……実に、美味だった……」

 

 万感を噛み締めるような口舌(くぜつ)

 しばし呆気にとられていたヒスイは、ややあって、微温火(ぬるび)にかけたままの鍋を指差した。

 

「……欲しいなら、まだありますけど」

 

 その言葉に、ベルナの瞳がヒスイを捉える。

 そして。やたら仰々しい仕草でもって、皿を掲げた。

 

「是非とも、おかわりを頼めるだろうか」

 

 

 

 

 

「人間らしい食事をしたのは、幾日ぶりか……」

 

 大盛りのシチュー四杯を平らげ、一分(いちぶ)の隙もなく満ち足りた腹を撫でさすりながら、ベルナが呟く。

 

(かまど)を貸してくれるどころか、食事の用意まで。感謝の念に()えないとは、まさしくこのことだ」

「え……いえ、別に……そんな大したことをやったワケじゃ……」

 

 気持ちの良い食べっぷりに、すっかり毒気を抜かれた様子で返すヒスイ。

 丸一日眠り続けた状態から目覚めたばかりで胃が食べ物を受け付けず、白湯(さゆ)で慣らしていたシュウホウが、薄く苦笑した。

 

()()どころか道まで見失い、一向に森を抜けられず、ほんの今朝まで途方に暮れていたが……まだ私の天運は尽きていなかったらしい」

 

 延々と彷徨(さまよ)い続けた苦難の日々を思い返したのか、深々と溜息を(こぼ)すベルナ。

 君たちに巡り会えて本当に良かった、と述べつつヒスイとシュウホウを交互に見やり、次いで申し訳なさそうに眉根を寄せた。

 

「何か礼をさせて欲しいところだが……生憎と任務中の身でな。恩人を後回しにするのは心苦しいが、どうかこの場は貸しということで手を打ってもらいたい」

「任務……?」

 

 ヒスイが小首を傾げる。

 

「ああ。そう言えば軍人(わたし)北部(ここ)に居る理由の説明を、まだしていなかったか」

 

 食事に夢中で忘れていた模様。

 ベルナはバツが悪そうに頬を掻き、今度こそ話し始めた。

 

「ある男を追ってきた。上官殺しを筆頭に、多くの(とが)を重ねている大罪人だ」

 

 荷物の中から、一枚の似顔絵を取り出す。

 それを見たヒスイは、口元を引きつらせた。

 

「名を──ガルドという」

 

 

 

 

 

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